「あ、でもこんな時こそ『人生、捨てたもんじゃねえって思わせてやったぜ!』とか言った方がカッコ良かったか?
でも決め台詞悩んでる時点でカッコ悪いか、クソ、しくじったぜ!」
主人公になりてえ!
なんてぼやきながら、昂我はその場でファイティングポーズをとる。
「凛那、俺がフォワードをやる。この
尻もちを付いた凛那はやっと立ち上がり、前を向いたまま左腕を握る昂我を見る。
巻かれた包帯は所々外れており、今や肩まで浸食さたガントレットが露わになっている。
「黒騎士程とは言わないが同じ素材には違いないだろう。
もし殴られたとしても何発か耐えられるはずだ。 その間に隙を狙って撃ちこめ」
「でも、私、今もまた――」
「大丈夫、
言葉を遮り、一瞬だけこちらを振り返って昂我は優しく微笑む。
「一度の失敗がなんだ、二度の失敗がなんだ。
三度目、四度目も失敗は想像する価値もない。
あるのは『次は成功する』って意志だけだ」
「昂我君……」
「頼んだぜ」
昂我は黒騎士が駆けだしたのと合わせて走り出した。
元々運動神経があるのか、それとも戦う意志があるのか、昂我の動きは素人の凛那から見ても無駄がなく、まさに蝶の様に舞い、蜂の様に刺す一撃を繰り出している。
爪が頭上から振り下ろされれば、身を半歩ずらして避け、黒騎士の兜に左腕を撃ちつける。
薙ぎ払う様に爪が振るわれれば、半歩下がり、すぐさまストレートを兜に叩きこむ。
「今しかない……!」
(余計な事は考えるな。失敗なんて考えるな、成功なんて考えるな。
騎士の責任なんて思い出すな。ただ自分自身にしかできない事に集中しろ)
ルビー・エスクワイアの動きに合わせて凛那も重心を落とす。
凛那は今まで武道を知らない。
けれどこのルビー・エスクワイアは人類が文明を持った頃から数多くの騎士を守ってきた紅玉の鎧。
凛那が動くのではない、ルビー・エスクワイアが動き、身を任せれば、きっと浅蔵の様に凛那自身が鎧を身にまとった一撃を放てる。
昂我と黒騎士が討ち合う姿を俯瞰で眺めているイメージ。
(私は黒騎士を狙い撃つだけ)
ルビー・エスクワイアが持つ紅槍が、凛那の手に移った気がした。
手に持った槍の重みをしっかりと感じながら、ルビーの原石で出来た切先を黒騎士の頭部に定める。
タイミングは二人が離れた時が――そんな考えも思考の海に溶けていく。
意思に同調したのか、紅槍の側面に付いている騎士団の旗が勝手に外れ、黒騎士の頭部目がけて紅槍が走る道筋が生まれた。
両足で地面を感じ、腰を捻り、《月をも貫く槍》を右腕で後ろに引く。
小さく息を吐いて、そして側面から投げる。
時間が停止したように感じ、槍の周辺にある空気が全て刃先に吸い込まれていく感覚。
荒削りなルビー原石の刃先が、初めて見た時よりも研がれている気がした。
「――
黒騎士がこちらに気が付いた時には、時すでに遅し。
昂我は紅の道筋が見えた時に、全力で後方へと飛び退いている。
《月をも貫く槍》は黒騎士の兜目がけて彗星の様に闇を斬り裂きながら進み、直撃。
一瞬の静寂の後、衝撃波が二人の鼓膜を揺らした。