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第68話 「吐露」

翌朝...


「ふあ~、おはよ~」


「おはよう、フェイ」


「連はいっつも起きるの早いよねぇ...」


「あはは...一応俺、世界中敵に回してるし...」


「そういえばそうだった!」


フェイははっとしたようなそぶりを見せた。


「さて、朝ごはんにしましょうか」


メイのそんな一言に2人は反応すると、連が物質錬成で作った簡素な椅子に座り、これも連が作った丸いテーブルに置かれた朝食を囲む。


そして、


「いただきます」


「「イタダキマス...ふふッ」」


連の一言に対し、2人もマネををした。


そう、2人は日本人ではないため、「いただきます」という文化がないのだ。


「うん、やっぱりメイの作るごはんは美味しいよ」


「ふふっ...ありがとうございます。昔はいつも作っていましたから」


「へぇー、そうなんだ」


「フェイも、時々手伝ってくれたんですよ。今は手伝ってくれませんけど」


メイはフェイを横目にそう言った。


フェイは苦笑いをした。


「まあ、買い出しの時はいつも荷物持ちをしてくれてるので、助かってますよ」


「そ、そうだよ!ちゃんと手伝ってるもん!」


「......」


「...ごめんなさい。調子に乗りました...」


「分かればよろしい」


フェイは姉であるメイに対し、頭が上がらないという様子だ。


連は、この中では一番下なのだということを感じるとともに、苦笑いをするのだった。


「それにしても、こうして私たちが再会できる日が来るなんて、思ってもいませんでした...。これも連のおかげです」


「そうだよ!ほら、連にはちゃんとこうやって救われたって人がいるんだから!そこんとこ分かっときなよ?」


「あはは...」


フェイは得意げな顔をした。


「俺、こんなに幸せでもいいのかな...」


連は少し考え込むような仕草をするとそう言った。


「あーもう!!幸せでいいのかじゃなくて、幸せにならなきゃダメなの、連は!分かった!?」


連はたじろぎながらうなずいた。


メイはその様子を微笑みながら見つめた。


「それにしても、昨日から全然来ないね、攻撃」


「言われてみればそうだな...」


連は思考を張り巡らす。


「まあ、昨日は少しやりすぎたし...。それに、おそらくだけど、アイツらは俺が“限界”を迎えるタイミングをうかがっているんじゃないかな」


「ってことは?」


「攻撃の頻度が減る。1週間ほどの期間を空けて攻撃を仕掛け、経過を観察するつもりだと思う」


「それじゃ、『普通の生活』ができる日が増えるってことじゃん!良かったね、連!」


「あはは...良かった、のかな...?」


「細かいことは気にしない!」


「はい...」


「それでは、買い出しに行ってきますね。フェイ」


「分かってるって!それじゃ、行ってきまーす!」


「行ってらっしゃい」


連は2人が『ガレキの城』から出て行ったのを確認した。


すると...


「ごほっ...!がはっごほっ...!!」


手で口を覆いながら大きな咳をし、連はおそるおそる掌を見る。


「......」


そこには血があった。


連は壁に寄りかかりながら独り、それと向き合い続けるのだった。





「ただいまー!」


「ただいま帰りました」


「おかえり、2人とも」


その後、3人は昼食をとり、皆で食器を洗った。


そして...


「連ってさ、スポーツとか見てたりする?」


フェイが突然そんな質問をしてきた。


「え、まあ、野球とサッカーなら...」


「良かった!ならさ、皆で見ようよ!今試合中なんだって!!」


「こんな時期でもスポーツはやってるんだなあ...」


それから3人はスマホの画面越しにスポーツを観戦し、盛り上がった。


連は2人にとって、今まで見たことないぐらいに熱中していた。


2人はそんな連を見て、安心したかのような笑みを漏らしていた。


「いやー、おもしろかったね!」


「やはりスポーツは盛り上がりますね」


「うん、そうだね」


夕食をとっていた時、3人はそんな会話を交わしていた。


すると...


「そうだ。実は俺からも提案があるんだけど...」


「え!?なになに!?」


「3人で映画を見ない?」


「いいじゃんいいじゃん!見ようよ!」


メイもうなずく。


「連の好きな映画で良いよ!何見るの?」


「それじゃあ、インデペンデンス・デイ」


「...?それ、いつの映画?」


「実は、その...200年前のなんだけど...」


「.........」


「ダメ...だったかな」


「それ、めっちゃいいじゃん!昔の映画なんて見たことないし!楽しみ!」


「あはは...それはよかった」


夕食を済ませた後、3人はインデペンデンス・デイを鑑賞し、互いに感想を共有していた。


「久しぶりに見たけど、やっぱりおもしろかった」


「なんていうか...あれだよね、この映画って...」


「?」


「連そのものな気がする」


「......うん、その通りだよ、フェイ。俺はこの映画の影響を大きく受けているんだ」


「この映画が、連に『夢』を与えてくれたのですね」


メイの言葉に連はうなずいた。


その後、3人は談笑をし、眠りに就こうとしていた。


すると...


