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第15話 双子女子会

 開催されております、双子女子会。

 タケルはそれなりに観戦したら寝るよ、だってさ。

 家に他人を泊まらされ、その客人と食事をさせられる。

 タケルには迷惑をかけてしまっているな。

 話が落ち着いてからのタケルリクエストが怖いや。


「あたしたちは兄ちゃんと正式に付き合っているの! あなたたちの入る余地はないわ!」

「ははははは。血がつながっているのに付き合っていると言われてもね。そんなの簡単に崩せるじゃない。往生際が悪いわよ」

「う、うるさいわね! あなたたちにはわからないことよ! 本人同士が付き合っていると思っていれば付き合っているってことでしょう!」

「はいはい。じゃあさ、結婚できるの? 子供作る気ある? それでサーちゃん幸せになるの? ボクなら幸せを感じながら毎日を過ごさせてあげられるよ」


 穏便な話どころか初っ端からこの言い合いが始まっている。

 咲乃は周りから固めるとかなんとか言っていた。

 いや、固めるどころか城壁を崩しにかかっているじゃないか。


「血がつながっているからこそ分かりあえるし、ずっと一緒にいられるんじゃない。今までもそうしてきたんだから、このまま続けていくだけよ」

「甘いなあ。やっぱり中学生だよね~。大人になってから先が今までより遥かに長いんだよ。今までの十年ちょっとで問題が無かったことでも、これから先はそれが壁になる場面の方が多くなるよ。今この話を聞いても全然ピンと来ないとは思うけどさ」


 将来について話を振られると中学生にはまだ考えが及ばないか。

 確かに、咲乃の言う通りではある。

 高一のオレでもそこまでのことを真剣に考えたことはあまりない。

 といっても、高校生と中学生じゃ、言うほどたいして変わらない。

 将来というと、親がそばにいる時間が少なくなる。

 オレが支えることで、弟妹が巣立ってくれたら……ただそう思っていた。

 それも随分と漠然としたものだ。

 でも咲乃は、同級生でありながらもっと深いところを突いてきた。

 いや、オレが未熟なだけなのだろうな。

 藍原家と美乃咲家の、育ちの違いなのかもしれない。


「話の途中にごめん。咲乃、言いたいことは最初から大体想像がついていた。だから、今の話を聞くことはできる。けどな、オレたちも、一緒にいることでなんとか過ごしてきたんだ。見えない先のことを言われても、出来る限り今のまま過ごしていこうと全員が思っている。藍原家に関わりたいと思うなら、その辺は分かってもらいたい」


 美乃咲姉妹が顔を見合わせ、互いの考えを確かめたように見えた。


「サーちゃんに言われたらボクらは何も言えなくなっちゃうよ。妹さんじゃなくてサーちゃんと話した方が良かったかな」

「そうね、咲乃は口が少々キツイのもあって妹さんには辛かったかもしれないわ。お二人共ごめんなさいね。私たちサーちゃんを本気で好きになってしまったから焦っていたみたい。サーちゃんへの気持ちを分かって欲しかっただけなの」


 妹たちも本気でウチの関係を守ろうと抵抗していた。

 だからツィスカなんて、すでにぐったりしている。


「分かってくれさえすればいいんだよ。兄としてはね、こうやって妹が疲れちゃう姿なんて見たくないから、最初に話したように仲良く頼むよ」

「わかった。考え方を替えるよ。今思ったんだけど、ボクたちがお姉さんになるっていうのはどう?」


 次から次へと思いつく子だなあ。

 咲乃、これで本当に不登校な子なの!?

 見た目だって美咲と一緒だから奇麗だ。

 何かと困りそうに無い気はするんだけど。

 個人の事情だから勝手な想像はよくないか。


「ねえ咲乃ってさあ、これだけ話せるなら学校行けばいいんじゃない? すぐ人気者になると思うぞ」

「駄目ですよ。私に輪を掛けて大勢の人と絡むのが苦手なのですから」

「信じられない。そういえば、美咲は学校で一切交流していないみたいだもんな。それ以上かあ、もったいない」

「そう。苦手だから仕方ないの。初めて私からサーちゃんに声を掛けた時も、まともに話せなかったじゃない。あんな感じになるから大抵の人は寄り付かなくなるの」


 ん?

