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第33話 「応酬」

午後6時、上海周辺の鉱山にて...ついにその時が来た。


「ちゃんと来たな。そこは褒めといてやらあ」


「.........」


ヤスは指をポキポキと鳴らしている。

そこからは物凄い威圧感を感じられるが、イドはそれに全く応じない様子だ。


「...ったく、いつ見ても嫌な目をしてやがんぜ。お前、前に俺たちと会ったことでもあったのか?」


「......ああ。家族を皆殺しにされた」


「......」


ヤスは一旦沈黙に入った。


「俺たちはただ集落を作って密かに暮らしていた。ただそれだけなのに...!」


「......集落の、名は?」


「IS」


「くっ...くっくくく............知らねえなァ...!」


ヤスは青筋を浮かべ、ニタァと笑いながらイドにそう言った。


「殺したつっても、赤の他人だしなァ」


「...外道が」


「ハッ、どの口が...!」


眉間にしわを寄せながら、イドは勢いよく矢を取り出し、弓を構えた。周りで電気がバチバチと散る。


「お前たちは...人間などではない...悪魔だ...!」


「へへっ...!言ってろ、クズが!」


弓矢を引き、矢を放とうとした次の瞬間、


「させねえよ!」


ものすごいスピードでヤスはイドの背後に回った。


「!!そうか...!足の筋力を─」


「おらあっ!!」


「ぐはっ!?」


脇腹にとんでもない一撃を喰らい、衝撃で吹っ飛んだイドは岩壁に激突する。


「俺がタダの筋肉ダルマだと思ってんならとんだ勘違いだぜ!!さあ、立てよクソガキ!そんなもんじゃねえんだろ!?」


「...!」


イドは立ち上がる。


「確かにすごいパワーだな...だが...」


イドは拳を前に出し、構えた。


「ほおん、俺と素手でやり合おうってのか...良い度胸してやがんぜ。そんなに死にてえかァ!?」


ヤスはイドに飛び掛かってきた。そのまま拳をイドに降ろす。

しかし、イドは軽い身のこなしでそれをかわすと、空中でヤスの顔面に思い切りかかとを入れた。


「ぐっ!?」


一瞬ひるんだヤスだが、地に立つと、すぐに体勢を立て直す。


「へえ...やんじゃねえか」


イドはヤスが大地に一撃喰らわせた跡を見た。

そこにはクレーターが形成されていた。


「...加減したのか?」


「勘違いすんな。手が滑っただけだ」


「...一つ聞きたいことがある」


「なんだ」


「お前たちは...何がしたい?」


「......俺は、連についていく。ただそれだけだ。その先は、アイツ自身しか知らない」


「...話にならなさそうだな」


イドは再び構えた。


ヤスも再びヤスに近づく。


「ふんッ!!」


ヤスは自身の足を横にスライドさせる蹴りを繰り出したが、イドはそれを軽々しくかわし、ヤスの顎を思い切り蹴り上げた。


「がはっ!?」


「クソがっ!!」


ヤスは拳を出すが、それもかわされてしまった。


「ッ!!どこだ...!?」


ひらりと回り込んだイドは脇腹に回し蹴りを決めた。


「...やはりな」


「...!?」


イドはヤスの弱点を見抜いていた。


ヤスの能力は自身の筋力を増幅させるというものであるが、それはつまり、自身の身体に対してアンバランスなほどに筋肉を膨張させるという代償もつくということだ。


過剰に膨張した筋肉により、その部位の質量も格段に増加する。つまり、攻撃する際、体の体力を通常よりも使わなければならず、移動スピードは増幅できても、攻撃スピードは逆に遅くなる。木刀を振ることが普通のラインとすると、能力使用時のヤスの攻撃は、日本刀を振るようなものだ。それに、強化された部位の体積も増えることで、視界も悪くなる。

イドのような体が小さく、素早い敵にはあまりにも相性が悪すぎるのだ。


「て...てめえ...接近戦も強えのかよ...!」


「体術を鍛える前なら、確実に負けていた。だが、今ならお前を翻弄できる」


「くっ...くくっ...だーはっはっはっ!!」


「!?」


「まだだ...まだこれからだぜ...!自惚れるなよォ!!」


「......」


どうやら、2人の戦いはまだまだ続くようだ。





一方その頃...ティエラとT・ユカ、そしてその仲間たちは鉱山周辺を警備していた。


「...やってるな」


「ああ、うまく運ぶといいが......」


静寂の中響く轟音を聞きながら2人はイドの戦況を気に掛けていた。


そのときだった。


パラパラという音が近くの砂山の上部から聴こえてきた。


「!!戦闘準備!!」


ティエラのその言葉とともにT・ユカ以外の皆は銃を構えた。


パァン!!


