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第17話 神様のヒント

「……い」


ん……


「…りゃ」


……ん…‥


「おいっ」


…んん?


誰かに呼ばれた気がして沈んでいた意識が徐々に浮上していく。


「……んん?…あれ、ここは……」


そしていつか見たようなぼんやりした白い世界で俺は目を覚ました。


「やっとお目覚めか。めんどくさい奴じゃの」


そして目の前には人を食ったような笑みを浮かべた、あの時の爺さんがいた。

瞬間俺は飛び起き、爺さんの肩をつかみ興奮気味に問いかけていた。


「あのっ!ちょっと酷くないですか!?ニーナさん可哀そうですよ!!」

「お、おう…うむ、ちょ、ちょっと落ち着け」


あ、いけね。

つい興奮して多分神様?掴んじゃった。


俺は肩をつかむ手を離し深呼吸して爺さんを見つめた。


「ふむ。相変わらず面白い奴じゃの。自分の事よりまず女の事とか。……お主にとって他人じゃろうに」


相変わらず端々気に障る言い方をする爺さんだ。

ニーナさんは俺にとって他人じゃない。

大切な人だ。


……まあニーナさんがどう思っているかは知らないけどさ。


「えっと、質問いいですかね?」

「うむ。かまわんよ。答えるかは内容によるがの」


くっ、いちいち食えない爺さんだな。

でもせっかくだ。

色々聞いてみよう。


「あのですね、ミッションの事ですけど」

「ふむ」

「ニーナさんの願いをかなえる。これはいいです。だけどその内容を彼女が言ったら消えるって……あんまりでしょ?というかそれもう詰んでるよね!?」


あー思い出したらなんだか頭に来た。

きっとニーナさんすごく苦しんでいるはずだ。


「まあの。うむ、少し難易度が高過ぎだったな。分かった、それについては素直に詫びよう。すまんかった」


頭を下げる、多分神様であろうじいさん。


え?


俺はなぜか背中に嫌な汗が流れてきた。

超常の存在が俺に頭を下げている?


「あ、いや、そ、その、頭を上げてください。俺、別に謝ってほしいとか、そういうんじゃなくて……そ、その、お願いします。頭上げてください」


俺が慌てる姿がツボったのか、爺さん肩を震わせながら笑いだした。


「くっくっく。ふはは、本当に面白い奴じゃ。……こんな近くに希望があったとはな」


後半声が小さくてよく聞こえなかったが取り敢えず爺さんは頭を上げてくれ、真っ直ぐに俺に視線を向けてきた。


「お主、ニーナの事は聞いたのかの。性格とか趣味とか、事情とか」

「えっ?……そう言えば俺ニーナさんの事……お姫様でめっちゃキレイくらいしか知らないかも……あと、えっと凄く優しいとか……」


爺さんはとてもわざとらしく大きくため息をついた。


「わしは確かにあの娘に制限をかけた。ミッション内容である『あの娘の願い』をお主に伝えてはならんとな。じゃが全部話してはいけないとは言うとらんわい」


「……そう、なんですね」


「まったく。お主もあの娘も真面目過ぎじゃ。……まあ、それだけ真剣という事なのじゃろうがの……好ましい二人じゃ」


おう!?

