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第2話 顧問就任と、魔法少女カフェの裏事情。

※契約書は、ちゃんと読みましょう。人生、詰みます。



1週間前、赴任初日。


部活動の一貫としてカフェ経営している経営実践部から何故か呼び出しがかかった。


部室カフェのドアを開けた瞬間の光栄は一生忘れない。



悪い意味で。



前髪ぱっつんボブの真面目そうな女子が、眉間に皺を寄せて意味不明な事をボソボソ言いながら紫に変色したコーヒーを抽出している。


その横では魔法少女コスチューム姿の金髪娘が「あたし、まじ太陽」とか言ってポーズをキメている。クスリもキマっているかもしれない。


壁際では無表情の女子がダミー人形に呪文を唱えていた。

先生!! ダミー人形、勝手に動いてないですかっ!



……落ち着け、先生は私だ。



あと、気のせいだと思うけど、絶対気のせいだと思うけど、毛玉うさぎが人語を喋った。


「顧問ktkr! ようこそマジカフェへっぴ!!」


俺の顔面めがけて飛びついてくる。


「……あれ? オカルト研究部と間違えたかな。すまんが経営実践部の場所は―」


「ここがそうだっぴ」


俺の防衛本能が人生で三番目くらいに早く反応した。ちなみに一番目は──

新人時代、クライアントの機嫌を損ねた上司が『じゃあ高橋くん説明して?』って俺に振ってきたとき。


回れ右して、退室しようとする。

が、謎のウサギが俺の腕を掴んで放さない。

こいつ! 力強え!


「モフ丸っぴ! 経理と広報と資金繰りと戦術支援担当っぴ!」


求めてない。求めてないから、自己紹介。

語尾には突っ込まない俺、超クール。


「……何か誤解があるようだけど、俺は顧問になった覚えはないよ」


白を切る。



子供の頃、ズルい大人は嫌いだった。

だけど、大人がズルいんじゃない。社会がズルくさせるんだ!



「雇用条件に書いてあいたっぴ」


ズルい!

即採用で舞い上がって契約書を精読しなかった俺のバカッ!


「ちょっと、あんた。まさか、何も知らずに来たわけ?」


現れたのは、いかにも“リーダー”って雰囲気の女子。制服+エプロン姿で、眉間のシワが常時警戒モード。


胸元の名札には「チーフ 星宮すみれ」とある。

セミロングのぱっつん前髪がお人形さんみたいで可愛いが、この人形には”怒”しか感情がない。


そもそも人形に感情ないか、ごめんごめん。


「顧問やるなら、ちゃんと理解して。うちの部は普通じゃないから」


「それな。超エモい。でもアラサーには理解できないからさようなら」


多分、そろそろ死語になりつつある若者言葉でフレンドリーさを演出して逃がしてもらおう。


引き返そうとすると鬼神にドアを塞がれる。

あっ鬼神じゃなかった。星宮だ。オーラが怖くてまともに顔が見れない。


「誰が帰っていいって言った?」


「就任初日だけど、一応俺、先生。その言い方はどうかと思うなぁ」


「そこに座りなさい」


彼女はそう言ってあごで、窓際の椅子を指し示した。


どうやらこの場で俺の発言権はZERO《ゼーロー》のようです。


先日までは40歳のおっさんにいびられてましたが、今日からjkに責め立てられるそうです。

一部界隈ではご褒美ですが、俺にはその趣味ありません。


助けてください。



渋々、座るといきなり星宮がさらに怖い顔になりドスを効かせて言った。


「今から話すことは誰にも言わないで。保護者はもちろん、校長や教育委員会にも。約束できる?」


「いや、発言の内容を聞かない事には、判断―」

「約束!!(バーン!!)……できる?」



机を叩いてそんなヤクザみたいな脅しをしたからって、アラサー男子がびびると―



「はい、します。させていただきます!!」



社畜根性が染みついた俺の口が勝手に言っていた。

星宮まじ反社。


満足そうに頷いた星宮が、無造作にフォルダから一枚のA4用紙を取り出し、机の上に“パサッ”と置いた。


目を凝らすと、こんな感じの箇条書きが並んでいた


―――

タイトル:『マジカフェ営業実態・非公開版(部内資料)』



(タイトルだけで悪寒三杯はいける。特に後半の非公開版なんて染みるね。)



