そんなこんなのトラブル続きで……、
『ピーンポーン、パーンポーン~♪』
時刻は昼の3時。
天井の埋め込みスピーカーからお馴染みのチャイムが鳴り渡る。
『皆さま、お疲れ様でした。本日の作業はこれにて終了です。各皆さまは、これから夜六時まで自由時間です。夜六時から夜九時までの授業に向けて英気を養って下さい。お仕事、お疲れ様でした』
『ピーンポーン、パーンポーン~♪』
「……確かに回復魔法が使えたら、それで癒して欲しいぜ」
どうやら肖像画クリティカルアタックからの、目覚めの気分は最悪らしい。
「本当にすみません、ごめんなさい……」
まるで会社の秘書でコピー係を担当していて、見事にコピー紙の印刷サイズを間違えたかのように深々と頭を下げているユミ。
『お前、A5とB5の区別も出来ないのか!
もう
……と、龍牙課長から言われそうだが大丈夫だろうか。
沸騰した100℃の温度で一番美味しく飲めるのが紅茶だが、学園の休憩所などにある自販機で『夜の紅茶』の350ミリ入りの缶ジュースを買った方がお手軽ではある。
****
10分後……。
「とりあえず、胸はこれでごまかせ」
龍牙が手にしていた白い包帯をユミに手渡し、彼自身がそれを胸に巻く仕草をする。
いわゆるサラシである。
それから、赤色の派手なパンツを取りだし……、
『あと、パンティーはないから、このトランクス履いててくれ……』と、ユミに渡す。
後から彼女の使用済みのパンツをクンクンと嗅ぐためだろうか。
龍牙も変態街道まっしぐら突入。
あの麻薬探知犬と、真っ向から真剣勝負ができるはずだ。
「ごめんな。来週までにユミの下着は揃えるから心配しないでくれ。
それよりも……」
龍牙がトラえモンの四次元ポケットのような作業服の中から、とある物を取りだし……、
「……これで
……澄ました表情で、茶髪のボブヘアのカツラを取り出した。
「……この、変態さん!」
『ボカボカ、バチーン!!』
ユミにフルボッコされ、頬に特大のビンタを連発されても、一向に
『ボカボカ!!』
「……イタタタッ。いつまでもここにいるわけにもいかないだろ。
それにここには明かりがない。日が沈んで夜になると困るだろ」
『バチ、バチーン!!』
「ぶべら、肖像画ビンタはやべろ!?」
だが、目の回りに青や紫などのアザや、たんこぶだらけの頭プラス、血走った目で言われても、説得力が皆無である。
ダラダラと鼻血も垂れているから、なおさらだ。
目の前の少女に飽きたらず、外見の性別を変えてまで
確かにこの大陸には
まさしく音楽室に降臨した、変質者の誕生である。
龍牙よ。
車のワックスがけのように、ますます、変態にも磨きがかかったか……。
いくら、この学園に異性はいなくも、乙女が男性になれとは……。
これは、もはやBL学園だ。
ちなみに、あの野球の名門校の名前ではないので、あしからずご了承下さい。
「……とにかく、同居人や教師に、俺の生き別れていた弟ということで、話をつけてみるからさ。だから、胸にサラシを巻かせたんだぜ」
いまだに容赦なくひっぱたかれたり、叩いてくるユミから逃れながら、彼女のその胸を指さして、『男だから鳩胸だからということで……』と言い伝える。
「それで、上手くいきますか?」
彼女の攻撃の手がピタリと止まる。
「俺を信じろ!」
「……出会ってから、行動や発言でいやらしいことばかりする男性を信用しろ、ですか?」
出会って5秒であのセクハラ行為に、寝ていただけで強烈なハグ仕草。
そんな下心を隠すかのようにきっぱりとした龍牙の発言に対し、目尻にシワを寄せ、怪訝そうに見つめているユミ。
「それに、もしばれたらどうしますか?」
「それは、その時に考えればいいさ」
龍牙がにんまりと微笑みながら、ユミに手を差し伸べる。
(ああ、この人は、口ばかりで、とんでもないスケベだけど……)
ユミが龍牙の手を取り、ゆっくりと立ち上がる。
(でも、龍牙さんは、とても優しい人だよね……)
白馬の王子様とは、こういう男性を示すのだろうか。
自分の手を優しく握った龍牙の横顔に戸惑いながらも、二人はゆっくりと埃まみれの音楽室をあとにした──。