「僕は……貴方達の組織に所属する事は出来ません……。すいません。」
「謝らなくていいよ!?僕が勝手にしたお願いだしね!でも、理由は教えてくれないかな?」
「……僕の居場所はここじゃない気がするんです。僕は、ここにいていい人間じゃない……ってそう思うんです……。」
「そっか……分かった!出入り口まで案内するよ!」
「ありがとうございます……。」
……これで良かったんだ。僕はここにいるべき人間じゃないから。僕には……あの人みたいな目的も、意思も何もないから。
_______三時間前
女の人から逃げて、一日過ごした客室に戻ってきた。それでも女の人は追いかけてきてそれで……結局質問攻めされたんだ。
「何で逃げるの!?」
「怖くて……。」
「え!?私怖いの……?」
「あ、いやそういう意味じゃなくて。」
「どういう意味?」
「す、すいません!」
「取り敢えずさ!入るでしょ?
「迷ってるんです……入ろうか。自分でも分かってるつもりです。自分の力が少しは役に立つ事くらい……でも、僕には無理な気がして。貴女はなんで
女の人は少し悩む素振りを見せた後、僕の目をまっすぐ見て僕の問いに対する答えを紡いだ。
「手の届く範囲の人を助けたい……でも、手の届かない範囲の人も助けたい。そんな我儘な思いが私の中に確かにあって……それに力に覚醒してるし!助けたいの!出来るだけ多くの人をね!」
その言葉に僕は……少し自分が恥ずかしくなった。僕にはそんな思いはなかった。記憶がないなんて言い訳すらも出来ない、いや……しては駄目な気がする。僕はこの人みたいな真っ直ぐ芯の通った想いはない。
今決めた……僕はここにいていい存在じゃないんだ。この人の想いを僕は踏み躙ってしまう様な気がしてしまう……。僕は誰かを助けようとしてerrorを倒した訳じゃない。ただ倒さないといけない、そんな漠然とした思いでただ倒しただけだ。この組織は、僕なんかがいていいところじゃない。
僕は……この組織には入らない。この人は僕に期待してるのかもしれない。自分自身でもよく分からないあの力をこの人は求めているのかもしれない……だけど、無理です。僕がこの組織に入ってしまえば、僕はこの組織にとっての……『error』になってしまう気がするから。
僕は……その考えを口には出さず、目の前で自分の信念を熱く語る女の人、いや……女性に尊敬の意を抱きながら一言残してその部屋から飛び出した。
「すいません……!」
その後は色んな部屋を回りながら、三時間後にピッタリ合うように部屋に戻ってきた。
_______冒頭のシーンへ繋がる
_______出入り口
「じゃあ、これでお別れだね。もう会う事はないだろうけど……またね!」
「はい……さようなら。」
「あっ、最後に君の名前を教えてくれないかな。」
僕の名前……分からない。いや、変な名前でも名乗っておかないといけない。
そう思考して、僕は咄嗟にその名前が出た。
「ユウリ、僕の名前はユウリです!」
「ユウリ君か、ありがとう!じゃあまたね!」
その言葉を最後に、僕は帰る家もないのに街の人混みの中に消えていくのだった。
昼の二時、帰る家もない。お金もなく、お腹を空かせても食べ物は出てこない。あてもなく街をブラブラとしていた。360度、何処を見ても人がいて、その全てが幸せそうな表情を浮かべていた。
少しだけ、その人達を羨ましく思う。たとえ僕に愛する人がいたとしても、今の僕は何も覚えていないのだから……。
そう考えながら街をブラブラしていると数百m程離れた場所から途轍もない破壊音と数多の悲鳴が僕のいる場所まで響いてきた。
瞬間、破壊音が響く方向に建っていた高層ビルが崩れて、その破壊音と悲鳴をえげさせている正体が目に入った。……予想通りと言えば予想通りだった……だけれど、そのerrorは昨日僕が倒したerrorの倍のデカさだった。そのerrorを見て僕は、行く必要も意味もないのに、そのerrorが暴れている場所まで走ってしまった。
超巨大errorの目の前まで僕は来ていた。大きさは大体全長30m……。その姿を見て僕は、考えてしまった。
……僕が倒さないと。多分、他の誰にもこいつは倒せない。だから……僕が倒さないと。
そうして僕がその言葉を紡ごうとした時、その声が僕を呼んだ。
「逃げて!!」
振り向くと、あの組織に所属する女性と……後一人、少し小柄な男の人がこちらに走ってきていた。僕の前に2人は立って、errorと対峙して女性は僕に言葉をかけた。
