「うーん。悩むぜ。一体どうしたものかな……」
いい歳をして、布団に見事な世界地図、ズバリ、おねしょでもしたのだろうか……。
「違うわいっ!」
龍牙がこちらを見て、私に怒鳴ってきた。
これは、これは、龍牙殿下。
失礼いたしました……。
私は姿のないナレーションだから、端からすれば、彼のひとりごとのように見えるのだが……。
「うむむ、どうすれば女性の下着を……」
龍牙は怪しい変態NGワードを呟きながら、左手に真っ白に巻かれた包帯が入った、手のひらサイズな丸形の容器を握っていた。
「む、むむっ!」
しばらく、龍牙は一休さんのとんちのように瞑想していたが、
ようやく豆電球がひらめいたのか、
手をポンと叩く。
「……そうか、注文する手があったぜ!」
──そう、この学園や日本には女性はいないが、この島より北側にある東京大学院が密かに制作している物があった。
それは、どうしても欲望を抑えられない男性に送る生涯のパートナー。
俗にいう『等身大の美少女フィギュア』である。
ただし、この戦争の影響下で品質向上のため、余計なオプションは省き、人形は注文すれば中身が分からない安心な段ボールの中に丸裸で送られるようになった。
そのために、リアリティーを追求するには、本物の女性に近い専用の下着が不可欠だった。
さらに、このフィギュアに高い値段をかければかけるほど、より本物に近くなる仕組みになっていた。
柔らかな肌、弾力のある胸、さらに目がまばたきをする。
そのうえ、愛らしく喋り、全身が可動してロボットのように動くなど、本物を求めるときりがないが、お互いのパートナーを強調させ、ライバルにも差をつけ、自慢できる男の勲章のような存在になっていた。
こうして、欲望とリアルを求める男性に対して、この人形用の下着も東京大学院から注文できるようになった。
ただし、うわべではこのフィギュアに着せる目的で購入できるが、その専用の下着も未成年の購入は禁止である。
闇市なら、ある程度変装などをして化ければ未成年でも大丈夫らしいが、犯罪に巻き込まれる恐れがあるから保証はしないし、
何より、昔から年齢確認として身分証明書などの提示が求められている。
──ちなみに、この島での注文日は毎週金曜日の午後で月曜日に品物が到着する。
今日は木曜日。
注文するとしたら、ちょうど明日になる。
(よし、これでいけるな)
龍牙は固く決意し、さっそく明日、フィギュア用の下着を注文することにした。
(あと、追加で、あれとかもいるな……)
ウンウンと一人で頷きながら、部屋を出ようとする。
ふと、壁にかけてある丸い壁時計を見ると、すでに昼の2時を指していた。
さっきまで13時だったはずなのに、時が立つのは早い。
まさに時は
もう、あと一時間で昼の作業が終わり、夕食に向けての夕休憩が入る。
この人通りの少ない学園内も大勢の人々で
それに今はユミが他の男性に見つかったら大変だ。
いくら、フィギュアなどで満たされていても、やはり、男だから本物の女性となると、欲望のままに彼女に触れてしまうだろう。
初めて、ユミと出会った龍牙の仕草のように……。
そうなれば、毎日、奴隷のように酷使され、彼女は身も心も壊れてしまうかも知れない。
龍牙自身、それだけは絶対に避けたかった。
(でも、どのみち、みんなが
あの音楽室に残して置けば、
いつかは飢えた野獣達にバレるぜ。
何とかいい案はないのか……)
そう考えながら、一本道の廊下を早足で移動しながら、冷静になる龍牙。
彼は大きく息を吐きながら、最善策を考えている状況でもあった……。