目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第50話 「歪曲」

団体関係者が来たことにより、一行は案内された飛行機に乗り、ついに現地へと向かうこととなった。


連はワクワクしていた。


生まれて初めて、世界平和の第一歩を自ら踏み出すことができる。

そう思ったからだ。





確かに、これから彼の体験する出来事は、彼にとっての世界平和の定義を確定させるものとして、大きな役割を果たしたとは言えるだろう。





中東のある空港にて、


飛行機が着陸し、活動現場へと赴くため、何台も停まっているバスの中の一台に乗車することとなった。


どうやら、援助に向かう集落は一つではないようだった。


このとき、集落ごとに班決めがあったが、奇しくも一行は皆同じ班となり、彼らで一つの班となった。


そのときだった。


団体関係者の一人が外で電話を通じ、誰かと話していた。


「はあ!?確認できてない!?どうするんだ!もう現地に来ちまったぞ!」


何か怒鳴っている。


「ここまで来ちまったんだ!もうやるしかないだろう!もう向かうからな!じゃ!」


団体関係者の一人は電話を切ると、バスに向かって行った。


連はその様子を車窓越しに見つめていたが、音がこもってうまくその内容を聞き取ることができなかった。





「さ、そろそろ目的地の集落に到着するよ。準備は良いかな?」


『はい!』


「よし!それじゃ、出発進行!」


団体関係者の掛け声と一行の返事とともに、バスは発進した。


街を抜け、辺り一帯が砂漠の道を走り抜けた。


今まで見たことのない景色に、連は圧倒された。


それは他の皆も同じだった。





バスの中にて...


ユイが何かを紙袋から一度取り出すと、直した。


連はその一部始終を見て、それを指さすと言った。


「それ、ミモザだよね」


「うん。ちゃんと覚えていてくれたんだね」


「もちろん!ユイの大好きなお花だからね!」


エッヘン!と連は胸を張る。


それを見てユイは微笑んだ。


「でも、どうして?」


「お土産に、ね。ここは砂漠だからあまりお花も咲かないだろうし。それに、向こうの皆に伝えたいの。どれだけちっぽけな命だったとしても、ミモザのお花の一つ一つのように、その一つ一つは力強く今日を生きている。それはとっても美しいことなんだって」


「......うん!良いと思う!」


「そう?良かった」


お互いに笑いあった。


そんな会話をしながら時を過ごしていると、バスは目的地へと到着したのだった。





集落につくと、そこにはいくつものテントが並んでいるのが見えた。


おそらく皆それぞれテントで家族を作って暮らしているのだろう。


集落の住民たちは、皆一行を歓迎してくれた。


その後、手伝ってほしい事業や宿泊についての説明があり、いざ活動開始となった。


食料調達、インフラ整備、家庭(テント)訪問などなど...


一日目からなかなかハードなスケジュールではあったが、連にとって、こうして困っている人たちの役に立てることは、この上ない幸せであった。


二日目、丸太などの生活素材の運搬では、怪力のヤスがMVP級の活躍を見せた。この活躍によって、ヤスは一躍集落の男の子たちの人気者となった。


三日目、狩猟体験を行った。ここで、弓矢による狩猟があったのだが、素早い動きをする動物に対し、『必中』の能力を持つエミは大いに役に立った。

その後、狩った動物を、命への感謝とともに皆で料理し、食した。


また、耳の聞こえない人たちとのコミュニケーションでは、母が耳の聞こえない者であるヒロが大いに役立った。


レイも、様々な技術者の魂を降ろすことで、事業に大きく貢献した。


援助だけでなく、人間関係に関しても、たくさん進展があった。


一行は言語の壁を越え、集落の子どもたちとサッカーなどのスポーツを楽しんだ。

その他にも、物の数え方などの勉強についても、ユイを筆頭に子どもたちに伝授し、彼らの生活を豊かなものにした。


それ以降も、皆それぞれの特技や特殊能力が役に立った。


しかし、その一つ一つの特殊能力の役に立つタイミングは、超常的というほどのものではなかったため、集落の者たちには、彼らの単なる才能のようにしか見えていなかったのだった。





