目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第A−28話 足掻き、もがく教師

◇◆◇◆


 ──さて、石垣ストーン沖縄シャークによる二人の対決を前にして、読み手による第三者の混乱を防ぐために、ここで龍牙りゅうがが、このヨスガの高等学園に転校するまでの生い立ちを再度、詳しく語ろう。


 まず、龍牙の実の父親はストーン・ファングという勇ましい戦士であり、母親はすさまじい力を秘めたジャンヌ・ダルク。


 二人は初めは、戦乱で生きぬいてきた敵同士だった。


 ストーンは代々引き継ぐ、ファング軍のリーダー。


 また、世界侵略を進行しようとする女性騎士で構成された、ジャンヌ騎士団。


 二人は争い、命をかけて戦った。


 その結果、ストーンが勝ちを握ったように見えたが、まさかのダルクが大爆発。

 二人の兵士は相討ちとされた。


 しかし、実際にはストーンは、ファング軍で得た特殊能力で、ダルクの自爆を回避。


 傍には、仲間のシャークもいて、二人は無事だった。


 そこへ、ファング軍が気づくその前に、バラバラになったダルクを、近所の自称医師が拾い、個人の部屋でダルクを複合手術。


 それによって、ダルクは再び息を吹き返したが、今度はその彼女の爆発の威力を上手く利用しようと、日本のエンカウンター・ケドラー首相がやって来る。


 アメリコの要求により、核を持てない日本にとって、法律に引っかからなく、なおかつ、海外に秘密裏で爆破できる歩く人間は格好のまとだった。


 こうして、ケドラーは表向きにはダルクを怪我人を救う看護師として、周囲の味方さえも騙し、影では大陸を破壊する兵器として、彼女の一部の細胞を採取し、研究を進めていた。


 そんな時に、ダルクの前に同じ仲間のストーンが就任してくる。


 二人は、あの戦乱ではお互いに争う立場だったが、実はお互い、仮面で隠れた素顔を知らなかった。


 二人は、いつの間にか惹かれ合い、恋に落ちた。


 それから、二人は日本へと住居を移し、仲良く暮らしていたが、先ほど説明した血塗られた悲劇が起きる。


 それにより、息子の龍牙はダルクの血を引く者として、言いように玩具にされ、粗大ごみ置き場で捨てられた。


 幼い頃に両親をなくし、覚えていたのは龍牙という名前だけ。


 捨てられた龍牙は後に、たまたまゴミ捨て場の収集作業をしていた40過ぎの男性社員の『紅葉もみじ』の慈悲により救われ、そこからは紅葉家の養子となり、改めて『紅葉龍牙』となった。


 しかし、その平和も束の間……。


 やはり、龍牙が生存していれば、将来に悪い影響を及ぼすかも知れないと、ケドラーの命令により、彼らの部下が龍牙の行方を探していた。


 そして、その部下は、何も知らない紅葉家にまでやって来る……。


◇◆◇◆


「──何だ、お前達は!?」

「これは失敬。お父さん。

突然ですが、この写真の子に見覚えはありませんか?」


 5から6人による、体格の良い大人の男性陣に囲まれ、一番先頭の茶色のスーツ姿の男が、一人の子供がカメラに向かい、笑顔でピースしている写真を、紅葉の父親にひらひらと見せた。


