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第18話 メール地獄

「ゲチェラッ!ドッカン!ゲチェラッ!ドッカン!ゲチェラ!!……」


けたたましく鳴り響くスマホを俺は無言で手に取りアラームを止めた。


「ふう。……うう、怠い……あと……お腹痛い……ううっ、やばい、吐き気もする」


俺は目を覚ましたけど、なんか辛くてベッドから出られなかった。

時間がどんどん経過していく。


「ううっ、女の子大変過ぎる……あー、だからたまに女性の皆さん休むんだ。……急ぎの仕事なかったよね……来週の件は確認したし……うん。有給全然消化していないから今日は休ませてもらおう」


俺はそう決めてそのままベッドで横になった。

なんかおまたが気持ち悪い。


「……トイレ行かなくちゃ……交換しなきゃだね」


トイレに行っていろいろこなした俺はあまりの事に吐いてしまい、さらにフラフラになる。きっと顔真っ青だ。


まさに這うようにベッドへ倒れ込んだ俺は時間を確認し君島代理に電話をかけた。


『……はい、君島です……まこと?』

「あ、おはようございます。すみません朝から」

『いいよ。どうしたの?』

「あ、えっと、その生理で……ちょっと今回重くて……」

『ああ、わかったわ。今日急ぎの仕事ある?大和にやらせるけど』

「特にないと思います…もしあったら私からメール入れます」

『うん、そうだね。……じゃあゆっくり休みなさい。あなた有給フルに余っているでしょ?たまには使いなさい』

「はい。ありがとうございます」

『うん。お大事にね』


ふう。

これで大丈夫だね。


ああ、君島代理の優しさが心に来る。

なんか泣けてきた。


「グスッ……生理の時、不安定になるってニーナさん言っていたもんね……ヒック」

『……まこと?…大丈夫?』

「うう、うん。……ヒック……おはよう……ひん……うああ……」


『あうっ、ちょっと……もう、大丈夫じゃないじゃん。お腹痛いの?』

「ううん……ヒック……なんか…‥ううう……泣けてきた……グスッ……」


恥ずかしいけど……

ううっ、我慢できないよ……泣けちゃう。



※※※※※



いやーすんません。

凄く久しぶりに泣いた気がした。


今は痛み止めも効いて来たし、さっき昨日作ったスープ飲んでだいぶ落ち着いて来た。

俺はソファーでゆったり座りながら大和へ業務の指示をメールで送ったところだ。


「……よしっ。連絡はこれでいいかな」


今は連休前で、うちの花農家さんは夏菊の定植と秋物の管理で忙しく動いているので逆に俺たちは余裕がある時期だ。

忙し過ぎるから俺たちの相手なんかしていられないんだよね。

だから問題がある場合以外はお呼びがかからない。


グラジオラス農家さんの球根の植え付けは大体連休後から始まる。

他の品目を作っている農家さんも今の時期はそんな感じだ。

まあ休むにはいいタイミングだ。


「とりあえず大和に頼るか。あいつくそ真面目だから、細かく指示出すとそれしかやらないからな。大まかでいいだろ」


うう、だいぶ良くなったけど……

なんかまた気持ち悪くなってきた。


『ねえまこと?……少し寝た方が良いよ?お腹もあったまるし』


そんなタイミングでニーナさんがアドバイスしてくれた。

ああ、やっぱり優しいよね。


「ありがとう、そうする」


俺はソファーから立ち上がり、自室へと向かう。

その時持っていたスマホが振動した。


何より辛かったので無視してまずベッドへともぐりこんだ。

そしてさらに振動するスマホ。


「うーん。なんだろ?いつもこんなにメールとか来ないんだけど……ひいっ!?」


俺は思わず悲鳴を上げてしまう。

この短い時間で職場の同僚からおびただしい数のメールが来ていた。


たぶん就職してからすべてのメールより多いであろう数に俺は慄いた。

そして恐る恐る開いてみると……


何故か課長から長文で心配だという事が異常な熱量で綴られていた。

そして大和からも十通近いメールが来ていた。

後何故か君島代理以外から全員のメールが来るとか……


コワッ!


あっ、君島代理のメールも1通だけあった。

うん、心配してくれて嬉しい。

返事しよ。


うう、課長のメール怖すぎて読めん。

なんだこの長文の量。

ていうか大和め、どういうつもりだコイツ。


課長のは怖いから後で確認するとして、多分大和は仕事関係だよね。

嫌だけど確認する……ひいっ!


