「...ティエラ...さん?」
「ああ」
「そっか、セイレーンでも、やっぱりオリジンには敵わないんだ...」
「…そうだな。ヤツに勝つなど、特殊能力者かアシュラ一族でもなければ間違いなく無理だ」
「何だよその言い方。まるで本当に戦ってたみたいな─」
「ああ、戦ってたさ」
「...マジか」
そう、ティエラは自身の能力をオリジンに『没収』されてもなお、どうにかしてこの理不尽な世界に報いるため、8年もの間、”仲間たち”とともにオリジンと戦ってきたのだ。
予想外の回答に少年は驚きを隠せない。
しかし...
「じゃあ、今は何をしてんの?」
「...放浪だ」
「え」
「さっきも言っただろう。ヤツに勝つなど不可能だ。だから...」
「あきらめた…そういうこと?」
「改めて言われると刺さるな...」
ティエラは鼻で笑いながらそう言った。
そうだ、彼自身分かっている。
彼は諦めたのだ。
勝てない勝負から逃げたのだ。
さっきの鼻で笑ったのも、そんな自分に対しての嘲笑であろう。
「そっか...特殊能力者なら勝てるかもしれないんだ...」
「そうだな」
「なあ、ティエラさん」
「なんだ?」
「もし、俺が特殊能力者だとしたら...どうする?」
「なんだと?」
少年は掌に力を伝わらせる。
すると...
(これは...!)
なんと、少年が掌をかざした先に、氷塊が完成していたのだ。
少年は得意げな顔でティエラを見る。
「どう?」
「.........お前はどうしたい?」
「オリジンを倒したい」
「!!」
少年はさっきまでとは違い、神妙な顔つきになった。
「オリジンは、父さんと母さんを殺した。そのせいで俺は今まで独りぼっちだった...だから...!」
「仇討ちか」
「違う。俺のような思いをする人たちがこれからも増えるのは...イヤなんだ!」
「!!」
「ティエラさんは、特殊能力者ならオリジンを倒せるかもしれないって言ったな?それなら...」
「...それなら?」
「俺に特殊能力を教えてくれ!セイレーンだったアンタなら、能力の使い方も完璧に理解してるんだろ!?」
「......一つ言う。死ぬぞ?」
「死ぬのは怖くない。もう...失うものもないから」
少年の目はどこまでもまっすぐだ。
ティエラはそんな少年が少し羨ましく感じた。
「.........お前、名は?」
「!!レオニード・ジノヴィエフだ!レオでいい!」
「分かった。それなら、俺はお前に能力の使い方を教える。限界までお前を導いてやる。覚悟しろ」
「おう!!」
こうして、レオはティエラの弟子となった。
2人は、かまくらを造り、そこを拠点に修行を積むことにした。
翌日...
「レオ、お前に一つ聞きたい」
「?なに?」
「その能力、どこで手に入れた?」
「そりゃあ、ここら辺だけど...」
「どうやって?」
「『実』を食べてからかな...」
「『実』...」
(なるほど...確かに、アレスはここ周辺で殺された...つまり...)
ティエラは思考を張り巡らせた。
まず、レオの使う能力は、アレスの能力で間違いない。
そして、『彼女』が言っていたこと...
『これはあくまで仮説なんだけど...。特殊能力者は、脳内で特別なエネルギーがめぐってるの。おそらく、それが特殊能力を生成してるんだと思うわ』
そして『アイツ』の”証言”…
『アタシは...2人のセイレーンを、頭に種子をぶち込んで、木ィ生やして殺した...。今考えると、頭おかしいよな...。やっぱ狂ってたんだよ...あんときのアタシ』
つまり、T・ユカの能力によって、アレスの頭から生えた木は、アレスの脳内にある特殊能力を生成するエネルギーを吸収しながら育ち、実を実らせた。
それを食べたレオの脳内には、その特別なエネルギーが宿り、アレスの能力が発現するに至った、ということだろう。
「ティエラさん?」
「…ああ、いや、少し考え事をしていただけだ。気にするな」
「それじゃあさ」
「?」
「俺はさっき自分自身のことを話したんだ。だから聞かせてくれよ。ティエラさんの『いままで』の話」
「...長くなるぞ?」
そして、ティエラはレオに自分の過去を隠さず話した。
レオは、ティエラの話を真剣に聞いていた。
そして...
話し終わったころには、日は沈みかけていた。
「確かに、長かった...」
「だから言っただろう...」
「でもさ、絶対無駄にならないと思うよ。俺にとっても、ティエラさんにとっても」
「!!」
「やっぱり、諦めちゃだめだよ。ティエラさん」
「...いくつだ、お前」
「え?13」
「ガキには分からんこともある」
「なんだよそれ」
「あるんだ」
「分かったよ...」
これ以上追及しても無駄だ、とレオは思った。
そしてその翌日...
「レオ、お前に課題を課す。それができるようになれば、俺に教えられることはない」
「課題?」
「そうだ。ズバリ、課題は、『雪だるまを作れ』だ」
「雪だるま!?」
「無理だと思えば一生できんぞ。いいか、お前自身を自由にしてやるんだ。自由意志は自分を高める最大の糧となる」
「...よし」
こうしてレオは、雪だるまを作ろうと、掌を前に出した。
しかし...
「...うわ、なんだこれ」
そこにあるのは不細工な氷塊の積みあがった何か。
しかも数秒後、頭(?)がバランスを崩して地面に落ち、割れてしまった。
「...やはりな。お前に足りないものは入力、制御の2つだ」
「どういう意味?」
「自分で考えろ。どう考えるかは、お前の自由だ」
「うへぇ...」
こうして、レオの修行は始まった。
それからというもの、レオは雪だるまを作る日々になるのだった。
一方その頃...
日本国...京都府にて...
8人の集団がぞろぞろと歩いている。
「なあ連、京都についたはいいけどよ、これからどうするんだ?」
大男が連(レン)という名の青年にそう話しかけた。
「戦力を探す」
一言そう告げると、連は足を止めた。
連の向く先には、いくつもの鳥居が並ぶ幻想的な神社...稲荷大社があった...。