「もういくつ寝るとお正月~。お正月には
いつもの寂れたゲーセン帰りに、とある有名な曲をアレンジして口ずさみ、ススキの枯れ草のあぜ道を歩く、普通の出で立ちな俺の名は
その名前の通り、俺は毎月、両親からそれなりの小遣いを貰っているわりには常に貧乏で金に余裕がない。
あの有名なスーパー美少女女子高生アイドル、
いつも上から目線で高飛車で、
暇さえあれば、イベントやライブを行い、その度に出品する大量のグッズの種類。
彼女は金のためなら、いかなる手段を選ばない。
それでも俺は金を湯水のように使い、彼女のグッズを部屋中に飾り、
何をしでかしても可愛いのは罪だ。
そして人の居ぬ間に忍び込み、何かと
ちなみは明日は全日本の子供たちが飛んで跳ねる競技……じゃなくて行事だな。
何もせずに食っちゃ寝しても、お年玉というお金が貰える、有意義なイベントを迎える。
俺はこの恒例行事が三度の飯のハンバーグより大好きだった。
****
次の日……。
「皆さん、新年あけましておめでとう。特にママ。今年も可愛いよ」
「はい、お父様。ありがとうございます。あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとう」
キリリとした強面のグラサンをかけたドッシリとした体格の父親、
その言葉をほんわか笑顔で受け止めるクリッとした目にアイドルのような顔つきでスレンダーな母親の
その横に俺も振り袖姿の母と同じく正座になり、一家の大黒柱に深々と
「ママ、今年もよろしきゅね~♪」
「きゃっ、もうお父様のエッチ♪」
──先ほどの男の姿とは一変して、まるで赤子のように甘える父が、母にベッタリと体を擦り寄せ、柄にもなくひざ枕と耳掻きのダブルセットを要求している。
いちゃいちゃ。
「だあぁー、元旦から早くも息子の前でいちゃついてるんじゃねえ!」
「どうした、いきなり。何だ、お前も
「違うだろ、あれを忘れているだろ?」
「ああ、そうね。じゃあ今日は廼士が好きなおせちハンバーグにしようか」
「ふざけんな、同じ玉でも中身が違うだろ。俺が言いたいのはお年玉だよ」
「はははっ。何かと思えばそんなことか。やっぱりお前もまだまだ子供だな」
父が高笑いしながら灰色の着物の袖口をまさぐる。
ようやくこの待ち望んだ瞬間がやって来た。
期待に胸を踊らせながらの
「あれ……どこにもないぞ?」
終わったのだった……。
****
「──勝手に終わらすな!」
「どうしたの、廼士。壁に向かって声を張り上げて?」
「ほっとけ、ママ。ただの厨二病だ」
「……はあ、厨房がどうかしました?」
「それから、あんたら話をはぐらかすなよ!」
「ちっ……」
不機嫌そうに舌打ちする父と、事の状況さを何も理解していない母。
「……しかし、なぜ昨日、袖口に入れて置いたはずのお年玉がないんだ?」
体をあちこち触りながら、父が俺に背を向けた時、その弾みでポトリと細長い物が袖口から落ちる。
それは桃色の携帯ライターだった。
さらにそのライターには白い文字が刻まれている。
何も疑問も抱かずに拾った俺は、マジマジとライターに書かれた文章を読む。
「スナックバー、モウレツゆきえちゃん?」
その言葉を述べた瞬時に、ハヤブサのような勢いで俺の手からライターを奪い取る父。
「あん、何すんだよ?」
「廼士、ママにチクったらただじゃおかんぞ……」
「どっちのママだよ?」
「だから両方だー!!」
おおう、マジ顔の父よ、目が血走っていて、鼻血も吹き出してかなりヤバイ。
「……うんっ、お父様。鼻血が出ていますが、二人で何をコソコソしていますの?」
そんなことも知らずに、長い栗色の髪をかきあげながら、俺たちに迫ってくる無邪気な母。
「いやぁ、ママ、お見苦しいところを悪いな。実は廼士が、いかがわしい内容のUSBメモリーを持ち歩いててさ、ちょっと今から説教してくるからさ。ママは台所でお雑煮でもカボチャの煮物でも作りながら待っていてくれないかな」
「はい、了承しました。なるべく早く戻ってきて下さいね」
「ああ。ありがとう」
こちら側に対して、母からは分からない位置でにやついた顔になり、俺をフロアから追い出すような体勢になる。
「さあ、行こうか。ここからは男同士の
そう言いつつ、母には良いとこ
****
「──ということなんだが……」
──少し長い話になるが、父の話によるとこうだ。
年末にも関わらず、パチンコで母から貰ったばかりの小遣いをスッてしまい、俺へのお年玉さえも用意出来なくなった父は、行きつけのスナックのママに泣く泣くその事を相談することにした。
『ゆきえママ。ボクちゃん、今お金ないの。そんな恵まれないボクちゃんの為にお金恵んでプリーズ~(T0T)』
──こうして、スナックのママから前借りした俺宛のお年玉を貰い、帰宅したのは良かったが、その肝心のお年玉が見当たらないというわけだ。
……あれ、全然長い話にならなかったな。
「なら、父さん。そのスナックの場所を教えてくれよ。明日、電車でそこへ行ってみるからさ」
「しかし、お前は未成年なんだぞ?」
「何だよ、昼間なら店は開いてないから問題はないだろ。それに二人のママにバレたくないんだろ?」
「うぬぬ。それもそうだが……お前も口が上手くなったな」
「まあ、これでもあんたの子供だからな」
腕を組み、幾分か
まあ、これは例えで実際には虫は食べてはいないが……。
「……分かった。でも最近は
「電子ジャー(了解)♪」
こうして、俺はお金を握り、隣街にある父の行きつけのスナックへ向かうことにした。
今はまだ、この先に様々な出来事が起こることも知らずに……。