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第55話 「繚乱」

オリジンの顔面に拳がめり込む。


そう、アシュラ一族には超常的な特殊能力が効かない。バリアも貫通するのだ。


ヒカルは不敵な笑みを浮かべる。


その笑みは、戦闘狂そのものだった。


「久しぶりだなァオリジン!200年越しに遊びに来てやったぜ!!」


ヒカルは全身が桜色の光に覆われている状態...エクスタシスとなっている。


「さて、こうしちゃいられねぇな。時間は限られてんだ」


ヒカルは大地を蹴り、オリジンを殴り飛ばすと同時にその背後に回り込むと、まわし蹴りを決めた。


オリジンの肉体が大地にたたきつけられ、クレーターが形成された。


「す......すごい...」


連も加勢しようとしたが、あまりにもその規格外すぎる戦闘に圧倒されてしまった。


ヒカルは攻撃の手を緩めない。


倒れているオリジンの頭をつかみ、上に投げ飛ばすと、そのままアッパーを喰らわせた。


空高く上がったオリジンを、今度は真上から空中で蹴り下ろし、再び新たなクレーターが形成された。


土煙の中にヒカルは入っていく。


次の瞬間、土煙が突然吹き飛んだ。


数秒後、近くの岩が砕け散った。


その正体は、ヒカルによる殴打の衝撃波だった。


オリジンがふらついている。


あのオリジンが、だ。


数々の攻撃をもってしてもびくともしなかったあのオリジンが、ただの殴打でふらついているのだ。


連は信じられないものを見ているような表情をしていた。


しかし、ヒカルもヒカルで身体にガタが来始めていた。


サラサラと肉体が崩れ始めている。


「クソッ...!」


ヒカルは焦りを感じ、さらに攻撃の激しさを増した。


殴打と蹴りのラッシュをひたすらオリジンに叩き込む。


数分後、体勢を立て直そうとしたオリジンの頭部を両手でつかむと、思いっきり膝蹴りをかました。


すると、オリジンがヒカルの足をつかんだ。


「っ!!」


そのままオリジンはヒカルを大地に投げつけた。


背負い投げだ。


大地に3つ目のクレーターが形成される。


しかし、それと同時に、背負い投げをされる途中でオリジンの頭をつかんでいたヒカルも、相手の顔面を大地にたたきつけた。


すると、4つ目のクレーターが形成された。


この短時間で、荒野が月と化した。


そのまま、ヒカルはオリジンを蹴っ飛ばし、距離をとる。


ヒカルの手の形が失われ始めた。


「...次で最後の一撃になりそうだな」


ふらついているオリジンに狙いを定めると、ヒカルは“構えた”。


「これでッ...!最後だ!!」


そして、ヒカルは“消えた”。


次の瞬間、オリジンの身体にヒカルの右足がねじ込まれた。


そのまま2人は彗星のごとく飛んでいく。


ヒカルの肉体もどんどん崩れていく。


その間に、2人はいくつもの岩を貫通した。


そして数分後、ついにヒカルはオリジンを蹴っ飛ばした。


オリジンは大地をえぐり、岩の数々を破壊しながら吹っ飛んだ。


数分後、ついにオリジンは岩に激突し、止まった。


「は...はは...どうだ。ちっとは楽しめたろ...」


ヒカルは乾いた笑い声をあげながら、自らの崩れ行く肉体を見た後、連のほうへと目線を変えた。


そして...


「...あとはお前次第だぜ、連」


そう言い残すと、肉体が粉塵と化し、空気中に散っていった。


オリジンはふらつきながらも立ち上がる。


と、そのときだった。


突然オリジンの顔面に何らかの一撃が下り、再びオリジンは地面をえぐりながら吹っ飛び、倒れた。


そのとき、一瞬だけ連は見た。


一人の青年の霊体がオリジンを殴り飛ばす様子を。


ヒカルの、最後の悪あがきだ。


15分、ヒカルはオリジンに渾身の攻撃をたたき込み続け、ついに消え去ったのだった。





オリジンは未だに起き上がれないでいる。


と、そのときだった。


そんなオリジンの背後から何者かが現れ、オリジンの頭部を両手でつかんだ。


連だ。


オリジンは必死で足掻いている。


この間、連はオリジンの能力を次々と奪っていった。


数分後、ついにオリジンが体勢を立て直した。


すると、オリジンは連を岩に叩きつけ始めた。


連は痛みにこらえながらも、絶対にその手を離すことはなかった。


さらに数分後、もう辺りの岩は崩れ切っている。


連は満身創痍になりながらも、未だに手を離さなかった。


その後、オリジンは大地に叩きつけたり、そのまま地面をえぐり取りながらその肉体を連ごと擦り付けたり、ゴロゴロと無意味に転がったりして、何とか連を引きはがそうとした。


しかし、それでも連は手を離さなかった。


ヒカルの努力を無下にするわけにはいかない。


仲間をこれ以上失いたくない。


“夢”をあきらめたくない。


それらのための力が欲しい。


そんな強い意志が、連の身体を突き動かした。





そして、連がオリジンの頭につかみかかってからついに30分が経過した。


すると、突然オリジンの様子が変化し始めた。


辺りが青白い光に包まれ始める。


「...なんだ、これは...」


と、次の瞬間だった。


辺りがまばゆい青白い光とともに、大爆発を起こした。


N・ヤスヒロのUltimateだ。


さすがの連も、今までの蓄積ダメージもあってこれには耐えきれず、ついにその手を離し、吹き飛ばされてしまった。





すると、数分後、一台のバンが荒野にやってきた。


そして、そのまま連を回収した。


その指揮をしていた者の正体...それはユーだった。


そう、いざというときのために、彼らは控えていたのだ。


そのまま、連を乗せたバンは、拠点へと猛スピードで走り去っていくのだった。





「............」


連はぼやける意識の中、バンの中で目覚める。


「!!連!目が覚めたか!?」


返答はない。


すると次の瞬間、ユーは連の両手を後頭部に回し、連に再び話しかけた。


「連!俺の体温を感じられるか!?」


連は虚ろになりながらユーを見つめる。


「おい!連!!」


すると、連はついに、静かに、重くうなずいた。


しかし、声による返答がない。


「しゃべれないのか...?まさか...!じゃ、じゃあ連!これは読めるか!?」


ユーはもう一人の兵士にある本の表紙を連に見せるよう命じた。


それは、ユーのお気に入りの推理小説だった。


連はロンドンでその本について会話したことを思い出しながら、精一杯その題名を読んだ。


「ぎ...たい...?」


「ああ...!良かった...!」


話せることに安心したのか、ユーは安心しきった表情を見せ、未だに自身の後頭部に連の両手を当てたままだったことに気づいたユーは、平静さを取り戻すと、その手を離した。。


その間、連も自身が助かったことに安心しきってしまったのか、一気に力が抜けたように意識を手放してしまった。


ユーが必死に連を呼ぶ声が聞こえるが、それもだんだんと聞こえなくなっていった。


こうして、オリジンと『ヤタガラス』の戦いは終わりを告げた。


バンは荒野を走り続ける。


このとき、その先が既に戦場になっているとは、誰も知りもしなかったのだった。

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