「連、ちょっといい?話があるんだけど」


「うん、どうかしたのか?」


フェイが連にそう話しかけて来た。


2人は寝床から離れた場所で座る。


「今、幸せ?」


「うん」


「ならよかった」


「それで...話って?」


「これまで、私は連の相談に乗ってきたでしょ?」


「相談...?」


フェイはジト目で連を見る。


「う、うんうん。そうだね、相談だったね」


「だから、今度は連に私の相談に乗って欲しいなーって」


「構わないよ。俺でよければ」


「ありがとう。ちょっと重い話になるけど、本当に大丈夫?」


「重い話には慣れっこだよ」


「そ、そういえば、そうだった...あはは...」


そして、フェイは話し始めた。


「連は、私が『ヤタガラス』に入った理由、知らないでしょ?」


「そういえば、知らないね」


「実は私、復讐のために入ったの」


「復讐...」


フェイはうなずく。


「そう、ティエラにね」


「ティエラに?」


連は少し驚きながら聞き返した。


「そ。その理由なんだけど...」


フェイは、大好きな兄がいたこと、その兄が自分の心無い一言で少年志願兵に入り、配属先であったティエラの部隊での作戦中に戦死したこと、それが原因でティエラを恨むようになっていたことなどについて話した。


「...?それって」


「分かってる。これは私のエゴ。でも、いろいろ疑ってしまうの...。アイツがお兄ちゃんを使えないから見殺しにしたんじゃないかとか」


「使えないと、フェイは思ってるのか?」


「それは...!だってお兄ちゃん...戦闘経験全くなかったし...」


「そうか...それならそう思うのも無理はないな」


「でしょ?だから...」


「それ、ティエラに確かめたのか?」


「......」


「いや、仕方のないことだ。アイツは敵だと判断すると瞬時に殺しに来るようなヤツだからな」


「...うん。でも...」


「...?」


「それは言い訳に過ぎないことも分かってる」


「......」


「本当は、面と向かって話してみるべきだと思うの。連とイドのように、いろいろ話してみてから事を決めなきゃいけないってことも」


そう、実は3人で過ごしていたこれまでの間、連は既に自身の過去やかつてのイドとの因縁関係などについて、2人に話していたのだ。


「でも、相手が相手だぞ...あのティエラだろ......?」


「連...もしかしてティエラが怖いの?」


「全く怖くないって言ったらウソになる。アイツは執念深さが並大抵のものじゃないからな......。とんでもないヤツに目をつけられたものだ...」


「そっか...話せたらいいのに...」


「一度も話した事が無いのか?」


「ううん。一度会ったことがあるし、相手も私が何者かを聞いてきた」


「それで?」


「その時は、話してみようなんて考えてもなかったから、正面から切り込んで、結局歯が立たなくて逃げたの」


「ええ...」


連は困惑の声を漏らした。


「だから、あの時のようにティエラが対応してくれるのなら、多分話せると思う」


「そうだといいな...」


フェイはうなずいた。


「うーん!なんか少し気が楽になった!やっぱ、悩みは人に話してみるもんだねぇ」


フェイは伸びをしながらそう言った。


「それならよかったよ。悩みがあるならこれからも相談してくれても構わないよ」


「うーん...もう一つの悩みと言ったら...」


「?」


「“ある人”がね...なかなか自分を好きになってくれないの」


「......善処します」


「よろしい」


「それじゃあ...おやすみ」


そう言うと、連は寝床へ向かおうとした。


すると、


「連!」


「?」


「今日は相談に乗ってくれてありがとう。私、また連に救われちゃった。そんじゃ、おやすみ」


「......」


そう言ってフェイは寝床へ向かって行った。


連は少し微笑むと、自身も寝床へ向かうのだった。





一方その頃...


『解放軍』本拠地にて、ティエラは『人類軍』の総司令官と連絡を取り合っていた。


「それでは...本当に連は、じきに死ぬと...」


「ああ、そのはずだ。何かあれから変化は見られなかったか?」


ティエラは総司令官の言葉に対し、簡潔に答えると、今度は自分から質問を返した。


「ええ、それが...。以前我々だけで包囲戦を行ったところ、連からの攻撃内容で少し変化が見られました」


「ほう...?具体的には?」


「なんというか...早くカタをつけようとしているようでした。切り札であろう幻日も、いつもなら我々に攻撃の猶予を与えてから発動するのですが、今回は即座に出してきましたし...」


「なるほど。そっちの現状は?」


「とりあえず、連による被害が甚大だったのもあって準備期間が長引いたため、直近2日間は攻撃を仕掛けていません」


「よし、それでいい。これからは1週間おきに攻撃を仕掛け、経過を観察するんだ。ヤツの力が衰え始めたところを、俺たちで徹底的に叩く。そして、人類史に偉大な1ページを刻む」


「分かりました。その方針で行きましょう」


こうして、2人は連絡を終えた。


そう、事態は、確かに連の予想通りに動いていた。


そして、連の『命のカウントダウン』は、確かに、刻一刻と迫ってきているのだった。

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