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第34話 「連鎖」

「...名は?」


「エミ」


「能力は?」


「...『必中』。視認したもの全てを標的に飛び道具の軌道を変える...貴方も分かってるのでしょう?」


「...まあな」


「お前、極と...日本人か」


「ええ」


「日本人ならあれがいるだろう。『カツドン』だったか...」


「...いや、あんなのドラマの中での尋問シーンでしかないわよ」


「...そうか」


そう、今、まさにティエラによる捕虜への尋問が行われている。


「さて、本題だが...」


「......」


「出身は?」


「東京」


「行きつけの店は?」


「......貴方の企みは分かってる。拠点は吐かないわよ」


「なるほど...簡単にはいきそうもないな。だが、上海が現在の拠点であることは確かだ」


「...ええ。それにしても、どうやって知ったの?」


「俺たちは『解放軍』...今のうちはまだ数々の民族政府お抱えの組織だ。中華民族政府も例外ではない。上海が中華民族政府の重要な経済基盤であることは周知の事実。それを叩いたとなれば、たとえ市民がお前を味方しても、政府がそれを許さない。あそこに民主主義などないからな。かつてより権威主義がまかり通っていた地域だ」


「......」


「それともう一つ」


「...?」


「...お前の能力は、お前のものか?」


「.........それがなにか?」


「なるほど」


「......?」


「大体わかった」


(おそらく...連の能力は他人の能力の奪取・譲渡だ。だが、それが分かったとしてもだ...。もしそれが事実なら、理不尽にもほどがあるぞ...!)


「...まだなにか?」


「いや、もういい。お前は要らん」


「世界市民の味方であろうはずの『解放軍』が随分と残酷なことを言うのね。人を要るか要らないかで判断するなんて」


「いつ俺たちが市民の味方であるなどと抜かした?俺たちはオリジンを倒すための組織であり、そこらの慈善団体とは違うんだ。だから俺はここに嫌気がさした」


「......」


「まあ、安心しろ。今は殺さない」


そう言うと、ティエラは席を立ち、退室した。


それとすれ違う形で、数人がエミのいる部屋に入ってくるのだった。




鉱山跡にて...


「夜、アイツ、『出かけてくる』なんて言って...そしたらこれかよ...」


第一発見者であるヒロは動揺しながらそう呟いた。


「...あの野郎、俺たちに黙ってやがったのか...。それじゃあ、アイツは独りで敵に突っ込んで...」


タカは冷静に分析をしながらも、心のどこかは動揺している様子だ。


「きっと...私たちに心配をかけたくなかったのでしょう...。それにしても、あんまりです...私たちにだってなにかできたはずなのに...」


レイに後悔の念が襲う。


「嘘...ヤスが、こんな...どうして...」


サラはまだ現実を受け入れられずにいる。


「............」


連はいっときヤスの遺体を見つめると、そのままどこかへと行ってしまった。


「あまりにも、早すぎる...。それに、エミも帰ってこねえ...。アイツ、ヤスが心配で行っちまったんだろうけど、もう帰ってこずに1日経ちやがった...。もしかして、拘束されちまったのか...!?これが『解放軍』の強さかよ...!」


ジュンはヤスの死とともに、『解放軍』の力にも絶望を覚えた。


こうして『ヤタガラス』はヤスを弔った後、連の指示で全員が連を中心とした一点に集結した。


「連...俺たちこれからどうすんだ?」


タカは不安そうに尋ねる。


「...これからオレたちは、西へ向かう。それと...気狐」


「うむ」


突然連の隣に気狐が現れた。


「今のオレたちでは、力不足だ。主戦力であるヤスがあのやられようでは、正直ヤツら相手にまともに太刀打ちできるかも怪しくなってくる。今のオレが一人で出向いたところで、数の暴力で倒されるのがオチだろう...。そこでだ」


「儂に...戦いの教えを乞うということじゃな」


「ああ」


「主様の命じゃ。断る道理がない」


「...感謝する」


連がある程度の方針を伝えた後、各人は出発の準備を始めた。


「連......大丈夫?」


サラは心配そうに話しかける。


「大丈夫...とは?」


「.........ううん、なんでもない。ごめん...」


そう言うと、サラはそのまま自身のまとめた荷物の元へと向かっていった。





「これより、我ら『ヤタガラス』はここを発つ。準備はいいな?」


『おう!!』


連の言葉に、各メンバーは勢いよく返した。


こうして、『ヤタガラス』は、夕日とともに西へと足を進めようとした......が、そのときだった。


「......誰かが来る」


後ろを見ながらサラはそう言った。


「誰だ」


サラはさらに遠くへと視覚を拡張させる。

彼女の特殊能力は『千里眼』。その名の通り、遠くまでの景色を視認できる能力である。


「......エミ?」


『!?』


メンバーは動揺を隠せない。


数分待つと、笑顔でこちらに手を振りながら歩いてくるエミの姿が明らかになった。





「皆、迷惑かけてゴメン。それと...ただいま」


メンバーは安堵の表情で彼女の帰りを喜んだ。


「なんだよ!無事ならそう言えっての!」


そう言いながらジュンはエミを小突いた。


「何よ...もう!アタシてっきり...!」


そう言うと、サラはついへたり込んでしまった。


「さて、これで“全員“そろったことだ。行こう」


皆はうなずく。


こうして、今度こそ『ヤタガラス』は、西へ向かって出発した。





皆が談笑しながら歩いている中、エミはただ独り、何かと葛藤しているようだった。


そして...