「な、な、何書いてんだコイツ?うおっ?何コイツ、香織ちゃんへの愛はどこ行った!?うわーないわー。これまんまラブレターじゃん」


なぜか俺を心配する内容からいつの間にか俺への想いが溢れる内容に変化していく連続で来ているメール。


ガチでホラーだ。


「うう、なんか見たらもっと気持ち悪くなった。俺明日コイツに何言えばいいんだろう。はあ……」

『あー、うん。まことモテモテだね♡』


うっ、ニーナさん面白がっているな?

くうっ、なんかやだな。


「あう、一応確認しなきゃだよね。……沙紀先輩。俺病気じゃないです。つか同じ女でしょ?分かるよね。……『生理です』……ふう」


「……小林先輩?あなた彼女いるでしょうが!くそっ、もしまたメール来たら彼女さんに送り付けてやる。うあっ、山崎さん……はあ、うん。まあこんくらいなら問題ないか。『ありがとうございます』っと。うう、マジで気持ち悪い」


具合悪い時はスマホとかだめだね。

目がチカチカしてきたよ。


それでも何とか課長以外には返事をした。

大和には何も返事はしない。

怖すぎる。


明日最初に怒鳴ってやろう。

うん。

絶対に。


「ううう、恐いけど確認しないと不味いよね。………はあっ?」


思わず俺はスマホを投げつけてしまう。

そして布団をかぶり震えだす。


『ちょっ、ちょっとまこと?どうしたの?』

「怖いです。ニーナさん。俺どうしよう。仕事行けない」


ねえ、なんで妻帯者から『一生かけて守る』とか言われるの?

『愛してる』とか『君が欲しい』とか『抱きしめてあげる』???……


頼むから冗談だと言ってくれ!


はっ、やばい。

鍵かけよう。


襲撃されたら今の俺じゃ太刀打ちできん。

うう、恐いよー。



※※※※※



ナイス俺。


あの後マジで課長が俺の家に尋ねてきた。

鍵かけて良かったわー。


あの異様な内容を考えるとマジで貞操の危機を感じた。

ずっと無視してたけどスマホは鳴りまくるわ、大声でがなり立てるわ、もう怖過ぎでしょ。


俺はお隣さんに電話してどうにかお引き取り頂いた。

ありがとう佐藤のおばちゃん。


このままじゃほんとに俺仕事行けないので君島代理に電話して、メール全部コピーして送信したんだよね。

うん。

君島代理怒りに震えていたよ。


『ふふっ。まこと、心配しなくていいわ。私に任せなさい』


ああ、マジで頼りになる。

皆様ご愁傷様です。

地獄に落ちるといいわ!!



※※※※※



あの後何故か本部の常務から電話が来た。

俺数回しか見たことないし話なんてしたことないけど……


どうやら篠山課長、家庭がうまくいってなくて最近ノイローゼ気味だったそうだ。

なんか佐藤のおばちゃん、課長に殴られたらしくて……

警察沙汰になっちゃっていたらしい。


ふう、怖すぎる。


結局課長はしばらく休職して入院することになりました。

まああの人たいして仕事していなかったから実際影響ないんだけどね。

君島代理が仕事の鬼だからいつもふらふらしていただけだし。


それと常務から特別に休暇もらえました。

今週は行かなくていいらしい。


まあ、来週火曜日から東京への出張があるから一度くらいは顔出す予定だけど。


あと小林先輩、君島代理にメチャクチャ怒られたそうです。

ごめんだけどいい気味だ。

これに懲りたら彼女さん大事にしてあげてください。


それで問題の大和だが。

ふう――――――――――――。


どうやらガチで俺が好きらしい。

神様効果だろうけど、あいつの中では入職した当初から俺の事が好きだったことになっていたらしくて……


君島代理に泣きながら告白したんだって。

確かにニーナさん、メチャクチャ美人だし可愛すぎる。

スタイルお化けだしね。


それに俺はどちらかというとドライな方だったから、男の俺の時は問題なかったんだけど、どうやらそれが相まって大和のドストライクだったらしい。


お互い成人しているから、確かにそういう事は自由だとは思うけど。

ここは先輩としてどうにかしないと……


マジで仕事に影響が出る。


「よし。覚悟を決めよう」


俺は大和に電話した。


「もしもし。大和?……うん……」



※※※※※



お前さ、良い奴なんだから……

俺みたいなややこしい奴に惚れるなよな。


どうにか納得してもらうことはできた。

でも大和、人事課に頼んで異動願を出すそうだ。

君島代理もその方が良いと後押ししてくれて……


アイツ明日から違う支所へ配属になる。


あーあ。

せっかく色々教え込んだのに。


美人過ぎるのは大変だね。

俺はため息をついてしまった。


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