講和会議終了後、『解放軍』は着々と軍備増強を進めていた。
最新鋭の兵器、圧倒的物量......そのどれもを『解放軍』は有している。
彼らの背景には、アメリカがいるからだ。
準備を進めていたのは、ティエラも例外ではなかった。
小銃、マシンガン、拳銃、銃剣......それら全ての手入れを、彼は怠ることなく行っていた。
と、そのときだった。
「ティエラ、貴方に朗報よ。準備が出来次第、研究室に来なさい」
突然背後から、ハンナが話しかけてきた。
これから戦争だというのに、相変わらずブカブカな白衣を身にまとっている。
ティエラはそんな彼女に呆れながらも、武器を収納し終わると、彼女の研究室へと足を運んだ。
「待っていたわ」
「用ならとっとと済ませてくれ」
「ハイハイ......それじゃ、これ」
「......?」
ハンナはある白い“柄“を渡してきた。
「......なんだこれは」
「まあまあ、騙されたと思って、その柄に思いっきり“念じてみて”」
「“念じる”?」
ハンナはうなずいた。
「ほら、それこそ......あれ、斬ってみる?」
そう言うと、ハンナは加工された金属の塊を指さした。
これは、ティエラの銃剣にも使われている、簡潔にいえば、“世界一固い合金”である。
(斬るって...)
ハンナは何も言わない。
(はあ...仕方ない。斬るしかないようだ)
そして、ティエラはあの金属を斬る、と強く念じた。
と、そのときだった。
突然柄に橙色の文様が現れ、柄の先から不思議な文様を含む橙色の“光の刃”が顕現した。
「!?これは...?」
「やっぱりね......。それは『ソウル・ブラスター』。私のご先祖様...アイリス・ホムラが200年前に残した代物よ」
「一体、どんな仕組みなんだ...?」
「私にも詳しくは分からないの。ご先祖様があまりにも天才過ぎる故に、ね。私も私で天才ではあるはずなんだけど、こればかりはどうにもならないわ。ただ、その“兵器”のエネルギー源が“星の思念”であることに間違いはない」
「“星の思念”...だと?」
ハンナはうなずいた。
「星にはね、思念があるの。思念はエネルギーとなって、私たちに様々な恩恵を与えてくれる。例えば、私たちはここに存在しているでしょう?これは、かつては『神』、今は『運命』による心象がそうたらしめているの」
ティエラは驚きを隠せないでいる。
「そ、そんなエネルギーを...兵器に......?それに...お前には星の思念が分かるのか?」
「それが分かるのよ。不思議でしょう?科学者になるべくして生まれた家系なのかもしれないわ」
「...それで?このソウル・ブラスターが創るのは、武器に限定されているのか?」
「ええ。ソウル・ブラスターの場合、星の思念が使用者の心象に呼応して武器を形創るの。戦う意志が強い人間でないと使えないみたいで、私にはそれは反応しなかったわ」
(なるほど...だから“剣”なのか)
「さ、説明は済んだでしょう。斬ってごらんなさい」
ハンナが改めて金属の塊を指さした。
「...やってみよう」
ティエラは少し、刃を金属の塊に斬り込んでみる。
すると、驚くべきことに、金属の塊は瞬く間に溶けていき、断面があらわになっていった。
「!!これは...!」
ティエラはソウル・ブラスターの力に圧倒された。
「どう?」
「...これは良い。役に立ちそうだ。礼を言う」
「アッ...!アンタに礼を言われるのは...こう...気持ち悪いわね」
「...もう二度と礼は言わんぞ」
「冗談よ」
そんな他愛のない会話を交わすと、ティエラは研究室を出て、持ち場へと戻った。
「?ティエラ、どうしたんだ?それ」
持ち場に戻ると、T・ユカにソウル・ブラスターのことを指摘された。
「ああ。これは......新たな“相棒”だ」
「へぇ......“お前も”か」
「...能力は絶対に受け取らんぞ」
「分かってるよ」
T・ユカは苦笑いした。
こうして、『解放軍』はついに全面戦争へと突入していくこととになる...
と、そのときだった。
スマホに通知が鳴る。
「?」
2人はそれぞれのスマホを見る。
そして、驚愕した。
それは、『解放軍』の情報部による伝達だった。
その一つはオリジンが南下し始め、モンゴル地域の荒野に到達したこと、そしてもう一つ......
それは、『ヤタガラス』の連とヒカルを中心とする勢力がオリジンに奇襲を仕掛けたというものだった。
2人はあまりにも突然すぎる彼らの奇行に驚愕するとともに、これはチャンスだと思った。
2人の主力がいるが故に、初めは拠点を攻め落とすことを躊躇していていたが、その2人がいないことや、軍備増強を進めていたこともあって、これは『ヤタガラス』を壊滅させられる最大の好機だからだ。
こうして『解放軍』は全速力でロンドンへと侵攻を開始するのだった。
一方、ロンドンでは現地人による暴動が起きていた。
『解放軍』による侵攻を恐れ、『ヤタガラス』の国外追放を政府に嘆願するためだ。
暴動により、ロンドンどころか、国土全体のインフラがマヒしかけたこともあって、イギリス政府は、直ちに『ヤタガラス』に国外退去を命じた。
しかも、その背後にはイギリス軍もいたことや、主力の2人がオリジンとの戦いに出向いていることもあって、『ヤタガラス』に選択肢は残されていなかった。
こうして、『ヤタガラス』は島国という最大の要塞を失い、大陸の戦場へと、引きずりおろされることになるのだった。
一方その頃、モンゴル地域の荒野にて...
そこでは連とヒカル、そしてオリジンが対峙していた。
ただならぬ緊張感が漂う中、初めに口を開いたのは、ヒカルだった。
「オリジン...200年たっても、やべーやつには変わりねえか...」
「勝てると思うか?オレたちで」
連もヒカルに続き、口を開き、そう聞いた。
「負ける確率は99%、勝てる確率は1%といったところだな。よし、行くぞ」
「...おい...!今1%と...!?」
連はヒカルの言葉に動揺した。
オリジンと実際に戦ったことのあるヒカルがそう言うのだから間違いないだろう。
勝てない。しかし、彼は『行こう』と言った。
このとき、連は、自ら発案した作戦なのにもかかわらず、この絶望的な状況により、自分から既に諦めの感情が湧き出てきていたことに気づいた。
「...連、“あの時”...どうして“俺たち”が『英雄』になれたと思う?」
「...何?」
「理由は至って簡単。だけど、誰も『やろう』とは思わないだろうさ」
「............?」
ヒカルは自身の掌と拳を勢いよくぶつける。彼の見据える先は、オリジンただ一人。
「その1%に、賭けたからだ!!」
次の瞬間、ヒカルの全身を桜色のオーラが覆う。
覚悟はとうに決めている。あとは前進あるのみ。
さあ、役者は揃った。 死闘の始まりだ。