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第38話  「悪手」

フェイは小銃の銃口をティエラに向ける。


「...まず何者かを言え」


「うるさいっ!!死ね!!」


フェイの小銃は火を噴いた。


が、


「.........」


「あ...外し...た...?」


「素人だな、お前」


「うっ、うるさい!!近寄るな!!」


「何者だと聞いている」


「......『親衛隊』だ!」


フェイは悔しさで歯を食いしばりながらそう言った。


「なるほど...敵か。ならば、相応の対応をする必要があるな」


ティエラは小銃を構える。


「......ッ!!」


終わった。


フェイは自身の死を確信した。


「.........妙だ」


何かを彼女から感じながらティエラは小銃をぶっぱなす。


「......?」


「え...」


何と、ティエラも外したのだ。

ティエラ自身も何が起こっているのか分かっていないような雰囲気だった。


「ッ!!」


今だ、とフェイは銃口をティエラに向ける。


「......今度こそ!」


「!!」


パァン!!


「ぐッ...!」


フェイの放った銃弾はティエラの肩をかすめた。


痛みに顔をゆがませながら、ティエラは被弾したほうの肩を片手で抑える。


「...クソが」


ティエラは拳銃を取り出す。

そのままティエラはフェイへと狙いを定めるが...


(妙に胸騒ぎがする...。これではまともに狙いを定められんぞ...。クソッ...もうどうにでもなれ...!)


ティエラは拳銃を発砲した。


「うわっ!?」


フェイの小銃にそれは命中した。


「あ...」


次の瞬間、フェイは気づいた。


小銃が壊れている。


フェイの表情は絶望に包まれ始めた。


と、そのとき


「フェイ!!今だ!早く!!」


「!?」


リーが軽トラの助手席のドアを開け、車体をフェイに寄せる。


フェイはそのまま助手席へと飛び乗り、ドアを勢いよく閉めた。


「...逃がしたか」


ティエラはその後、しばらく、走り去っていく軽トラを見つめるのだった。





「けがはないか!?フェイ!!......フェイ?」


「......殺し損ねた」


「......けがは、なさそうだな」


「............」


軽トラはそのままカザフ民族政府領内のある都市へと入る。


「お、おい...こりゃあ、どういう状況だ...?」


都市の景色を目にしたリーは呆然としながらそう言った。


なんと、都市内では政府軍と謎の武装勢力やそれに助太刀する市民との武力闘争があっていたのだ。


「...!あれ...!」


フェイは謎の武装勢力の腕に巻かれている腕章を指さした。

そこにあるのは『ヤタガラス』の家紋。


「『親衛隊』じゃねえか!フェイ、どうする?」


「降りよう!」


「了解!」


2人は軽トラから降りる。


2人はまず『親衛隊』の一人に状況を確認することにした。


「おい!アンタ、俺たちと同じ『親衛隊』だろ!?一体何が起こってんだ!?」


「クーデターさ!ここはもとより独裁政権が敷かれていてな!まだ内政はマシだと思っていたから皆大目に見ていたんだが、例の集落の一件を皮切りに様々な汚職が露見したんだ!ついに市民の怒りが大爆発しちまったってわけよ!」


「なるほど...で?『親衛隊』はそれに加担してるってわけか?」


「ああ!我々で悪しき独裁政権を打倒し、『ヤタガラス』がここの実権を奪取するんだ!」


「フェイ、お前はどうする?」


「もちろん協力する!皆、もう戦ってるんでしょ!?」


『親衛隊』の者はうなずく。


「OK!んじゃ、これしかねえけど!」


リーは、軽トラから新たに小銃を投げて渡した。


「サンキュー!」


フェイはそれを受け取り、リーとともに戦場へと身を投じるのであった。





一方、『解放軍』は、カザフ民族政府領内での移動が内戦によって困難となっていた。


「全く...今もどこかでオリジンが暴れているというのに、人間同士でのんきに殺し合いか...」


ティエラはあきれた様子である。


「遠回りするしかないな。一旦南下しよう」


T・ユカの提案通り、『解放軍』は一旦南下し、中東を経由して西進することにした。


(カザフ民族政府は広大な領土を持つ...。『親衛隊』は内戦を引き起こさせることでカザフ民族政府領内から俺たちを追い出し、『ヤタガラス』をその隙に大陸の北方へ移動させるつもりか...。素人なりに考えられた作戦だな。今回ばかりは、してやられたようだ)