「さあな、私は龍牙の事は知らん」

「……今、何とおっしゃいました?」

「だから、龍牙と……。

……しまった!?」


 一家の大黒柱がピクリと反応したが、すでに時は遅し。


 見事に誘導尋問に引っかかる。


「おい、この家の中を隅から隅まで探せ」

「はっ、分かりました。シャーク様」


 ストーンの案でケドラーの部下になったシャークの指示により、彼らの部下達が四方に散って、龍牙の探索を開始する。


「……お、お前達は誰だ。住居不法侵入だぞ」

「心配はいらん。首相の許可書なら、ここにある」


 シャークがズボンのポケットから正方形に折り畳んだ紙切れを出して、紅葉家の父親の前に見せる。


 賞状のような白い紙には、赤い文字で『家宅捜索承認書』の記載がしてある。


「だからと言って、勝手に人の家を!」

「いちいちうるさいぞ。この虫けらめ!!」


『パァーン!』


「ぐはっ!」


 シャークが容赦なく、隠していた黒の拳銃で紅葉のあるじの頭を撃ちぬく。


「あらっ、今のは何の音かしら?」


 今度は、寝静まった夜に鳴り響く銃声に、片割れの妻が二階から降りてくる。


「キャー!? あなた!?」


 血の海に溢れた変わり果てた姿を見て、急いで近くに置かれた電話の受話器を取る。


「ちっ、しゃくらせえ!」


『パァーン!』


「がはっ!?」


 シャークの発砲が、電話をかけようとした妻の左胸を貫き、夫の殺害現場に覆い被さるように妻も倒れたのだった……。


◇◆◇◆


 しばらくして……。


「失礼いたします。シャーク様。

もう、ここにはあの子供はいないようです」

「……そうか。なら、この家はもう用済みだ。

死体も特定出来ないよう、跡形もなく、焼き払え」

「はっ、かしこまりました!」


 シャークの部下が油の含んだ新聞紙の松明たいまつに火を着け、紅葉宅にその火を放つ。


 瞬く間に想い出を宿した一軒家は、炎に包まれる。


 こうして龍牙は、また両親を亡くしたのを知った。


 そこに居合わせた警察により伝えられた、たまたま留守にしている時に起きた惨劇だと……。


 龍牙は、春から上京するために、この場所を離れ、地下鉄で移動中だった。


 なぜ、地下鉄で移動なのかは、この物語の始まりに触れたケドラーの意思である大量のジャンヌ・ダルク達による、自爆による核爆発が起きたからだ。


 それで、日本大陸は滅びてしまい、空気中は放射能汚染により、地上での生活は困難になってしまった。


 そんな年月が進むにつれ、生きていく人々らは、徐々に地下での生活を余儀なくされた。


 日本は新たに建設された、東京大学院を筆頭に、地下を中心に拠点を置くようになったのである。


 あれから、数ヶ月が経とうとしていた……。


****


「……そして、ワシは息子の龍牙の存在を知り、ゆみ君に近づけるように、仕組んだのじゃ」


 そう、龍牙が弓を紹介する前から石垣教師、いやストーンは事情を知っていて、知らぬふりを演じていたのだ。


 ストーンがシャークの体に細かくパンチを重ねながら、龍牙に話しかける。


「ケドラー様の命により、ジャンヌ・ダルクとの交配によって、ファングとジャンヌの最強の戦士による子孫が作れるようにとな……」


「……それで、弓君を裸にして、演劇部が使用していた手作りの箱に彼女を閉じ込めた。誰しも裸の女性を見て、欲情せぬ男などおらんじゃろうが、

毎回、予想以上に弓君が抵抗しての……」


 その言葉に龍牙が、はっと反応をしめす。


「もしかして、俺の初恋相手と名前が同じなのも?」

「そうじゃ、毎回、記憶を消され、出会ううちに弓君を初恋相手と重ねてしまったのじゃろう。すまぬの」


「……それが、最強の王にさせるケドラーの策略……。

幾度いくど重ねた戦乱のストレスで、種無しになったケドラーの後継者にさせる目論み、プロジェクトキング。それがKの本当の意味さ」


 シャークも負けじと応戦しながら、やすやすとプロジェクトK、キングの実態を明らかにする。


「シャーク、貴様。

そのことは極秘事項じゃぞ!」

「いいじゃないか、いずれバレちまうんだから」

「貴様は女だけでなく、口も軽いんじゃな」

「今さら気づいてもおせーよ」


 シャークが、ひらひらとストーンの攻撃を払いながら、あざとく笑う。


 一方の龍牙はというと、自分の置かれた状況を把握できなかった。


 今まで龍牙と弓は何回も出会い、その度に玉砕。


 次回の機会に踏まえ、お互いに記憶を消して、再挑戦の繰り返しだなんて……。


 しかも、最強の戦士を作るための子作り目的の策略。


 これは、お見合いより、たちが悪いイベントに違いない……。


「シャーク、食らえ!!」


 ストーンがシャークから三メートルほど距離を離し、右拳に力を溜めながら、今度は、そのままシャークに直進する。


「……なあ、ストーン」


 ……が、そのシャークがストーンの右拳を軽々と受け止める。


「なんじゃと、ワシの渾身の一撃を!?」


 腕の一部分を石化させて、全体重をかけて突進し、通常の何倍にもなる強烈なストーンによる一撃。


 まさしく、今のはストーンにとって、最大の攻撃だったはずだ。


「まったく、ざまあねえな。

ストーンのジジイ。歳はとりたくねぇな」

「ぐぶっ!?」


 ストーンがシャークのパンチをまともに腹に食らい、窓際まで吹き飛び、そのまま動かなくなる。


 それから、ストーンの倒れた目の前の遮光された黒の窓ガラスに、細かいヒビが入った。


 それを見た龍牙が、慌てふためく。


 もし、その窓ガラスが割れると、

大量の放射能が、この部屋に蔓延まんえんするだろう。


 龍牙が、血相を変えるのも無理もない。


「もう、こんな小細工はいらねえな」


 そんな最中、シャークがひび割れたガラス部分に蹴りを入れる。


「お前、何を考えてる、止めろ!?」


 龍牙が必死になり、シャークを止めに入る。


 そんな事をすれば、彼もただではすまないはずだ。


「だから、もう、必要ねえんだよ!!」


『バリーン!!』


 シャークがさらに蹴りを加えると、けたたましい音とともに窓ガラスが割れて、四方にその破片が飛び散る。


「弓、お前だけでも逃げろっ!!」


 諦めかけた龍牙が弓に叫ぶ。


 しかし、弓は微動だにしない。


「何してるんだ、大量の放射能を浴びて死ぬぞっ!?」

「大丈夫ですよ。落ち着いて下さい」

「いや、これが、落ち着いてられるかよっ

!?」

「だから、落ち着いて下さい」

「だけど……もごっ!?