それは、せめてもの救いともいえるし、だからこその惨事の結果ともいえる。





この活動の期間は2週間。


毎日精力的に活動を続けていると、気づけばもう半分を折り返していた。


「もうそろそろアンタたちともお別れか......さみしくなるよ」


集落の住民の一人が一行にそう言った。


「それは我々も同じですよ。機会があれば、またいつか、ね」


「ああ、そうだな」


団体関係者と住民はそんな会話をしていた。


あと2日すれば、この活動も終わりを告げる。


連も集落の住民たちと打ち解けてきたところであったので、少し別れがさみしく感じていた。


そんなときだった。


あるニュースが舞い込んできた。


集落のリーダーとその側近が何か話している。


「?一体何があったの?」


サラは状況を読み込めていないようだ。


団体関係者も突然血相を変えて運営と連絡を取り始めた。


そして、その会話の中である非日常的な単語が登場した。





それは、『戦争』。





なんと、連たちの故郷である極東公国とア連、そして世界各地に散らばる反世界国家勢力の連合軍と多国籍軍による戦争が勃発したのだ。


後に歴史に名を残す大戦争、『第四次世界大戦』の始まりである。


その後、一行は団体関係者と集落の少し外に出たところで臨時のミーティングを行うこととなった。


「まず、だ。結論から言うと、我々は、明日にはここを発つ。周辺の街の人々は既に生活用品をまとめて避難を開始しているようだ」


「え!?じゃ、じゃあメインの支援物資の配布はどうすんだよ!?」


タカは明らかに動揺している。


子どもながらに、大人たちの様子を見て事の重大さを知ったのだ。


「そうよ!それじゃ、私たちがここに来た意味がなくなるわ!」


エミもタカの意見に賛同する。


「支援物資の配布については心配ない。すでに準備はしてある。あとは配るだけだ」


でなければ、我々の組織の信頼に泥を塗ることになる、とまではさすがに言わなかった。


ちなみに『拠点のテント』とは、今回の活動のために集落内に設置した、一行の拠点の役割を果たすテントのことである。


「それでは、君たちは集落の中で住民との交流をしながら待機していなさい。私はこれから集落のリーダーの方に今後の方針を伝えに行く」


そう言うと、団体関係者は集落の中にあるリーダーのテントへと入っていく。


一行は集落に戻った。


が、


何かいつもと雰囲気が違っていた。


「ねえ君たち。君たちは神を信じるか?」


突然、住民の一人が背後から話しかけてきた。


「あ?いきなり何言ってんだ?アンタ」


ヤスは怪訝そうな表情でそう言った。


「信じるかと聞いているんだ!!」


『!!』


すると、物凄い剣幕で住民は迫ってきた。


「ちょっと待ってください!今回の活動は、相互の宗教勧誘禁止が原則だったはずです!中立性がこの活動では重視されるのですから!」


そういったのはユイ。


さすが最年長なだけあって、説得もうまい。


しかし、


「...信じないんだな?」


住民側はその一点張り。


「残念だけど、答えられないよ。ルールだから」


連がそう言うと、住民は数秒一行をにらみつけ、あるテントへと向かって行った。


「あそこは...」


ヒロがそう呟いやいた。


そう、そこはリーダーのテントだったのだ。


戦争が始まってから、明らかに彼らの様子が変わった。


いや、それ以前にもどこか気になる点はあった。


その一つとして、子どもたちとの交流中のことがあった。


その時間、集落には、大人が突然顔を出さなくなるのだ。


その後、物資の備蓄を確認すると、明らかに物資の量が尋常ではないレベルで増えている。


彼らは買い出しで手に入れたものだと言っていたが、貧困に苦しむ集落とされているはずの集落に買える量の物資ではなかった。


消灯時間、それらの懸念点をいくつも見つけ、連は一人落ち着いていられなかった。


しかし、疲れがたまっていたのか、連はそのまま眠りについてしまった。





翌朝...


「...おかしい」


連がそう呟いた。


なんと、団体関係者が未だに帰ってきていなかったのだ。


彼の身に何かあったのかもしれない。


そのことを皆に相談した結果、皆で団体関係者を探そうということになった。


しかし、どこを回っても団体関係者は見つからない。


それに、人気(ひとけ)がほとんどない。


明らかに様子がおかしい。


「おい...どうするよ。今日ここを出発するんだろ?そろそろ迎えが来るんじゃねぇか?あの人いないと、帰れねぇかもしれねぇぞ」


ジュンがそう言うと、


「私、とりあえず身支度済ませておくから、皆はまだ探していていいよ。どうする?」


連はこの提案を承諾した。


ユイは一人拠点のテントに入り、荷物をまとめると、一旦スマホの画面を見た。


そして...


「これ...どういうこと!?」


ユイのスマホの液晶画面には、ニュース映像が流れていた。


そして、その中にあったのは...


「『青少年海外協力隊』がテロ組織『IS』に拘束。政府に身代金が要求される」


というもの。


そのテロ組織の拠点の写真は、どこもかしこも、今ユイたちがいる場所にそっくりだった。


そして、その後流れてきたのは、内閣総理大臣の記者会見。


「我々は決してテロには屈しない。断固として拒否する」


それはつまり、連たちは見殺しにするということを意味する。


このとき、ユイは理解した。


自分たちは、国に見捨てられたのだ、と。


それが分かると、一つの考えに至った。


ここから逃げなきゃ。


ユイが立ち上がり、テントから出ようとしたその時だった。


「.........あ」


次の瞬間、目の前の光景を目にしたユイはそんな絶望と諦めの声を上げるのだった。





数十分後、迎えが来るとされている時間まであと20分ほど前のことだった。


「ユイ......遅くない?」


サラのこの一言で、団体関係者を探すことに必死になっていた連はユイと離れてから結構時間が経っているということに気づいた。


「!!.....ちょっと見てくる!」


連はそう言うと、一人拠点のテントへ駆けて行き、入り口の垂れ幕をどかす。


そして......


ついに連は、『地獄』を目にするのだった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?