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第49話 「願望」

サラは怪訝そうな表情でイドを見る。


「話...?」


「......ああ。俺は...知りたいんだ、“貴方たち”のことを」


サラは一瞬驚いたような表情をしたが、イドの様子を伺い、なんとなくその理由を察した。


この子も、“脱しようとしている”のだ、と。


サラはゆっくりうなずくと、話を切り出すのだった。





時は今から10年ほど前、当時極東公国では、空前の『復刻映画ブーム』が巻き起こっていた。


“彼ら”もまた、その潮流の中の一人だった。


「200年前の映画二本立て、かあ...」


そう目を輝かせながらつぶやいたのは連。

当時はまだ7歳だった。


また、そこには既に、後の主要メンバーであるサラ、ヤス、ジュン、タカ、ヒロ、エミ、レイもいた。


そして、その中にはもう一人、周りよりも歳が上の少女がいた。


彼女の名は桐島結(キリシマ ユイ)。

当時12歳。両親は教師だ。


彼ら全員が、連の幼馴染であった。


「そうら、始まるぞ」


連の父がそう言うと、連は映画の画面に目を向ける。


そして、ここで見た映画たちは、彼の人生を大きく変えることとなるのだ。


「ある...ま、げどん?」


連はそのカタカナの題名を、覚えたてながら読み返した。


そして、その後、二つの目も映画も連は見た。


二本目の映画の題は、『インデペンデンス・デイ』。


それぞれの映画には、共通点があった。


一つの大きな敵を倒すために、今まで争い合っていた人類が手を取り合って立ち向かうというものだ。


そして、エンドロールが流れていた時、彼らは連を見て、驚いた。


彼は、泣いていた。


一つの嗚咽もなく、ただ涙が彼の頬を伝っていた。


ここで連は知ったのだ。


人々の結束の尊さを。


人々による争いのない、平和な世界の尊さを。





「いやー!おもしろかったなあ!」


そう言ったのはヤス。


疲れたのか、大きな伸びをしている。


「私にはよくわからなかった」


サラがそう言うと、


「お前はまだ子ども、だからな!」


タカがそう言ってサラをからかった。


「うっさい!!」


サラはそう怒鳴り、そっぽを向いた。


連はそんな彼らを苦笑いしながら見守る。


すると...


「連はどうだった?」


ユイが連にそう聞いた。


連は少し考え込みながら答える。


「おもしろかったよ」


「そう、よかった」


ユイはそう言うと、微笑んだ。


連は子どもながらに、彼女の微笑みに見とれていた。


実は、今回映画に行こうと発案したのはユイだった。


「おもしろかったんだけど...」


「?」


「それだけじゃなくて...」


「どうしたの?」


「僕、将来の夢ができた!」


「え!?どんなのどんなの?」


周りの皆も連に注目する。


「僕は、『世界平和』になる!世界中の皆を幸せにするんだ!」


「世界平和に『なる』っていう言い方は少し変だな」


連の父は苦笑いしながらそう言った。


「へえ。いいぜ!俺たちも応援するよ!その夢」


ジュンのその言葉に、周りの皆も笑顔でうなずいた。


連は振り返り、ユイの顔を見上げる、


「私も、応援するよ!一緒に世界平和、作ろうね」


「!!うんっ!!」


この日、連の“人生”は始まった。





それから2年の間、連は小学生として、普通に学校に通い続けた。


連は9歳になっていた。


「それでは!明日は必ず宿題をやって持ってくるように!」


『はーい!』


学校が終わると、連たちは下校し始めた。


途中でユイとも合流した。


彼女は14歳。中学生になっていた。


15分ほど歩いた時だった。


突然ユイは立ち止まった。


連も彼女に続き、立ち止まる。


「おーい!なにやってんだー!?置いてっちまうぞー!」


そういうと、ヤスたちは待ちかねたのか、そのまま帰っていってしまった。


「......お花、好きだよね。ユイ」


「うん。ほら、あれ、見て」


ユイはある黄色い花を指さす。


「ミモザっていうの」


「キレイ......それに、なんか強い」


「ふふっ...連もそう思う?」


連はうなずく。


「“この子たち”...一人一人は小さいんだけど、皆それぞれ力強く咲いている。まるで、『生きるって嬉しいんだ』って私たちに強く語り掛けるかのように...」


「.........ユイは、ミモザが好きなの?」


「うん。大好き」


「じゃあ、僕も好き」


「ふふっ......ありがとっ」


「えへへっ」


「......あのね、連。私、お花屋さんになりたいの」


「本当に!?すっごく良いと思うな!ユイにピッタリ!それに、お花さんたちも、きっと喜ぶよ!『ユイに育てられて幸せだ』って!」


「...そっか。そうだといいなあ」


ユイは儚げな表情で空を見上げた。


ユイの制服が風で揺れる。太陽も彼女を眩しく照らす。


連はそんな彼女に釘付けになっていた。


その後、他愛もない会話をすると、2人は再び歩き出した。


ユイは途中で家に入り、連は皆にランドセルを揺らしながら走って追いつくと、そのまま同じマンションにある家に帰っていく。


「お前、またユイと2人で話してたのか?よく飽きねぇよなあ」


ヤスは連の気持ちも知らないで好き放題言っている。


「ったく...これだからノンデリは...」


サラは愚痴をこぼす。


レイもこれにはため息をついた。


連はそんな様子を見て苦笑いをした。


「それで?どうだったの?」


「え?どうだったの?って...」


連の理解力のなさにしびれを切らしたサラはハッキリと聞く。


「だから、ユイとはどこまでいったのって聞いてんの!」


「えっ!?そ、それは~...」


連は顔から耳まで真っ赤になっている。


「ま、アンタのことだから普通に話して終わりでしょ?分かってるわよそんなこと」


「うぅ~...」


連は複雑な感情に振り回され、そんな情けない声を発するのだった。





翌日、学校にある団体が講演に来た。


『青少年海外協力隊』という団体だった。


その活動内容は、貧困に苦しむ世界各地に支援活動を行いに向かうというものだった。


そして、これからその活動に夏休みの間のみ協力してくれる隊員の募集を各校から募るというのが今回の講演の締めであった。


連に迷いはなかった。


他の皆も連に続くことに決めた。


そして...


空港にて、皆は張り切りすぎたせいか、集合時間よりもかなり早くに来てしまったため、待機を余儀なくされていた。


「いよいよ今日からだな!やってやろーぜ!」


ヤスは気合満タンである。


「困ってる人たち、たくさん助けようね」


ユイのその言葉に、連は勢いよくうなずいた。


「よーし...!皆、頑張ろう!」


『おう!』


こうして、彼らのかけがえのない、『地獄』が始まりを告げたのだった。

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