目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第13話 「事変」

「運命というものは...何の予兆もなく訪れる

     それは”幸せを与える”こともあれば...

         ”牙をむく”ことだってあるんだ...」



「ティエラーッ!召集~!」


「分かったよ。ルナ」


ルナの呼びかけで部屋から出たティエラは、2人で司令室へ移動した。


2人が入ってくると、司令官が作戦内容を伝え始めた。


「今回の作戦は、南部地方の『アフリカ民族解放戦線』の殲滅だ。前回に続き、基地はルナが―」


「待ってください」


「?何か問題でもあったか?ティエラ」


「ルナは先の戦いにおいてかなり体力を消耗しています。なにせ、パルチザンの力は比較的強大なものでした。それに、今回の敵の基地はそんなに大規模なものではありません。そこで、空爆かミサイル攻撃を推奨します」


「!?ティエ―」


動揺しているルナをティエラが抑える。


「そうだったのか...。ならば仕方あるまい。近いうちに行われる”作戦”に向け、力は温存しておかなければな。よし、そうとなれば、空爆だな。ヤツらが空爆で混乱しているところを我々で奇襲しよう。これにて、一旦解散」


「ハッ!!」


軍たちは皆退室し、その様子を見送った後、2人は退室した。


「あ、あのさ、ティエラ」


「?どうした」


「その......ありがとう」


「気にするな」


こうして2人は輸送機に搭乗し、南部地方へと向かった。





基地は空爆によって既に焦土と化していた。


「作戦開始」


隊長のその一言の後、軍とともに2人は一斉に降下し、奇襲を仕掛けた。


結果は、世界国家の圧勝だった。


アフリカ人にとっての希望であった『アフリカ民族解放戦線』は、2人のセイレーンを含む部隊によって一瞬で消し去られた。


その後、エレノイアにて、2人はケンと会った。


「ケン。無事だったか」


「よかったー...。心配したんだよ」


「ご心配おかけしました...えへへ...」


ケンは照れくさそうに笑う。


「そういえば...」


「?」


「どうしてケン君は少年志願兵になったの?」


「自由になりたいからです」


「自由に...?」


『自由』という言葉にティエラが反応した。


「俺、家族が貧乏で...。父は農家、母と姉は工場で働いてて、俺と妹はゴミ拾いで今までなんとか生計を立てていたんです。お金がないから、みんなやりたいことができないんですよ...。でも!少年志願兵になって、17歳になるまでにたくさん軍功を上げたら、一生自由に暮らせるほどの賞金が手に入るんです!だから、俺、めちゃくちゃ頑張って賞金を手に入れて...家族みんなで自由になりたいんです!そうすれば、今まで俺を養ってくれた家族への恩返しにもなるし!」


「もし自由になったら...何がしたいんだ?」


「う~ん、まずは世界一周...そんで飽きるまで食いまくって...それで...。...。まあ、いろいろです」


そう言ってケンはニッと微笑む。


「そうか。俺からも、一ついいか?」


「?はい!もちろん!」


「お前にとって...”自由”とは何だ?」


「やりたいことが何でもできる、ですかねぇ...。行きたい場所にいつでも行けたり、食べたいものがいつでも食べられたり、休みたいときにいつでも休めたり...そんな毎日を送ることです!まあ、とにかく”幸せ”ってことですね!」


「”幸せ”...か。なるほど...」


その日の夜、ティエラは独り、考え事をしていた。


(やりたいことがなんでも...か。何の前触れもなく召集命令が下されることも、何者かに恨まれることも、命を狙われることもないのか...。確かに...幸せなのかもしれないな...。そんな毎日を送れるなら送ってみたいものだ...。それが自由ならば...俺は...)






気づいた頃には朝になっていた。考え事をしているうちに寝てしまっていたようだ。


それから一週間、多くの戦場を転々とした。


「ティエラさん!俺、今日は砲兵をやったんです!初めは慣れなかったけれど...だんだん慣れてきて...上官の人にも『覚えるのが早い』って褒められたんですよ!」


「へぇー!ケン君はスゴイね!!」


「そうか。それはすごいな。これからも精進するといい」


「はいッ!!」


ティエラ、ルナ、ケンの3人は作戦の後、よく会い、よく話すようになっていた。


ティエラも、ケンと話すことに関しては、全く悪い気がしなかった。





「今日でお前が部隊に配属されて一カ月だな。ケン」


「あッ!!確かに!」


「つまりそれって、今日が『私たちが出会って一か月記念日』ってことだよね!」


「そういうことになるな」


「それならさ!今日、皆でご飯食べに行こうよ!ケン君、この後予定ある?」


「ないです!行きます!!」


「ティエラは?」


「ない。行く」


「.........」


「...何だ。そんなに驚いた顔して」


「来てくれるんだ...」


「暇だからな」


「...フフッ」


「何がおかしい」


「別にィ~?じゃ、行こっか!!」


ティエラ、ルナ、ケンの3人は夕食を共にした。


「それで俺!上官の人にこう言ってやったんですよ~!」


「へぇ~!ケン君も言うね~!」


「えっへへ~!」


「そうか、それはすごいな」


「もうッ!ティエラったら!もうちょっと楽しそうにしようよ!」


「...悪かったな」


...実をいうと、ティエラはこのとき、充分楽しんでいた。


誰かとこうして時間を過ごすことがこんなに楽しいことだとは、ティエラは知らなかった。


こうしてティエラは”幸せ”を知った。


知らぬ間に、ティエラの口角は、少しだけ上がっていた。


それとともに、彼は不安を感じていた。


いつまでこの幸せが続いてくれるのだろう、と。


運命は、必ず訪れる。


それが吉と出るか、凶と出るか、はたまたそれがいつ訪れるかは、誰にもわからない。


「ティエラさん!ルナさん!今日はありがとうございました!」


「うん!また明日!」


「またな」


「はいッ!!」






次の日、


「ついに”あの日”が近づいてきた。そう、『対馬上陸作戦』の日だ。この作戦は、じきに来るであろう極東公国との”決戦”のための重要な作戦だ。そして今日はその下準備のため、釜山、カムチャッカ半島に拠点を設ける。油断はするな。また新たな反乱勢力が奇襲を仕掛けてくる可能性もある。いいな!」


