稲荷大社の入り口にて、8人ほどの集団が集結している。一人は大男、一人は地雷系女子、一人は高身長女子、一人は内側黒髪外側金髪でギョロ目の男、一人は巫女、一人はニット帽にロン毛の細目男、一人は坊主の学ラン男、一人はそれらを束ねる者。
大男の名は、松井康信(まつい やすのぶ)通称ヤス。
地雷系女子の名は、高梨沙羅(たかなし さら)通称サラ。
高身長女子の名は、野田恵美子(のだ えみこ)通称エミ。
内側黒髪外側金髪でギョロ目の男の名は、村上淳之介(むらかみ じゅんのすけ)通称ジュン。
巫女の名は、天野零奈(あまの れいな)通称レイ。
ニット帽にロン毛の細目男の名は、山本隆久(やまもと たかひさ)通称タカ。
坊主の学ラン男の名は、清水宏明(しみず ひろあき)通称ヒロ。
そして、それらを束ねる者の名は、連(レン)。
一行は、満を持して、何重もの鳥居を潜り抜け始めた。
「おい連、本当にこの先に戦力がいんのか?もしカスだったら俺ァ容赦しねえぜ」
ヤスが圧をかける。
「安心しろ。オレたちが束でかかっても倒せん」
それを連はぶった切った。
「うちらヤタガラスは今んとこ全戦無敗だけど、調子に乗ってちゃ、いつか喉元突かれるよ。ヤス」
サラにくぎを刺されたヤスはバツが悪そうな顔をしている。
そう、彼らの集団の名は、『ヤタガラス』。それは犯罪集団やカルト宗教と似て非なるものだ。
「連。またそういえばまた『解放軍』のやつらがうちに入りたいってさ。どうする?入れる?」
「好きにさせておけ。ヤツらはオリジンと何度も戦りあった経験のあるやつらだ。かならず戦力にはなるだろう」
ジュンの提案に連は簡潔に答えた。
「着いたぞ」
何重もの鳥居をくぐった先には、質素な木造建築物があった。
「さて...開錠と行こう」
連は左手に赤いオーラ、右手に青いオーラを纏わせると、その建物の扉の2つの取っ手にそれぞれ手をかけ、おもむろに開いた。
そして...
「うおっ!まぶしっ!」
ジュンが目を腕で覆いながらそう言った。
連以外の皆も同じようにしている。
突然建物の中からまばゆい光が発生したのだ。
光が収まった。
すると...
「えっ...キツネ?」
サラが唖然としながらそう言った。
そう、そこにいたのは、キツネの耳を頭から出し、巫女服に身を包んだ白髪赤目の少女。
こちらをみると、少女は目をはっと見開いた。そして...
「お主......八咫烏陰陽道の当主じゃな?」
「しゃべった...」
ヒロが口をあんぐりと開けながらそう言った。
連は口を開く。
「...そうだ。オレは連。八咫烏陰陽道(やたがらすおんみょうどう)140代目当主だ」
「!!ずっと...ずっと...!お待ちしておりました...!主(あるじ)様...!この通り、ずっとここで...気狐(キコ)はお待ちしておりました...!」
気狐と名乗った少女は感極まった様子で連にひれ伏し、そう述べた。
「...敬語である必要はない」
「!!...ふふっ、そう言うと思っておった。儂(ワシ)の主様は、みーんなそう言うからのう。うむ、やはりお主は間違いなく、本物の主様じゃな」
そう言うと、さっきとは打って変わり、気狐は姿勢を崩し、もふもふした自身の白い尻尾の毛繕いをし始めた。
「早速だが...オマエには我々ヤタガラスの一員となってもらう」
「主様がそうしろというのなら、そうしよう。では、改めて、儂の名は気狐。歴代八咫烏陰陽道当主に仕える式神(シキガミ)じゃ」
「しき...がみ?」
ヤスの言葉に気狐はうなずいた。
「つまりよ...お前...今いくつなんだ...?」
「む、おなごに齢を聞くとは、さてはお主、『がーるふれんど』なる者がおったことがないな?」
「うっ、うるせえ!大体なんで外来語知ってんだよ!あと俺の名はヤスだ!」
「うむ、ヤスよ。儂が封印されたのは明治元年でな。一応異国の者とも交流はあったんじゃ。見世物扱いなのが納得いかんかったがのう。『がーるふれんど』を連れて身に来る者もおった。それとじゃ。儂の齢は...そうじゃのう...はっきり言って覚えとらん。ま、千は超えとるじゃろ」
「せ、千!?とんでもねえやつだなおい...」
さっきまで「カスだったら容赦しない」などと大口叩いていたヤスだが、想定外の存在を前にしては、そのような尊大な態度もとることができなくなっていた。
「さて...戦力も集まった。そろそろ本格的に動くとしよう」
連は京都の広い街並みに目を向けながら、そう言うのだった。
