目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第78話 「無力」

ついに京都の街に降りたオリジン型の妖魔は、次々とそこらの建物を吹き飛ばし始めた。


その光景は、まさにオリジンそのものだった。


「一体なぜこんなやつが...!」


「おそらくじゃが......あまりにも強大すぎたのじゃよ...オリジンへの恐怖が。それで妖魔がオリジンそのものへと変異してしまったのじゃ」


「そんなのありかよ...!」


レオは冷や汗を滴らせながら動揺を見せる。


「どんなヤツだろうが、関係ねぇ!結局は妖魔なんだ!!」


そう言うと、ハリーは鬼火を飛ばした。


鬼火を喰らったオリジンはもがき苦しむような様子を見せた。


やはり妖魔なだけあって、陰陽道の技には弱いようだ。


敵の肉体は崩れ始めている。


「...あっけなかったな」


と、そのときだった。


崩れた肉体の一部は液体のように崩壊を起こしている場所から離れると、その場で肉体を再生始めた。


「!?そんなことが...!」


今までにない事態にアキは衝撃を受けた。


頭、胴体、脚と再生していく。


「だったら...!」


猫鬼が紫電を飛ばす。


紫電を喰らったオリジン型の妖魔の身体中に稲妻が走り始める。


そして、オリジン型の妖魔の肉体はバラバラにはじけた。


「ふんッ...!」


猫鬼が得意げな笑みを見せたその時だった。


「猫鬼!油断するな!!」


「えッ...な─」


真神が猫鬼に呼びかけるも、もう遅い。


相手はバラバラに飛び散った肉体の一部から瞬く間に再生すると、その腕を思い切り猫鬼にふるった。


ついに相手が反撃に出たのだ。


「ッ!?」


猫鬼は腕をクロスさせながら相手の攻撃を防ぐが、衝撃まで殺すことはできず、そのまま数個のもの建物を貫通しながら吹っ飛んだ。


「なッ...なんて威力だ...!」


イドはオリジン型の妖魔の戦闘力に圧倒された。


「次の攻撃が来るぞ!一旦分散するのじゃ!!」


気狐の呼びかけに応え、全員は一旦その場から分散した。


「これなら...どうじゃッ!!」


気狐は赤い氷の槍を数本顕現させると、自身に追撃を仕掛けようと接近するオリジン型の妖魔にそれらを飛ばす。


しかし、オリジン型の妖魔は、なんとそれらを何食わぬ様子で全てかわしてしまった。


「ばッ...バカな─」


ゼロ距離まで接近された気狐は、ガードする間も与えられなかった。


敵による渾身の蹴りを腹部に喰らった気狐は、その威力に驚愕しているような、痛みに大きく顔をゆがませているような表情をしながら吹っ飛んだ。


コンクリートをえぐりながら長距離吹っ飛んだ気狐は、まだその圧倒的な威力に驚きを隠せない。


「あ...ガッ...!カハッ...!ゴホッ...ゴホッ...!」


その威力に耐え切れず、気狐は体をよじらせ、言葉を発せずにいる。


今まで圧倒的な戦闘力を見せてきたあの気狐がこのザマである。


レオとイドは、この上ない絶望感を抱いた。


「ダ...ダメだ...こんなのどうしようもない...」


レオはその場で尻餅をつき、完全におびえの目をしてしまっている。


「ッ...!クソッ...!」


イドはレイル・ボウを相手に飛ばす。


オリジン型の妖魔は被弾した。


「...!ほう...?」


その様子に真神は感心していた。


先行と稲妻が数秒周辺を散らす。


そして...


