──気がつくと、私は広々とした花の咲き乱れる丘の上にいた。
雲一つない空を見上げれば、お日様の眩しい陽気な晴天。
耳をすませば、川のせせらぎが聞こえ、息を吸うと、新鮮な空気で肺を満たせた。
ここは、どこだろう。
どうして、私はこんな場所にいるのだろう。
だけど、ここには私しかいないらしく、答えは帰ってこない。
そうだ。
どうせ分からないなら、歩いて探索してみよう。
──すると足元は、砂利の道で埋まっていき、しばらく歩いていくと、遠くには巨大な壁が地平線上に並んで建っていて、大きく繋がった道路を塞いでいた。
あの壁の先には何があるのだろう。
もしかしたら、美味しいお店でもあるのかも知れない。
そうだとしたら、
あの人と一緒に行きたいな……。
あれ?
あの人って誰だったかな……。
思い出せないけどいいよね。
忘れているという事は大したことじゃない証拠。
今はただ、この
****
「〇〇!!」
のどかにお花畑の砂利道を散歩していると、どこか遠くから、誰かの声が聞こえてくる。
もしかして、私の名前を呼んでいるのだろうか。
「○○!!」
ごめんなさい。
私には何を言っているのか、分からないの。
「〇〇!!」
それでも遠くから、その声が聞こえる。
内容は意味不明だけど、声は男性のようだ。
どこか、懐かしさのある、温かく優しい声……。
『ユミ!!』
はっとして、目が覚めると、傍には
****
「……ユミ!!」
龍牙が今までにない悲痛の表情で、ユミを力強く抱きしめていた。
「あの、龍牙さん!?」
「お前までいなくなったら、俺は……」
「龍牙さん、真剣に痛いです。このままでは私が潰されます!?」
「……俺は、どうやって生きていけばいい」
「だから、苦しいです!?」
ユミが龍牙の抱きしめホールドにより、完全に体を固められている。
これではユミは1ラウンドKOは間違いなし。
男女無差別系格闘選手権の
ユミが一方的にギブアップするのは間違いないだろう。
──苦しくて我慢できないユミ挑戦者が、ポンポンと龍牙選手の左肩を叩く。
「えっ、ユミ!?」
ユミの問いかけにピクリと反応する龍牙。
その反応に動転し、
****
その後……。
「……まったく。疲れていたので、少し横になったら、いつの間にか寝てしまっただけです。大袈裟ですよ」
「……ごめん。来たら倒れていたから、何かあったのかと」
「そういう時は、これがありますから」
軽く微笑みながら、後ろ側に隠していた物を見せるユミ。
あの龍牙の頭を悩ませたベートベンの肖像画だった。
そうか、究極の音楽家を装備してしまったか……。
これも『運命』だからなせる技か。
……それに気のせいか、こちらを見ながら、『お前に私の大事な娘はやれん!』と、がんを飛ばしているようにも見えなくもない。
そんな肖像画の尖った
あれをやられたら、今度こそ生死をさ迷いそうで怖い。
大きな身体にも関わらず、龍牙がブルブルと細かく身震いをする。
「それはそうと、ありましたか……?」
「えっ、何の事だ?」
「……あれを探しに行ったのですよね?」
「はぁ? あれって何だ?」
「……もう、龍牙さんのスケベ! 女の子に何て事言わせるのですか!」
『ガガコーン!!』
「びでぶ!?」
まるで大型バスが横転したかのような激しい音を立てて、龍牙の顔面めがけて例の肖像画が『カモーン、エブリバディー♪』とぶち当たる。
そのまま、ピューと鼻血を吹きながら龍牙はその場で即倒した。
「きゃー、龍牙さん!? 一体、誰にやられたのですか!?」
いや、ユミがやったのだからね。
無意識の条件反射って恐ろしい……。