「お前は、一体何者だ...!?」
ティエラは動揺を隠せない。
「こっちから聞いてんだろうが。だったら、お前から質問に答えんのが道理ってもんじゃねえのか?ん、ん“ん”ッ!?なんだこの声...!?」
口調も完全に変わってしまっている。
声色はレイのままだが。
「...!...そ、そうだな。俺たちは『解放軍』。オリジンを倒す組織だ」
「オリジンだと?......封印したはずじゃ...」
「封印...?お前が...?」
ティエラは状況を飲み込めずにいる。
「い、一体...お前は...」
「そうだな、そっちはもう質問に答えたんだし、教えてやる。俺はヒカル。オリジンを封印した...はずだったアシュラ一族の一人だ」
「つまりお前は、200年前の者だというのか...?」
「俺に聞くな...。ついさっき気づいたらここにいた俺の気持ちも考えてほしいもんだぜ...」
そう言いながらヒカルは自らの肉体を見回す。
そして...
「...ある?...ない!?う、うっそだあ!“ないはずのもの”があって“あるはずのもの”がねえ!?」
何か一人で喚き散らしている。
その後、数分うなだれた後、ティエラに向き直った。
「なあ、今西暦何年だ?」
「2230年だ」
「マジかよ...。で?200年前に“俺たち”が封印したオリジンはなんで復活しやがったんだ?ま、大体予想はつくけど」
「お前はどう思う」
「戦争、だろ?」
「...ご名答だ」
ヒカルは深いため息をつく。
「いつの時代も人間はクソってか...。まあいつかこうなることは分かってたけどな」
「なぜ倒さなかった?」
「倒す?お前バカか?あんなバケモンどうやって倒せってんだよ」
ヒカルは顔をしかめながらそう言った。
.....“出ている部分”をちらちら見ながら。
「ああそうだ。この時代のアシュラ一族の中にも救世主はいるはずだろ?今どこにいんだ?」
「俺たちが...殺した」
「............え?ちなみにどんなやつだった?」
「世界国家大統領。初代大統領の子孫でもある」
「...あー、はいはい。“アイツ”のね...。なんかやらかしたんだろどーせ」
「初代大統領を知っているのか?」
「知ってるよ。だって、一緒にオリジン封印したし。何なら殺し合ったことあるし」
「???」
ティエラは混乱している。
「なんか、いろいろワケアリでそうなったんだろ?」
「まあ、そうだな...」
「じゃ、しゃーねーな」
ヒカルは少し考え込むようなしぐさをした後、口を開いた。
「お前ら、オリジンを倒す組織っつったよな」
「ああ」
「で、この身体の主さんはお前らを敵と言っている。どういうことだ?」
「その身体の主は『ヤタガラス』というテロ組織の一員であり、我々『解放軍』と敵対している」
「なるほどね...。そいつらつえーのか?」
「数はない」
「つえ―のかって聞いてんだ」
「...個の力は目を見張るものがある。主力のほとんどがおそらく特殊能力者だ。.........それを知って何になる」
「俺はさ、200年前の人間であってこの時代の人間じゃねえんだ。つまり、この世界において俺はイレギュラーってこと。イレギュラーはいないものとして扱われる。だから、何をしようが俺の勝手なんだよな」
「...何が言いたい」
「まあ、わざわざ犯罪起こしまくる気にもならねえし、オリジンぶっ倒すことだけ考えることにしたわけよ。そんで...」
ヒカルは『解放軍』の者たちを一人一人指さすとこう言った。
「とりま、模擬試験といこうぜ」
「?どういうことだ」
「だーかーらー、俺と戦って勝ってみろっつってんの。俺の強さが大体オリジンよりちょっと弱いぐらいだから、俺に勝てなきゃオリジンには一生勝てねえ。そうだろ?」
(こいつは何を言っているんだ...!?オリジンより“ちょっと弱い”だと...!?冗談じゃない...!)
