「誠司、それは完璧な仕事とは言えないな。
最後まで手を抜かず完璧にやり遂げるのが騎士だ。
それでも黄玉の騎士紋章を持つ者か?」
(黄玉……ってたしかトパーズのこと?)
黄玉騎士は騎士鎧を展開したまま、白銀騎士を睨みつけた。
「ええ、俺はこれでも黄玉騎士です。
だがね、やっぱり駄目だ。これ以上は」
子供から手を放して立ち上がる。
子供は意識を失っているようで、ぐったりと地面に横たえられた。
黄玉騎士は折れた短刀を拾い、構える。
短刀の見た目に派手なところはなく、剣先は折れていて殺傷能力はほとんどないだろう。
「団長は常に正しい。
どんな物事も先を見据えて行動し、その場では間違っていると思える事でも、最終的には全て正しかった。
だから俺達は騎士鎧を使用することもなく、普段の生活の中で最小限の活動で脅威を免れてきた。人間の力だけで人間を守ってこれた。
それは俺にとって誇りだったよ」
凛那は黄玉騎士の服装と体格の良さから、自衛官をイメージする。
きっと騎士の力を使わずに多くの人を助けてきた人物なのだろう。
人が人の力の範疇で助ける事ができるならば、こんな過剰な力に頼らなくていいならば、それが良いような気がした。
過剰すぎる力は扱い方を間違うだけで誰かが傷ついたり、心に迷いが生まれる。
「こんな化物みたいな力を使わずに自衛できるならそれに越したことはねえ。
己の力を信じて、己の力で守れるからこそ、自分自身を信用できる。
だから俺は俺の道を信用できたし、団長が語ることも全て信じ、実行してきた。けどな、これは違う。やっぱ違うよ、団長」
黄玉騎士の言葉を聞いてか白銀騎士は宝石剣の構えを解く。
「正しい事は確かに正しい。
正しい物事は誰が見ても正しい。
けどさあ、俺は頭良くねえからあんま分かんねえけど――。
この子を殺して、その先に行っちまったら、もうナイツオブアウェイクじゃねえ、そうじゃねえか?」
構えを解いた団長を見て、黄玉騎士も構えていた短刀を下ろす。
やっと騒ぎを聞きつけたのか、焼け落ちた屋敷の前に他の騎士たちも到着した。赤、青、紫、黒、他にも様々な色の騎士鎧を展開している者たちが集まり、十二人がこの場に揃った。
白銀騎士はうつむいたまま何も言わず、腰に宝石剣を収める。
(良かった、分かってくれた)
これであの子は殺されないですむ。
凛那の現実ではないとはいえ、見ているとハラハラするものがったが、子供が助かったようでほっと胸を撫で下ろす。
黄玉騎士も同じように安堵し、騎士鎧の展開を解く。
気絶している子供を一瞥してから、仲間の方に笑顔で駆け寄る。
「これでいいさ、ミッションコンプリートってな。帰って酒でも飲もうぜ」
他の騎士たちも緊張が解けたのか、次々と騎士鎧を解除していく。
――ただ一人、白銀騎士を除いては。
「いや、正論はやはり
男の子に近寄っていた凛那には見えていただろう。
団長が笑いを堪えているのが。
「正しい事は常に正しい、それが多くの者の答えならば、尚更だ」
傷ついた左腕を天へと振り上げる。
それと同時に白銀の騎士鎧がバラバラになり全方位に弾け飛び――巻き戻し映像を見ているように、騎士の背中で騎士鎧だけが再構築された。
「騎士を殺す力を持っている零の民を全て殺す。
今こそ、作戦終了というのだよ、誠司」
くくくと口元から零れる笑いを押さえながら、両手を広げて天を仰ぐ。
別構築された白銀騎士は騎士から離れ、独立稼動しながら腰の剣を大きく振り上げる。
男の子はやっと気が付いたのか目を開く。
しかし避けるほどの時間はない。
凛那は咄嗟に走り出していた。
たとえ干渉できない世界でも、体が勝手に動き出していた。
男の子と白銀騎士の間に滑り込むように割り込む。
宝石剣が振り下ろされる、男の子の頭頂部目がけて。