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第63話 「審判」

身を覆う純白の衣と毛髪を、日が照らす。


彼は死に堕ち、再びこの世に生を得た。


「なんてことだ......アイツは、神になったんだ...」


T・ユカは驚きを含みながらそう呟いた。


そして、直後のことだった。


「なあ...............ティエラ?ティエラがいない!」


いつの間にか、ティエラはその場を後にしていたのだった。





郊外の廃市街。


連は独り、足を進める。


と、そのときだった。


少し日差しに眩しさを感じた連は、一度目を手で遮り、再び視界を取り戻す。


すると...


「......!」


目の前には人影。ティエラだ。


「『魔王』か。なかなかに結構なセンスだ。だが、今度こそ終わらせる」


ティエラはソウル・ブラスターを起動し、刃を連に向ける。


連は沈黙とともに、そんなティエラを見つめる。


その目は、どこか哀れみを感じられるものだった。


そして、ついに口を開く。


「なぜ死に急ぐ」


「......なんだと?」


「.........」


「ハッ......まるで、俺が負けるのが前提であるかのようだな......」


「.........」


「だがな............死ぬのは、お前だッ!!!!」


ティエラは恐るべきスピードで連に斬りかかった。


が、


「!?」


難なくかわされた。


まるで、そこに攻撃するのが分かっていたかのように。


連は背後に回る。


すると次の瞬間、ティエラは振り返ったその時、信じられない光景を目にした。


(......嘘だろ?アイツ......浮いているのか?まさか、ウラヌスの能力...?しかし、ウラヌスでも、『無重力』は操れなかったはずだぞ...!)


そう、連は文字通り浮いていた。そして、その身体は空中で逆さまになっている。


次の瞬間、連の周囲にいくつもの光弾が顕現した。


ティエラはその多さに目を見開いた。


(おい...!冗談もほどほどにしてくれ...!幻日はソレイユでも一度に4つまでしか出せなかったぞ...!それを8つも...!?)


そして、連がティエラを指さした次の瞬間、いくつもの幻日がティエラ目掛けて発射された。


ティエラは冷や汗を滴らせながら構える。


もう後戻りはできない。正面から打ってかかるのみ。


ティエラは目にも留まらぬ速さで数多の斬撃を繰り出した。


直後、真っ二つになった幻日の数々がティエラの背後を通過し、そのどれもが地を揺らしながら爆ぜた。


ティエラは息を切らしながら連を見上げる。


「クソッタレが...!」


連が地に下りた瞬間、ティエラは“あの構え“を即座に取り、音もものともしないスピードで斬りかかった。


が、


連は物質錬成で幻日の棒を作ると、それを正面から防いだ。


ティエラは刃を押し込むが、一方の連は全く力を入れず、そんなティエラをただ見下ろし続けている。


しかし、それで終わるティエラではない。


ティエラは連を弾き飛ばすと、即座に拳銃を発砲した。


銃弾は確かに命中した。


連の脚に血が滲み始める。


しかし...


連は自身の脚だけに文様を発生させ、即座に再生した。


ティエラにもなし得なかった、インフィニティ・モードの部分的使用。


「あ......ああ......」


それを目に焼き付けられ、ティエラは絶望に塗りつぶされた。


言葉にもならない、間抜けた声が漏れ出た。


しかし...


絶望は、怒りに塗り替えられていった。


「...せ」


「...?」


「返せ...」


「......」


「返せッ!!!!」


ティエラは再び剣を手に取る。


「連エエエエエエンッ!!!!!!!!」


ティエラは怒りに身を任せながら刃を振り上げる。


しかし、連はそれを難なくかわし続け、神速で距離をとりながら幻日をいくつもティエラに飛ばす。


ティエラはそれらすべてを切り刻みながら連のもとへ進み続ける。


岩の拳も、地の津波も、すべてを乗り越え、連の前に立つ。


「ハアッ...ハアッ...殺す...殺してやる...!」


連は幻日の刀を錬成し、神速でティエラの背後に回るが、ティエラは神速を気配だけで読み取り、何度も迎撃を加えた。


しかし、その迎撃も、連の前には無力。


すべて防がれた。


そして、そのお返しと言わんばかりに幻日がティエラに襲い掛かり、ティエラはそれを斬り裂きながら連に何度も攻撃を加え、かわされ、連の攻撃をかわし、再び攻撃を加え、かわされ、連の攻撃をかわし...