意外と高評価だ。


うーん。

でもなあ。


話していいところの線引きが分からないとな。

いきなり「アウトっ!!」とかになったら目も当てられないもんな。


俺が悩んでいると爺さんはなぜか手に持つ杖をこつんと俺の頭にぶつけてきた。

俺の頭の中に情景が浮かぶ。


「えっ……」


その情景は……

懐かしい風景だった。


俺がこっちに引っ越して来るまで暮らしていた、関東のとある市の海沿いの公園……

……昔真琴と沢山遊んだ市民プールが見えた。


ああ、懐かしいな……

あの頃俺たち……


どっちが速く泳げるようになるか競争していたっけ……

何故か真琴、異常に背泳ぎ得意だったんだよな。


そしてその情景は突然切り替わり、今度は小学校の臨海学習で行った海沿いのぼろい宿泊施設が映し出された。


……ああ、あそこの宿、ぼろくて……

ははっ、部屋にゴキブリがいて真琴、大泣きしてた……

女の子なのにトンボとか大好きだったのにね。


気が付けば俺は涙が止まらなくなっていた。

思い出したせいか、真琴の笑顔が俺の脳裏に焼き付いて離れない。


「ふむ。お前さん、想いが強すぎじゃ。……前を向く気はないのかの」


何故か爺さんはすごく優しい声で俺に問いかけてきた。

きっとこの人は神様なのだろう。

だからこれは多分忘れた方が良いと教えてくれたのだろう。


でも…

だけど……


俺は絶対に忘れたくない事なんだ。

たとえこれが原因で、一生誰も愛せなくなったとしても。


俺は決意を込め真直ぐ爺さんの瞳を見つめた。


「俺は忘れたくありません。あなたにとって悪い事なのかもしれませんが、俺は、絶対に忘れない」


爺さんはなぜか優しい目で俺を見た。


「お前さん、チューくらいはしたのか?」

「………………は?」


はい?

なんて言ったこの爺さん!?


すると突然いやらしい笑みを浮かべる。


「なんじゃ、キスもしとらん相手を想っておるのか?……まったくこれだから童貞は気持ち悪いのじゃ。お前さんもし体の相性が悪かったらどうするつもりじゃ?」


えっ?

何これ?

さっきの何となく高尚な雰囲気はどこに旅に出たの?


「えっ、体の相性?……えっ??」

「ふん、エッチしても気持ちよくなけりゃ、男なんぞすぐに捨てられるぞい。まったく、おなごはな、男よりもずっとスケベなんじゃ。まあ、男みたいに誰でもというわけではないがの」


「は?え?女の子…スケベ???」


「ふん。童貞にゃ分からんか。……お主、目が覚めたら取り敢えずニーナの体、良ーく触ってみい。ふふっ、ニーナも喜ぶじゃろうて」


俺は思わず想像してしまう。

ニーナさんの体………


うう、やばいって。

俺なるべく考えないようにしていたのに!?


俺はテンパっていた。

だから大事なことを聞くのをすっかり忘れてしまっていた。

でも爺さん、最後にとても重要なことを教えてくれたんだ。


「ふぉふぉ、まったくお主は良い反応をする。じゃが残念ながら時間が来たようじゃ。聞きたいこともほとんど聞けてないようじゃし、大サービスしてやろう」


「あ……うわー、そうだ、全然聞けてない!?」


じいさんは杖を軽く振り、何かを俺の頭に入れてきた。


「大サービスじゃ。意識を集中してみい」

「い、意識?……えっと……!?」


突然頭の中に、じいさんの声が響く。


『よいか。確かに制限は設けた。まあ決まりごとがあるんじゃ。解除はできん。じゃが娘が何かを言う直前に、お主に判断ができるようにしてやった。つまり娘が言おうとしていることが抵触する場合は、お主に警告が走る。それを伝えれば消滅する事はないじゃろ』


うわ、それ超便利じゃん。

それなら色々聞けるかも。


『むろんただではない。この事は教えても構わん。むしろ教えないとお前さん……死ぬぞ』


「はい?……えっ、死ぬ?」


爺さんはまたニヤリと悪い顔をする。


「うむ。抵触する場合、おぬしの頭に激痛が走る。まあうっかり言ってしまった場合お主が認識できぬようにしたからの。あの娘を守るためじゃ」


「っ!?……そっか。良かった」

「む?……良かったじゃと?……お主もしや……ドエ……」

「違うし!!……違うよ。そうじゃない。……ニーナさんに罰が行かなくてよかった」


俺は本当に安心していた。

きっとこれでもっとニーナさんと話が出来る。


「まったく。……時間じゃ……もう会う事も無かろう」

「っ!?えっ……」

「ふん。そんな顔するでない。……そもそもこれは異常な事じゃぞ?……そうであろうが」


そして今までにないような優しい笑みを浮かべ爺さんは消えていった。

俺の意識も靄のように薄くなっていったんだ。


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