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第67話 「回顧」

「長くないって...どういうことですか!?一体アイツらに何をされたんですか!?」


フェイは連に問い詰める。


「俺にもよく分からないんだ。ただ...何らかを身体の内部に入れられたということだけは分かる」


「じゃ、じゃあ!こうしてる暇もないですって!早く取り出さないと!!」


「いや、無駄だ」


「どうして!?」


「もう、『浸透』しきっている」


「!!......そんな」


「......すまない」


連は罪悪感に苛まれていた。


数万もの人々の命の骸の上に、自分は立っている。


彼らのためにも、自分は使命を果たし続けなければならない。


しかし、『全て』がそれを許さなかった。


その結果、自分は『全て』に牙をむかれ、完全なる死という形でこの世から駆逐されることとなってしまった。


数万の彼らの犠牲は、あまりにもあっけなく無駄となってしまったのだ。


「......俺は、これから先、長く『魔王』を続けることはできない。ただ、できる限り、続ける所存だ」


「.........思ったこと、あるんですけど」


「......?」


フェイが切り出したことに対し、連は顔を上げる。


「本当に......ただそうなって欲しくてあの人たちは連さんを生き返したのかなって」


「......どういうことだ?」


「あの人たちはあなたを『希望の象徴』だって言ってた。あの人たちは、あなたに『魔王』として、大量殺戮者として生きて欲しかったから生き返したわけじゃない......ただ、あなたに生きて欲しかったから生き返したんじゃないかって思うんです」


「......じゃあ俺は、どうすればいい」


「あの人たちは幸せを求めてあなたを頼り、そして最期は生き返した......だから、その人たちの分、連さんも幸せになればいいんです!あなたはあの人たちにとって、『象徴』なんですから!」


「......!」


連はフェイの言葉を聞き、その後、辺りを見渡す。


すると、


「......幸せって、どうやるんだっけ」


と、一言漏らした。


「それは連さん次第ですよ。連さんにもやりたいこと、あるでしょ?だから連さんのやりたいこと、全部今のうちにやっちゃいましょう!」


「やりたいこと...」


フェイの言葉に対し、連は自分が何をしたいのか、考えた。


「現時点で、俺は『夢』を叶え、それを果たしている。それはやりたいことをやっているということでいいんじゃないか?」


「うーん......私が言いたいのは、そんな壮大なことじゃなくて、もっと身近なことですよ!やろうと思えば、誰でも簡単にできるような、でもまだ自分はそれをやってないから、やりたい!っていうようなもののことです」


「.........普通に生きたい」


「...............」


フェイは連の答えに対し、黙りこくってしまった。


フェイには、連の口から出た『普通』という言葉が、あまりにも重く感じた。


すると、今度はメイが前に出た。


「それなら、そうしましょう。ただ、日常を過ごしましょう。それが連の幸せだというのなら、“彼ら”も反対しませんよ」


メイの言葉に対し、連は少し考え込むと、うなずいた。


が、その数十秒後だった。


「......来る」


「「......?」」


「ふせろ!」


次の瞬間、連は両手を大地にたたきつけ、『ガレキの城』の周りに巨大な岩の城壁を築いた。


すると、その数秒後、いくつもの空を切る音が接近したかと思うと、それら全てが轟音を立て始め、地を揺らした。


「これって...!」


フェイは頭を手で防御しながら状況を確認する。


「......どうやら、世界が“それ”を許さないようだ」


「そんな...!」


連は眉間にしわを寄せながら現実と向き合った。


フェイも分かってはいたが、残酷な現実に直面し、歯ぎしりをした。


メイもその隣で目線を地に落としていた。


「2人とも、そのままにしているんだ」


連はそう言うと、両手を天に掲げ、大量の幻日を空に形成した。


すると、それらは城壁の外にいる兵士たちに降り注ぎ始め、数十分後には彼らの姿はなくなっていた。


「どうやら退いたようだな」


城壁を解除し、3人が外に出たとき、その内の1人である連はそう言った。


そこには大量の屍が転がっていた。


「......いつまで、こんなの...」


フェイは震える声でそう言った。


一方...


「......連?」


メイは連の様子をうかがっていた。


「......大丈夫。ただ少し疲れただけだ」


そういうと連は場内に戻り、玉座に座り込み、手をかける場所に頬杖をつくと、そのまま眠ってしまった。





連が起きると、日は暮れていた。


「あ、おはようございます!」


「......おはよう」


フェイが元気よく挨拶すると、連はそれに応えた。


「......一つ、言っておきたいことがある」


「はい?」


「無理をする必要はない。無理ならここを離れてもいいんだ」


「......」


「あの時、君は『いつまで』と言っていた。無理もない。あんなに人が死ぬのを見るのは耐えられないだろう。そこまでしてここにいる必要なんてないんだ」


「......嫌です」


「......え?」


「嫌です!絶対ここを離れたりしません!」


「......どうして」


「なんだか、連さんって放っておけないんですよ。放っておいたらすぐ壊れてしまいそうで......。そんなの私は黙って見ていることなんてできないんで!それに、姉さんもここを離れる気なんてないだろうし」


