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第64話 SURROUND

ある海岸にて...


そこには、世界中の空母、そして、無数の戦闘機が待機していた。


そして......


「全機発艦!!」


その言葉とともに、戦闘機は一斉に発艦した。


彼らのコックピットからは、もはや天変地異と言っても過言ではない景色が小さくではあるが見えていた。





この日、ついに『人類軍』による包囲戦が決行された。


数日前のブリュッセルでの会議...通称『アルマゲドン会議』により、全世界の軍事力が結集され、『人類軍』が誕生した。


そして、今に至る。


『人類軍』はある一点......連へ向け、囲い込むように進軍し、戦車砲やミサイル、ロケット弾など、止まることなく攻撃を続けた。


世界規模の軍による未曾有の大規模攻撃。


その様は、災害に似た領域へと達していたのだった。





空母から発艦した戦闘機の数々が戦火の中心へと迫っていく。


『高エネルギー反応がある場所に一斉攻撃せよ』


『了解』


『前線地上部隊退却完了。攻撃を許可する』


『了解。攻撃を開始する』


そのようなやり取りの後、全ての戦闘機から攻撃が下った。


その後、攻撃を終えた戦闘機は一時戦線を離脱。


次に爆撃機が一斉に目標へ向け、爆弾を投下した。


「これではまるで、鉄のスコールだな......」


前線を離脱した地上部隊の一人はそう呟いた。


辺りは爆煙に包まれ、太陽がまだ昇っていることが信じられないほどに暗くなっていた。





「打ち方止め!!」





そのような伝令が下り、全ての兵器が一斉に沈黙した。


それから1時間ほど、爆煙が止むのを『人類軍』は待ち続けた。


そして......


「やっと引いたか.........え?...」


一人の軍人が爆煙が止み、露わになった視界に対し、衝撃を受けた。


「嘘だろ...なんで...」


そこには一切の傷も存在しない連の姿があった。


そして数分後、ある軍人が悲鳴を上げ始めた。


「おい!どうした!?」


「『裁き』だ!『裁き』が下るぞーッ!!」


恐怖に歪んだ表情で空に指をさす。


その様子から、彼に続き、空をみた軍人は、目の前の景色に絶望した。


「なあ......あれ、全部星だったりしないかな...?」


そんな言葉もむなしく、『星』は容赦なく彼らに近づいてくる。


「退却―ッ!!!!」


『人類軍』は退却を開始した。


しかし、そんな退却も意味をなさず、幻日が彼らの下へと降り注いだ。


悲鳴を上げる猶予もなかった。


前列にいた地上部隊の面々は、壊滅的な被害を受け、その結果、この日の包囲戦は『人類軍』の屈辱的大敗で幕を閉じたのだった。





『解放軍』の面々も、その様子を自軍の飛ばした撮影用ドローンの映し出す画面越しに見ていた。


T・ユカは掌で両目を覆いながら落胆した。


「なんてこった...これじゃあまるで、もう一人のオリジンだ......」


ティエラもこれには唖然とした。


あまりにも圧倒的すぎる。


人類が束でかかっても倒せないような領域まで、連は達していた。


淡々と殺戮をもたらすその姿は、まさに『魔王』そのものだった。


かつて、連を崇めていた者たちも、この戦いによって連が『人類の敵』であることが痛感させられることとなったのだった。





『第一次包囲戦』より3日後、『人類軍』は再び連に立ち向かった。


『人類軍』は、今度は廃都市を戦場に選んだ。


廃ビルの中や陰越しに攻撃を仕掛け、その一方、彼らが見つからないように戦車や爆撃などで連に攻撃を仕掛けることで、隠れている軍が見つからないようにもした。


しかし......


「お、おい......なんだ?建物が揺れてるぞ?」


「そりゃお前、爆撃とかやってんだから─」


「違う!その“揺れ”とはまた違ったものだ!」


次の瞬間、廃ビルの数々は根から引き抜かれ、なんと浮き始めた。


その後、廃ビルは空高く上がり、空中で暴走し始めた。


廃ビルに立てこもっていた者たちがふるい落とされていく。


すると、戦闘機や爆撃機を次々と粉砕していき、その後は大地へとそれらが襲い掛かった。


廃ビルの雨によって、戦車や隠れていた者たちが次々に犠牲になっていく。


廃ビルから生き残った者たちがぞろぞろと出て来た。


「退避!退避ィーッ!!」


彼らは退却を始めた。


連は退却する彼らに攻撃を加えることはなかった。





しかし、『人類軍』はそれでも諦めなかった。


『第二次包囲戦』で大敗を喫した『人類軍』は新たな作戦を編み出した。


ある場所にて、そこには大きな谷があった。


そして、谷底へと通じる傾斜の近くに連が腰掛けた次の瞬間......


「撃てーっ!!」


幾重もの戦車砲が火をふき、連を爆発の衝撃で谷底へと突き落とすことに成功した。


そして、ある基地にて......


「連の落下を確認!」


「よし!一斉攻撃だ!」


ミサイルが次々と発射され、連のいる谷底へと方向を変えていった。


連は谷底へ落下した後、静かに起き上がった。


次の瞬間、谷底へ向かって一斉に数多のミサイルが着弾した。


その爆発は地を揺らした。


「な、なんて威力だ...!」


軍の一人は、味方の攻撃であるにもかかわらず、その威力に戦慄していた。


「これなら...!」


敵の姿をつかめない今の連には、幻日も使えない。


それに、仮に幻日を使えば、谷が崩壊し、自身が下敷きになる可能性もある。


『人類軍』は、今回の第三次包囲戦において、連の動きを封じ込めることに徹底した。


こうして、『人類軍』は戦略的優位に立てたように思えたが...


