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トラブル回避スキルを駆使したら王太子から求婚されました
トラブル回避スキルを駆使したら王太子から求婚されました
清乃辺敬
異世界恋愛悪役令嬢
2025年04月23日
公開日
2.2万字
連載中
深海 真珠 二十三歳。 専門学校を卒業し、憧れのゲーム会社に就職したものの配属された場所は「お客様相談窓口」。 お客様のクレームや要望を聞き疲れ切った毎日を過ごす真珠の唯一の楽しみは、大好きな乙女ゲームをプレイすることだった。 そんなある日、早く乙女ゲームがしたい真珠は、横断歩道の信号がもうすぐ赤に変わるのを知ってはいたが駆け込むように横断してしまう。 その時、一台のバイクが真珠の目の前に現れたところで真珠は意識を失った。 クリスティーナ・アンリ 二十二歳。 屋敷の薔薇園の鑑賞会の最中にひどい頭痛で倒れ、気がつくとベッドに寝かされていた。 いつもと変わらぬ風景だが、一つ違っていたことがあった。 そこで目覚めたのは、クリスティーナに転生してしまった真珠なのだった。

第1話 理想と現実

「本日を持って、お前との婚約を破棄する!」


 王宮のホールに高々に響くヒーローの声。

どよめく人々の困惑した様子。

打ちひしがれ、その場に泣き崩れる悪役令嬢。

ヒーローにそっと寄り添うヒロインの幸せそうな笑顔__。



「くうぅぅ。やっぱりこの展開最高! ヒーローとヒロインしか勝たん!」


 今日も大好きな乙女ゲームをプレイしながら、私は歓喜で身悶えていた。

待ちに待ったハッピーエンドなクライマックス。日頃のストレスのせいか涙腺が緩む。

ゲーム画面に涙が一粒こぼれたので、私は慌ててテーブルの上に置いてあるティッシュの箱を取りに行った。



 深海ふかみ真珠しんじゅ 二十三歳。

専門学校を卒業後、念願のゲーム会社に就職。このゲーム会社は、私のイチオシの乙女ゲームを制作している会社だ。

入社が決まった瞬間、私の頭の中はたくさんの妄想で溢れていた。

ドキドキしている私に告げられるのは、配属先があの大好きな乙女ゲームの制作チームだということ。

そして、いちプレイヤーである私の意見が採用され、さらに進化した乙女ゲームは世の乙女たちをまたざわつかせる……。


「ふっ、ふふふふ」


 自分勝手な妄想に思わず笑みが溢れるが、現実はそんな甘いものではなかった。


***


「何なに? こんな強いクエスト攻略出来ない? こっちは……攻略対象が気に入らない? はぁ……」


 月曜日の朝、私が会社に着いてすぐにやることといえば、パソコンを開いてメールを確認することだ。何通ものメールが届いており、それを一通一通チェックする。

同じような内容のメールが続き、私のテンションがどんどん下がっていく。

そう。私が配属された先。

それは、「お客様相談窓口」なのだ。


「お客様におかれましては、大変申し訳ございませんでした……と。これをコピペして」


 コピペした文言を貼り付けて返信。

月曜日だというのに、一週間分働いたような疲れを感じる、

この作業だけで午前中が終わってしまった。



 午後七時。やっと終業の時間だ。


「終わったー! 早く帰らなきゃ!」


 乙女ゲームをやるために、私がいそいそと帰り支度をしていると、隣の席の亜佐美あさみが声を掛けてきた。


「そんなに慌てて何か用事でもあるの?」


「あ、う、うん。まあね」


 亜佐美には、私が乙女ゲームにはまっていることは内緒にしている。

知られたら最後、絶対に誰かに言いふらすのが目に見えているからだ。


「ふーん。気をつけて帰んなよ」


「ありがとう。じゃあ、また明日」


 私は、亜佐美に軽く笑いかけると逃げるように会社を後にした。

亜佐美は、社内でも噂になるほどの美人さんだ。いつも男を何人も引き連れて歩いているのを見かける。

乙女ゲームでいうところの悪役令嬢みたいだ。

自分とはかけ離れた存在……。

私は、ぶんぶんと頭を振ると、亜佐美のことを忘れるように会社の外に出た。

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