「それは...突然だった
ほんの少しの時間で俺たちは...
全てを失った...」
地鳴りが止まることなく鳴り続いている。
「な...何だ?”アレ”は...」
「...オリジン!」
「?オリジン?何だソイツは」
「200年前の『災厄』の”元凶”だ。俺たちアシュラ一族は”アレ”を封印し、護り続けてきた。それなのに...!こうもアッサリと...!」
「.........」
「ボサッとするな!!ティエラ!!そんなことするヒマあったら、周りの連中を避難所へ連れていけ!!避難所はここから1.5㎞南にある!!」
「何を言っている...!俺も戦う!」
「ダメだ。今のお前じゃ足手まといだ」
「何?」
「今の自分の姿を見てみろ」
「...?」
ティエラは、足元のガラス片に映る”誰か”を見つめる。
”彼”は黒髪に漆黒の瞳。そこにセイレーンの特徴は全くない。
「これは...誰だ...!?」
「それがお前だ」
(まさか...)
ティエラは何らかの物質を錬成しようと試みるが、原子はおろか、粒子さえも見えない。
ティエラは”人間”になってしまったのだ。
「.........。ユカ!!タイゾウ!!ヤスヒロ!!行くぞ!!」
「あ...!?ザケんな!!まだ戦いは─」
「一旦休戦だ!!今の俺たちでは...どうすることもできない!!」
「!!」
「人類の未来は...今はヴィレイに託そう...!」
「...クソッ...!」
「...よし、行くぞ!!」
こうして一行は、米軍の者たちを避難所へ誘導し始めた。
米軍の者たちは初めは抵抗していたが、他の仲間がオリジンに突っ込んだ結果、無残な姿となったのを見ると、皆、従い始めた。
皆、必死に、必死に走った。
7分ほど走った時、避難所についにたどり着いた。
米軍の者たちは次々に避難していく。
「さて...俺たちも...。?」
「どうしたんか?ティエラ」
「......ユカがいない」
「!?」
ティエラの言う通り、T・ユカがどこにも見当たらない。
(まさか...!まさかまさか...!!)
ティエラは背筋が凍るのを感じた。
心拍数が上がる。息も上がる。
「タイゾウ!!ヤスヒロ!!一旦戻るぞ!!」
「!!...やっぱり...!そういうことなんか...!」
「分からない...。とにかく、どちらにせよ、アイツを見つけなければ...!」
「俺は行かんぞ」
「「!?」」
N・ヤスヒロはそっぽを向く。
「どうして...」
「もういい加減にしてくれ...!ハッキリ言って、お前たちにはもうついていけそうにない...!お前たちとこれ以上一緒にいると、すぐに寿命を迎えそうだ...!それに...もう充分借りは返しただろう...。こんなことはもうゴメンだ...!俺は降りるぞ!」
「そんな...」
「ティエラ!!感傷に浸っとる暇はないばい!!はやくユカを...!」
「!!そうだな...!」
気づいた時には、N・ヤスヒロは既に避難を完了してしまっていた。
一方その頃...エレノイア中心部では...
「オリジン...200年ぶりの外出だな...。喜んでいるか...?それとも怒っているか...?」
オリジンは遠くからヴィレイを見つめる。さっきからヴィレイの瞳ばかりに目が行っている。
「やはりアシュラ一族に対してトラウマがあるようだな...。ヒカル・アシュラ...『誰もが知らぬ英雄の名』だ。知っているのは...アシュラ一族の中でもごく一部...。覚えているか?お前を最も追い込んだ巫(シャーマン)の名だ...!」
ヒカル・アシュラ
その名にピクリとオリジンは反応を示した。
「ヒカル・アシュラ...。貴方の偉業...ムダにはしない!!」
オリジンは歩き始めた。
「さあ...来い!!この、ヴィレイ・アシュラが相手だ!!」
ヴィレイは覚悟を決め、構えた。
オリジンは攻撃を出すような気配もなく、ゆっくりと、ヴィレイに近づいていく。
「どうした...?来ないのか…?来ないならこっちから──」
そんなときだった。
ヴィレイは腹部に突然、強烈な痛みを感じた。
ヴィレイは恐る恐る見下ろす。
腹部からは一つの”拳”が、突き出ていた。
「オブフッ...!」
ヴィレイは吐血した。意識が遠のいていく。
振り返った先には、”少女”がいた。
今にも命が燃え尽きそうな彼を、少女は狂気の目で見つめる。
T・ユカが拳を引き抜くと、ヴィレイはその場で倒れた。
次の瞬間、ティエラとH・タイゾウが”そこ”に到着した。
ティエラとH・タイゾウは、目の前の光景に衝撃と絶望を覚えた。
今、この瞬間、ここで、人類の希望の灯は、あっけなく消え去った。
と、そのとき、T・ユカは突然、我に返った。
というのも、目的を達成した彼女に、もう狂気など必要ない。
目の前にいるのは、人類の”最後の希望”。そして彼は、倒れており、その胴体には空洞がある。
彼女は血まみれの自身の片手を見つめる。
そして、彼らは向かい合った。
今、起こっていることを受け入れられずに、犯した罪を受け入れられずに、ただ...沈黙の中、向かい合い続けるのだった...。
「ここは...」
ヴィレイは不思議な空間の中、立っている。
「久しぶりね、ヴィレイ」
「!!君は...!?」
ヴィレイは目を疑った。
そこにいたのは、彼が生涯愛した者...ミライ・アシュラだった。
「ヴィレイ...」
「ミライ...。ゴメン!」
「!?どうしたの?」
「ゴメン...!俺、ダメだった...。俺.........ミライとの約束─」
「ううん。ヴィレイはもう充分頑張ったじゃない!」
「!!」
「ずっと...待ってたんだよ」
「ミライ...」
「おかえり...お疲れ様......”アナタ”...」
「うん...ただいま...ただいま...!」
ヴィレイの目から、涙が溢れて止まらなかった。
2人はいつまでも抱きしめあった。
まるで、今まで会えなかった年月を埋め合わせるかのように。
こうして、彼は”救われた”。
彼の”物語”は、終わりを告げた。”全てのもの”を放棄したまま、終わりを告げた。
それは......たった一人の愛する者との出会いから始まり、たった一人の愛する者のために、不器用ながら奔走し、そして、たった一人の愛する者との再会で終わる......
”たったそれだけの物語”
吹雪が激しく吹き荒れる山地...
そこでは、一人の白い衣に身を包んだ男と、一人の白髪の少年が、たった今、邂逅を果たしていた。
「おじさん、その服...もしかしてセイレーン?」
「ああ」
「おじさん、名前は?特殊能力者なの?」
白い衣に身を包んだ男は答える。
「俺の名はティエラ......
特殊能力者......ではない
そう言われていたのは、過去の話だ」
第一部 ~完~