と、そのとき、レオとイドが前へ踏み出した。
「俺たちだって特殊能力者だ!イドもな」
イドはうなずく。
「お前ら2人か。『ヤタガラス』には何人いんだ?」
「それは...」
「あっちのほうが多いんだな」
「ッ...!」
すぐに見透かされてしまった。
「まあいいや。それじゃ、いつでもいいぜ。かかってきな」
ヒカルは少し屈伸すると、戦闘態勢に入った。
(こいつ...素手で戦う気か...!?それに1人で...!?)
「まあいい...!レオ。お前は接近戦だ。俺もタイミングを見計らって加勢する。イドは狙撃で援護しろ。いいな?」
2人はうなずき、行動に移った。
レオは鉄棒の根元を握り、能力で氷の剣を創造した。
「やあっ!!」
レオはヒカルに斬りかかる。
ヒカルはその斬撃を軽々とかわす。
「それならっ...!」
レオは一旦距離をとり、氷の槍を作ると、高速の連続突きをお見舞いした。
「へえッ、なかなかッ、おもしれえ能力ッ、してんじゃねえかッ」
「避けながらしゃべる余裕はあんのかよッ...!」
レオはあまりの実力差に苦笑いした。
「んじゃ、次はこっちの番だ!」
すると、次はヒカルが片手で高速連続パンチをお見舞いした。
レオは必死でそれらを回避するが、数発喰らってしまった。
「うっ...!お、重いっ...!?」
「一発入魂。基本中の基本だぜ?」
レオはたちまち体勢を崩してしまった。
「はいチェックメイト」
そう言ってヒカルが肘を振り上げたその瞬間...
パァン!!
「うおっ!」
どこからか飛んできた銃弾をヒカルはかわした。
(あれをかわすか...!)
直後、他の兵士たちによる援護射撃も飛んできたが、ヒカルはそれを全て軽々とかわしきった。
そして...
「はあ、めんどくせ...」
ドカッ!
「がッ!?」
ヒカルはへたり込んでいるレオを一旦蹴っ飛ばすと、周りを見渡す。
「.........」
パァン!!
「そこだな」
被弾する寸前のところで銃弾をかわすと、恐るべきスピードでその軌道の源へと駆け込んだ。
「!!」
「みいつけ...たあっ!!」
「クソッ...!!」
飛び上がりながら拳を振り下ろすヒカルから一旦距離をとり、ティエラは小銃を直し、銃剣を手にする。
「かわされちまったか...。てか、この服...巫女服か?動きにきぃな...。“アイツ”この格好で神社の中動き回ってたのかよ...」
(おそらく...こいつに銃はダメだ。どの距離から撃ってもかわされるような気がしてならない...!だが...!)
「やはり、“剣”に限るな」
ティエラは片手にある銃剣を顔の前で立てる。
「喰らえ...!」
ティエラは“あの構え”をとると、ヒカルへと目にも留まらない速度で斬撃を繰り出した。
しかし...
「ば...バカな...!?」
「遅え」
ヒカルは白刃取りでそれを防ぐと、ギュン!とそれを回した。
とんでもない腕力で回された結果、ティエラは自身の身体ごと物凄い速度で回転した。
そして...
