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【異世界スゴロク】止まったマスで転移する呪いの冒険譚 ~ ゴールしなければ生き残れない~
【異世界スゴロク】止まったマスで転移する呪いの冒険譚 ~ ゴールしなければ生き残れない~
幸運な黒猫
現代ファンタジー都市ファンタジー
2025年04月24日
公開日
1.5万字
連載中
§§§§§§ ネオページ契約作品 §§§§§§ 『――異世界スゴロクへようこそ。』  全てはこのひと言から始まった。 『――これは、ゴールを目指しながら様々な世界を旅するゲームです。』  僕らは密室に閉じ込められ、このスゴロクをクリアしないと、ここからでる事ができない状況に置かれていた。  剣と魔法のファンタジー、農業スローライフ、海賊が暴れる海、悪役令嬢。  ルーレットを回し、様々な世界へ転移してミッションをクリアしなければ戻って来られないルールだ。  誰がこんなゲームを仕掛けたのか?   その目的は? 動機は? そして、僕らが選ばれた理由は?  全てが謎に包まれたまま、危険と隣り合わせの冒険に足を踏み入れる。  ……はたして、生きてこの部屋からでられるのだろうか?    2025/07/07 連載開始!

プロローグ

異世界スゴロクへようこそ。

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 ——異世界スゴロクへようこそ。

 これは、ゴールを目指しながら様々な世界を旅するゲームです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 数時間前の事だ。僕、水瀬みなせ水音みなとは、廃墟好きの仲間と共に、夏休みを利用してとある廃墟スポットの村を訪れた。


 ここは、すたれてさびれた雰囲気が格別で、古い木材や生い茂った草木の匂いが、『これでもか!』と感性に訴えかけてくる最高の場所だ。


 そんな非現実感であふれる廃村の奥に、ひっそりと朽ちゆく洋館があった。日本家屋が並ぶ村に、ポツンとある洋館。それは『異彩を放っている』とでも言えばいいのか、明らかにそこだけ雰囲気が違う。


 これに惹かれなければ、廃墟好きの名がすたる。僕らはためらう事なく足を踏み入れていた。


 歩くたびにギシギシと悲鳴を上げるボロボロの床。舞い上がったホコリは、窓から差し込む光にふわふわと白く漂う。エントランスの先にある階段を上がりながら、『ここでどんな人たちが生活していたのだろう』と思いを馳せる。


 ここは現実にある別世界、歴史と時が作り出した敗退芸術の場だ。




 ——そして僕たちは今、その洋館の一室でスゴロクをしていた。




 これだけ聞くと、誰でも『なぜそんなところで遊んでいるんだ?』と思うはず。『お前はなにを言っているんだ?』と言われるかもしれない。きっと、当事者でなければ僕もそう言うだろう。


 だけど僕らには、ゲームを続けなければならない理由があった。



 それは、からだ。







「ねえ、水瀬水音ミナミナ

「……なんでしょう?」


 僕は、ここから脱出するための手掛かりがないかと、部屋の隅にポツンと置いてある本棚を調べていた。


「なんかえっちぃ本でも探してる?」


 と、僕を揶揄からかってくるのは、一つ年上で大学三年生の雅楽代うたしろあおい


 整った顔立ちに深い琥珀色のアーモンドアイ。亜麻色のウェーブヘアがふわっと香りを漂わせ、白いシャツにスキニージーンズ、そして青色のストールをセンスよく合わせた美人さんだった。


 廃墟好き仲間にこんな女性がいるなんて。と、僕は初めて対面した時、一挙手一投足に目を奪われた。これは、ひと目ぼれに近い感情なのかもしれない。


「あとでサイトに書いておくよ。ミナミナは廃墟でえっちな本を探していました。って」


 ……まあ、このからかい癖が玉に瑕ではあるけれど。


「マジで止めて下さいって。そのミナミナってあだ名も。僕が泣いちゃいますよ?」

「そお? ミナミナって可愛いじゃん。鈴姫べるもそう思わない?」


 葵さんは隣にいるもう一人の女性に視線を向けて、同意を求めた。


「え……私は、その……どっちでもいい……かな」


 彼女の名前は雪平ゆきひら鈴姫べる


 黒髪のショートボブに色白の肌。清楚なイメージがある若草色のワンピースは、優しい性格がそのまま表れているのだろう。このお嬢様然とした上品な女性は、葵さんと同じ大学の同級生だそうだ。つまり、僕より一つ年上の、可愛らしく大人しい女性ひとだ。


 ……とは言っても、必要以上にアクティブな葵さんの隣にいたら、誰でも大人しく見えてしまうと思うのは僕だけたろうか?