もぐもぐ……」


 弓により、龍牙の口いっぱいにロールパンが投げ込まれる。

 これでは迂闊うかつに喋れない。


 それよりどこから、このパンを調達してきたのか。


「さっきの私の寝床にありました」


 なるほど、やはり呼吸をするだけで、エネルギーを消費する人間。


 記憶を無くしても、腹は減るのか。

 教師による些細ささいねぎらいに感謝である。


「もぐもぐ、ごっくん。

……弓、いきなり何するんだよ」

「いいから、向こうを見て下さい」


 龍牙がなり、割られた窓ガラスの先を見ると……、


「……あれ、どうなってんだ?」


 ……割れた先には、太陽の光がさんさんと照らされており、雲一つない夏の青空。


 龍牙が、いつも窓ガラスごしから見ていた荒廃した世界ではなかった。


「これが正解さ。日本の放射能汚染は環境省の手により、すでにクリアになっていたのさ。

ちなみに、このガラスはホロの映像さ。

まだ、復興の目処めどは経ってないがな」


 そこへ、シャークがケタケタと笑いながら、龍牙の方に向かってくる。


「もう、プロジェクトKとか、ちんけなことやってられねえ。

二人とも捕まえて、強引にやらせた方が早いぜ。

こりゃ、いい映像が撮れそうだ」

「くそっ、沖縄の変態め」

「龍牙さん」


 弓が震えて、龍牙の服の裾をつかむ。


(……いや、ここで俺が怯んだら、誰が弓を守るんだ)


 龍牙が意を決して動き出そうとする。


 そこへ……、


「龍牙、待つんじゃ」


 頭から血を流しながらも、這いつくばるストーンがシャークの片足を掴んでいた。


「こっ、コイツめ、しつこいな!」


 シャークが振りほどこうとするが、手は離れない。


「こやつはワシが最後まで面倒を見る。

龍牙と弓君、お前達は、あの階段から東京大学院へ向かえ。

そして、ケドラーと直接話し合い、プロジェクトKについて、和解するのじゃ」


 そう言いながら、ストーンが指さした先の床には、すでに書類の束はなく、地下に繋がる階段が覗いていた。


「ジジイ。お前、何やってんだよ!!」


 シャークが激怒して足で振りほどこうとするが、ストーンが握った手はビクともしない。


 そのまま、ストーンが何か念仏を唱え出すと、たちまちストーンの手先が白い石へと変わってゆく。


「シャーク、ワシとともに、地獄より怖い場所に、招待してやるぞい」


 ストーンからシャークへと、その石化が広がっていく。


「ジジイ。きっ、貴様!?」

「フフッ。これで、おあいこじゃな」


 それから、優しく息子へと、穏やかに微笑むストーン。


「父さん!?

何を!?」

「龍牙、死ぬなよ。強く生きるのじゃ。

元気な孫を期待しとるぞ。

……それから案ずるな、お前は一人ではない。

妻のダルクと共に、あの世で見守っとるからな」


「父さんっ!?」

「ジジイ!?」


「短い間だったが、お前との学園生活は楽しかったぞ。

あと、鳴武一瀬なるたけいちのせの性別を騙して、すまんかったのぅ。

……じゃあな」


『カッ!!』


 眩しい光とともに次の瞬間、ストーンとシャークは石のように固まってしまっていた。


 二人とも、すでに息はない。


「父さん、何でだよ!!」


 その光景を見ていた龍牙が、悔しさのあまり、両拳を床にガツンと叩きつける。


 一瀬といい、父親といい、自分は無力なことを知ったからだ……。


「龍牙さん。行きましょう」


 昨日、この部屋の段ボールに龍牙が着替え用に置いていた、黄色のロングシャツを重ね着し、青のジーンズを履いた弓が、悲しみにくれた龍牙を励ます。


「あなたには私がついてます」


 弓がしゃがみこみ、龍牙の両手を優しく握りしめる。


「だから、そんな悲しい顔しないで」

「弓……ありがとな。それにいつの間にか記憶が戻ったんだな」

「はい。龍牙さんが守ってくれましたから」


 弓の優しく温かな言葉で、龍牙が瞳に光を取り戻す。


「……よし、行こうか」

「はいっ!」


 こうして、二人はストーンが導いてくれた、音楽室からの地下の階段を下りていった…。


****


「──沖縄さん、石垣さんにそんな過去があったのですね……」


 あれから数分後……。

 遠方から、この一部始終の騒動を眺めていた人物がいた……。


 あれほどの騒動に対して、冷静な判断力。


 彼は忘れさられていた、二学年担当の北開ほっかい教師だった。


「……というか、勝手に二人仲良く、石になっても困りますよ。

ただでさえ、人手が足りないうえに、大学院からのヘルプばかりになりますし、

授業も自習ばかりになりますからね。

ぷんぷん」


『……まあ、過ぎたことを怒っても仕方がないですね』と石像から目を離し、北開はあの隠し階段に目をやる。


「さてと、急いで先回りして、

ケドラー様を守りませんと」


 北開も続いて、二人の後を追いかけるように、その地下階段をゆっくりと下りていった……。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?