その後も攻防は続いた。


連の攻撃は、数多の類のものがあり、そのすべてにティエラは立ち向かい続けた。


その結果、彼らの周りは天変地異そのものとなっていた。


これまで連相手に善戦を繰り広げたティエラだったが、ついに体力切れを起こし、片膝をついた。


一方、連は何ともないかのように、ティエラを見下ろしている。


「ハアッ...ハアッ...クソッ......コイツ...体力も...」


ティエラは息を切らしながら連を明確な憎悪を以って見上げる。


そして次の瞬間、連が突然目の前に現れたかと思うと、ティエラの視界は闇に突き落とされた。





T・ユカは、凄惨な光景となった廃市街にたどり着いた。


すると...


「あれは......ティエラ!!」


T・ユカは廃市街の中心で地に伏しているティエラを発見した。


「よかった...!生きている...!」


T・ユカは数人にティエラの救護を命じる。


こうして、上海で“瞬間”を見届けた『解放軍』は、ついに拠点へと帰還するのだった。





それから数日が経過した。


その間、連からは特に動きがみられなかった。


しかし、この日、ついに動き出した。


スマホで他の支部と連絡を取り合っているときのことだった。


突然スマホの画面が暗転した。


そして次の瞬間だった。


数秒の暗転を経て画面に表示されたのはある映像。


玉座に腰掛ける人物。連だ。


「これは...!?」


実は、この現象は世界中の液晶画面で起こっていることだった。


数秒後、連は言葉を発し始めた。


『ごきげんよう。全ての人類』


『これより、お前たちに裁きを下す』


『これから世界は、我が手の中に落ち、恐怖と支配に脅かされるのだ』


すると、映像が消え、画面が再び暗転したかと思うと、スマホの液晶は、何もなかったかのように、いつもの画面を映し出していた。


「一体何が起こったんだ...?」


T・ユカは未だ混乱している。


「アイツ...何をする気だ...?」


ティエラは冷や汗を浮かべる。





連はある地にある『ガレキの城』の玉座からゆっくりと立ち上がる。


そして両手を空に掲げると、彼の周りには無数の幻日が顕現した。


「さあ...魔王のもとに跪くが良い...」


無数の幻日はそれぞれ分散し、飛んでいった。





アメリカ合衆国...ペンタゴンにて


「さっきの映像は何だったんだ...?」


執務室で司令官がうなっていると、突然パソコンの画面から米軍の一人が連絡を要請してきた。


「どうした?」


「緊急事態です!!我が国に、無数の高エネルギー反応!!」


「!!今すぐ迎撃準備を─」


「ダメです!間に合いません!!ぐあああああッ!!!!!」


そのとき、画面越しの景色は一瞬にして炎に包まれた。


すると、次に執務室の扉が勢いよく開かれた。


「!!」


「司令官!こちらにも高エネルギー反応が接近中!!」


「...神の審判か」


次の瞬間、ペンタゴンは一瞬にして幻日により吹き飛ばされた。





日本国...首相官邸にて


「総理!米国が連の攻撃を受けています!」


防衛大臣からそんな報告を受け、総理は即座に各地の基地に連絡を開始しようとしたそのとき、なんと各地の基地のほうから連絡の要請が届いた。


すると...


「総理!!我が国にも無数の高エネルギー反応が接近中です!!」


「何!?今すぐ迎撃を─」


「ダメです!全部は防ぎきれませ─ぐわああああああッ!!!!」


各地の基地と自衛官を映し出していた画面のすべてが炎に包まれ、数秒後、そのどれもが暗転した。


その後も『裁き』は各地を襲った。


ニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコ、シカゴ、東京、名古屋、横浜、大阪、福岡、シドニー、メルボルン、ウェリントン、ロンドン、マンチェスター、ダブリン、パリ、ベルリン、マドリード、プラハ、ソフィア、ブカレスト、ベオグラード、ローマ、アテネ、イスタンブール、トロント、ケベック、上海、北京、香港、台北、ソウル、平壌、モスクワ、ニューデリー、リヤド、ドバイ、テヘラン、カイロ、アディスアベバ、ヨハネスブルグ、アブジャ、ンジャメナ、ナイロビ......