「フンッ!」
「グハッ!?」
回転中、ティエラの身体が正面に回った瞬間を狙い、ヒカルはティエラに蹴りをくらわせた。
ティエラは大地を弾みながら吹っ飛んだ。
その後、ヒカルは援護射撃を続ける兵士たちも蹂躙し始めた。
と、次の瞬間
「!!」
電気を帯びながらとんでもない速度で飛んでくる矢をヒカルは視認した。
直後、ヒカルはなんと、その矢を、身体を少し反らしながらキャッチしてしまった。
「なに...!?」
イドもこれには動揺を隠せない。
ヒカルは自身の手元のキャッチした矢を数秒見つめる。
彼のつかんでいるのは、尾の近く。
すると、
「.........なまってらあ」
とだけ吐き捨て、次はイドへと狙いを定めた。
「!!」
イドは自身の身の危険を感じ取ったが、もう遅い。
ヒカルは、ティエラに似た“あの構え”をとると、目にも留まらぬ速さでイドの元へと到達し、イドの身体に自身の足をねじ込ませ、そのまま蹴っ飛ばした。
あまりの威力に耐えられず、イドはそのまま気絶してしまった。
ティエラはなんとか立ち上がる。
そしてそのままもう一度攻撃に出ようとしたその時だった。
「あー!もういい!やめだやめだ!話になんねえ!」
ヒカルは片手をヒラヒラさせながら、呆れた口調でそう言った。
「まず、だ。氷のやつ。アイツは動きがいい。だけど、どこか“武器の固定観念”に縛られてる感じがしてもったいない。簡単に言うと、常識にとらわれるな。それはお前に限界をつくるだけだ。次に弓矢のやつ。お前慢心してるだろ。俺のように弓矢で対処できなくなったらどうするか、あんまり考えてないんじゃないか?」
「そんな...ことはない!俺は...体術の訓練もしているんだ...!」
イドは気絶から覚めたばかりの状態でそう反論した。
しかし、
「いや、訓練云々よりも心の問題だ。お前は心の奥底では弓矢の力を過信してる部分がある。それは、お前が一番分かってるはずだぜ」
「......」
あっさりと論破されてしまった。
「そんで...」
ヒカルはティエラへ向き直る。
「お前は何だ。意志のかけらも感じられない。俺はお前の大体全部が気に入らねえ。それに、自信満々に出してきた“あの技”。『やはり剣に限る...(悪意ある物真似)』だか何だか知らねえが、よくもまあ日本人のアシュラ一族である俺にそれを披露できたな。お前の十八番であろうその技...『阿修羅天斬』は大体俺のご先祖様が編み出したものだ。知らないと思ったら大間違いだぜ。そして、その技も俺なりにアレンジ済みであることもお前は予想していなかったろ。全てが穴だらけだ。くっだらねえ」
「.........」
完膚なきまでに罵倒されたティエラは何も言い返せなくなってしまった。
「まあつまり、だ。ハッキリ言ってお前らの評価だが...『ザコ過ぎクソワロタwwwww』ってとこだな。そんなわけで、俺は『ヤタガラス』につくことにするぜ。この身体の主の持つ情報とお前から聞く話じゃ、あっちのほうがポテンシャルもありそうだ」
「...貴様、テロ組織に加担するのか」
ティエラは少し怒りを交えた声色でそう言った。
「知らねえよ。前に言った通り、俺はイレギュラー。元々いないはずの人間だ。何をしようが俺の勝手なんだよ。とりあえず、俺のやるべきことは、オリジンをぶっ倒す...その1つに限る。そのためならどんなにやべーやつらでも利用してやるぜ」
「.........」
ティエラはこの時、ヒカルを引き留めることを完全に諦めた。
ヒカルはそんなティエラの表情を見ると、心の底から呆れたかのようなため息をつき、歩き始めた。
連はスマホをチェックし続ける。
『無事か?』
という連のメッセージを最後にやり取りはさっきまで止まっていたのだが...
「!!」
ついに返信が来た。
連は即座に確認する。
『悪い。お前の仲間は、俺のせいで死んじまった。とにかくお前らに一度会って話したい』
そんな内容だった。
連は、一目で分かった。
レイが“アレ”を使ったのだ、と。
そして、絶望した。
だが、”彼“を味方に加えれば、大きな戦力になることに間違いはない。
そこで、連はこの提案を了承し、以前自分たちを助けてくれたイギリス人の者にボートを送ることを依頼することにした。
ティエラたちは、ヒカルとの一戦を終え、それぞれ怪我の手当てにあたっていた。
「ティエラさん、俺たち、これからどうするんだ?『ヤタガラス』はどっかに逃げちまったし...」
「根城を突き止めるには、その末端を潰し、聞き出すしかないだろう」
「カザフ民族政府か...アンタまさか...」
イドのその言葉にティエラはうなずき、こう言った。
「“芽”は、徹底的に摘まねばならない」
この時、イドとレオ、2人はティエラからとてつもない悪寒を感じた。
彼は、敵に対してはどこまでも冷徹である。
どんな敵であっても、彼は容赦しない。
自分の自由を護るためなら、相手が誰であろうと消し去ることに躊躇しない。
それが、ティエラという男なのだ。