「徳川君……そろそろ帰ってくるかな?」


 鈴姫さんがボソッとつぶやいた。


「そうだね、二時間はたっているし。もうすぐだと思うよ」

「お腹、すいたね……」

「うん……」


 と、顔を見合わせる葵さんと鈴姫さん。ここに閉じ込められてから半日はたっているのだから、空腹を感じるのは当然だろう。


 丁度その時、スゴロクについているルーレットがカチリと音をたてて回転し始めた。


「あ、戻ってきた」


 部屋の中央に小さなが浮かび上がり、薄緑の光がぼわっと部屋中に広がった。

 そして数秒後、漂っていた光の粒子は魔法陣に集まり始め、だんだんと大柄な人間の形になっていく。


「ふう……。ただいま」


 短く切り揃えられた髪が誠実さを醸し、安心感を与える好青年の徳川 颯太とくがわ そうた


 大学ではラグビー部に所属していて、ガッシリとした体躯は立っているだけで威圧感がある。ボーダーのTシャツやジーンズの太ももは筋肉でパンパンだ。その割には気が優しくて、僕と同い年とは思えないくらいとても落ち着いている男だった。


「お帰り。なにか手に入った?」

「うん、バッチリ。ポロッククの串焼きと高級フルーツのボボンボ」

「……ちゃんと食えるの?」

「大丈夫、自分も異世界むこうで普通に食べていたから。あ、ポロッククは豚みたいな生き物だったよ」


 そう言いながら颯太はバックパックを降ろして、中から串焼きや見た事のない果物を配り始めた。


 ちょっと不気味さはあるけど、空腹が限界突破していて背に腹は代えられない。それは女性陣も同じで、眉をしかめながらもポロッククの串焼きを頬張り、青紫色のボボンボにかぶりついていた。


「あとさ、氷魔法を習得してきた」

「え~、颯太ナイスじゃん! これで暑さしのげるね」


 胸元をパタパタさせながら、『早く~氷早く~』と急かす葵さん。颯太は二つ三つ言葉を繋げて魔法を発動し、部屋の四隅に氷の柱を出現させた。


「できる男だねぇ、颯太は」


 と、氷柱に抱きつく葵さん。これでもうちょっと落ち着きがあれば……。


「水瀬くん、なにかわかった?」

「ごめん、全然だよ。ルールブックに書いていること以外は情報なし」


 僕が机の上に置かれた黒い本ルールブックに目を向けると、みんなもつられて視線を向けていた。


 その黒い本ルールブックによると、このスゴロクは止まったマスに対応した異世界に転移し、条件をクリアすれば戻って来られる仕組みらしい。


 その際、習得した魔法やスキル、身に着けている物をそのまま持ち帰れるそうだ。


 だから閉じ込められていても食料を確保できるし、颯太のように氷魔法を覚えれば、エアコン代わりの氷を作りだすことも可能だ。


「あーー! あーあー!!」


 その時、みんなの視線を黒い本ルールブックから引きはがす叫び声が響いた。


「みんなひどいっスよぉ〜!」

「あ……面倒なのが起きて来た」

「葵さん、聞こえるって」


 彼女が『面倒』と評した彼の名は、薬師寺やくしじ かなめ


 丸いサングラスにツンツンヘアの彼は、どこからどう見てもチャラ男としか表現のしようがなかった。

 黒地に原色の花がちりばめられたシャツに、やりすぎなくらい破けているダメージジーンズ。ポケットから垂れ下がる極太のウォレットチェーンが、動くたびにジャラジャラとうるさい。


 悪い人じゃないんだけど、なにかある毎に『うぇ~い!』とハイタッチを求めてくるのは正直ウザく感じる。若干、僕が苦手とするタイプだ。


「あ、薬師寺くんただいま。今帰って来たとこだから安心して」

「なにがどう安心なんスか。もう、起こして下さいって。腹減ってんスから〜」


 僕、葵さん、鈴姫さん、颯太に要。僕ら五人をここに閉じ込めているのは、どう考えても人為的なものではなかった。言わば超常の力、人知の理解が及ばない正体不明の力。そうでなければ異世界を往復したり、魔法を使えたりなんてありえない。


 僕らは、コマを進めるしかなかった。


 今わかっているのは、ゴールしなければここからでられないって事だけなのだから。



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