「...ダメだ。まるで効いちゃいない...!」


矢じりこそ刺さってはいるが、相手は痛そうにする素振りも見せていない。


すぐに矢を引き抜くと、イドのほうへと一瞬で距離を地縮めて来た。


「させるかァ!!」


レオは氷の盾を作り、防御を張る。


そして、イドを突き飛ばし、自身もそのまま横に跳び、避ける。


イドは一瞬で氷の盾を粉砕し、拳を突き出すが、その頃には2人は横へ避けていた。


そのまま2人は一旦距離をとる。


「良い判断だ!2人とも!!」


真神はそう言うと、完全に油断している敵に鬼火を数個ぶつける。


オリジン型の妖魔はのたうちまわる。


しかし、再び一部を解離させ、再生を開始させ始める。


「させるか!!」


ハリーが鬼火を飛ばすが、なんと、敵は欠けている身体をバウンドさせながらなんと全てかわしてしまった。


「なんてすばしっこい...!?」


ハリーは相手の身のこなしに驚愕した。


「まだまだ!!」


今度は猫鬼とサキが二人がかりで身体をバウンドさせながら移動する敵へ紫電を飛ばす。


しかし、それらをもものともせずかわしてしまった。


「なんなの...こいつ...!?」


猫鬼は信じられないと言わんばかりの表情でそんな言葉を漏らした。


「これでッ...!どうじゃッ!!」


気狐は四隅からオリジン型の妖魔を囲い込み、そのまま飛ばす。


オリジン型の妖魔は上へ飛び上がり、回避する。


しかし、これは気狐の戦略のうちであった。


今や、相手は格好の的である。


「皆、一気に仕掛け─」


気狐がそう呼びかけた時だった。


両手だけ再生させたオリジン型の妖魔は、なんとそこから数個の光弾を顕現させた。


「あれは...!?」


「...幻日...!」


レオは動揺した。


「皆、避けろ!!!!」


イドがそう叫び、全員が敵から距離をとった直後、幻日は発射された。


幸い全員に当たりはしなかったものの、それらは周りの街並みと彼らを衝撃で吹っ飛ばすには十分なものであった。


被弾はしなかったものの、全員衝撃で吹っ飛ばされたことで、それぞれ建物の壁に叩きつけられた。


「コイツッ...戦いの中で自分の力を理解しているのか...!?」


レオは朦朧とする意識の中、オリジン型の妖魔の状況の把握に努めていた。


「だとすれば...コイツをこのまま野放しにしておくわけにはいかない...!」


イドはフラフラながら立ち上がる。


「2人とも...」


「「!!」」


気狐が突然2人へ話しかけた。


「陰陽道を信じるのじゃ。さすれば、お主らは...」


「で、でも...至近距離で攻めるのは危険だ!」


「そうではない。イドよ、お主にはもう一つ、特殊能力があろう」


「...できない。これまでの修行でだって、できなかったじゃないか...!」


「自分を信じよ。そう言ったはずじゃ」


「!!」


「それはお主も同じことじゃぞ、レオよ」


「ッ...!」


そう、修行の初めから気狐は言っていた。


自分を信じよ、と。


その言葉は、完全に自信を喪失しつつあった今の2人に大きく響くものだった。


「余からも頼む。今、この場で最もヤツを倒しうるのは、貴様だ」


真神はイドに対して、そうハッキリと告げた。


「なんでそんなことが─」


「アイツは避けられなかった」


「!!」


「アイツは、貴様の攻撃をよけきれなかった。そして、その攻撃は、1つの部分を徹底的に打ち滅ぼす一撃必殺...」


「...だから?」


真神はうなずく。


「悪ィけど、俺からもお願いだ。多分だけど、俺たちが何かやったところで、アイツらを倒せはしない。お前の攻撃こそが、アイツへの特効なんだ」


ハリーも頭を下げた。


他の者たちもうなずく。


「それに...」


今度は猫鬼が前に出る。


「この中で一番防御を操れるのは、あなたよ」


猫鬼は、レオの方向を見ながらそう言った。


「なんで...気狐さんだって、氷を使えるじゃないか!!」


「残念ながら...」


レオの意見に対し、気狐が答え始めた。


「儂にできるのは、吹雪を発生させることと、氷の槍を顕現させることだけ...つまり、お主のように芸のきいたことはできぬ」


レオは再び猫鬼のほうを向いた。


猫鬼はうなずいた。


「俺たちに...かかってるのか」


2人は初めこそ迷いを見せていたが、覚悟を決めた。


「わかった!俺たちが...やる!」


「ああ!やるぜ!!」


2人がそう啖呵を切ると、他の者たちは少し微笑んだ。


「時間稼ぎは妾たちに任せて!あなたたちはアイツを倒すことだけを考えればいい」


猫鬼がそう言うと、他の者たちもうなずいた。


「皆、行くよ!!レオ、あなたは防御をお願い!」


猫鬼のその言葉とともに、彼らはオリジン型の妖魔へのほうへと向かって行った。


イドだけが、その場に取り残された。


「やれる...俺ならやれる...!いや...やるんだ...!」


そう言い聞かせながら、イドは弓矢の準備を整える。


そして、弓矢に電撃を発生させた。


「あとは...!」


イドは陰の力を弓矢に気合を入れて伝わらせようとするも...


パァン!!


