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第4話 渋沢が散り、怪獣は裂ける。勝利の行方はExcel次第。

※必殺技:¥20,000。現在残高:¥-35,080。渋沢を失っても、笑いは死なない。


──そして、怪獣は現れた。

正確には、“目に映るようになった”。3Dメガネ越しに。


ぐにゃぐにゃと歪んだ空間から現れたのは、ウツロゲロス──虚無呼応型感情体。

見た目は、ヌルっとした液状の身体に無数の目玉が浮かぶ、気持ち悪さ満点のエモ寄生生物。


体長はゆうに20Mは超えてる。まさに怪獣っていうサイズ感で期待の成長株。

なんたって人間の虚無に反応して増幅って言うんだから、現代社会に来たら地球より大きくなっちゃうね。


「カノン、フォローお願い!」


「はいっ。すみれちゃん、[Protection.Node]展開します!」



Mode: Support

User: Hushlet(白瀬カノン)

▶魔法:[Protection.Node]《防御展開》

▶効果:単体バリア/自動発動判定あり

▶費用:¥3,000

▶残高:¥-14,080

▶承認:自動(危機状況優先プロトコル)



緑の光が星宮の前に展開し、淡い半球状のバリアが出現。


(おいおい、今、3,000円消えたぞ!?)


「LeadSigna、カウント指定──[Burn.Tick]!」



Mode: Attack User: LeadSigna(星宮すみれ)

▶魔法:[Burn.Tick]《灼閃》

▶効果:直線熱線/敵ひるみ効果

▶費用:¥1,000

▶残高:¥-15,080

▶承認:自動(バトルモード)



(承認が自動化されるフラグが多すぎる! 俺要る!?)


ピンク色の光線が怪獣を薙ぎ払う。 が、怪獣はぬめりを増して吠え返してくる。


「まだまだっ──|Focus energy core.Channel crown authority.Execute the blade.《エネルギー集中。王権起動。斬撃発動》[Crown.Execute]!!」


(まってまって、なんか唱えてる、唱えてるよぉ。コストやばそうだよぉ。)



Mode: Attack

User: LeadSigna(星宮すみれ)

▶魔法:[Crown.Execute]《覇煌執行》

▶効果:広域魔力斬撃/視覚効果大

▶費用:¥20,000

▶残高:¥-35,080

▶承認:自動(本人強行入力)



「渋沢さぁぁぁぁぁぁぁぁん(しかも二人、あるいはまだ諭吉かも)」


星型の斬撃が怪獣を真っ二つに叩き斬る。まるで俺の断末魔が効いたようだ。

良かった、とりあえず怪獣はなんとかなった。


しかし、大きな破壊音。

(カミナリおじさんが出てくる前にずらがらろうぜ、中島!)




案の定。


UDXの大型スクリーンが、巻き添えで真っ二つ。


「おいおいおい、あれまで補填するとか言わないよな!? モフ丸、おい!!」


「ご安心をっぴ。物質的被害はPathos干渉波が解除され次第、元に戻るっぴ」


「そこだけ都合よくファンタジーかよっ! お財布事情もリセットしてくれ!!」


……返事はない。ただのぬいぐるみのようだ。


「高橋、後ろ! 危ないっ!」


「星宮君。先生を呼び捨てにするんじゃありません!ってええええええ」


スクリーンが落ちてくる。


ドガァァァン!


爆風混じりの衝撃が背中から叩きつけ、俺の身体は地面を3回バウンドしてから看板に激突した。


息が抜けた。腰が砕けた。多分、意識も一瞬どっかいった。

た、立てない。白瀬ちゃぁぁぁん、早く治して。


その時、俺のモバイルPCに緊急ログインが走る。(っていうかPC生きてるんだ。流石、Made in Japan)


UIがチカチカと警告を表示し──その中央に、忌まわしきあの名が浮かぶ。


【Restructure.exe:起動確認中】

……

〈Restructure.exe:このプログラムは人員を物理的に削減します〉

……

〈削減対象:タカハシ・ユウスケ(アサイン区分:顧問)〉



「いや読込長い!機械のくせにタメをつくるな、そして急に実名出すな! そもそも起動してから概要出すなよ! ヤリ〇ンめ!!」


「高橋先生、怪我治しますね!」


白瀬が魔法で癒してくれる。だけどそれは、財布を殴っているのと同義で

笑っていいやら、泣いていいやら。


とりあえずごめん、清楚な白瀬の前でヤ〇チンとか言って。


が、その沈黙の中、俺の指が、ふとあるセルに触れた。


「あれ……このセル、参照範囲ずれてないか……?」


Excelのシート。収入額の合計関数が「B2:B6」になっている──



「B2:B7」が正解だ!!


震える指で修正。すると──


【残高:¥5,180】


「っ……残ってる! 俺たち、まだ生きていい!!」


【Restructure.exe:キャンセルされました】


──その瞬間、画面の赤いUIがグレーに変わった。



「僥倖っ!」


人生で言ってみたい台詞第5位を言えて、俺は満足です。

嘘です。

退職代行にこの後電話します。






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