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第27話 「始導」

「...ティエラ...さん?」


「ああ」


「そっか、セイレーンでも、やっぱりオリジンには敵わないんだ...」


「…そうだな。ヤツに勝つなど、特殊能力者かアシュラ一族でもなければ間違いなく無理だ」


「何だよその言い方。まるで本当に戦ってたみたいな─」


「ああ、戦ってたさ」


「...マジか」


そう、ティエラは自身の能力をオリジンに『没収』されてもなお、どうにかしてこの理不尽な世界に報いるため、8年もの間、”仲間たち”とともにオリジンと戦ってきたのだ。

予想外の回答に少年は驚きを隠せない。


しかし...


「じゃあ、今は何をしてんの?」


「...放浪だ」


「え」


「さっきも言っただろう。ヤツに勝つなど不可能だ。だから...」


「あきらめた…そういうこと?」


「改めて言われると刺さるな...」


ティエラは鼻で笑いながらそう言った。

そうだ、彼自身分かっている。

彼は諦めたのだ。

勝てない勝負から逃げたのだ。

さっきの鼻で笑ったのも、そんな自分に対しての嘲笑であろう。


「そっか...特殊能力者なら勝てるかもしれないんだ...」


「そうだな」


「なあ、ティエラさん」


「なんだ?」


「もし、俺が特殊能力者だとしたら...どうする?」


「なんだと?」


少年は掌に力を伝わらせる。


すると...


(これは...!)


なんと、少年が掌をかざした先に、氷塊が完成していたのだ。

少年は得意げな顔でティエラを見る。


「どう?」


「.........お前はどうしたい?」


「オリジンを倒したい」


「!!」


少年はさっきまでとは違い、神妙な顔つきになった。


「オリジンは、父さんと母さんを殺した。そのせいで俺は今まで独りぼっちだった...だから...!」


「仇討ちか」


「違う。俺のような思いをする人たちがこれからも増えるのは...イヤなんだ!」


「!!」


「ティエラさんは、特殊能力者ならオリジンを倒せるかもしれないって言ったな?それなら...」


「...それなら?」


「俺に特殊能力を教えてくれ!セイレーンだったアンタなら、能力の使い方も完璧に理解してるんだろ!?」


「......一つ言う。死ぬぞ?」


「死ぬのは怖くない。もう...失うものもないから」


少年の目はどこまでもまっすぐだ。

ティエラはそんな少年が少し羨ましく感じた。


「.........お前、名は?」


「!!レオニード・ジノヴィエフだ!レオでいい!」


「分かった。それなら、俺はお前に能力の使い方を教える。限界までお前を導いてやる。覚悟しろ」


「おう!!」


こうして、レオはティエラの弟子となった。

2人は、かまくらを造り、そこを拠点に修行を積むことにした。


翌日...


「レオ、お前に一つ聞きたい」


「?なに?」


「その能力、どこで手に入れた?」


「そりゃあ、ここら辺だけど...」


「どうやって?」


「『実』を食べてからかな...」


「『実』...」


(なるほど...確かに、アレスはここ周辺で殺された...つまり...)


ティエラは思考を張り巡らせた。


まず、レオの使う能力は、アレスの能力で間違いない。

そして、『彼女』が言っていたこと...


『これはあくまで仮説なんだけど...。特殊能力者は、脳内で特別なエネルギーがめぐってるの。おそらく、それが特殊能力を生成してるんだと思うわ』


そして『アイツ』の”証言”…


『アタシは...2人のセイレーンを、頭に種子をぶち込んで、木ィ生やして殺した...。今考えると、頭おかしいよな...。やっぱ狂ってたんだよ...あんときのアタシ』


つまり、T・ユカの能力によって、アレスの頭から生えた木は、アレスの脳内にある特殊能力を生成するエネルギーを吸収しながら育ち、実を実らせた。

それを食べたレオの脳内には、その特別なエネルギーが宿り、アレスの能力が発現するに至った、ということだろう。


「ティエラさん?」


「…ああ、いや、少し考え事をしていただけだ。気にするな」


「それじゃあさ」


「?」


「俺はさっき自分自身のことを話したんだ。だから聞かせてくれよ。ティエラさんの『いままで』の話」


「...長くなるぞ?」


そして、ティエラはレオに自分の過去を隠さず話した。

レオは、ティエラの話を真剣に聞いていた。


そして...


話し終わったころには、日は沈みかけていた。


「確かに、長かった...」


「だから言っただろう...」


「でもさ、絶対無駄にならないと思うよ。俺にとっても、ティエラさんにとっても」


「!!」


「やっぱり、諦めちゃだめだよ。ティエラさん」


「...いくつだ、お前」


「え?13」


「ガキには分からんこともある」


「なんだよそれ」


「あるんだ」


「分かったよ...」


これ以上追及しても無駄だ、とレオは思った。


そしてその翌日...


「レオ、お前に課題を課す。それができるようになれば、俺に教えられることはない」


「課題?」


「そうだ。ズバリ、課題は、『雪だるまを作れ』だ」


「雪だるま!?」


「無理だと思えば一生できんぞ。いいか、お前自身を自由にしてやるんだ。自由意志は自分を高める最大の糧となる」


「...よし」


こうしてレオは、雪だるまを作ろうと、掌を前に出した。


しかし...


「...うわ、なんだこれ」


そこにあるのは不細工な氷塊の積みあがった何か。

しかも数秒後、頭(?)がバランスを崩して地面に落ち、割れてしまった。


「...やはりな。お前に足りないものは入力、制御の2つだ」


「どういう意味?」


「自分で考えろ。どう考えるかは、お前の自由だ」


「うへぇ...」


こうして、レオの修行は始まった。

それからというもの、レオは雪だるまを作る日々になるのだった。





一方その頃...

日本国...京都府にて...

8人の集団がぞろぞろと歩いている。


「なあ連、京都についたはいいけどよ、これからどうするんだ?」


大男が連(レン)という名の青年にそう話しかけた。


「戦力を探す」


一言そう告げると、連は足を止めた。


連の向く先には、いくつもの鳥居が並ぶ幻想的な神社...稲荷大社があった...。

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