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第25話  「混沌」

「戦いは熾烈を極めた...

そこには、正義と狂気と憎しみの...

カオスが広がっていた...」



ヴィレイは、ついに”真の力”に目覚めた。


『エクスタシス』


アシュラ一族の中に一人だけ存在する”救世主”のみがたどり着ける境地。

かつて”救世主”は、『神に選ばれし者』と呼ばれていた。

この形態は、最も神に近いとされている。


「どうする...?非常にマズイ予感がするが...」


「勝てんかもしれんな...」


ティエラはハッキリと言った。

あまりにも勝機が見えなさすぎるからだ。


次の瞬間、ティエラの顔に突然ヴィレイの足がめり込んだ。


「!?」


「いつの間に...!?」


そのままヴィレイによって蹴っ飛ばされたティエラは、いくつもの高層ビルを貫通しながら吹っ飛んだ。

直後、ティエラが貫通した高層ビル群は、次々と崩壊していった。


辺り一面が砂埃に包まれる。


そんな中、ティエラは白目を向いたまま気を失った。

インフィニティ・モードを発動したまま攻撃を喰らったのが、彼にとって、せめてもの救いだっただろう。

もしそうでなければ、彼は間違いなく死んでいた。


「...ッ!!」


一瞬、N・ヤスヒロは、ヴィレイが自分に視線を向けていたのを見た。

直後、ヴィレイが突然N・ヤスヒロの目の前に現れた。


「クソッタレ...!!」


N・ヤスヒロはヴィレイの顔面に渾身のパンチを入れた。

が、びくともしない。N・ヤスヒロは、電柱を殴ったかのように感じた。

すると、今度はヴィレイの拳がN・ヤスヒロの顔面にめり込んだ。

この時点で、衝撃波が発生し、辺り一帯の建物の窓ガラスという窓ガラスが砕け散った。

そしてヴィレイは、そのままN・ヤスヒロを殴り飛ばした。

その後は、ティエラの時と同じようなことが起こった。

N・ヤスヒロも同様、もしOVER ALLを解除していれば、まず首が吹っ飛んでいた。


「クソッ...!体中が痛い...!」


N・ヤスヒロは何とか起き上がる。


「!!...気を...失っていたか」


ティエラも意識を取り戻し、立ち上がる。

インフィニティ・モードが切れてしまった。

体力もほぼ限界だ。


「...どこにいる」


ヴィレイは2人を探し始めた。


次の瞬間、多数の光弾が飛んできた。

N・ヤスヒロのCROSS BEAMだ。

無論、ヴィレイは無傷。辺りに爆煙が上がる。


数秒後、何者かがヴィレイの目の前に飛び出してきた。

ティエラだ。

ダイヤモンド・ソードを持っている。


「死ね!!」


ティエラは思いっきり、ヴィレイの首に剣を振りかざした。

勝負は決した...かに思えた。


目の前には信じられない光景が広がっていた。


ティエラは折れた刀身の行方を追う。

ダイヤモンド・ソードをもってしても、ヴィレイには傷一つつけられないということだ。


「あ…」


ティエラは死を覚悟した。

ヴィレイの裏蹴りがティエラの首筋に迫る。


「グハッ!!」


「!?」


目の前にはN・ヤスヒロがいた。ティエラをかばったのだ。

結局ティエラもN・ヤスヒロに巻き込まれてしまったため、二人とも蹴っ飛ばされてしまった。

その過程でまた多数の高層ビルが倒壊した。


ほんの5分間で、エレノイアは半壊してしまった。


砂埃の中、2人とも白目をむいて気絶してしまった。


「さて...終わらせるか...」


と、ヴィレイが1、2歩ばかり踏み出したその時だった。


「!?グッ...!?――――ッ!!」


突然ヴィレイは、体中の力が抜けていくのを感じた。


「ハッ...ハァッ...ハァッ...ゼェ...」


その後に来たのは、過呼吸。ヴィレイは膝をつく。


「クソッ...身体が...つい、て...いけてなかった...のか」


とりあえず、ヴィレイは呼吸を整える。

エクスタシスが切れてしまった。

ヴィレイは7分かけてやっと体勢を立て直す。

顔を上げると、その先にはN・ヤスヒロを支えながらティエラが歩いてくる姿。


