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第29話 「交錯」

修行開始から三カ月。レオはいつものように雪だるまを作っていた。


「はあっ!」


そんな掛け声とともに2つの丸い輪郭が形成され、その内側が氷で満たされていく。

そして...


「おお!やったあ!!」


見事な雪だるまが完成した。


「.........」


レオはティエラを期待の眼差しで見つめる。


「...俺に教えられることはもうない」


「!!じゃあ─」


「だが」


「だが!?」


「まだ完全ではない」


「どうしろってのさ!」


「ついてこい。次の段階に移る」


そう言うと、ティエラはレオを連れて、山奥へと進んでいった。


「ねえ!どこいくんだよ!?」


「俺の役目は終わった。あとは『アイツ』に任せるだけだ」


「『アイツ』?」


「ああ、俺がお前に教えたのは能力の基本的な扱い方。次に必要なのは、『戦い方』だ」


「......?」


数十分歩き続けたとき、ティエラは突然立ち止まった。


「!?ちょっ!?急に立ち止まらないでくれよ!」


「...悪かったな。いいか。ここからまっすぐ進んだ先に『アイツ』はいる」


「あ、ああ...」


「あ、あと...」


「今度は何?」


「『アイツ』には決して、『誰』に連れて来られたかは言うな」


「はあ...」


「じゃ」


「えっ...!ちょっと!?」


ティエラはレオの言葉に全く耳を傾けず、その場を去っていった。





一方その頃...


「よし、いったん休憩にしよう。10分休憩したら、組み手再開だ」


T・ユカの言葉に対し、イドはうなずくと、近くの大きな石に座り込んだ。

その後、イドは延々と矢じりの刃をといでいた。


「その弓矢...えらく大切にしているんだな」


「ああ。家族の形見だ」


「形見...」


イドはうなずいた。


「俺の故郷は、自給自足で暮らしていた少数の住民で構成される集落だった。定期的に移動を繰り返し、狩りや植物の栽培で食べ物は手に入れていた」


「えらく原始的だな...」


「仕方ないさ...。元々、支援を受けていたが、それも打ち切られたのならどうしようもない。そこで教わったのが、弓の技術だ」


「なんで支援を打ち切られたんだ?」


「確か、世界国家に気に入られなかったか何かが原因だったはずだ。俺も詳細なことは分からん。生まれたときには既に自給自足の生活だったものでな」


「相変わらず気まぐれな機関だな。世界国家は」


「世界のほとんどを統治する機関だ。俺たちのような少数派を支援するほどの余裕はないだろうさ」


「...確かに、その通りだ。アタシも、『見えなくなっている』人間の一人、か...」


その後、2人の間に長い沈黙が流れた。


そのときだった。


「ユカさん!!」


突然遠くから仲間の呼ぶ声が聞こえた。


「どうした!!」


「誰かがこっちに来ます!」


「...なんだと?」


「どうした」


「お前はここで待ってろ」


T・ユカはイドを制止すると、基地の入り口付近へと向かっていった。


そこにいたのは、また子ども...。


「...お前、どこから来た?名前は?」


「レオニード・ジノヴィエフ。レオでいい。オリジンを倒すためにここ周辺の雪山から来た。『ある人』にここで戦い方を教われって言われたんだ」


「...レオ。それは誰だ?」


「それは......」


レオはどもってしまった。


「.........総員!!周辺を捜索しろ!!」


「!!はっ!!」


T・ユカの命令に仲間たちは応じた。


「まさか...お前なのか...!?」






レオを基地に送り届けたティエラは、雪山を下りていく途中だった。


(これでいい...これでいいんだ...。俺はもう、戦わないと決めたのだから...)


ティエラは力の抜けた歩調で雪を踏み歩く。


そのときだった。


「オマエが、ティエラだな」


「!?」


ティエラは突然背後から声を掛けられ、勢いよく振り返った。


(全く、気配を感じなかった...!?)


背後にいたのは、どこまでも黒い目をしている青年。


「...何者だ」


「オレは連。『ヤタガラス』のリーダーだ」


「『ヤタガラス』...?」


(コイツ...ただ者ではないな...。どういうつもりだ...?)


「俺に何の用だ」


「オマエを『ヤタガラス』に勧誘するため、ここに見参した」


「断る。そもそも、『ヤタガラス』とは何だ」


「知らずして拒むとは...愚かな」


「『お前たち』のほうがよっぽど愚かに見えるが...?」


次の瞬間、木陰から残りの7人が出てきた。


「俺を勧誘して何になる。目的はなんだ」


「『導く』。それが我々の目的だ。オマエの実力は高い。それを見込んで勧誘した」


「意味が分からん。尚更断る気にしかなれんな」


「そうか...残念だ」


連が片手を上げると、7人は臨戦態勢に入った。ティエラも小銃に手をかける。


が、


「ティエラさん...?ティエラさんじゃねえか!!」


「!?」


7人の背景から数十人の武装した者たちが現れたと思ったその時、その集団のうちの一人がそう言った。


「お前は...!」


「ティエラさん...!俺も『解放軍(あそこ)』を抜けたんだ!ティエラさんも、うんざりしてたんだろ?俺も同じさ。あんなバケモンと戦り合うなんて、もうこりごりだ!!」


そう、彼の正体は、元『解放軍』の一人。そして、今は脱走し、『ヤタガラス』の一人となっている。


「.........お前ら」


ティエラは7人をにらみつけた。


「私たちを責めないでくれる?これは彼の意思。いえ、『彼らの意思』なのだから」


サラはにらみつけるティエラをそう一蹴りした。


「さて...使いもンになんねえなら仕方ねえ。連。コイツ、殺っちまっていいんだよな?」


ヤスは自身の指をパキパキと鳴らし、ニヤついている。


「無論だ」


「っ...!」


(この人数差...さすがに分が悪いぞ...!)


ティエラは、かつての仲間に銃口を向けることをためらいながらも、小銃を構えた。


そのときだった。


「ティエラ!!!!」


「!?ユカ...!?」


何と、T・ユカが『解放軍』の仲間を引き連れて、ティエラのもとに現れたのだ。

これで、人数差はほとんどなくなった。むしろ、ティエラのほうが人数面では優勢に傾いている。


「ユカ...!なぜ...!?」


「お前が連れて来たんだろ?」


「......!」


「安心しな。アイツは『お前が連れて来た』なんて言わなかった。お前のことだ。『誰』に連れて来られたかは言うな、なんて言ったんだろ」


「.........何で分かった」


「『誰かに連れて来られた』って時点で察するさ」


「.........」


T・ユカは『ヤタガラス』のほうへと向き直る。

そこには、自分に銃口を向けるかつての仲間の姿もあった。


「さて、と...」


T・ユカは、ある程度の準備運動で身体をほぐすと、拳を前に出し、構えた。


「いろいろ聞きたいことはあるが、今は『こいつら』だ」


「ああ。分かっている」


こうして、3つの『物語』は、ついに交錯したのだった。

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