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第40話 「退路」

『ヤタガラス』は休むことなく走り続ける。


全ては、自らの命を捧げ、道を紡いでくれた仲間たちのために。


「ハアッ...ハアッ...もう...足音が近づいてきてる...ッ!」


サラは背後から感じるいくつもの足音に恐怖を感じていた。


「おい!アレ!!」


ジュンが指さした先には光が差し込んでいた。

それは、天井から出ているものだった。


「あそこの天井...すぐに壊れそうですね」


レイはそう言うと、鉄パイプを持ち、天井をつついた。


すると、天井はパラパラと崩れ、だんだんと空があらわになっていった。


「オレから行こう」


そう言うと、連は並外れた跳躍力で天井の穴から抜け出した。

その後、皆は仲間たちを引き上げ、地上へ出た。


「急ぐぞ」


連のその一言で、皆は再び走り始めた。





数分後、ティエラは穴の空いた天井を見つけた。


(ここから出たか...)


「迷いはない」


イドはそう言うと、穴から一足先に出ていった。

皆もそれに続く。


彼らの距離は、確実に縮まりつつあった。





一方その頃、『ヤタガラス』は港まで来ていた。


「もうこっちに来てるわ」


千里眼でサラは『解放軍』の動向を報告する。


「クソッ...どうすりゃいいんだ...!」


ジュンは焦りを隠せない。


と、そのときだった。


壁の角から何者かが『ヤタガラス』に手招きをしている。


皆はそれに続いた。

ついていった先には、数人の男がいた。


「オマエたち...何者だ?」


「俺たちはイギリス人。アンタらを助けに来た」


「イギリス人だって?」


数人はうなずき、こう続ける。


「アンタらの活躍は聞いてるぜ。俺たちはアンタらのようなのを求めていたんだ!何かを変えてくれるような...そんなヤツらをさ!」


「............」


「それで?どう助けてくれるわけ?悪いけど、もう時間がないの」


サラは焦りを少し見せながら、イギリス人の者にそう聞いた。


「この先の船着き場に、俺たちのボートがある。それで逃げるんだ」


「逃げるって...どこにだよ?」


ジュンが不安げにそう聞くと、もう一人のイギリス人がにやりと笑ってこう返した。


「イギリス(うち)さ」


重機の音が近づいてきている。


「さあ、時間がない。皆、俺たちについてきてくれ!」


そう言うと、イギリス人たちは船着き場へと走り始めた。

皆もそれに続こうとする。


が、そのときだった。


「...!?おい、どうした?早くいくぞ」


突然レイが立ち止まったのだ。

連は動揺をあまり隠せていない。


「...このままでは、きっと追いつかれると思います」


「...だから皆走って─」


「それでも、間に合わないんです。だから...」


「...ダメだよ。そんなの...」


「連。貴方は私たちを“真の平和”に導いてくれる希望のひと...そして、私たちはその手であり、足である...そうでしょう?」


「嫌だ」


“ヤツら”の足音が、かすかだが近づいてきている。


「さあ、行ってください」


「...もう、勘弁してよ...もう嫌なんだよ!!」


「連」


「.........」


「早く!!!!!!」


「!!」


レイのその怒声を聞き、それがレイのものであると認識するころには、連はもう既に走っていた。


彼女があんなに怒鳴ったのは、初めてだった。


「連!!」


サラが走ってくる連を呼ぶ。


「さあ、早く!!」


一人のイギリス人に手をつかまれ、ボートに引き入れられる。


ボートは港を出た。


小さくなっていく港の景色を、連は死んだ魚のような目で、ただ見つめ続けるのだった。





『解放軍』は港に入った。


「さあ、顔を出せ...!そこにいるのは分かっているんだッ!!」


イドはそう怒鳴り散らす。


すると...


「そんなに怒鳴らなくても...ここにいますよ」


そんな声が角から聴こえた。


「.........貴様は」


「...上海以来ですね」


イドはレイをにらみつける。


「...可哀想な人」


レイはそんなイドの目を数秒見つめると、そう言った。


「そう見えるか。だが、それが“誰のせい”かまでは見えていないようだな」


イドの声は怒りで震えている。


「貴様らはあの男を...連を希望といったな?」


「ええ。そうです。そこに間違いは一つたりともありません」


「ふざけるな!!じゃあなぜ俺の家族を皆殺しにした!?」


「そこに...道理があったからなのでは?」


「道理だと...!?」


イドは弓矢に手をかける。


「暴力...ですか。暴力はいいものですよね...言葉よりもずっと」


「なに...?」


「だってそうでしょう?貴方は一瞬でも言葉で何とかしようとしていた...でも、それが面倒だから、一番手っ取り早い方法を選んだ......合理的です」


「俺を悪に仕立て上げるつもりか...!」


「貴方自身、自分が悪だと思うのならそうなのでしょう。私はどちらとも言う気はございませんので」


淡々と答えるレイのイドを見つめる目からは、どこか慈悲を感じられた。


イドは超電磁弓(レイル・ボウ)を放つ。

しかし...


「外した...?イドが...」


レオは動揺している。

イド自身も、それは同じだった。


「...やめろ、俺をそんな目で見るな...!」


「貴方は、同じです。かつての“私たち”と」


「ふざけるな!!」


イドは怒声に身を任せて弓を張る。

しかし、その手は震えていた。


「お前らは...なんなんだ!?あんなに残酷非道な行いをしておいて...なぜ“希望”なんて言葉を発せられるんだ!?なぜお前らはそこまで仲間思いなんだ!?なぜその思いを俺たちにも向けられなかったんだ!?」


「それが...道理だったからです」


「...そうか」


次の瞬間、イドの目は座っていた。

そこにあるのはきっと失望だろう。


「もういい。やはりお前らは死ね」


イドは迷うことなく狙いを定める。


「...ありがとう。ごめんなさい」


そう言い残すと、レイは天を見つめる。

イドが矢を放つ。


『いざとなったら“アレ”を使います』


『頼むから...やめてくれ』


レイは上海でした連との、そんな会話を思い出した。


どんな武人を降霊させたとて、この数に勝る可能性は限りなく低いだろう。


ただし、それは“並の人間”を降霊させればの話である。

しかし、“人ならざる者”を降霊させれば、何が起こるか分からない。

だが、今の彼女にそんな迷いを持たせる時間は用意されていなかった。




『誰もが知らぬ英雄』 『オリジン封印の立役者』 『21世紀を生きた“救世主”』





「サマン......『ヒカル・アシュラ』!!」





次の瞬間、そこら中が凄まじい衝撃と桜色の閃光に襲われた。


矢は衝撃波によってどこかへと舞ってしまった。


「なんだ...!?この衝撃波は...ッ!」


「一体何が...!?」


皆動揺を隠せない。

それはティエラも同じ。


(この衝撃波...この桜色の光......まさか......!)


いや、ティエラが彼らの中で最も動揺していたかもしれない。


彼は知っている。

この現象の正体を。

そしてその脅威を。





衝撃波と閃光が止む。


『解放軍』の前には頭を下げたまま棒立ちになっているレイの姿がある。

皆、固唾を飲みながら身構えている。


数秒後、一瞬だけ、彼女の髪が逆立った。


そして、身体の一部をピクリと動かすと、そのままゆっくりと顔を上げ始める。


その後、ついにあらわとなった彼女の“瞳”は、血のように真っ赤な眼光を発していたのだった。





数十秒間、彼女?は『解放軍』を見つめると、突然彼らに指をさし、「おい」と呼びかけ、こう言った。


「この身体は、お前らを“敵”だと言っている。説明しろ」

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