「お、おい...あれ!」


「......嘘だろ?」


彼らはある場所を指さし、口々に驚きの声を上げた。


その場所は、なんと空だった。


連は、空に浮いていた。


そう、彼らは連が浮遊できることを知らなかったのだ。


陽の光が空に君臨する彼を照らす。


その様は......


「まるで、『神』じゃないか...」


一人の軍がそう呟いた。


しかし、


「まだだ!まだ終わっちゃいない!俺たちはまだ戦える!」


一人の軍のその言葉で、彼らは現実へと引き戻された。


士気を取り戻した『人類軍』は、空中にいる連に向かって一斉攻撃を始めた。


彼は瞬く間に爆炎に包まれた。


「人類を舐めるなよ!連!」


「よく聞け『魔王』!人間ってのはなァ!諦めの悪い生き物なんだよォ!!」


幾人かの軍はそう啖呵を切った。


しかし、それから数分後、爆炎の中から、流星群のように幻日が襲い掛かってきた。


「退け―!退けーッ!」


その言葉が聴こえた次の瞬間、彼らは一斉に軍用車や戦車などに乗り、瞬く間にその場から退いた。


そして、幻日が全て着弾して十分ほど経過したそのとき、再び戻り、連に攻撃を加えた。


およそ3時間にも及ぶ激戦だった。


と、そのときだった。


一つの銃弾が連の頬をかすめた。


すると、連の頬から血が一筋伝い始めた。


だんだんと連の防御も甘くなってきたのだろう。


ついに『人類軍』は彼の身体にダメージを与えることに成功した。


連はそれを認識した瞬間、『神速』でその場から退避した。


『人類軍』は連を取り逃がしはしたものの、彼を退けるほどの打撃を与えたことに対し、喜びの歓声を上げたのだった。





その様子を『解放軍』の面々は画面越しに見ていた。


「アイツら...!やりやがったぞ!連にダメージを与えやがった!」


T・ユカは興奮気味だ。


しかし、ティエラは冷静を貫いていた。


「おい、ティエラ。お前も少しは喜べよ」


ティエラはため息をついた。


「お前は何もわかっちゃいない」


「何?」


「アイツが本当に防御を崩されて被弾したと思うか?」


「......何が言いてぇんだよ」


するとティエラは無言で映像を巻き戻し、ある部分で一時停止した。


「コイツの手元を見ろ。被弾した瞬間、明らかに脱力している。まるで何らかのスイッチをオフに切り替えたかのようにな。そして、被弾した瞬間、再び脱力を解いている」


「つまり...アイツはわざと攻撃を喰らったと...?」


「そうだ。大体考えてもみろ。頬の一発だけ喰らうなんておかしなことだろう。それ以外にもアイツには延々と攻撃が下っているのだからな」


「......でも、一体何のためにそんな...」


「分かるはずがなかろう。俺に聞くな」


「『夢』を終わらせないためだ」


「「!?」」


2人が考え込んでいると、突然イドがそう言って彼らの間に割り込んできた。


「『夢』だと...?」


T・ユカはイドに聞く。


「連の夢...それは人類の調和だ。人類が互いに争い、憎み合うのではなく、互いに手を取り合い、助け合う世界を創る...それが連の夢なんだ」


「......つまり、その夢を叶え、終わらせないためにわざと今回は攻撃を喰らい、『人類軍』の士気を維持させようとしたということか」


ティエラの考察にイドはうなずく。


「それで...ヤツはそれに“耐えられているのか”?」


T・ユカの質問に対し、イドは苦しみを込めた表情でその顔を横に振った。


「映像を見れば分かる。ずっと苦しそうに見える。連だって心を持つ人間なんだ。だから...」


ティエラはイドをじっと見つめる。


「連はもう、楽になりたいんだと思う。仲間も全滅した今、彼には心の憩いもない。そんなの...もし俺が連だったら耐えられない」


「じゃあ、アイツは死にたがっていると...?」


T・ユカがそう言った次の瞬間だった。


突然ティエラが立ち上がる。


「なら好都合だ。俺はアイツを殺したくて仕方ない。アイツは殺されたがっている。ウィンウィンじゃないか。そうだろう」


「それじゃあ、なんでお前はアイツにやられたんだよ」


T・ユカの心無い質問にティエラはムッとした。


「次は必ず殺す」


ティエラはそれだけ言い残すと、司令部へずかずかと入っていった。


数秒黙っていたイドが口を開く。


「それでも俺は......あの人に生きてほしい。生きて、沢山幸せと触れ合ってほしい。もうこれ以上苦しむ必要はないんだ。だから...」


「だから?」


T・ユカはイドに続けるよう促す。


「俺はあの人を、救い出してあげたい」


「......」


「でも、あの人が本当に心から望むのなら...」


「?」


「そのときは、俺があの人を”救い出す”」





司令室にて、


「ティエラさん、何用で?」


一人の軍がそう言うと、ティエラは強引にその軍をどかし、画面を凝視した。


「連の場所は分かっているのか?」


「それがパタンと分からなくなりましてね。『人類軍』と戦っているときはすぐに分かるんですが」


「なんだと?」


(なんらかの能力を使っているのか...?)


ティエラは独りそんな考察をしながら司令部を出て行くのだった。





深夜のことだった。


突然イドのスマホから音楽が爆音で鳴り響いた。


イドは慌ててテントから出ると、音楽が止まる。


「い...一体なんだ?壊れたのか...?」


イドがスマホの画面を覗き込み始めたその時...


「やあ、イド」


そう軽く挨拶を済ませてイドのスマホの画面に突然現れた男...その正体は......


「......連...!?」


「ああ」


「一体何のためにこんな...」


「君と、話がしたいんだ」


こうして、事態は大きく動き始めたのだった。

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