「うわっ!!」


矢が爆散するとともに、イドはその衝撃波に吹っ飛ばされてしまった。


「ダ...ダメだ...クソ...!」


イドは、敵のほうへ向かった仲間たちを見る。


オリジン型の妖魔は、幻日を飛ばし、応戦している。


彼らはそれらをかいくぐりながら攻撃を繰り出す。


しかしそれらは、その何倍もの量の幻日によってかき消されてしまった。


「あんなのよけきれないぞ...!」


真神は幻日の量に絶句する。


「皆!俺の後ろに!!」


レオがそう言うと、皆はレオの後ろへ回った。


「頼むぞ...!」


レオはそう言いながら大きな氷の盾を展開させる。


そして、陽の力を伝わらせるが...


パァン!!


「あ...」


なんと、その場で爆散してしまった。


幻日は止まることなく彼らへ襲い掛かる。


「ふせろ!!」


気狐のその言葉により、全員がその場でふせるが、完全に攻撃を回避したとはいえず、全員が爆発に巻き込まれてしまった。


「クソッ...!なんだよ...!全然できないじゃないかッ...!誰一人救えやしないじゃないか!!」


レオは、情けなさのあまり、自身の拳を何度も地面に叩きつけた。


と、そのとき、オリジン型の妖魔に対し、大量の砲弾が飛んできた。


戦車砲だ。


「お、おい!やめろ!!もういい!!アンタらは帰っていいんだ!!!!」


ハリーがそう叫ぶがもう遅い。


驚異的な再生能力で敵はそれらをものともせず、そのままお返しだと言わんばかりに大量の幻日を顕現させ始めた。


「やめろォ!!まずは俺たちを倒してからにしてくれェ!!!!」


そんなレオの悲痛な叫びもむなしく、オリジン型の妖魔は容赦なく幻日を四方八方に放ち始めた。


数秒後、全方位から“太陽が昇った”。


夜とは思えないほどに、そこは明るかった。


敵に向かって行った者たちは、先ほどの幻日によって身体を起こすのがやっとであり、もはやそこから動くことは不可能となっていた。


いや、本当なら多少たりとも動けるはずだった。


オリジン型の妖魔は、戦いの中でウラヌスの重力を操る能力も習得していたのだ。


『魔王』のように、空中浮遊こそ不可能だが、その場にいる者たちの動きを封じるには十分な”重さ“をかけていた。


頼れるのは、それぞれの有する能力だけ。


戦車隊も一瞬にして散ってしまった。


彼らは、たった一体の妖魔に、確実に追い詰められていった。


オリジン型の妖魔は、一歩一歩とゆっくりとした足取りで気狐のほうへと向かって行く。


敵が近づけば近づくほど、気狐にかかる重力は重くなっていく。


そして、目の前に迫った時には、気狐はもはや立てなくなっていた。


「ぐッ...!」


気狐は下から相手を睨みつける。


敵が腕を振り上げたその瞬間だった。


気狐は赤い氷の槍を相手に向け、真上に飛ばした。


氷の槍は、陰の力を宿しているので、特殊能力の影響を受けない。


それは、今回のような疑似的なものでも同じようだ。


そのかいあって、赤い氷の槍は、敵の片腕を持っていくことに成功した。


オリジン型の妖魔は、少し驚いた様子を見せると、再び腕を振り上げ始めた。


「...させないんだからッ!」


そのとき、突然気狐の後ろから紫電が飛んできた。


猫鬼のものだ。


オリジン型の妖魔は、それをやすやすとかわす。


そして、どちらから討つか、迷っている様子だった。


イドは大いに焦り、再び弓矢を装備する。


「頼む...今度は本当に頼む...!」


そして、稲妻を発生させ、再び陰の力を宿らせようとするが...


パァン!!


再び爆散してしまった。


このとき、イドの心は完全に折れてしまった。


「ああ...もうだめだ...」


イドはその場で跪く。


戦意を喪失していたのは、何もイドだけでなく、レオも同じであった。


他の者たちが今こんなにボロボロになっているのは、自身の盾があまりにももろく、役立たずだったからだと、彼は知っているからだ。


2人は、その場で跪き、武器を捨てようとし始めた。





と、そのときだった。





『まだ、そのときじゃない』


突然、そのような声が2人の心に響いた。


そして、声の主は突然2人の目の前に顕現し、武器を捨てんとするその腕を手に取った。


2人はともに驚愕する。


それもそのはず...









その声を発した者の正体...それは、連だった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?