「ハッ!!」


「あと、我々の部隊はカムチャッカ担当となっている。釜山はヴィーナス・テティス部隊が担当する」


総員、輸送機に乗りカムチャッカへと飛び立った。


カムチャッカへと降り立つと、全軍、着々と準備を進めていた。


準備を終えると、皆、休憩し始めた。


「寒いね...」


「そうだな...」


ルナはさっきから何度も両手の平に息を吹きかけている。ティエラもその横で身体を縮こまらせていた。


そんな2人の横で、ケンはピンピンしていた。


「ケン君、寒くないの?」


「はい!これぐらいの寒さ、大したことないですよ!」


「そうか、おまえは旧モンゴル地域の者だったな。寒さに強いわけだ」


「へぇ~。ケン君はスゴ―」


そのときだった。突然全身を白い布で包んだ集団が軍に奇襲を仕掛けてきた。


「あれはッ...!パルチザン...!?まだ生き残りがいたのか...」


突然の奇襲で軍は押され気味となった。


ティエラ、ルナも反撃に出たが、なかなか思い通りに戦うことができなかった。


極寒の気候に2人の身体が完全に適応してなかったからだ。


(前回は少し温暖なところで戦えたが、今回はそうはいかなそうだな...どうしたらいいものか...)


そんなときだった。


「おい!こんなところでモタモタしてんじゃねぇ!!そこのアンタ!!アンタはヘルシンキ出身だったろ!?北欧人なら、こんな寒さ大したことないはずだ!!アンタも...」


(あれは...ケン...!?仲間を奮起させているのか...!?)


「よーし!皆、冬男の底力、みせてやろうぜ!!」


「おうよ!やってやろーじゃねぇか!!」





その後、北欧などの冬国地域出身の軍の大活躍により、パルチザンによる奇襲は失敗に終わった。


そして、


「よくやった。ケン」


「いえ...それほどでも...」


「本ッ当にすごかったよ、ケン君!!ケン君がいなかったら私たち負けてたかも!!」


「その通りだ。お前は誇りを持っていい」


「えへへ...」


ケンは照れくさそうに笑った。


その後の休日、ルナに連れまわされながらティエラとケンは、様々な場所へ行った。





そして、ついにその日はやってきた。


「いよいよだ...。対馬上陸作戦は我々の部隊に託された。これは、越えなければならない大きな、大きな壁だ。総員、心してかかれ!!」


「ハッ!!」


「それでは、作戦の概要を説明する。まず、半分に分かれる。片方の部隊は艦艇で浜から上陸。戦闘中にルナは輸送機から敵基地を破壊」


ティエラはルナの顔を見た。


視線に気づいたルナはうなずくと、ティエラに微笑んで見せた。


彼女は覚悟を決めたのだ。


生涯の責務を全うすることを。


彼女はもう怖くない。


なぜなら、横にティエラがいてくれるのだから。


「基地を破壊後、パラシュート降下で対馬南部へ上陸。ヤツらを挟み撃ちにする。相手は『極東防衛軍(旧自衛隊)』だ。ヤツらは少数『超』精鋭...。絶対に気を抜くな」


「ハッ!!」


ケンは艦艇での北部上陸部隊に配属された。


「それじゃ、皆、後でエレノイアで会おうね!」


「はいッ!!」


「一瞬で終わらせるぞ」


ティエラとルナの二人は輸送機に搭乗し、ケンは艦艇に乗った。


作戦が始まった。


多国籍軍が対馬北部の浜から上陸し、数分歩いていたそのとき、一発の銃声とともに相互の軍による総攻撃が始まった。


「うおおおおおおおーッ!!!!」


ケンは咆哮を上げなら仲間たちとともに、敵地に突っ込んだ。


一方その頃、


「射程距離内に入りました!」


「ルナ。出番だ」


「了解」


「ルナ...」


「ありがとう、ティエラ。私はもう大丈夫だから」


そう言ったルナの目に迷いはなかった。彼女には断固とした覚悟が定まっていた。


ルナの『幻月(例の光弾を飛ばす技)』で基地を吹き飛ばすと、全軍、パラシュート降下で奇襲した。





終始、世界国家が優勢ではあったものの、極東防衛軍の激しい抵抗により、予想以上の犠牲が多国籍軍から出た。


作戦終了後、突然大雨が降ってきた。軍は輸送機へ雨宿りしに行った。ルナもそれに続こうとした。


しかし、


「?ティエラ?早く行こうよ。風邪ひいちゃうよ?」


「いや...お前は先に行っててくれ」


「えッ?ちょッ、ちょっと!ティエラ!」


ティエラは胸騒ぎを感じていた。胸騒ぎがして止まらなかった。


ティエラは独り、土砂降りの中、大量の死体の中を歩いた。





どれほど歩いたのだろうか。


そのときだった。


”ソレ”は、そこにいた。


ティエラは土砂降りの中、”ソレ”を見つめながら立ち尽くした。


大雨に打たれながらティエラが見下ろし続けた”ソレ”。


”ソレ”は大量の死体の中、倒れていた。


ティエラには”ソレ”以外のものは、もはや目に入ってなどいなかった。


”ソレ”は、見るに堪えない姿となった、ケンの死体だった。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?