【これは、社畜教師が魔法少女の赤字カフェと、ついでに地球も救う話である】
光珠が飛び交い、
俺はというと──
焼けかけたカフェワゴンの陰で、モバイルPC片手に“魔法少女支出管理表(ver3.1 安定動作版/責任は持たない).xls”と格闘していた。
昨夜の徹夜で組み上げたマクロは、当然のごとくエラーの溜め息をつき、絶賛手動入力中。
どんな悪夢かって? いや、
じゃあラリってるのかって? いや、素面。
だって、Excelシートには、冷酷な数値が並ぶ。
シビアすぎて鼻血出そう。
※
──星宮すみれ:変身済/必殺技発動済
➤ ¥112,000 使用済(残高:¥8,920)
──白瀬カノン:支援魔法 ×4
➤ ¥12,000 使用済
【警告】残高逼迫中!課金判定:✕(魔法発動不可)
➤怪獣:被ダメージ微量、元気モリモリ!
※
このログに「俺:顧問就任7日目、キャパ崩壊中」を追記したい気持ちをぐっと抑える。
魔法少女なら、もっと夢を見せてくれ。
…そう思ってた時期が、俺にもありました。
でも現実は、魔法一発 ¥12,000。
今の戦闘でも俺の月給の手取り半分近くが溶けている。
資金源はカフェの売上とスポンサー。俺はその管理責任者。つまりこの地球防衛戦、経費申請との二正面作戦だ。
……社会って、どこまでが冗談でどこからが罰ゲームなんだろうな。
「すみれっぴー! その魔法撃ったら残高マイナスっぴー! 支払原資はーー!?」
頭上を飛びながら絶叫するのは、元・丸っこい兎型AIマスコット──モフ丸。
今や全身にスポンサーロゴを背負うアドバルーンの化け物 ver.8.0(協賛:Z社ほか7社)である。
資本主義は、癒し系マスコットさえ欲望の獣に変えるらしい。
……こわっ、資本主義君。たぶん、飲み会の割り勘で過剰請求して懐に収めるタイプ。
「せ、先生っ……回復、もう一度だけ……!」
震える声に涙を浮かべた白瀬が、スカートの裾をぎゅっと掴む。なんですか、このカワイイ生き物。
罪悪感で俺の胃が死にそうなんですけど。
彼女の支援魔法は効果抜群。2時間おきに処方すれば、疲れたサラリーマンでも24時間戦える。
──ただし、1回¥3,000。コスパ悪っ。
「さっき“最後”って言ったでしょ!? ……っ、泣くな、泣くなよ……もう……わかった、俺の負け! これが本当に最後だぞ!」
ビクビクと揺れるカノンの肩を見て、俺の脳裏に過去の記憶がフラッシュバックした。
──前職の後輩・篠原。
『高橋さん、これ……やるしかないんですか?』
彼女の代わりに徹夜して、倒れて、辞めた。
俺は、誰かの“もう一度”に応えられる大人になりたかったのかもしれない。
……ということで、女の子の涙は重課金兵器だよね、キラッ★
その毒性で赤字補填申請書、今週だけで8枚目♪
前職だったら「日次ですら予算管理できないのか、百回〇ね!!」と罵倒されてた案件。
俺だって、涙が出ちゃ~う……だって大赤字だもん。
お尻は小さくないし、ぷくっとボインでもないけど、な!
令和の時代にキューティー〇ニー。逆に有り!
そんなことより、誰か俺とこの帳簿の赤字、止めてくれ~!!
──
俺は27歳、元広告代理店の社畜。
先月、過労で心臓が止まりかけて退職。気づけば、都立新秋葉商業高校の「情報」科教員になっていた。
情報教員が全国的に不足しているらしく、書類を出したらトントン拍子で決まった。なにそれ、怖い。
俺の人生、七転八倒。七転び目なんて小学生のときに済ませたから、いまや“転がり記録”自己ベスト更新中。
あんなにうまく行くなんて、あの時疑うべきだったのかもな。
初日に任命されたのは──経営実践部。活動内容はカフェ経営。
「俺のスキルが役立つかも」だなんて考えた過去の自分、油断しすぎ。
そのカフェは、《【コスプレカフェ》を装った“変身1回1万円”の高コスト魔法少女たちの秘密基地だった。
敵は怪獣。気分は地球防衛軍。
──でも予算は、個人経営喫茶店。
サルでもわかる。無理ゲーである。
だが、俺たちがやらなきゃ地球がヤバい。
進むも地獄、退くも地獄の経営道。
俺の役目? 司令官……という名の便利なスケープゴート、オーマイゴッド。
『脱社畜してブラック企業を脱出できたと思ったら、配属先は
そんなラノベタイトルみたいな人生、マジでいらん。
──でも、もう逃げない。
俺の人生、必ず取り戻す。
全社畜スキルを総動員して、
猫も杓子もカフェも地球もJKも──
全部まとめて救ってやるから、覚悟しろ!!
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