空は、曇天。ユーラシア大陸の北部の森にて、そこには何者かによって基地が構えられていた。
「ユカさん!大変だ!!」
「どうした!」
息を切らしながら走ってきた武装した男に『彼女』は状況の説明を求めた。
「100人だ!100人が行方不明になった!」
「落ち着け。...おそらく、脱走だろう。最近急激に脱走者が増加してきている。だけど、アタシらにアイツらを止める権利なんかない...。ここにいたらつらいのは、アタシも十二分に理解してるつもりだ」
「.........」
「だからこそ、残ってくれて...ありがとな」
「!!...はい!!」
「よし、そろそろ補給へ向かおう。伝達頼む」
「了解!!」
男はそう返事すると、伝達のため、仲間の集まる場所へと走っていった。
「ティエラ...お前が『解放軍(ここ)』を抜けてからこのザマだ...。一体どうしてくれんだっての...」
「今まで残ってたことのほうが異常なんじゃない?」
「!!ハンナ...!」
ハンナという白衣に身を包んだ女性の言葉に、彼女は何も言い返せなかった。
彼女、つまり、T・ユカは『あの出来事』から8年たち、21となった今も、『解放軍』という組織を指揮し、打倒オリジンを掲げ続けている。ケジメをつけるため、ばっさりと切ったその髪とともに。
そして、ハンナ。彼女のフルネームは、ハンナ・ホムラである。彼女とユカは、『解放軍』の協力者という関係として8年間、活動を共にしてきた。彼女は1世代に一人の逸材と言われる天才科学者である。ぼさぼさな紫の髪とムダにサイズのデカい丸眼鏡、そして白衣がトレードマークだ。
「ま、そういう私も、まだここに居座ってるわけなんだけれどね」
「全くだ」
二人は悪態をつきあう。
「ティエラは...まだ帰らんのか...」
「「!!」」
背後の建物から声がした。その正体はH・タイゾウ。かつては老人とは言えないほどの戦闘能力を発揮していたが、今となっては病床に伏す一人の老人だ。いくらH・タイゾウと言えど、病と老いには勝てなかった。少しボケ始めてもいる。
「......大丈夫だよ!タイゾウ!アイツならきっとすぐ帰ってくるって!忘れ物を取りに帰っただけなんだから!」
「そうかあ...。じゃあ、帰ってくるまでは死ねんばい...」
「死ぬなんて...んなこと言うなよ...。お前はまだ生きなきゃダメなんだって...」
T・ユカは、初めこそ元気を取り繕っていたものの、だんだんとその笑顔も歪んでいった。
「...ユカ、アンタ、無理しすぎ。少しは休みなさい」
「そうはいかねえよ...。ティエラがいない分、アタシがやんねえと...」
T・ユカも、あまり余裕がない状況なのだ。
そんなときだった。
「おい!誰だお前は!ここはガキの来るところじゃないぞ!!」
そんな声が響いてきた。
T・ユカはその現場へと向かう。
「どうした?」
「!ユカさん!全く、コイツ、どうにかしてくださいよ!帰れって言っても聞かんのです!」
「......お前、名は?年はいくつだ」
T・ユカは、少年に話しかけた。容姿から察するにアラブ系だろう。
「イドリース・アリー。イドでいい。年は13」
「!!...いいか、イド。ここは子どもの来るところじゃない」
「......」
その沈黙で、T・ユカは、何かを察した。
「...帰る場所が、ないんだな?」
イドはうなずいた。T・ユカはため息をつく。彼は似ているのだ。かつての彼女と。
「...なんでここを選んだんだ?」
「俺は特殊能力者だ」
「!!」
そう言うと、イドは指先からバチバチと電気を起こした。彼の能力は、おそらく『彼女』の電磁力だ。
「...食ったな?実を」
イドはうなずく。
「戦力がいなくなっている。そうだろ?」
「なぜ知っている...」
「盗み聞きしていたからさ。それに、その原因も知っている」
「!!脱走じゃ...ないのか?」
「脱走だ。だけど、『どこに』脱走したか、アンタらは知らない」
「......何を求める」
「アンタは風穴拳一族の生き残りだから、武術にも長けているはずだ。今俺にあるのは弓の技術と特殊能力だけだ。これだけじゃ、ダメなんだ。だから、俺に武術を教えてほしい」
「......目的はなんだ」
「アンタらの仲間を次々引き込んでいるヤツら...そして、俺の家族を皆殺しにしたヤツら...『ヤタガラス』を、皆殺しにすることだ」
次の瞬間、稲妻が光とともに曇天を裂いた。
その光が、イドの鋭い眼光をより一層、際立たせたのだった。