ティエラが音の聞こえた場所へと発砲する。

すると、


ドパパパァン!!


今度は向こうからマシンガンを連射される音が聴こえた。

そして、その直後、数人の兵士が倒れた。皆頭部に穴が形成されている。


(まさか...!)


ティエラはマシンガンを取り出し、持ち変える。


「お前ら!!一旦隠れろ!!」


ドパパパァン!!


ティエラと敵の連射する音が響き渡る。


全ての相殺された銃弾は、ティエラの頭部の前に落ちた。


(どうやらその場で自身の視覚が認識した相手にしか当てられないようだな)


「連だろう!やはり裏切るつもりだったな!敵同士の口約束ほど信用できないものはない!」


そう言いながらティエラはT・ユカに片手でゴーサインを出した。

T・ユカはうなずくと、こっそり、しかし、素早く、その場を後にした。


「...残念だったわね。私は連じゃない」


(...女?どういうことだ?)


次の瞬間、発砲音が再び響き渡った。ティエラは再び相殺した。


「それに...貴方が何を言いたいのかは分からないけど、仲間が戦うのなら協力するのは当たり前でしょ?」


「......話が通じないのか?お前は...」


T・ユカは敵のいる砂山の上部を目指して登る。

敵はティエラやその仲間たちとの銃撃の応酬で彼女の存在に気づいていない。


(そろそろだな)


ティエラは何かを投げた。


それは敵の足元に落ちる。


「これは...手榴弾...!」


逃げなければ。そう判断した敵は一旦狙いを解いて移動しようとした。


が、


「ゲームオーバーだ」


「!?そんな─」


敵のすぐ背後に到達したT・ユカによって気絶させられてしまったのだった。


T・ユカはティエラに合図を送る。


「...よし、これで、“聞き出せる”」


ティエラはそう呟くと、砂山を下りてきたT・ユカの元へ向かった。


ここで一つ、手榴弾はダミーである。相手は本物と思い込み、狙いを解いて移動を始めさせるためのトリガーに過ぎないものだったのだ。

こうして『解放軍』は、『ヤタガラス』のメンバーの一人を拘束することに成功したのだった。





ヤスは一旦イドから距離をとる。

そして、そこらにある石ころをつかむと、筋力を増幅させ、それをイドに向かって投げ始めた。物凄い速さである。そして、制球も意外なことに整っていた。


「こう見えても、俺ァ元野球部だぜ!!覚悟しな!!」


イドは一撃目をギリギリでかわすと、もう一撃目は電気を帯びた矢で粉砕した。

貫通した矢は、ヤスの頬をかすった。

ヤスの頬を血が伝う。


ちなみに、彼の弓矢と特殊能力を合わせた技について説明しておこう。


その構造としては、イドの能力...元はテティスの能力である『電磁力』を、弓を張ったときに弓矢に帯びさせる。そして放つ際には、強い電磁力による圧倒的な威力と速度を以て矢は目標に向かう技...。


その名も...『超電磁弓(レイル・ボウ)』。


「ちっ...!やっぱあの電気の矢には敵わねえか...!」


「...あの威力...なるほど、あまり調子に乗らないほうがよさそうだ」


そう言うと、イドは再び矢を取り出し電気を発しながら弓を張る。


「おらあっ!!喰らいやがれ!!」


ヤスは何十発もの投石を一気にイドに浴びせる。


「愚かな奴め......ここで惨めに死ね」


イドは矢を放った。電気を帯びた矢は一気に加速し、飛んでくる石を何個も貫通すると、ヤスの胸部を貫いた。


「...かはっ...!」


二本指が通るほどの穴が開いた自身の胸部を数秒見つめると、ヤスは吐血し、片膝をついた。


「ぐっ...!」


イドもイドで投石により、いくつかの部位がえぐれるなどのダメージを受けた。


「はは...こりゃ、参ったなァ...。こんなことなら、連たちも連れてくるんだったぜ...」


「...最後に、問う」


「...ああ?」


「動機は?」


「......『やりたかったからやった』。そんだけだ」


「......」


「大体な...お前なんか死んだほうが─」


次の瞬間、電気の矢が今度はヤスの心臓を完全に貫いた。

ヤスはその後、倒れ込み、ついに息絶えた。


『ヤタガラス』の一人を殺害することに成功したイド。しかし、そこには何の喜びもなく、ただ、燃えるような怒りが彼を駆け巡るだけであった。


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