「避難して下さい!ここは危険区域レベル4で、一般人が今いていい場所じゃありません!」
「で、でも……!」
「いいから!!」
あぁ……この人は凄いな。あくまで僕を一般人として扱ってる。僕が組織に所属しなかったから、それだけの理由かもしれないけどこの人はとても優しい……そう理解するには充分過ぎる言葉だった。
女性と男の人は、お互いにerrorを見つめ……。刹那、2人はその言葉を叫んだ。
『心象解放__
『心象解放__
瞬間、女性の手元に柄から剣先まで真紅に染まり切った長剣が現れ、男の人の手元には刃に龍と虎の装飾が施された二対の剣が現れた。
2人はその武器を持って、全長30mのerrorに向かって駆けた。
女性は身の丈以上の長剣をerrorに向かって振り上げ、そのままerrorの体を少し抉り取った。男の人はその場から飛び上がり、errorの上空から双剣でerrorの体を切り裂いていった。
だけど、errorにはそこまでのダメージが通っていない様だった。errorは自身に集る蝿を振り払うかの様に暴れ始めて、2人はその攻撃により別々の方向に吹き飛ばされた。
そうして、errorは僕を次の標的にした。僕が戦おうとしたその瞬間、女性が言った。
「逃げて……。」
それに呼応するかの様に男の人も僕に対してその言葉を叫んだ。
「お前早く逃げろ!!ここにいても死ぬだけだぞ!!」
男の人は再び飛び上がって、errorの体を何度も何度も切り裂いた。でも……殆ど効いてない。errorにとってはなんともない、と……僕にはそう見えてしまっていた。
男の人が再びerrorの攻撃を受け、まだ倒壊していないビルに激突した。その状況を見て、女性は僕に対して、その言葉を零した。
「ごめんなさい……助けて。」
女性はすぐに自身の口を塞いだ。今零れ出した言葉は今女性が思っていた本心なのだろう。だからこそ、自身が僕に対して言ってはいけない事だと理解していたのに言ってしまった。
その言葉に僕は……。
「僕には、資格がない……。」
「どういう……こと?」
「僕は、貴方みたいに人を助けたいなんて思ってなかった。僕は……人を助ける資格がないんだ……。」
そんな僕の言葉に女性は優しく諭した。
「それは……違う!資格が必要だって言うなら貴方はもうその資格を持ってる!」
「え……?」
「貴方自身、自覚してなかったみたいだけど!貴方が人を助けたいと思ってなかったあの行動で……あの場にいた大勢の人の命は救われた!貴方のあの行動は……本当は、人を助けたいって思って体が勝手に動いたんじゃないの?」
「それは……。」
分からない……無意識にそう思ってたのかもしれない……だけど、本当にそうなのかな……。もし、そうなんだとしたら……僕は。
……あのerrorを倒そうと思えば、多分倒せると思う。だけど、倒してしまったら命をかけたこの人達の戦いが無駄になってしまわないか。誰かを助けようともしてないのに……僕が倒してしまったらこの人達の行動を根本から否定してしまわないか……。
そう頭の中で考えていると、errorの攻撃が眼前まで迫ってきていた。……その攻撃を男の人が受け止めてくれて……男の人はそのまま僕に対して叫んだ。
「誰かを助けたいか……誰かに助けられたいか今決めろ!!助けを求めた奴ならそこにいる!助けられたいなら俺がお前を守ってやる!!だから……!早く決めろ!!」
………僕はその場から走り去った。
そうだ、それでいい。この場からさっさと逃げる。それが正解だ……。ありふれた正義感より臆病者と罵られながらでも生きる奴の方が偉いんだ。
ハッ……俺は前者だけどな。あぁクッソ!!!こんなとこで死ぬ訳にはいかねぇのに……。
ごめん母さん……仇、取れねぇや。
errorの攻撃が迫る。瞬き一回する間に俺は死ぬと判る。それでも生きたいと思ってしまう。
瞬間……、まだ倒壊していないビルの屋上からなにか一筋の煌めきが視界に映った。
……後悔してしまう様な気がした。女性の言葉が僕に行動の意味を教えてくれた。
本心は行動に宿る。僕があの時errorを倒したのはあそこにいた大勢の人達を助ける為だった。
ようやく、全部理解した。僕は……救いを求める誰かの為に戦うんだって……。だから僕は。
そうして……僕はビルの屋上からerrorに向かって飛び降りた。
『心象解放__死鎌』
その言葉を紡ぎながら……。