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第26話 「終末」

「それは...突然だった

  ほんの少しの時間で俺たちは...

          全てを失った...」



地鳴りが止まることなく鳴り続いている。


「な...何だ?”アレ”は...」


「...オリジン!」


「?オリジン?何だソイツは」


「200年前の『災厄』の”元凶”だ。俺たちアシュラ一族は”アレ”を封印し、護り続けてきた。それなのに...!こうもアッサリと...!」


「.........」


「ボサッとするな!!ティエラ!!そんなことするヒマあったら、周りの連中を避難所へ連れていけ!!避難所はここから1.5㎞南にある!!」


「何を言っている...!俺も戦う!」


「ダメだ。今のお前じゃ足手まといだ」


「何?」


「今の自分の姿を見てみろ」


「...?」


ティエラは、足元のガラス片に映る”誰か”を見つめる。

”彼”は黒髪に漆黒の瞳。そこにセイレーンの特徴は全くない。


「これは...誰だ...!?」


「それがお前だ」


(まさか...)


ティエラは何らかの物質を錬成しようと試みるが、原子はおろか、粒子さえも見えない。


ティエラは”人間”になってしまったのだ。


「.........。ユカ!!タイゾウ!!ヤスヒロ!!行くぞ!!」


「あ...!?ザケんな!!まだ戦いは─」


「一旦休戦だ!!今の俺たちでは...どうすることもできない!!」


「!!」


「人類の未来は...今はヴィレイに託そう...!」


「...クソッ...!」


「...よし、行くぞ!!」


こうして一行は、米軍の者たちを避難所へ誘導し始めた。

米軍の者たちは初めは抵抗していたが、他の仲間がオリジンに突っ込んだ結果、無残な姿となったのを見ると、皆、従い始めた。


皆、必死に、必死に走った。


7分ほど走った時、避難所についにたどり着いた。

米軍の者たちは次々に避難していく。


「さて...俺たちも...。?」


「どうしたんか?ティエラ」


「......ユカがいない」


「!?」


ティエラの言う通り、T・ユカがどこにも見当たらない。


(まさか...!まさかまさか...!!)


ティエラは背筋が凍るのを感じた。

心拍数が上がる。息も上がる。


「タイゾウ!!ヤスヒロ!!一旦戻るぞ!!」


「!!...やっぱり...!そういうことなんか...!」


「分からない...。とにかく、どちらにせよ、アイツを見つけなければ...!」


「俺は行かんぞ」


「「!?」」


N・ヤスヒロはそっぽを向く。


「どうして...」


「もういい加減にしてくれ...!ハッキリ言って、お前たちにはもうついていけそうにない...!お前たちとこれ以上一緒にいると、すぐに寿命を迎えそうだ...!それに...もう充分借りは返しただろう...。こんなことはもうゴメンだ...!俺は降りるぞ!」


「そんな...」


「ティエラ!!感傷に浸っとる暇はないばい!!はやくユカを...!」


「!!そうだな...!」


気づいた時には、N・ヤスヒロは既に避難を完了してしまっていた。





一方その頃...エレノイア中心部では...


「オリジン...200年ぶりの外出だな...。喜んでいるか...?それとも怒っているか...?」


オリジンは遠くからヴィレイを見つめる。さっきからヴィレイの瞳ばかりに目が行っている。


「やはりアシュラ一族に対してトラウマがあるようだな...。ヒカル・アシュラ...『誰もが知らぬ英雄の名』だ。知っているのは...アシュラ一族の中でもごく一部...。覚えているか?お前を最も追い込んだ巫(シャーマン)の名だ...!」


ヒカル・アシュラ


その名にピクリとオリジンは反応を示した。


「ヒカル・アシュラ...。貴方の偉業...ムダにはしない!!」


オリジンは歩き始めた。


「さあ...来い!!この、ヴィレイ・アシュラが相手だ!!」


ヴィレイは覚悟を決め、構えた。

オリジンは攻撃を出すような気配もなく、ゆっくりと、ヴィレイに近づいていく。


「どうした...?来ないのか…?来ないならこっちから──」


そんなときだった。


ヴィレイは腹部に突然、強烈な痛みを感じた。


ヴィレイは恐る恐る見下ろす。


腹部からは一つの”拳”が、突き出ていた。


「オブフッ...!」


ヴィレイは吐血した。意識が遠のいていく。


振り返った先には、”少女”がいた。


今にも命が燃え尽きそうな彼を、少女は狂気の目で見つめる。

T・ユカが拳を引き抜くと、ヴィレイはその場で倒れた。


次の瞬間、ティエラとH・タイゾウが”そこ”に到着した。

ティエラとH・タイゾウは、目の前の光景に衝撃と絶望を覚えた。


今、この瞬間、ここで、人類の希望の灯は、あっけなく消え去った。


と、そのとき、T・ユカは突然、我に返った。

というのも、目的を達成した彼女に、もう狂気など必要ない。

目の前にいるのは、人類の”最後の希望”。そして彼は、倒れており、その胴体には空洞がある。

彼女は血まみれの自身の片手を見つめる。


そして、彼らは向かい合った。


今、起こっていることを受け入れられずに、犯した罪を受け入れられずに、ただ...沈黙の中、向かい合い続けるのだった...。





「ここは...」


ヴィレイは不思議な空間の中、立っている。


「久しぶりね、ヴィレイ」


「!!君は...!?」


ヴィレイは目を疑った。


そこにいたのは、彼が生涯愛した者...ミライ・アシュラだった。


「ヴィレイ...」


「ミライ...。ゴメン!」


「!?どうしたの?」


「ゴメン...!俺、ダメだった...。俺.........ミライとの約束─」


「ううん。ヴィレイはもう充分頑張ったじゃない!」


「!!」


「ずっと...待ってたんだよ」


「ミライ...」


「おかえり...お疲れ様......”アナタ”...」


「うん...ただいま...ただいま...!」


ヴィレイの目から、涙が溢れて止まらなかった。


2人はいつまでも抱きしめあった。

まるで、今まで会えなかった年月を埋め合わせるかのように。


こうして、彼は”救われた”。


彼の”物語”は、終わりを告げた。”全てのもの”を放棄したまま、終わりを告げた。


それは......たった一人の愛する者との出会いから始まり、たった一人の愛する者のために、不器用ながら奔走し、そして、たった一人の愛する者との再会で終わる......


”たったそれだけの物語”





吹雪が激しく吹き荒れる山地...


そこでは、一人の白い衣に身を包んだ男と、一人の白髪の少年が、たった今、邂逅を果たしていた。


「おじさん、その服...もしかしてセイレーン?」


「ああ」


「おじさん、名前は?特殊能力者なの?」


白い衣に身を包んだ男は答える。





「俺の名はティエラ......

  特殊能力者......ではない

    そう言われていたのは、過去の話だ」





第一部 ~完~

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