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第14話 癒し風呂

 おいしかったであろう食事も終わり、風呂に入ることになった。

 嫌な予感しかしない。

 その予感の的中率は随分と高そうだ。

 betできるなら大金持ちになれるぞ。

 とりあえず今日の所はこれでお帰り願おうと――。


「サーちゃん、今日泊ってもいい? 一晩ボクとお話すれば明日からは恋人同士になっているよ!」


 やっぱり来たーっ!

 簡単には帰ってくれないとは思っていた。

 あ、思っていたから帰らないのか?

 オレが悪いのか!?

 しかしここは、何としても帰ってもらいたい。

 妹たちの機嫌を直したいんだよー。


「一晩話す元気が無いので今日はお帰りくださいませ。夕飯はご馳走したので充分だろ? 美味しい夕飯を作ってくれたウチの妹たちに盛大な拍手を!」


 拍手をしているのはオレだけ。

 ですよねー。

 それではここで、サダメさんに一曲歌ってもらいましょう。

 『オレのハートはブリザード』

 張りきって、どうぞ!

 って歌えるわけがないだろ!


「美乃咲姉妹は拍手してくれても良いのではないかと思うよー」


 パラパラと二人で拍手紛いのことをしてくれた。


「うーん、それだと妹の対応に影響が有ると思うぞ。タケルはオレなんかより遥かに優しいから気にしないだろうけどさ」

「危害を加える人じゃないなら何も気にしないよ、僕は」


 うんうん。タケルはそういう奴なんだよ。頭を撫でておこう。


「サーちゃんのことをどう思うかは私たちの自由ですよね。それを全否定されると付き合い難いのですが」


 妹たちがオレの両側にくっついてきた。

 要するにオレが取られそうで怖いんだよね。

 まったく、オレにかわいいとこ見せつけるのが好きな子たちだなあ。


「この子たち、今は何も言わないだろ? こういう時は認めている証拠なんだ。だから仲良くしてやってくれないか?」

「では、やはりお泊りをしてもっとお話しをしましょう!」


 どうしても泊りたいんだね。

 この二人って結構強情だよな。

 関わりない相手には全く何もできないのに。

 どうにもなりそうにない人を動かせたってのは嬉しかったりするんだけどね。


「どうする? 我が愛しの妹たちよ」

「し、仕方ないわね。双子同士でお話っていうのも珍しいから特別に付き合ってあげるという大サービスをしてもいいかもだけど、カルラ次第ね」


 なんじゃそりゃ。

 決め台詞はツィスカがするかと思ったらゴール前で妹へパスかよ。

 動いていないのにコケそうになったぞ!


「わたしもお話ぐらいなら付き合ってあげてもいいけど、ウチのルールはきちんと守るって約束はしてちょうだい」


 カルラはしっかりしているなあ。

 まだ少し怒りのピースが残っているみたいだけど。


「そんな風に妹は言っているけど、オレとしても仲良くお話するのはいいと思う。仲良くね」

「サーちゃんと話したいんだけど、まあいっか。周りを固めるのも重要だね」


 こら、そういうことは口に出すもんじゃないだろ。


「あのさ咲乃。喋っていいことと悪いことがあるからね。よく考えてから話すように」

「サーちゃんボクに優しいねえ。やっぱり好きなんだ~。もうしょうがないなあ、ボクはいつでもウェルカムだから遠慮しなくていいんだよ?」


 だめだ。言えばいうほど沼に嵌っていく。


「それじゃあ泊っていくよ。寝間着とか色々とお泊りセットだけ取りに帰ろうか美咲」

「そうね。改めてお伺いしますねサーちゃん」

「ああ、はい」


 って言うしかないよなあ。

 さ、片付けと風呂の準備を急いでしないと――。


「兄ちゃん。身体がまだ治りきっていないのに大丈夫?」

「辛かったらその時は流石に寝させてもらうよ。それを駄目とは言わないだろう」

「駄目なんて言ってもわたしたちがサダメを休ませるけど」

「お前たちこそいいのか? ほんとに」

「お喋りするのは楽しそうだからいいんだけど、なんだか身構えちゃうのよ、あの二人」


 気持ちはわかる。

 あんなに押しが強いとは思いもしなかった。

 いや、そういえば初めて会った時から押しは強かったな。

 見た目で思い込んでいただけか。

 色々といつもの準備を済ませて、あの双子を待つのみとなった。


「いや待てよ? 寝るだけにしてきてもらえば良かったんじゃないか?」


 弟妹三人共「あっ」という顔をしている。


「しまったな、わざわざ問題が起こりそうなシチュエーションを作ってしまった」

「すぐに連絡してみて! まだ間に合うかも」

「そう、だな」


 オレはすぐに電話をかけてみた。


「はい、美咲です。そんなに焦らなくても。もう戻りましたから」


 遅かったか。

 かえって変な誤解をされてしまった。


「サーちゃん会いたかったよ! 寂しかったよね? ほら、ボクだよ? しっかり確認して!」


 両腕ごとハグされると何もしようがないんだが。

 おまけに確認ができるほどの付き合いは全く無いし。

 今初めて咲乃の感触を知らされているわけで……ああ、すてきな御御足があったっけ。


「美咲もする?」

「私はゆっくりと」

「ちょっと離れなさいよ!」


 妹たちの参戦だあ!

