手に持った剣を再び機械人形目がけて投げつける。
機械人形は自身の攻撃圏内に入ると自動的に攻撃態勢に入り、腰から剣を抜き、対象を叩き斬る。予想通り、先ほどと全く同じ動きで剣は地面へと叩き落とされた。
だが同時に金属を叩き潰す鈍い音が生じる。
「――」
機械人形の右腕が千切れ飛んでいた。
彼女に意志はないが、疑問の様な顔を浮かべた気がした。
「盾もあるんだよ、騎士にはね」
剣を囮にし、己を守る盾を機械人形目がけて力任せにぶん投げたのだ。
多少手荒な方法だが、これも戦法の一つに違いない。
盾は廊下の突当たりで絵画を破壊し、機械人形の腕もろとも壁に突き刺さっている。
ダイヤモンド・サーチャーの全身を守れる程の盾も、騎士鎧同様に意識の集合体。
盾に『己の場所に戻れ』と念じれば、再びダイヤモンド・サーチャーの元へ姿を現す。
「機械人形に学習機能はないだろう。その場の者を破壊する単純なプログラムだ。ならば地味な手段とて、使わせてもらうよ」
同じように剣を囮に盾を投げつける。
盾が重いせいもあってか、次は女神の左翼を千切ったにすぎなかった。
「三度目は外さない」
しっかりと狙いを定め、盾を投げる。
盾はごうごうんと風を斬りながら女神の首をあっけなく吹き飛ばし、その胴体もろともキラキラとした光の粒子となって消滅した。
「随分と簡単だ、な」
――頭上から迫る影を感じ咄嗟にその場を飛び退る。
無理矢理前跳躍したせいか、受け身も取れず無様に地面に転がった。
急いで立ち上がると、剣を両手に持った同じ見た目の新たな機械人形がその場に立っている。
「本体はこちらか!」
防衛女神が斬られたら発動するプログラムなのだろう。本来ならば今の一撃で刺されていただが、『死』の気配が壬剣の背中を無理やり押してくれた。
(命がけの真剣の試合がここで役に立つとはな……!)
両手に剣を持った機械人形の目的は先ほどとは違うようだ。明らかに間合いを測り、いつ斬りかかるかタイミングを計っている。
「いかにも父親が考えそうなことだ……!」
敵と見せかけてそれは囮、本命は別の一撃。
皮肉にも先ほど自分が剣を囮とした陽動戦術と同じである。
この機械人形は完全なる戦闘型、現状打ち合うしか方法はない。
ダイヤモンド・サーチャーで右手に片手剣を構え、左手に盾を持つ。壬剣自身は剣と盾の重みを感じながら、機械人形を見つめる。
最初に動いたのは機械人形だ。
空中を滑る様に突進し、仲間を破壊したダイヤモンド・サーチャー目がけて剣を振り下ろす。
「はっ!」
気合と共に盾で剣を受け止め、左手に持った剣で応戦するが、機械人形ももう一方の剣で一撃を受け止める。
体勢を立て直し、何度か討ちつけるも反応速度は機械人形の方が上で、剣が奴の身体に傷を付ける事はない。機械人形の剣はスピードもあり、一撃に致命傷はないがダイヤモンド・サーチャーの甲冑にダメージを僅かながらも確実に与えていく。
直接自らの動きをトレースさせる事によって、騎士鎧は騎士の意志をダイレクトに反映して能力を向上させるが、そもそもダイヤモンド・サーチャーは状況分析型。やはり戦闘では一手遅れてしまう。
この機械人形に特殊な能力が備わっていないのが幸いだろう。もし魔術や異能を操る存在だったなら防戦すら行えなかった。
盾で機械人形の剣戟を受け続ける事は可能だが、徐々に押されているのも事実。父親の書斎は後方数メートルに存在するが、背中を向けて走るのは自殺行為だ。
現状、ダメージを受けても鎧を回復する手段が自然回復しかない以上、余計なダメージは蓄積したくない。
悩んでいる間にも機械人形の攻撃は増している。
このまま徐々に後退していけば、部屋には入れるかもしれない。しかしその後はどうする。書斎の中まで機械人形が侵入してきたら、調べられるものも調べられない。
(何か方法は――何か)
《全知の視界》封じられている状態で、攻撃特化型の機械人形を撃退する方法。
今後、騎士として責任を背負って生きていく中で、同じような状況は幾つもあり得るだろう。この程度の事、乗り越えられないでどうすると自信を鼓舞する。
(本当にこの程度の力が騎士団長としての力なのか?
騎士の鎧には何かまだ隠されているのではないか?)
いくら思案してもダイヤモンド・サーチャーは応えてくれず、隠された能力が開花する訳でもなく、ただ盾で敵の攻撃を受け止めるのみである。
「く、歯がゆい――!」
これまで一人で大体の事は出来てきた。勉強もスポーツも小さなトラブルもあらかたの事は回避できた。だが結局力と力の押し合いとなると、打つ手がなくなってしまう。
凛那のルビー・エスクワイアがいれば――他の騎士がいてくれれば、ダイヤモンド・サーチャー自身にもっと力があれば――。