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第28話 「激成」

稲荷大社の入り口にて、8人ほどの集団が集結している。一人は大男、一人は地雷系女子、一人は高身長女子、一人は内側黒髪外側金髪でギョロ目の男、一人は巫女、一人はニット帽にロン毛の細目男、一人は坊主の学ラン男、一人はそれらを束ねる者。


大男の名は、松井康信(まつい やすのぶ)通称ヤス。


地雷系女子の名は、高梨沙羅(たかなし さら)通称サラ。


高身長女子の名は、野田恵美子(のだ えみこ)通称エミ。


内側黒髪外側金髪でギョロ目の男の名は、村上淳之介(むらかみ じゅんのすけ)通称ジュン。


巫女の名は、天野零奈(あまの れいな)通称レイ。


ニット帽にロン毛の細目男の名は、山本隆久(やまもと たかひさ)通称タカ。


坊主の学ラン男の名は、清水宏明(しみず ひろあき)通称ヒロ。


そして、それらを束ねる者の名は、連(レン)。


一行は、満を持して、何重もの鳥居を潜り抜け始めた。


「おい連、本当にこの先に戦力がいんのか?もしカスだったら俺ァ容赦しねえぜ」


ヤスが圧をかける。


「安心しろ。オレたちが束でかかっても倒せん」


それを連はぶった切った。


「うちらヤタガラスは今んとこ全戦無敗だけど、調子に乗ってちゃ、いつか喉元突かれるよ。ヤス」


サラにくぎを刺されたヤスはバツが悪そうな顔をしている。


そう、彼らの集団の名は、『ヤタガラス』。それは犯罪集団やカルト宗教と似て非なるものだ。


「連。またそういえばまた『解放軍』のやつらがうちに入りたいってさ。どうする?入れる?」


「好きにさせておけ。ヤツらはオリジンと何度も戦りあった経験のあるやつらだ。かならず戦力にはなるだろう」


ジュンの提案に連は簡潔に答えた。


「着いたぞ」


何重もの鳥居をくぐった先には、質素な木造建築物があった。


「さて...開錠と行こう」


連は左手に赤いオーラ、右手に青いオーラを纏わせると、その建物の扉の2つの取っ手にそれぞれ手をかけ、おもむろに開いた。


そして...


「うおっ!まぶしっ!」


ジュンが目を腕で覆いながらそう言った。

連以外の皆も同じようにしている。

突然建物の中からまばゆい光が発生したのだ。


光が収まった。

すると...


「えっ...キツネ?」


サラが唖然としながらそう言った。

そう、そこにいたのは、キツネの耳を頭から出し、巫女服に身を包んだ白髪赤目の少女。

こちらをみると、少女は目をはっと見開いた。そして...


「お主......八咫烏陰陽道の当主じゃな?」


「しゃべった...」


ヒロが口をあんぐりと開けながらそう言った。


連は口を開く。


「...そうだ。オレは連。八咫烏陰陽道(やたがらすおんみょうどう)140代目当主だ」


「!!ずっと...ずっと...!お待ちしておりました...!主(あるじ)様...!この通り、ずっとここで...気狐(キコ)はお待ちしておりました...!」


気狐と名乗った少女は感極まった様子で連にひれ伏し、そう述べた。


「...敬語である必要はない」


「!!...ふふっ、そう言うと思っておった。儂(ワシ)の主様は、みーんなそう言うからのう。うむ、やはりお主は間違いなく、本物の主様じゃな」


そう言うと、さっきとは打って変わり、気狐は姿勢を崩し、もふもふした自身の白い尻尾の毛繕いをし始めた。


「早速だが...オマエには我々ヤタガラスの一員となってもらう」


「主様がそうしろというのなら、そうしよう。では、改めて、儂の名は気狐。歴代八咫烏陰陽道当主に仕える式神(シキガミ)じゃ」


「しき...がみ?」


ヤスの言葉に気狐はうなずいた。


「つまりよ...お前...今いくつなんだ...?」


「む、おなごに齢を聞くとは、さてはお主、『がーるふれんど』なる者がおったことがないな?」


「うっ、うるせえ!大体なんで外来語知ってんだよ!あと俺の名はヤスだ!」


「うむ、ヤスよ。儂が封印されたのは明治元年でな。一応異国の者とも交流はあったんじゃ。見世物扱いなのが納得いかんかったがのう。『がーるふれんど』を連れて身に来る者もおった。それとじゃ。儂の齢は...そうじゃのう...はっきり言って覚えとらん。ま、千は超えとるじゃろ」