数々の都市が犠牲となり、死者数は、数百万は下らないものであった。





「なんてことを......」


T・ユカは頭を抱える。


「8個どころじゃなかった...............化け物が...!」


ティエラは歯軋りをした。


イドとレオもその惨状を液晶越しではあるが確かに目にした。


「なぜだ...なぜそこまで...!」


イドはそんな言葉を発しながら画面を見つめるのだった。


連の攻撃は、あまりにも無差別なものであった。


犠牲となった都市の中には、『ヤタガラス』を支持する都市や、『親衛隊』の出身地も入っていた。


こうして『親衛隊』の者たちは、自分の故郷や家族を死に追いやった連に対して反感を持つようになり、ついに『親衛隊』は解体されることとなったのだった。





しかし、そのような中でも彼の元を離れなかったものが2人だけいた。


「......姉妹揃ってまだ残るのか?」


連は2人にそう尋ねる。


そう、残った2人はメイとフェイだった。


リーはというと、自身の故郷を助けるために今は『親衛隊』を抜けている。


「私たちには、どうせ帰るところがないですし」


フェイは両手を後頭部にかけながらガレキに腰掛けると、そう言った。


「私は約束しましたから。貴方のそばに居続けると」


「え、2人ってそんな関係だったの!?」


「「.........」」


フェイが驚きのあまり大声でそう言うと、2人は目を背け、黙りこくってしまった。


「でもどうするんですか?これじゃ、世界中が敵になりますけど」


「いや、それでいいんだ。俺の望む世界が今目の前にあるのだから」


フェイの質問に対し、連はそう答えた。


その後、メイとフェイは街へ買い出しに行った。


その際、フェイはメイから連の『夢』の全貌を聞き、驚愕したのだった。





連による『裁き』から1カ月が経過した。


世界各地では、政府の中枢の修復が進み始めたころだった。


そして、そのような中での“この日”だった。


ブリュッセル......かつて、多くの国際機関が存在していた都市にて、ある会談が開かれた。


その会談には、全ての民族政府や国家の代表、そして、各国の軍が集結していた。


その中心にいるのは、今最も力を持つ国家、アメリカ合衆国の大統領である。


会談の締めくくりに、この会談の主催者であるアメリカ合衆国大統領による演説が行われることとなった。


全世界の代表が、市民が見ている。


そう、これは全世界で配信されているのだ。


「まずは...本会談に参加していただいたことに対し、心からの感謝を述べる......。ありがとう」


もちろん、『解放軍』の面々も、その様子を液晶越しに見ていた。


「我々人類は......これまでの長い間...そう長い間だ。その年数は計り知れないだろう。その長い間...幾度となく、傷つけあってきた。同じ人類同士でだ」


代表の面々は苦い表情をした。


「しかし、それも今日で終わりにしよう。なぜなら、我々はこれまでにない危機......絶滅の危機に直面しているからだ。我々は、連という...“怪物”に、家族を...故郷を破壊しつくされた。この痛みは確かに、ここにいる誰もが共有できるもののはずだ。だからこそ、我々は今、この痛みを以って分かり合える」


代表の面々はうなずいた。


「ならば、我々の進む道は一つ......戦うのだ。これから我々が行うのは、人類史上最大の作戦だ。我々は戦わずして死ぬつもりはない。我々は生きるために戦うのだ。たった一つの......我々にとって共通の“敵”を討ち滅ぼすために」


世界中の誰もが、彼の演説を聞き逃さまいと、釘付けになる。


「今こそ、我々人類が手を取り合う時だ。我々人類は『魔王』の支配などには屈しない!......“あの映画”の言葉を借りるのならば、これから我々がもたらすのは、全ての人類に贈る『独立記念日(インデペンデンス・デイ)』だ!!」


次の瞬間、会場中で大歓声が響き渡った。各国の軍も肩を組み、武器を掲げ、あふれんばかりの士気を叫んだ。


この会談により、全ての人類の人類による人類のための連合軍......『人類軍』が結成されることとなった。


これまでの計り知れない長い間、互いに傷つけ、憎み合ってきた人類が、ついに手を取り合い、前に進み始めたのだ。





こうして、連の『夢』は叶った。

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