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第6話 猫の舌3

「じゃあ早速ストーカーの家に行ってみますか」


 良太は車のキーを持って三国の手を引いて立たせた。

 いい契約ができて上機嫌なのだ。最近金になる仕事がなかったのでこれで数ヶ月分の自分の給料が確保できた。


こんなにカツカツの経営でもなんとかやれてきたのはこの小さなビルが三国の持ち家だからだ。

家賃がない分食費とか生活費だけでやっていけるのでなんとかなっていた。


3階が事務所、2階が良太と三国の住まい、1階は人気のベトナム料理展だった。


「その前にめしにしよう。腹が減った」


三国が言うと確かにと言った様子でベトナム料理店に電話をかける。


「ども。三国ですけどいつものやつ2つね」


それだけで話が通じるくらい二人はそのお店の定連だった。ビルのオーナーなこともあって、ベトナム料理店の店員は出来上がったパクチーマシマシのフォーを持って三国の事務所の扉を叩く


「ありがとう。これ、お釣りはチップにしていいから」


そういうと少し多い金額を店員に握らせると出来立てのフォーを机に置いた。湯気がたちのぼり、新鮮なパクチーが山盛りになったそれは食欲をそそった。


「うまっ!またうであげたんじゃない?」


「お前毎回同じこと言うな。料理人は人間だからそんな急には成長しない」


 淡々と言いながら三国はフォーをすする。パクチーの鼻に抜けるさわやかな香りがとても心地よい。

 普段からあまり笑わない三国だが、うまいものを食べるときには少しだけ微笑む。それをみて良太はほっとするのだ。

(こいつにも人間らしさが残ってる。また大丈夫)


良太は三国の人らしさが残っていることに安心した。こいつだって昔は泣いたし笑ったしよく喋るやつだった。


それが一家を惨殺されてから人が変わってしまったのだ。


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