「せ、千!?とんでもねえやつだなおい...」


さっきまで「カスだったら容赦しない」などと大口叩いていたヤスだが、想定外の存在を前にしては、そのような尊大な態度もとることができなくなっていた。


「さて...戦力も集まった。そろそろ本格的に動くとしよう」


連は京都の広い街並みに目を向けながら、そう言うのだった。





空は、曇天。ユーラシア大陸の北部の森にて、そこには何者かによって基地が構えられていた。


「ユカさん!大変だ!!」


「どうした!」


息を切らしながら走ってきた武装した男に『彼女』は状況の説明を求めた。


「100人だ!100人が行方不明になった!」


「落ち着け。...おそらく、脱走だろう。最近急激に脱走者が増加してきている。だけど、アタシらにアイツらを止める権利なんかない...。ここにいたらつらいのは、アタシも十二分に理解してるつもりだ」


「.........」


「だからこそ、残ってくれて...ありがとな」


「!!...はい!!」


「よし、そろそろ補給へ向かおう。伝達頼む」


「了解!!」


男はそう返事すると、伝達のため、仲間の集まる場所へと走っていった。


「ティエラ...お前が『解放軍(ここ)』を抜けてからこのザマだ...。一体どうしてくれんだっての...」


「今まで残ってたことのほうが異常なんじゃない?」


「!!ハンナ...!」


ハンナという白衣に身を包んだ女性の言葉に、彼女は何も言い返せなかった。

彼女、つまり、T・ユカは『あの出来事』から8年たち、21となった今も、『解放軍』という組織を指揮し、打倒オリジンを掲げ続けている。ケジメをつけるため、ばっさりと切ったその髪とともに。


そして、ハンナ。彼女のフルネームは、ハンナ・ホムラである。彼女とユカは、『解放軍』の協力者という関係として8年間、活動を共にしてきた。彼女は1世代に一人の逸材と言われる天才科学者である。ぼさぼさな紫の髪とムダにサイズのデカい丸眼鏡、そして白衣がトレードマークだ。


「ま、そういう私も、まだここに居座ってるわけなんだけれどね」


「全くだ」


二人は悪態をつきあう。


「ティエラは...まだ帰らんのか...」


「「!!」」


背後の建物から声がした。その正体はH・タイゾウ。かつては老人とは言えないほどの戦闘能力を発揮していたが、今となっては病床に伏す一人の老人だ。いくらH・タイゾウと言えど、病と老いには勝てなかった。少しボケ始めてもいる。


「......大丈夫だよ!タイゾウ!アイツならきっとすぐ帰ってくるって!忘れ物を取りに帰っただけなんだから!」


「そうかあ...。じゃあ、帰ってくるまでは死ねんばい...」


「死ぬなんて...んなこと言うなよ...。お前はまだ生きなきゃダメなんだって...」


T・ユカは、初めこそ元気を取り繕っていたものの、だんだんとその笑顔も歪んでいった。


「...ユカ、アンタ、無理しすぎ。少しは休みなさい」


「そうはいかねえよ...。ティエラがいない分、アタシがやんねえと...」


T・ユカも、あまり余裕がない状況なのだ。


そんなときだった。


「おい!誰だお前は!ここはガキの来るところじゃないぞ!!」


そんな声が響いてきた。


T・ユカはその現場へと向かう。


「どうした?」


「!ユカさん!全く、コイツ、どうにかしてくださいよ!帰れって言っても聞かんのです!」


「......お前、名は?年はいくつだ」


T・ユカは、少年に話しかけた。容姿から察するにアラブ系だろう。


「イドリース・アリー。イドでいい。年は13」


「!!...いいか、イド。ここは子どもの来るところじゃない」


「......」


その沈黙で、T・ユカは、何かを察した。


「...帰る場所が、ないんだな?」


イドはうなずいた。T・ユカはため息をつく。彼は似ているのだ。かつての彼女と。


「...なんでここを選んだんだ?」


「俺は特殊能力者だ」


「!!」


そう言うと、イドは指先からバチバチと電気を起こした。彼の能力は、おそらく『彼女』の電磁力だ。


「...食ったな?実を」


イドはうなずく。


「戦力がいなくなっている。そうだろ?」


「なぜ知っている...」


「盗み聞きしていたからさ。それに、その原因も知っている」


「!!脱走じゃ...ないのか?」


「脱走だ。だけど、『どこに』脱走したか、アンタらは知らない」


「......何を求める」


「アンタは風穴拳一族の生き残りだから、武術にも長けているはずだ。今俺にあるのは弓の技術と特殊能力だけだ。これだけじゃ、ダメなんだ。だから、俺に武術を教えてほしい」


「......目的はなんだ」


「アンタらの仲間を次々引き込んでいるヤツら...そして、俺の家族を皆殺しにしたヤツら...『ヤタガラス』を、皆殺しにすることだ」


次の瞬間、稲妻が光とともに曇天を裂いた。

その光が、イドの鋭い眼光をより一層、際立たせたのだった。

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