「でよう、って聞いてる赤槻ー」
「ああ、聞いてる聞いてる。色恋沙汰は大変だな」
「そう、大変なのよ大変。その辺はどうなんだよ、お二人さんは」
お二人さんと聞かれ、高梨とお互いに顔を合わせて苦笑いする。
「ないね。そもそも僕はあんまり女子と交流ないし」
制服を着崩して、いかにも遊んでいる花菱とは違い、高梨の制服はいつも綺麗に整っている。課題もしっかりと終らせる真面目な生徒なのだ。
「交流なくても好みの奴はいるだろ?」
「いなくはないけど、今じゃないかなってね。
課題も塾もあればなかなか時間は取れないよ」
「今しかないんだ、華やかな高校生活は!」
「僕はその分、将来でカバーさせてもらうよ」
「大器晩成タイプって奴か、この真面目君が!
確かに高梨は良い大学行って、良い企業に就職しそうだ!
くそ、羨ましいぜ!」
お、と何かを閃いたのか花菱は手をポンっと打つ。
「そしたら綺麗なオフィスレディちゃんを紹介してもらえばいーじゃん、俺様頭いい! 持つべきものは大親友だな! ぜひ俺のために勉強を頑張ってくれたまえよ、高梨君」
ふははははと花菱は高笑いする。
花菱は毎日楽しそうでいいな。その明るさに救われることもあるんだが。
「あ、そういや何時だったかな。赤槻、四桜駅にいなかった?」
不確かな記憶を思い出しながら、花菱は大げさに悩む。
「そりゃ、駅前だしいるだろ。なんかの用事があったんじゃないのか」
「いやー、ありゃ、俺様が往復ビンタくらった後だったから、結構前だな……赤槻に似てるなーと思ったんだけど、赤槻似の奴は腕を怪我してるみたいで……こんな感じで腕を吊ってさ。その隣の子がまた無茶苦茶可愛くてなー、そのせいで赤槻のはずがないって確信したんだよ」
「ゴフッ、ゴファ!」
ジンジャーエールを飲もうとしたが、気管に入りせき込んでしまう。
(く、面倒な奴に見られてたか)
「女の子が無茶苦茶可愛かったから、赤槻じゃないって確信したんだよ」
「何故二回言う」
「大切なことだからな。赤槻は女子の話題を殆ど話さん。
女子からも相手にされていないというか、むしろ玩具にされて弄られている気さえする。しかも思ったより、『ねー、赤槻君ってどんな感じー?』とか聞かれるからすげー癪だ。地獄に落ちろ。いや生温い。
穴掘ってマントルを抜けてブラジルに行きやがれ、地球の裏側から二度と帰ってくるな。そんな灰色よりも色のない、モノクロの学園生活を送っているお前がだ。
何であんな可愛い子と一緒にいるんだよ! それが俺様は心底悔しい!」
「モノクロどころか、結構悪くないじゃん」
頭を押さえてオーバーリアクションをする花菱に、高梨はため息交じりつっこむ。
「で、結局赤槻なん?」
「あー、うん、どうだったかなあ。似てる人は結構いると思うけどなあ」
花菱に凛那の話をすると絶対に紹介しろとか言ってくるので、できるだけはぐらかしたいところだ。この男は悪いやつではないが、けしてお勧めできる優良物件でもない。
「あんな前髪長い奴が何人もいてたまるかと思うが、そうかそうなのか……赤槻がそういうならそうなんだろうな。でも彼女出来たらいつでも教えてくれよ」
昂我が否定したことに花菱は肩を落として、寂しそうに言う。
「できればな」
できないとは思うが。
今まで色恋沙汰なんて縁がなかったし、どうもそういった感情がよく分からない傾向がある。今ですら様々な感情をやっと覚えたようなもんだ。
恋愛がどうこうといわれても、もう少し振舞い方を覚えなければ発展のしようがない。
「そのときは祝ってやりたいわけよ。
友達が誰かに認められるのって嬉しいじゃん?」
な、高梨もだぞ! といって高梨に親指を立てる花菱。
「ありがとう……と、そろそろこんな時間だね」
高梨が携帯電話を取り出す。花菱もつられて取り出すので、画面を覗き込むと早くも二十二時を過ぎていた。さすがにこれは学生としてあるまじき姿だと、冗談めかしに花菱は言って立ち上がり、二人も後に続く。
三人の帰る方向は殆ど同じだ。
久しぶりに話し込んでしまったので、急いで国道を歩く。その間もパンダの模様はなぜ白黒なのかとか、本当にどうでも話題で盛り上がりながら帰る。
黒騎士事件もあってここ最近は夜の人通りもめっきり減っていたが、今日はちらほら同じように急いで帰宅するサラリーマンの姿などが見受けられる。
これも全てナイツオブアウェイクの騎士二人のおかげだなと思う。
ふと思い出し、凛那と浅蔵はどうしているだろうかと考えた。
浅蔵は相変わらず後処理で忙しいかもしれないし、凛那は夕陽さんとのんびり夜を過ごしているのだろうか。