 毎日のように男子を蹴散らしている美少女。

 その慣れた手さばきは、あっさりと咲乃を引き離した。


「なんでそんなに嫌がるの? お兄さんが好かれているっていいことじゃない。妹として喜んだら? 妹として」


 妹がまたう~う~と唸り出した。

 なんでこうなるんだよー。


「美咲、とりあえず咲乃をおとなしくはさせられないのか?」

「サーちゃんがお困りということでしたら止めます」

「是非! めっちゃ困っているぞ」

「わかりました。咲乃、サーちゃんが困っているわ。私も我慢しているのだから、おとなしくしてちょうだい」

「ううん、わかったよ。美咲がしたかったことをボクばっかりがやっていたらいけないね」


 なんかズレているんだけどな。

 とりあえず、おとなしくしてくれるらしい。


「じ、じゃあ先に風呂入っちゃってくれる? オレたちが最後じゃないと洗濯の準備できないからさ」

「え~、ボクといっしょに入るんじゃないの?」

「同級生の異性と風呂に入るは無いでしょ」

「ボクは構わないというかそのつもりだったよ」

「オレはそのつもりじゃないから」

「ケチ」


 何とでも言ってくれ。

 男子と風呂に入りたがる女子の方がどうかと思うぞ。

 だが、どうとも思わないから困ったものだ。

 すでに身内気分なんだろうね。

 彼女どころか。

 友達としても成り立っていないような日数しかたっていないんだし。


「これって、ケチなのか?」

「いいよ、後ですぐ恋人にしてあげるから待っていてね。それじゃ美咲、先に入らせてもらおうよ」

「はいはい。ではお先に入らせていただきます」

「どうぞどうぞ」


 美乃咲姉妹が風呂に入ったのを確認してから、タケルが話しかけてきた。


「兄ちゃんなんだかさ、道を歩いていたら凄くかわいい猫が捨てられているのを見てしまって、思わず連れて帰ってきた的な感じになっているね」

「タケルの言う通りかも。まさにそんな感じだな。境遇を聞いてしまうとほっとけなかったんだよな~」

「いつもの優しさが仇となるってやつだね。兄ちゃんらしいよ」

「あんまりうれしくないな」

「人は優しくすると付け上がり易くなるから。誰もがとは言わないけど。もちろん僕たちには今まで通り優しくしてね」

「それは心配するな。嫌と言われても構いたおしてあげるから。さて、風呂はどういう形で入る? 全員で入るとあの二人だけで部屋に残らせることになるんだが、少々心配じゃないか?」

「タケル、よろしく!」


 妹二人が見事にハモった。

 姉の強行採決発動だ!


「は、はい。そうだろうとは思っていたけど」

「ごめんな、タケル。でもお前がいてくれるだけでこの家の平和が保たれているから」

「また今度僕だけバージョンで何かサービスしてね、兄ちゃん」

「勿論! タケル、何がいいか考えておきな」

「う~ん、何にしようかなあ」


 タケルがオレへのリクエストを考え始めたのを見届ける。

 オレと妹二人は寝間着を取りに各部屋と、着替え部屋から下着を取りに行ったりした。

 美乃咲姉妹が風呂から出て来たので、次はオレたち三人の番だ。


 タケル、頼んだぞ。


 美乃咲姉妹の風呂上り姿が目に入ってきたが、こ、これは!

 二人共ミニな白色のバスローブを着ている。

 とにかく美脚はアピールしたいんだな。

 ちゃんと水滴は拭いておくという条件付きで頼む。

 床が濡れると、後で厄介なんだ。


「いいお湯でした~」

「それはよかった。なるべく早く出てくるからそれまでゆっくりしていて」

「わかったよサーちゃん」


 咲乃、ウィンク好きだねえ。

 まあ、オレも好きだけど。


 ◇


 ふぅ、妹二人と一緒に湯舟だ。

 ツィスカをラッコ抱きして向かいにカルラ。

 癒される~。

 ツィスカを思わずギュっと抱きしめてしまった。


「兄ちゃんたらあ。ふふふ。いつもこんな風でいいんだけどなあ」

「今日一番落ち着く時間になっているわね。ほんと、こんな時間に浸っていたいだけなんだけどな」

「オレさ、もうちょっと和やかに交流できるかと思っていたから、ごめんな」

「別に兄ちゃんは悪くないじゃん。あの人たちがマイペース過ぎるだけでさ。お嬢様って本当にあんな感じなんだね」

「お嬢様に会ったことが初めてだから、あの二人を基準にしていいのか分からないけどな」

「ツィスカ、チェンジ」


 カルラからチェンジ要求が出て、ツィスカが交代する。


「うん」


 今度はカルラを抱きしめるのだ。

 幸せ過ぎるだろ。


「サダメ、唇はそろそろ復活した?」


 何をしたいのかが誰でも分かる質問だな。

 あの一件以来していない。

 この二人はそろそろ禁断症状でもあるのかな。


「概ね大丈夫かな。軽く一回ずつならしてみるか?」


 自分で言っていて凄いセリフだな。

 毎日こんなことばっかり言っているんだよなあ。

 全ては両親のせいってことで。

 まずは抱いているカルラから。

 そして我慢していたのが丸わかりなツィスカ。

 珍しく自分からしてきた。


「ツィスカ、こんなに我慢するのは嫌でしょ? 気を付けてね」

「わかってるよお」

「ははは。ツィスカの気持ちは嬉しいからね。ただ突進は控えてくれよ。そんなに焦らなくても今みたいにできるだろ?」

「がんばる」


 出ました! この言葉。

 でも気持ちをそのまま体で表現するのがツィスカ。

 ……怪我しない程度なら、いくらでもしてくれ。

 今まで通り思いっきり来て欲しい気持ちもあるから。


 とまあ、まったりした時間を満喫している、が。

 早めに出ると言ってしまっているので、ここで終了。

 いよいよ双子同士のお話し会が始まるんだ。


 オレを挟んでなんだろうけどね。

 無事に朝を迎えられたらいいなあ。

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