※必殺技:¥20,000。現在残高:¥-35,080。渋沢を失っても、笑いは死なない。
──そして、怪獣は現れた。
正確には、“目に映るようになった”。3Dメガネ越しに。
ぐにゃぐにゃと歪んだ空間から現れたのは、ウツロゲロス──虚無呼応型感情体。
見た目は、ヌルっとした液状の身体に無数の目玉が浮かぶ、気持ち悪さ満点のエモ寄生生物。
体長はゆうに20Mは超えてる。まさに怪獣っていうサイズ感で期待の成長株。
なんたって人間の虚無に反応して増幅って言うんだから、現代社会に来たら地球より大きくなっちゃうね。
「カノン、フォローお願い!」
「はいっ。すみれちゃん、[Protection.Node]展開します!」
※
Mode: Support
User: Hushlet(白瀬カノン)
▶魔法:[Protection.Node]《防御展開》
▶効果:単体バリア/自動発動判定あり
▶費用:¥3,000
▶残高:¥-14,080
▶承認:自動(危機状況優先プロトコル)
※
緑の光が星宮の前に展開し、淡い半球状のバリアが出現。
(おいおい、今、3,000円消えたぞ!?)
「LeadSigna、カウント指定──[Burn.Tick]!」
※
Mode: Attack User: LeadSigna(星宮すみれ)
▶魔法:[Burn.Tick]《灼閃》
▶効果:直線熱線/敵ひるみ効果
▶費用:¥1,000
▶残高:¥-15,080
▶承認:自動(バトルモード)
※
(承認が自動化されるフラグが多すぎる! 俺要る!?)
ピンク色の光線が怪獣を薙ぎ払う。 が、怪獣はぬめりを増して吠え返してくる。
「まだまだっ──|Focus energy core.Channel crown authority.Execute the blade.《エネルギー集中。王権起動。斬撃発動》[Crown.Execute]!!」
(まってまって、なんか唱えてる、唱えてるよぉ。コストやばそうだよぉ。)
※
Mode: Attack
User: LeadSigna(星宮すみれ)
▶魔法:[Crown.Execute]《覇煌執行》
▶効果:広域魔力斬撃/視覚効果大
▶費用:¥20,000
▶残高:¥-35,080
▶承認:自動(本人強行入力)
※
「渋沢さぁぁぁぁぁぁぁぁん(しかも二人、あるいはまだ諭吉かも)」
星型の斬撃が怪獣を真っ二つに叩き斬る。まるで俺の断末魔が効いたようだ。
良かった、とりあえず怪獣はなんとかなった。
しかし、大きな破壊音。
(カミナリおじさんが出てくる前にずらがらろうぜ、中島!)
案の定。
UDXの大型スクリーンが、巻き添えで真っ二つ。
「おいおいおい、あれまで補填するとか言わないよな!? モフ丸、おい!!」
「ご安心をっぴ。物質的被害はPathos干渉波が解除され次第、元に戻るっぴ」
「そこだけ都合よくファンタジーかよっ! お財布事情もリセットしてくれ!!」
……返事はない。ただのぬいぐるみのようだ。
「高橋、後ろ! 危ないっ!」
「星宮君。先生を呼び捨てにするんじゃありません!ってええええええ」
スクリーンが落ちてくる。
ドガァァァン!
爆風混じりの衝撃が背中から叩きつけ、俺の身体は地面を3回バウンドしてから看板に激突した。
息が抜けた。腰が砕けた。多分、意識も一瞬どっかいった。
た、立てない。白瀬ちゃぁぁぁん、早く治して。
その時、俺のモバイルPCに緊急ログインが走る。(っていうかPC生きてるんだ。流石、Made in Japan)
UIがチカチカと警告を表示し──その中央に、忌まわしきあの名が浮かぶ。
※
【Restructure.exe:起動確認中】
……
〈Restructure.exe:このプログラムは人員を物理的に削減します〉
……
〈削減対象:タカハシ・ユウスケ(アサイン区分:顧問)〉
※
「いや読込長い!機械のくせにタメをつくるな、そして急に実名出すな! そもそも起動してから概要出すなよ! ヤリ〇ンめ!!」
「高橋先生、怪我治しますね!」
白瀬が魔法で癒してくれる。だけどそれは、財布を殴っているのと同義で
笑っていいやら、泣いていいやら。
とりあえずごめん、清楚な白瀬の前でヤ〇チンとか言って。
が、その沈黙の中、俺の指が、ふとあるセルに触れた。
「あれ……このセル、参照範囲ずれてないか……?」
Excelのシート。収入額の合計関数が「B2:B6」になっている──
「B2:B7」が正解だ!!
震える指で修正。すると──
【残高:¥5,180】
「っ……残ってる! 俺たち、まだ生きていい!!」
【Restructure.exe:キャンセルされました】
──その瞬間、画面の赤いUIがグレーに変わった。
「僥倖っ!」
人生で言ってみたい台詞第5位を言えて、俺は満足です。
嘘です。
退職代行にこの後電話します。