▶セクション:1 表の顔:秋葉原の実店舗「マジカフェ」


・平日夕方から営業、週末は昼営業あり

・メニューは「魔法少女コスプレ」「ショー付き」のガチ営業

・文化祭の模擬店ではない。月売上は約80〜120万円(時期による)

・制服姿で接客、変身は通常非公開(ただしショータイムあり)


(すごいな、JKが実店舗経営か。ショーっていかがしいショーじゃないでしょうね!!)



▶セクション:2 裏の顔:Pathos干渉対応部隊スターリリィの秘密拠点


・正体:並行世界「Pathos」からの干渉により生じた怪獣現象への対抗組織

・怪獣の実態:Pathosから漏れ出た感情エネルギーが現実世界に歪みを与えて生まれる

・怪獣と戦えるのは干渉を受けた少女だけ=魔法少女(正式名称:干渉適応型戦術少女)


(??)


・一般人には怪獣も魔法も見えない。脳が“自然災害”として補完する

・干渉は夜間限定。その時間帯に現場出動

・戦闘は「魔法少女ショータイム」として中継。視覚効果処理された演出として扱われている

・戦闘中は店舗内で投げ銭・課金・グッズ販売等の収益が可能


(????)


▶セクション:3 メンバー構成と役割


・星宮すみれ(高2):リーダー/店長/火力魔法担当/性格は超まじめ

・白瀬カノン(高1):接客・ヒーラー/人畜無害系だが魔力は一級品

・姫野リリカ(高3):営業責任者/スポンサー交渉/金銭最優先の銭ゲバ系


(魔法少女にひとり怪獣まじってない? カネゴン的な)


・相澤メグ(高2):厨房担当/魔法兵器クラフト系/若干陰の者

・モフ丸(AI):経理/戦術支援/Pathos干渉探知兼マスコット


(モフ丸はあの毛玉うさぎ? 最近のAIすごいね)



▶セクション:4 財政とリスク


・変身費用:1回につき ¥10,000(全額経費or スポンサー出資)


(高いのか安いのか、分からん。「魔法少女変身費用 相場」検索っと。……コスプレしか出てこん)


・魔法使用:小技¥1,000〜/必殺技は¥20,000〜¥50,000程度

・部費:年間48万円(怪獣駆除2回程度で終了する財政地獄)

・売上の多くは「ショータイム課金」「ライブ配信」「企業案件」から

・財政難になると、誰も変身できず怪獣が暴れる未来に直結

・スポンサー収入は不安定。魔法少女たちの「人気」頼りの不健全構造


(これってつまり、JKの人気が落ちたら地球終了ってことじゃん。え、システム設計した奴正気?)



■補足事項

・関係機関や教育委員会へは「探究型マーケティングPBL」として報告済(極めて曖昧)

・守秘義務は厳格。多くの人が上記事実を知ると世界のバランスが崩れる可能性あり。


(バランス崩れるとどうなるのかなぁ。心配だなぁ)


――――




「ははっ。面白そうな演劇だね! で、いつ演るんだい? 文化祭?」



「リアルよ──だから、先生も協力して」



星宮は無表情でそう答えた。

嘘だと言ってよ、パトラッシュ。


あっ知らない人用に説明するとパトラッシュというのはね、(以下略、詳しくはWEBで)


「……干渉反応、発生っぴ!」


俺が呆然としていると、毛玉うさぎが突然叫んだ。

カフェの奥、スタッフルーム裏の警報機から、けたたましい電子音が鳴り響いた。




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