「俺のせいか...」


「“せい”なんて言わないでよ!」


「!!」


フェイが突然大声を出したため、連はびくついた。


「どうして...?どうしてそんなに自分を大切にできないの!?どうしてもっと自分のために何かしようって思わないの!?」


「......」


「前言ったよね!?あの時、あなたを生き返した人たちにとって、あなたは『希望の象徴』だったんだって!」


連は小さくうなずく。


「皆、あなたが大好きなの!あなたに幸せになって欲しいの!生きて欲しいの!あなたが幸せなら、私たちも幸せなの!それなのに...」


「......」


「それなのに...!あなたがあなたを嫌いで、どうすんのよ...!もっと...!もっと、自分を好きになってよ!!」


「......ゴメン」


「あやまらないでッ...!」


「............ゴメン」


連の声は、少し震えていた。


フェイの目からは涙があふれていた。


メイは、その様子を、ただ見ていたのだった。





翌日、連とフェイは少し気まずい雰囲気が漂っていた。


「えっと...」


「......」


「......」


連はフェイに話しかけるが、フェイから返答はない。


連はメイに助けを求めるような目線を送るが、メイはただ微笑むだけだった。


その日の夜...


「なあ...」


「......」


「無視しないでくれよ...昨日のことは、その...悪いと思ってるから」


「......はぁーッ」


「......!?」


「何が悪かったのか、分かっていってます?」


フェイはジト目で連を見る。


「えっと...自分を大切にしてない...ところ?」


「......あと一つ」


「え」


「私たちの好意を切り捨てるようなことを言いました」


「......?」


「『嫌なら離れてもいい』」


「......あ」


「傷つきましたよ...。私たちの好意は、あなたにとってその程度のものでしかなかったんだって...」


「それはッ!その、そんなことは...!」


「あります」


「うっ......ゴメ─」


再びジト目でフェイは連を見る。


「やっぱなんでもない...」


すると、フェイは少しため息をついた。


「連さんって、不器用ですよね」


「......」


滅相もございませんという風に連は頭を下げる。


「優しすぎるって、人は言いますけど、本当はそれだけじゃないと思うんです」


「......?」


「私には、ただ自分が嫌いで、それでいて人に並み以上に優しいから、そのギャップで極端に優しすぎるように見えてるように感じます」


「......確かに、俺は少しお人好しなところがあるのかもしれない」


「少しィ!?」


連はびくついた。


「言っときますけど、“極端に優しすぎる”ように見えてるだけで、“優しすぎる”のは事実ですからね?」


「......」


「もっと自分を知ったらどうですか?それこそ自分をないがしろにしてる証拠です!」


「......そうだね」


連は苦笑いをした。


「で?どうして、連さんは自分が好きになれないんですか?」


「......家系かな」


連は少し考え込むようなしぐさをした後、そう答えた。


「家系?確か、陰陽道を使う家系でしたよね?」


「ああ。でも、それだけじゃない」


「?」


「俺の家系はかつて『裏天皇』と呼ばれていたもの...そして今は、政府の『闇』を担うものなんだ。それも、生まれたときから、ね」


「だから、そんな家系に生まれた自分に嫌気がさした...?」


「......おそらくは、ね」


「ふーん......」


「な、何だよ...」


「それだけなのかなーって」


フェイは少しだけため息をつくと、少し苦笑いをした。


「ま、こればかりは連さん自身が見つけないとどうにもならないですからね。これ以上はもう詰めませんよ」


「あはは...」


「でも、なんとなくわかった気がします」


「?」


「姉さんがどうしてあなたを放っておけないのか」


「......」


すると、フェイは突然勢いよく伸びをした。


「なんだかすっきりしましたよ!言いたいこと言えて。ずっと心の中でつっかかてたんですけど、言ってみるものですねぇ」


「俺は終始詰められてた気がするけど...」


フェイは連に鋭い目線を向ける。


「なんでもないです...」


フェイは少し微笑むと、


「それじゃ、私は寝ますね。おやすみなさい」


自身の寝る場所へと歩き始めた。


すると、


「フェイ」


「......え?」


連の呼びかけに反応し、フェイは足を止める。


「ああ、いや......そういえば名前で呼んだことなかったなって」


「......」


「...嫌だったかな?」


「いやいや!むしろ、嬉しいです!ちゃんと信頼してくれてるんだなって」


「...そっか。よかった...」


「それじゃあ─」


「それと、もう一つあって」


「?」


連は話を切り出す。


「前、普通に生きたいって言ったの、覚えてる?」


フェイはうなずく。


「それでさ...前、メイに聞いたんだけど、俺たち、1つしか年の差がないんだ。だから...その...これからは『連』でいい。それに、敬語もいらない。もっとフランクに接してもらっても構わないよ」


「分かった。じゃ、遠慮なくそうさせてもらうね。連」


連は少し微笑みながらうなずいた。


「うん、そっちのほうが自然でいいや。それに、同世代の友達がいると、気も楽になる」


「私も同じ。やっぱ持つべきものは友よねぇ...。それに...これなら言いたいこと、もっと言いたい放題言えるし?」


「できれば加減してほしいかな...」


連は苦笑いをした。


フェイは少し悪そうな笑みを浮かべる。


「ってのは冗談。ちょっと意地悪したくなって言ってみただけ。それじゃ、おやすみ」


「うん、おやすみ」


フェイは歩き始める。


フェイの言葉はメイと違い、少しとげがあるが、その声色はメイと似て優しいものだった。


「フェイ」


「?今度は何?」


「ありがとう」


フェイはその言葉に微笑みで返し、再び寝る場所へと歩き始めた。


連はそんなフェイの背中を数秒見届けると、自身も眠りにつくのだった。

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