エミは突然立ち止まった。


「?どうしたんだよ、エミ」


ジュンは振り返ってそう言った。

皆もエミのほうへと振り返る。


「......あのね、実は私...皆に言わないといけないことがあるの。今日までのことなんだけど...」


「?何よ突然...。まさか...!やっぱり、何かされたのね!?アイツらに!!」


必死の形相になったサラを見てエミは苦笑いし、そして、深呼吸すると、こう言った。





「私ね............すっごく幸せ!!」





そのときのエミは、輝くような笑顔だった。





...が、





一瞬の出来事が、彼らを襲った。





ズドォン!!!!





本当に、本当に一瞬の出来事だった。


何も、理解できなかった。


いや、理解しようとしていなかっだけなのかもしれない。


突然閃光が“雷鳴”とともにエミを貫き、エミは、紅い血とともに、舞った。


そして、エミの身体が大地にたたきつけられたとき、皆の時は、再び動き出した。


「エミ....!?そんな....エミ....!エミ!!」


サラは一足先にエミに駆け寄り、エミの身体を揺さぶった。


「あ...」


そして、サラは気づいてしまった。


エミの胸部は、その先の景色を映し出している。

サラの知っている心臓の姿は、ない。


サラはその場で膝をつき、動かなくなってしまった。


動かなくなっていたのは、皆も同じである。


皆、ただ、目の前の出来事に意識を奪われている。


サラは虚ろな目であたりを見渡す。


そして、サラは見た。


目の前で、大地に刺さっている、矢を。


「これは...」


その後、他の者たちも、見覚えのある矢の存在に気づくのだった。





今から数時間前...


ティエラが尋問を終え、部屋を後にしたその直後、


「!!」


ティエラと入れ替わるかのように、部屋に突入してきたのは、兵士と、そして、イド。


エミはうまく反応できず、そのまま麻酔銃で眠らされてしまった。


そして、また、数時間後...


「エミ、お前を解放する」


その言葉とともに、兵士が出口まで誘導し、エミは『解放軍』の基地から出ることとなった。


こうして、エミが基地を後にしようとしたそのとき...


「!!」


出口を出てすぐのところにいたのはイド。

基地の外装の壁に寄っかかっている。


「...貴方は、ヤスを...」


「お前に、忠告だ」


「忠告...?」


「今日までのことを話すな。我々の基地の場所を話すな。我々の戦力について話すな。我々の現状を話すな」


「.......言ったら?」


「殺す」


「....どうやって?」


「裁きの矢が、お前を貫く」


「....そう」


エミは再び歩き出した。

仲間の元へ戻るために。


そんな彼女には、超小型の盗聴器。そして、彼女の衣服の胸部には、イドの磁力を帯びた金属片が仕込まれていた。


エミは分かっていたのだ。


そうやすやすと逃がしてくれるようなことがあるはずがない。これは罠なのだ。自身が敵に命の手綱を握られている状態、つまり、言おうが言わまいが、殺されるのも時間の問題なのだ、と。


だから、『一矢報いる』ことにした。


”彼“の手を無駄に汚してやろう、と。


なぜなら、彼女自身、人を殺すことによる“汚染”の恐ろしさを知っているのだから....。





「!!あの女....!」


彼女の策略にはまり、まんまと矢を放ってしまったイドは、これまでにない“何か”を覚えた。


憎き『ヤタガラス』の一人を殺せたというのに、喜びなど微塵も感じられない。


それどころか、彼は、今回の殺しで、『やってしまった』とさえ思えた。


その原因はほかでもない、自分自身が取り付けた約束を相手が守っていたのにも関わらず殺したという『人としてあるまじき行為』を行ってしまったこと、そして、盗聴器越しに聞こえた彼らの会話。


そう、彼らはただの人間だった。


感情を共有する仲間思いな人間だった。


怪物でもなんでもなかったのだ。


「なんなんだ....お前らは....なんなんだ....!!」


イドは独り、震える手で弓矢を握り締めるのであった....。





「この矢...あんときのガキの...」


ヒロがそう呟いた。



「...許さない...忘れない...絶対に...!!」



絞り出すようにそう言ったサラの目は涙で濡れていたが、その瞳の奥は、憎しみで燃えていたのだった。


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