「ティエラさん」


「なんだ、レオ」


「これから俺たち、また“ああいう人たち”を殺さなきゃいけないのか?」


「......それを防ぐために、俺たちは『ヤタガラス』を倒しに今、進んでいる。そうだろう?」


「......そっか。そうだよな」


レオは、自分の“やるべきこと”をここで理解した。


無駄な犠牲を出すか否かは、自分とイドにかかっているのだ。


子どもながらにそれを実感したレオは拳を握り締め、どこまでも広がる大空に目を向けるのだった。





一方その頃、ユーラシア大陸北部の森に在る『解放軍』の本拠地にて、そこには研究室があり、室内では、一人、白衣に身を包んだ紫の髪と丸眼鏡が特徴の女性、ハンナがある“研究素材”を眺めていた。


そして...


「......できた」


そう呟くと、彼女は自身のパソコンにその研究結果を次々と書き込む。

その後、ポケットから携帯を取り出すと、何者かに電話を掛けた。


相手が電話に出る。


「もしもし、ユカだ」


「ハンナよ」


「......何があった?」


T・ユカは、ハンナの口調から、彼女がどこか興奮している様子であることを見抜いた。


「......ついに成功したわ。“あの研究”が......!」


「“あの研究”...?.........まさか...!」


「ええ......!」


彼女は一旦息をのむ。

そして...


「『特殊能力の抽出』よ」


満を持してそう告げたハンナの瞳には、培養液に浸されたある人物の姿が映し出されていた。


その正体は、かつてH・タイゾウと死闘を繰り広げたセイレーン...サターンの遺体であった。





「......ついに成功したのか」


「ああ、そんなわけで用事ができた。アタシは一旦本拠地に戻る」


「......」


「本当に、良いんだな?」


「...何がだ」


「元はと言えば、お前に“付与”するつもりだったんだが......」


「いや、断る。俺はセイレーンだ。一応その一員であることにそれなりの誇りは抱いているつもりだからな」


「...お前は、いつまでたっても“抜け出せない”んだな」


「......」


「それじゃあな。アタシは行く。あとは頼んだぞ」


そう言うと、T・ユカは一部の兵士を率いて、本拠地へと方向を変え、進み始めた。


「...さて、俺たちも行くとしよう」


ティエラも、『ヤタガラス』の居るであろう西へと進んでいくのだった。





一方その頃、『ヤタガラス』は『親衛隊』による交通面での支援を受けながら東欧へ入っていた。


「なあ連。一旦休まねえか?」


ジュンのその言葉により、一行は一度休憩をとることにした。

どれだけ強力な能力を持ってようと、彼らは元々一般市民。

体力も人並みなのだ。


「それにしても......どこを見渡しても、ここらは荒野ばかりね...」


そう言いながら、サラは辺りを見渡す。


「無理もない...。オリジンが特に暴れ回っていたのは復活直後。ここはその周辺に位置しているのだからな」


連は、そう言いながら冷たい視線で周辺にある建物の残骸を見つめる。


しかし、実は被害の出ていない地域もある。


それもそのはず、サターンの能力である空間移動は『解放軍』の手中にあるため、オリジンの行動範囲はユーラシア大陸とアフリカ大陸に限定されるからだ。

また、島国にも被害はあまり出ていない。


そのため、近年は日本国とアメリカ合衆国の国力が増すばかりであるというのが現状だ。


その他の地域は、オリジンの被害がなくても、世界国家の統治下にあった地であるため、内乱や貧困に見舞われている場合が多い。


「...さて、もう休憩は済んだだろう。そろそろ行くとしよう」


連のその言葉で、『ヤタガラス』は再び進み始めた。


この一刻の休憩がこれからの運命を大きく変えてしまうことに、『ヤタガラス』の皆はまだ気づく由もなかった。





一方、『解放軍』のほうは、支部を経由しながら一刻も休みを取らず、西へ西へと進んでいた。


彼らのほとんどが元多国籍軍の軍人である。

軍人の休憩はそう多くはない。

彼らは長距離の移動に慣れているのだ。


「ティエラさん。イスタンブール支部のドローンが『ヤタガラス』と思しき集団を確認したようです」


「そうか、場所は?」


その後、兵士が告げた場所に、ティエラは一瞬目を見開いた。


ティエラは思った。これは運命の悪戯なのだろうか、と。


その場所の名は、通称『はじまりの地』......エレノイアだった。

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