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第48話 Sin

連は「逃げたい」と言った。


仲間はそれを受け入れた。


しかし、ここで深刻な問題が発生する。


「でもよ...『解放軍』はどうすんだ?」


ジュンの一言で皆現実に引き戻された。


「戦争ふっかけたのはこっちだぜ。こればかりは俺たちでどうにかしねぇと...」


「...講和会議でも開くか?」


「それだ!!」


ヒカルの提案に皆が乗った。


「それによ!『解放軍』は俺たちに奪われた名声を取り戻そうと躍起になってる。そうそう変なマネはできないだろうぜ!」


「今が絶好のチャンスってことね。それに、現在進行形でいえば、こっちのほうが勢力は上になってきてるわけだし。でも、早いうちに手を打たないと大変なことになりそう。軍事力は未だ向こうのほうが上なんだし」


「それじゃ、誰が行くんだ?」


ヒカルの疑問に対し、サラが挙手する。


「一応外交担当は私だから、ここは私に任せてほしい。でも、今までのように、肩入れしてくれた人たち相手のようにはいかないだろうから、少し不安ではあるけど」


「それじゃ、お願い...できるかな」


「ええ、任せて」


連のお願いにサラは応える。





『解放軍』本拠地にて...


『ヤタガラス』から講和会議の申し出が届いたことにより、ティエラとユカによる審議が行われていた。


「講和だと...?味方を多くつけて気でも狂ったか?」


ティエラは怒りを滲み込ませながらそう言った。


「確かに、軍事力ならこっちのほうが断然上だ。でも、話してみる価値もあるんじゃないか?」


T・ユカは彼をなだめる。


「それに、アイツらとてそんな阿呆でもないだろう。このまま戦闘を続ければ負けることなど、百も承知のはずだ。多分、アイツらの要求は...」


「戦闘の停止、及び相互不干渉...,」


「だな」


ティエラの仮定にT・ユカは賛同した。


「よし、ならばこちらの要求も考えておこう。場合によってのものを、な」


その後、2人で話し合った結果、要求も整い、いよいよ講和会議の日が迫ってきた。





とうとう、その日はやってきた。


『解放軍』本拠地へ『ヤタガラス』の代表が到着した。


ティエラとT・ユカはその様子を見つめる。


「向こうから来るとは感心だな」


T・ユカは気難しそうな顔をしている。


「非武装か...良い度胸だ」


それに対し、ティエラは怒りを含んだ目で、単身やってきたサラを見下ろすのだった。


「そういえば、イドはどうしている」


「アイツは...まだ引きこもっていると思う」


「...使えんな」


2人はそんな会話を交わしながら、会場...とはいっても、テントで空を覆い、机を並べただけである砂利だらけの野外の会場へと、足を運ぶのだった。





こうして、講和会議は始まった。


『ヤタガラス』から派遣されたのは、サラ一人。

武装もしていない。


対し、『解放軍』が送り込んだのはティエラとT・ユカ、そしてその他大勢の武装勢力だ。


「まずは、そっちの要求を聞こう」


ティエラが落ち着き払った口調でそう言った。


「ええ。こちらからの要求は、『戦闘の停止、及び相互不干渉』よ」


すると、T・ユカが口を開いた。


「...一つ聞いておくが、今のお前の状況は、理解しているな?」


「...ええ。私を殺したいのなら、そうすればいい。ただし、それがあなたたちにとっての『交渉』であるということを、以後気に留めておくことね」


「それでは、こちらの要求は、『各地への相互監視機関の設置許─』


「連の首を、我々に差し出せ」


「「!?」」


ティエラの突然の独断行動にサラはおろか、T・ユカまでもが驚きを隠せない。


軍の間でもざわめきが起こっている。


「おい!ティエ─」


「でなければ、要求はのまない。以後、本格的にお前たちを潰しにかかると思え」


サラの表情は、絶望で塗りつぶされていく。


「俺も初めは要求をのむつもりではあった。だが、こればかりはどうにもならん」


「やっぱり...お前をここに連れてくるべきじゃなかったのかもしれない...!」


「言ってろ、ユカ。大体、軍事力ならこちらのほうが上なんだ。そんなに弱気でどうする?それに、この状況、俺たちがどれだけコケにされているのか、お前には分からんのか」


「何を...」


「まず、だ。なぜこの場に連がいない?」


「「!!」」


「この状況になることをアイツは想定していたからだ。単純な力では敵わないから、俺たちに連がその場で殺されるかもしれないとでも思ったのだろう。ああ、高い確率でそうしているさ。その通りだ。その点は評価しよう。だがな...」


「......」


「ここに連がいない時点で、この会議は破綻しているのさ」


そう言うと、ティエラは立ち上がり、パイプ椅子を蹴飛ばした。


「ここまでなめられていたとはな...心外だ」


ティエラはサラを見下す。


「...です」


「?」


「お願いです...」


「!?お、おい...」


「...愚かな」


何とサラは、その場で座り込み、手を付き、頭をこれ以上ないぐらいに下げた。


土下座だ。


それに対し、T・ユカは動揺し、ティエラは呆れかえった。


「お願いです...!連を助けたいんです...!私のことは何してもいいから!連を自由にしてあげてくださいっ...!今まで...たくさんひどいことしてきたことは謝ります!だからっ...!ごめんなさい...!ごめんなさいっ...!」


ティエラは我慢の限界を迎えた。


「ふざけるなっ...!これは子どもの遊びじゃないんだぞ...!戦争なんだ...!お前たちの勝手で、どれだけの犠牲が出たと思っている...!そしてそのままお前たちは最後の最後まで勝手を貫き通すつもりか...!?どれだけ人の命を弄べば気が済むんだ...!!駄々をこねるのも大概にしろ!!」


ティエラは息を荒げながらサラを怒鳴りつけた。


「ごめんなさいっ...!ごめんなさいっ...!ごめんなさいっ...!ごめんなさいっ...!」


それに対し、サラから返ってきたのは、謝罪だけだった。


彼女は何度も額を砂利に打ち付けながら、謝罪の言葉を述べ続けた。


「講和会議は終わりだ。連に伝えろ。『皆殺しだ』とな」


そう言うと、ティエラは会場から退出した。


T・ユカも少し憐れみを含んだ目で彼女を見下ろすと、ティエラに続いた。





サラは虚ろな表情をしながらふらふらとした足取りで出口へと向かう。


出口から出ようとしたその時だった。


「...!アンタは...」


なんと、そこにいたのは、イドだった。


「...何?罵りにでも来たわけ?」


イドは首を横に振る。


「ただ......」


「......」


「...俺はただ、貴方と話がしたいんだ」


「!!」


こうして、イドの『歯車』は、再び動き始めたのだった。

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