「...ヤスヒロ、まだ...戦えるか…?」


「なんとかな...。数分寝てたおかげで体力も満タン...だ」


「...嘘言うな」


「スマン...」


ティエラは両手の拳を前に出し、構える。

もう物質錬成する体力もないからだ。

ティエラの肩から腕を放すと、N・ヤスヒロも構えた。


「…来い...!」


ヴィレイも構える。


3人の真上を鳥が通過する。その際に、羽が鳥から離れ、舞う。

その鳥の羽が地についたそのとき、戦いの火ぶたは切られた。


3人ともほぼ同時に殴りかかる。


その後、両者の間で行われたのは、どこまでも泥臭い肉弾戦だった。

3人とも身体を無我夢中で動かし、ひたすら相手に攻撃をぶつけ合った。


10分ほど殴りあった結果、両者ともにアザだらけになり、フラフラになった。


(ヴィレイのヤツ...だんだんと体力が回復してきていないか...?全く、なんてヤツだ...)


ティエラの思っている通り、ヴィレイは着実に体力を取り戻しつつあった。

ヴィレイ自身、そんな自分の回復力に驚いていた。

つい数分前まではふらついていたが、ヴィレイの動きは少しずつ機敏になってきている。


「トランスは...さすがに無理か」


さすがに全快とまではいかないようだ。傷もまだ痛む。呼吸もまだ少し乱れている。


「!?」


そんなときだった。


ティエラは、ある人影がヴィレイに向かって降下しているのが見えた。

その正体は、ティエラが今一番会いたくない者。


「見~つけ...」


「!!」


ヴィレイは振り返る。

”彼女”は、拳を振り上げる。


「たァッ!!」


ギリギリでヴィレイは彼女の攻撃をかわした。

殴打の衝撃で地面がえぐれる。


「チェッ...外しちまった...」


「ユカ!!やっと追いついたばい...!」


数秒後、H・タイゾウも追いつく。


「はは...4人そろってリンチか?」


「リンチなどと...人聞きの悪いことを言うんじゃない...」


「まあ、仕方ないだろう?ティエラ。俺たち2人では勝てんからな」


「アタシは別にいいぜ。アイツをどうぶっ殺してやるかが一番の問題だしなァ」


「確かに...リンチっち言われても仕方ないばい...。その通りやけん...」


4対1。皆構える。


「2人とも、ヤツに常識の範囲外の特殊能力は効かない。いいな?」


「「了解」」


こうして、4対1の激しい攻防が始まった。


ティエラとN・ヤスヒロは体力が著しく低下していたので、そこまでの脅威にはならなかったが、H・タイゾウとT・ユカ、特にT・ユカの猛攻は凄まじかった。


「オラァッ!!死ねぇ!!人殺しがァッ!!」


「...お前、一体何人のセイレーンを...いや...『人』を殺した?」


「知るかよ!!ンなもん覚えてるわけねぇだろ!!どっちにしたって悪いのはテメェなんだ!!」


「コイツ…話が通じない...!」


ヴィレイはユカの攻撃に冷静に対処していく。


T・ユカが風穴形成を仕掛ける。が、ヴィレイはそれを回避する。

その際、彼女の正拳突きの威力でヴィレイは”気づいた”。


「お前...あの一族の生き残りか...?」


「オアアアアアアアアッ!!!!」


「...ダメだな、コイツは」


「死ねッ!!死ねッ!!死ねエエエエエエエエッ!!」


「...タイゾウ」


「今はやめといたほうがいいばい、ティエラ。今のユカは...」


「...そうだな」


そんなときだった。


突然、背後から爆発音が鳴り響いた。


「「「「「!?」」」」」


遠くからキャタピラの音がする。


「まさか...!」


ヴィレイの予感は当たった。


エレノイアはたちまち戦車に包囲されてしまった。

戦車の屋根に立てられているのは、星条旗。

数百キロ先では、多国籍軍の死体の山が築かれていた。


そうこうしている間にも、戦況は変化し続けていた。


極東公国は、世界中の反乱軍を味方につけ、沖縄に基地を置く米軍とともにユーラシア大陸、オーストラリア大陸を進撃。瞬く間にオーストラリア大陸全土とユーラシア大陸の東半分を制圧した。

