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第A−11話 トラブル続き

 そんなこんなのトラブル続きで……、


『ピーンポーン、パーンポーン~♪』


 時刻は昼の3時。

 天井の埋め込みスピーカーからお馴染みのチャイムが鳴り渡る。


『皆さま、お疲れ様でした。本日の作業はこれにて終了です。各皆さまは、これから夜六時まで自由時間です。夜六時から夜九時までの授業に向けて英気を養って下さい。お仕事、お疲れ様でした』


『ピーンポーン、パーンポーン~♪』


「……確かに回復魔法が使えたら、それで癒して欲しいぜ」


 龍牙りゅうがの頭上では、ピヨピヨとひよこが回っている。


 どうやら肖像画クリティカルアタックからの、目覚めの気分は最悪らしい。


「本当にすみません、ごめんなさい……」


 まるで会社の秘書でコピー係を担当していて、見事にコピー紙の印刷サイズを間違えたかのように深々と頭を下げているユミ。


『お前、A5とB5の区別も出来ないのか!

もう煎餅せんべい買って、お茶くみでもしてろ!』  

 ……と、龍牙課長から言われそうだが大丈夫だろうか。


 沸騰した100℃の温度で一番美味しく飲めるのが紅茶だが、学園の休憩所などにある自販機で『夜の紅茶』の350ミリ入りの缶ジュースを買った方がお手軽ではある。


****


 10分後……。


「とりあえず、胸はこれでごまかせ」


 龍牙が手にしていた白い包帯をユミに手渡し、彼自身がそれを胸に巻く仕草をする。


 いわゆるサラシである。


 それから、赤色の派手なパンツを取りだし……、

『あと、パンティーはないから、このトランクス履いててくれ……』と、ユミに渡す。


 後から彼女の使用済みのパンツをクンクンと嗅ぐためだろうか。


 龍牙も変態街道まっしぐら突入。

 あの麻薬探知犬と、真っ向から真剣勝負ができるはずだ。


「ごめんな。来週までにユミの下着は揃えるから心配しないでくれ。

それよりも……」


 龍牙がトラえモンの四次元ポケットのような作業服の中から、とある物を取りだし……、


「……これで唐突とうとつで悪いが、しばらく男にならないか」


 ……澄ました表情で、茶髪のボブヘアのカツラを取り出した。


「……この、変態さん!」


『ボカボカ、バチーン!!』


 ユミにフルボッコされ、頬に特大のビンタを連発されても、一向にひるまない龍牙。


『ボカボカ!!』


「……イタタタッ。いつまでもここにいるわけにもいかないだろ。

それにここには明かりがない。日が沈んで夜になると困るだろ」


『バチ、バチーン!!』


「ぶべら、肖像画ビンタはやべろ!?」


 だが、目の回りに青や紫などのアザや、たんこぶだらけの頭プラス、血走った目で言われても、説得力が皆無である。

 ダラダラと鼻血も垂れているから、なおさらだ。


 目の前の少女に飽きたらず、外見の性別を変えてまででるという、まともじゃない異様な性癖思考の持ち主。


 確かにこの大陸には女性異性はいなく、同性を愛する男性もいるが、わざわざ変装させて、服装などで性転換させるとは……。

 まさしく音楽室に降臨した、変質者の誕生である。


 龍牙よ。

 車のワックスがけのように、ますます、変態にも磨きがかかったか……。


 いくら、この学園に異性はいなくも、乙女が男性になれとは……。

 これは、もはやBL学園だ。

 ちなみに、あの野球の名門校の名前ではないので、あしからずご了承下さい。


「……とにかく、同居人や教師に、俺の生き別れていた弟ということで、話をつけてみるからさ。だから、胸にサラシを巻かせたんだぜ」


 いまだに容赦なくひっぱたかれたり、叩いてくるユミから逃れながら、彼女のその胸を指さして、『男だから鳩胸だからということで……』と言い伝える。


「それで、上手くいきますか?」


 彼女の攻撃の手がピタリと止まる。


「俺を信じろ!」

「……出会ってから、行動や発言でいやらしいことばかりする男性を信用しろ、ですか?」


 出会って5秒であのセクハラ行為に、寝ていただけで強烈なハグ仕草。


 そんな下心を隠すかのようにきっぱりとした龍牙の発言に対し、目尻にシワを寄せ、怪訝そうに見つめているユミ。


「それに、もしばれたらどうしますか?」

「それは、その時に考えればいいさ」


 龍牙がにんまりと微笑みながら、ユミに手を差し伸べる。


(ああ、この人は、口ばかりで、とんでもないスケベだけど……)


 ユミが龍牙の手を取り、ゆっくりと立ち上がる。


(でも、龍牙さんは、とても優しい人だよね……)


 白馬の王子様とは、こういう男性を示すのだろうか。


 自分の手を優しく握った龍牙の横顔に戸惑いながらも、二人はゆっくりと埃まみれの音楽室をあとにした──。



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