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第39話 勇者だった次長

俺達は無事集荷場についた。

予定より5分くらい遅れたけどね。

途中在り得ないようなことがあった。


明るい時間なのに鹿の群れが道路を横切っていった。


俺も働いて4年目だけど、過去に1度くらいしかこういう事はなかった。

嫌な予感がする。


「誠、すまないな。……新菜も。取り敢えず入ってくれ」

「あ、はい」


何故か体調が悪そうな次長に俺は不安が大きくなる。

俺達は集荷場の椅子に座った。


次長は真っすぐに俺を見つめる。


「誠、お前どこまで知っている」

「えっ?……異世界の事でしょうか」

「……ああ」


なんだろう。

嫌な予感が膨れ上がる。

でも俺は詳しくは何も知らない。

知っているのはニーナさん、真琴が、その世界の姫だったことくらいだ。


次長はタバコに火を点け、ふうっと吐き出した。

そして鋭い眼光で俺を見た。


「俺は転生者だ。2度転生している」

「えっ?……次長が?………」

「もともと俺は極道だった」

「っ!?」


ああ、そうだったんだ。

だから……

オーラが普通じゃないと思っていた。


「なあ誠、がっかりしたか?……俺は悪い人間だ。大勢人も殺した」

「そんな……混乱はしています。でも、2度転生した人なら俺も知っています」

「……婚約者、か」

「はい」


そして次長は色々話をしてくれた。


転生し勇者だった事。

世界を守ったこと。

裏切られたこと。

そして奥さん、さやかさんがかつては運命の神であったことなど。


「今創造神は代変わりしたんだ。そして混乱が起きている」


創造神?もしかして……あの爺さんか?


「ああ、そうだ。……すまんな、俺も思い出したばかりでスキルに振り回されているんだよ。うまくコントロールできていないんだ。……鹿たくさんいただろ?」


「っ!?は、はい」

「ふう、まだ鹿で良かったよ。……前の時はクマが溢れたからな」


げっ?

なにそれ。

怖過ぎでしょ!?


「ああ、恐いよな。俺だって怖い。……すまないな。俺は今思考も読めてしまう」


ああ、なるほど。

そっか。

……でもなんて優しい人なんだろう。

俺なんかを心配してくれている。


「……お前な。まったく……いい奴だよな誠は」

「えっ?」


「新菜、いやニーナ姫。あなたの国は滅んでいませんよ。あなたは守り切ったのです」

「っ!?……本当?」

「ええ。間違いありません。あなた様の努力、神々も感謝しております。……ありがとう」

「グスッ……良かった……真琴、ありがとう……ヒック……うう……あああ」


泣き崩れるニーナさん。

俺は優しく背中をさする。

すごいな。

本当に守ったんだ。


本当に尊敬する。

君はすごい人だね。


「それでな誠。うちのさやかがお前に相談があるそうだ」

「えっ、さやかさん?えっと、神様案件でしょうか?」

「神様案件って。お前な……ふう、あながち間違いでもないか。電話番号だ。出来るだけ早く頼む。ああ、仕事中はダメだぞ?できれば婚約者と一緒に聞いた方が良いだろう」

「はい。今夜…はダメだな。消防です。……遅い時間でも問題ありませんか?」

「ああ、11時くらいまでならいつでも起きている」

「分かりました……あの、次長?疲れてます?」

「……まあな。……相手の思考が流れ込むんだよ。……きつくてな……たいした組織ではないとはいえ、管理職や常勤役員は恐ろしい人がいるからな。……マジで殺した方が良い奴まで居るぞ?」


一瞬次長の雰囲気が変わる。

うあ、本当に極道だったんだな。

でも、きっと……この人は理不尽な事には力を振るわない。


そう思った。


「あっ次長?大阪どんな感じですか?……その、次長は今回の事って……」

「ん?ああ、明日からだな。一応新菜と行く予定だが。行けるか?新菜」

「は、はい。行きます」

「ん。頼んだ。……じゃあな誠。……ん?……少しコントロールが戻ったようだ。問題ないだろう……ああ、すまないが他言は勘弁してくれよ?これ以上力を割きたくないからな」


「はい。承知しました」

「ああ、今回の事だったな。俺が理解しているのは、まあお前が女の子になって戻ったくらいの事だけだ。いずれ忘れるさ。そういう摂理らしいからな。お前もあまり気にするな」

「はい」



※※※※※



次長と別れ危ない農家を避けながら俺たちは何とか仕事をこなし、お昼のため職場に戻った。

軽ワゴンを降りるタイミングで何故か待ち受けていた君島代理に声をかけられる。


「誠、新菜、お疲れ様。ねえ、この後さ、一緒のお昼にしようか。いろいろ聞かなくちゃいけないこと思い出したんだよね。……ていうか何で忘れてたんだろ」


どうやら短期間での神様パワーには解れがあるみたいだ。

俺と新菜はごくりとつばを飲み込む。


「ああ、別に怒るとかそういう事じゃないから緊張しなくていいわよ?じゃあお昼にしましょ?小会議室押さえてあるからそっちに来てね」


手をひらひらさせて事務所に戻る君島代理を見ながら俺はため息をついた。

そしていきなり明日大阪に行く新菜をちらりと見やる。


「ん?ああ、大阪だよね。うん、なんか色々段取りみたいのが頭に出てきたよ。大丈夫。どうやら私も2回目みたいだね」


「そっか。まあ次長が一緒だからな。俺といるよりたぶん安全だと思うよ」

「ふふっ、そうかも。………でも私誠のこと好きだよ?……男として♡」


いきなり俺のほっぺにキスをして玄関へと走る新菜。

俺は呆然としてしまう。


思わず顔が赤くなるけど……

しょうがないよね!?

新菜可愛過ぎでしょ!?


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