一方、ア連は、まずアメリカ大陸全土を一瞬で制圧し、そのまま欧州へ上陸。ブリテン島を解放した。

現在、ブリテン島全土では200年ぶりとなるユニオンジャックの掲揚が行われている。

そして、そのまま米軍は止まることなく進撃。ついにエレノイア中心部まで迫った。

それとほぼ同時に、ア連と極東公国は、アメリカ合衆国、日本国の『復活』を宣言。


新たな時代が、産声を上げ始めた。


辺り一帯にミサイルやら弾丸やら砲弾やらが飛び交う。

そこに敵軍はいないのに、もはややりたい放題だ。

エレノイアの街並みがどんどん破壊されていく。

そして、世界評議会が行われる『世界国家議会殿』にたどり着くと、まず入口の壁にある世界国家のマークを戦車砲で破壊。

屋根に立てられている世界国家の旗は外され、そこには代わりに星条旗がはためき、外された世界国家の旗は燃やされた。

燃え上がる世界国家の旗を囲み、米軍は勝利の大歓声を上げた。


ティエラ、N・ヤスヒロ、T・ユカ、H・タイゾウ、ヴィレイの誰もが、その様子を呆然としながら見ていた。

エレノイア中にUSAコールが響き渡っている。


その後、まず始めに我に返ったのはヴィレイだった。


「...マズイ!このままじゃ、”アレ”が...解放されてしまう...!!」


ヴィレイは、『ハイドポール』に向かって走り出した。

それを見た他の皆も我に返る。


「おーっと!!行かせねぇぜ!!」


ヴィレイの目の前にT・ユカが立ちはだかる。


「クソッ...!頼む!!どいてくれ!!」


「うるせえ!!」


T・ユカの猛攻がヴィレイを阻む。

ヴィレイはT・ユカの攻撃をかわしながら、『ハイドポール』へ向かう。


『ハイドポール』


それは、世界中の人々にとって、世界国家の支配の象徴である。

そう、”アシュラ一族を除いた”世界中の人々にとっては。


こんな時でも米軍の攻撃は続く。


「オラァッ!!」


「グッ…!」


T・ユカは執拗にヴィレイを追い回す。


「クソッ...!やめろ!!やめてくれ!!その柱は...攻撃するなあああああッ!!」


『ハイドポール』へ進路を変えた米軍に向かってヴィレイは必死に叫んだ。

米軍のほうを向いているヴィレイを見たT・ユカはチャンスと言わんばかりに拳を上げる。

米軍は聞く耳を持たない。


そして...


ズドオオオオオオオン!!!!


一瞬時が止まったような気がした。

容赦なく爆炎が『ハイドポール』を襲う。

そして、『ハイドポール』の紫の文様が消えたと思ったその直後、赤黒い、『ハイドポール』よりもずっと高いオーラの柱がドッと形成された。

皆がそれを呆然と見つめる。皆、何が起こったのか分からないといった感じだ。


ただ一人、ヴィレイを除いては。


この瞬間、ただ一人、ヴィレイは、『世界の終わり』を体感しているように感じた。


赤黒いオーラの柱から人影が一つ。

背丈から見るにまだ子どもだろう。


ヴィレイはその人影の正体を知っている。

かつて200年前、『災厄』として世界を恐怖に陥れた存在。

通称『歩く災厄』


その名は......





ORIGIN(オリジン)

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