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——異世界スゴロクへようこそ。
これは、ゴールを目指しながら様々な世界を旅するゲームです。
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数時間前の事だ。僕、
ここは、
そんな非現実感であふれる廃村の奥に、ひっそりと朽ちゆく洋館があった。日本家屋が並ぶ村に、ポツンとある洋館。それは『異彩を放っている』とでも言えばいいのか、明らかにそこだけ雰囲気が違う。
これに惹かれなければ、廃墟好きの名がすたる。僕らはためらう事なく足を踏み入れていた。
歩くたびにギシギシと悲鳴を上げるボロボロの床。舞い上がったホコリは、窓から差し込む光にふわふわと白く漂う。エントランスの先にある階段を上がりながら、『ここでどんな人たちが生活していたのだろう』と思いを馳せる。
ここは現実にある別世界、歴史と時が作り出した敗退芸術の場だ。
——そして僕たちは今、その洋館の一室でスゴロクをしていた。
これだけ聞くと、誰でも『なぜそんなところで遊んでいるんだ?』と思うはず。『お前はなにを言っているんだ?』と言われるかもしれない。きっと、当事者でなければ僕もそう言うだろう。
だけど僕らには、ゲームを続けなければならない理由があった。
それは、
♢
「ねえ、
「……なんでしょう?」
僕は、ここから脱出するための手掛かりがないかと、部屋の隅にポツンと置いてある本棚を調べていた。
「なんかえっちぃ本でも探してる?」
と、僕を
整った顔立ちに深い琥珀色のアーモンドアイ。亜麻色のウェーブヘアがふわっと香りを漂わせ、白いシャツにスキニージーンズ、そして青色のストールをセンスよく合わせた美人さんだった。
廃墟好き仲間にこんな女性がいるなんて。と、僕は初めて対面した時、一挙手一投足に目を奪われた。これは、ひと目ぼれに近い感情なのかもしれない。
「あとでサイトに書いておくよ。ミナミナは廃墟でえっちな本を探していました。って」
……まあ、このからかい癖が玉に瑕ではあるけれど。
「マジで止めて下さいって。そのミナミナってあだ名も。僕が泣いちゃいますよ?」
「そお? ミナミナって可愛いじゃん。
葵さんは隣にいるもう一人の女性に視線を向けて、同意を求めた。
「え……私は、その……どっちでもいい……かな」
彼女の名前は
黒髪のショートボブに色白の肌。清楚なイメージがある若草色のワンピースは、優しい性格がそのまま表れているのだろう。このお嬢様然とした上品な女性は、葵さんと同じ大学の同級生だそうだ。つまり、僕より一つ年上の、可愛らしく大人しい
……とは言っても、必要以上にアクティブな葵さんの隣にいたら、誰でも大人しく見えてしまうと思うのは僕だけたろうか?
「徳川君……そろそろ帰ってくるかな?」
鈴姫さんがボソッとつぶやいた。
「そうだね、
「お腹、すいたね……」
「うん……」
と、顔を見合わせる葵さんと鈴姫さん。ここに閉じ込められてから半日はたっているのだから、空腹を感じるのは当然だろう。
丁度その時、スゴロクについているルーレットがカチリと音をたてて回転し始めた。
「あ、戻ってきた」
部屋の中央に小さな
そして数秒後、漂っていた光の粒子は魔法陣に集まり始め、だんだんと大柄な人間の形になっていく。
「ふう……。ただいま」
短く切り揃えられた髪が誠実さを醸し、安心感を与える好青年の
大学ではラグビー部に所属していて、ガッシリとした体躯は立っているだけで威圧感がある。ボーダーのTシャツやジーンズの太ももは筋肉でパンパンだ。その割には気が優しくて、僕と同い年とは思えないくらいとても落ち着いている男だった。
「お帰り。なにか手に入った?」
「うん、バッチリ。ポロッククの串焼きと高級フルーツのボボンボ」
「……ちゃんと食えるの?」
「大丈夫、自分も
そう言いながら颯太はバックパックを降ろして、中から串焼きや見た事のない果物を配り始めた。
ちょっと不気味さはあるけど、空腹が限界突破していて背に腹は代えられない。それは女性陣も同じで、眉をしかめながらもポロッククの串焼きを頬張り、青紫色のボボンボにかぶりついていた。
「あとさ、氷魔法を習得してきた」
「え~、颯太ナイスじゃん! これで暑さしのげるね」
胸元をパタパタさせながら、『早く~氷早く~』と急かす葵さん。颯太は二つ三つ言葉を繋げて魔法を発動し、部屋の四隅に氷の柱を出現させた。
「できる男だねぇ、颯太は」
と、氷柱に抱きつく葵さん。これでもうちょっと落ち着きがあれば……。
「水瀬くん、なにかわかった?」
「ごめん、全然だよ。ルールブックに書いていること以外は情報なし」
僕が机の上に置かれた
その
その際、習得した魔法やスキル、身に着けている物をそのまま持ち帰れるそうだ。
だから閉じ込められていても食料を確保できるし、颯太のように氷魔法を覚えれば、エアコン代わりの氷を作りだすことも可能だ。
「あーー! あーあー!!」
その時、みんなの視線を
「みんなひどいっスよぉ〜!」
「あ……面倒なのが起きて来た」
「葵さん、聞こえるって」
彼女が『面倒』と評した彼の名は、
丸いサングラスにツンツンヘアの彼は、どこからどう見てもチャラ男としか表現のしようがなかった。
黒地に原色の花がちりばめられたシャツに、やりすぎなくらい破けているダメージジーンズ。ポケットから垂れ下がる極太のウォレットチェーンが、動くたびにジャラジャラとうるさい。
悪い人じゃないんだけど、なにかある毎に『うぇ~い!』とハイタッチを求めてくるのは正直ウザく感じる。若干、僕が苦手とするタイプだ。
「あ、薬師寺くんただいま。今帰って来たとこだから安心して」
「なにがどう安心なんスか。もう、起こして下さいって。腹減ってんスから〜」
僕、葵さん、鈴姫さん、颯太に要。僕ら五人をここに閉じ込めているのは、どう考えても人為的なものではなかった。言わば超常の力、人知の理解が及ばない正体不明の力。そうでなければ異世界を往復したり、魔法を使えたりなんてありえない。
僕らは、コマを進めるしかなかった。
今わかっているのは、ゴールしなければここからでられないって事だけなのだから。