 話し方が――――。


「美咲さあ、お嬢様言葉はどこへ?」

「ふふふ。もう他人じゃないからいいの。父親にはあの話し方だけど、せっかくサーちゃんとこうやって話せるようになったのだから、それなりの喋り方にはさせてよ」

「まあ新鮮だからいいけど、どれが本物なのかわからなくなってきているぞ。今後藍原家と交流を持ちたいのだったら本物を見せるようにしてくれよ」

「それはお楽しみってことで。私にもどうなるか検討もつきませんから。サーちゃん次第ですよ」

「はあ」


 オレが話している間に、ツィスカが眠ってしまった。

 それを支えているカルラもうとうとし始めている。


「あ、もう眠いよな。そろそろ寝ようか。カルラはまだ動けるか?」

「ん~? うん。えっと、話はどうなったの?」

「お前たちが身構えて対応するようなことはしない、ハズだ。だよね?」

「ええ。これからはサーちゃんの望むような関係を築けたらと思うの。咲乃もどうするか言って」

「うん、ごめんね。話す相手は美咲か父親しかいなかったから、あんな話し方しかできなくて。これからは仲良くやっていけたらなって思う。サーちゃんとの付き合い方を今度ゆっくり話させて。さっきのような話じゃなくてさ、ボクたちも真剣だから真面目に話がしたいんだ。お願いだよ」

「う~ん、なんとなくわかったけど、サダメの言うことに従うからもう寝ていい?」


 カルラ……眠くてふにゃふにゃしている。

 構ってあげたいけど、完全に寝てしまったツィスカが優先かな。


「よし、それじゃあ部屋までツィスカを運ぶか。カルラは自分の寝る準備をしてそのまま寝な」

「わかった」

「兄ちゃん、結局全部観戦しちゃった。それじゃ、僕は先に寝るね。おやすみ~」

「おう。いっしょにいてくれてありがとなタケル。おやすみ」


 オレはすっかり寝入ってしまったツィスカをお姫様抱っこして……。

 ああお姫様抱っこ。

 妹たちは随分軽いから、簡単にこれが出来てしまう。

 だから、こういう時の定番スタイルになっている。

 このまま部屋まで運んであげるのが妹には好評なんだ。

 何度か狸寝入りでやらされた記憶が……。

 カルラも寝る準備を済ませて部屋に来た。

 これでオレも寝るだけなんだけど――。

 美乃咲姉妹にどこで寝てもらうのか考えていなかった。

 しかたない、オレの部屋を使ってもらってオレは妹と一緒に寝るか。


「家が違うことで色々と困る事とかない? お嬢様の具合が分からないからさ、庶民と何がどれだけ違うのかが想像つかないんだよね」

「そんなにお嬢様なんて思わないで。親が地位を築いているだけだし。困ればこっちから言うよ。ボクからすれば、サーちゃんが近くにいるだけで何もかもが楽しいよ」

「なんでそこまで気に入られたのかな。それがまったくわからないからなあ。気持ちのことだから説明なんてできないとわかっていてもさ。そうそう、そちらさんはオレの部屋で寝てね。二人一緒にベッドで寝てもいいし、一応空いている布団一式ならあったから一人はそれを使ってもらってもいいし」


 これが妥当でしょ。


「ええ!? サーちゃん一緒に寝ないの?」

「なぜそうなる!?」

「当然じゃない。そのために泊りに来たんだから」

「嘘だろ~」

「本気一択だよ、ね、美咲?」

「もちろん!」


 興味が無いと言えば嘘になる。

 けれど、一緒に寝るってのは問題あるよね。

 いや、誰も言わなければ一緒に寝たことにはならないのか?

 いやいや、また妄想してしまった。

 男はすぐに妄想と現実を見失う。

 オレは負けないぞ!


「もちろんではない! そんなことができる仲ではないだろう。もうちょっとその辺は冷静にいこうか」

「まだ壁が崩れないみたいね。咲乃どうする?」

「いや、そこでどうするの相談をするんじゃない! オレもさ、まだ病み上がりな面もあるんでその辺を考えてもらいたいんだけど。ゆっくりと寝させてくれ」


 二人は手を逆手にして両手を腰に当てる。

 さすが双子と言わんばかりのポーズを同時にとった。


「仕方ないな。今日はサーちゃんの言う通りにするよ。この先は長いからさ、ゆっくりと落としてあげるね」


 なんというセリフを吐くんだか。

 脳内で完結しておいて欲しいことを本人に伝える。

 この習性はなんとかならないのか。

 それって、何をするのか予告しているわけで。

 さぞかし自身があるんだろうな。

 標的のオレが言うのも何だけど。


「それじゃあそろそろ、ね。おやすみ」

「おやすみなさい」


 美乃咲姉妹そろっての挨拶を聞いてやっとホッとし、妹たちの部屋へ向かった。

 部屋に入ると妹二人がツィスカのベッドで寝ている。

 カルラはツィスカの頭を撫でているうちに寝てしまったようだ。


「二人共お疲れ様。中学生がする話じゃなかったな」


 カルラのベッドが空いているが、そこは寂しがり屋の兄ちゃんなので。

 当然、妹二人のベッドへ侵入。

 くっついている二人をまとめて抱え、そのまま寝る。

 ああ、やっぱりいいな。即寝不可避。

 なんだか必要以上に疲れた気がする。

 平和な日常はどこへ。

 目線を替えれば平和そのものなんだけどね。

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