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第79話 「越境」

諦めかけていた2人...レオとイドそれぞれの目の前に現れた者...それは、なんと連だった。


その姿形は、レオの場合は左半身が、イドの場合右半身が煙のような靄で見えなくなっているというものであるが、それ以外は『聖戦』時の連そのものだった。


「連...!?どうしてここに...!?」


「...!?なぜ主様の名を...」


そう、連の姿は、レオとイドにしか見えていない。


『なぜ、ここにいるのか、か...』


「だってそうじゃないか!アンタはあん時に...!」


『そうだね。君の言う通りだよ、レオ。俺の肉体は完全に滅んだ。でも...』





一方、イドのほうも同じ話をしていた。


『君に宿っているその力...いわば陰陽道の片割れ...それは俺の一部であり、俺そのものなんだ。だから、その力が君に宿っている以上、俺は君の中に居続ける』


「...そうなのか」


『ああ。だから...』





『君は、独りじゃない』





その言葉は、今2人が最も欲しい言葉だった。


その一言で、レオとイドはともにその精神を持ち直すことに成功した。


しかし、根本はまだ何も解決できてないのも事実。


「連。俺は貴方から陰の力を得た。そして...今、敵を倒すためには─」


『君の特殊能力と陰の力を融合させる必要がある、だろう?話はずっと君の中から聞いていたからね』


「なっ...!?じゃ、じゃあ何で最初から助けに来てくれなかったんだ!?」


『そりゃあ......できれば、君たちだけの手でやって欲しかったからね。俺はいつまでも君たちの中ではいられないんだ』


「......」


イドは不満げな表情を見せる。


『...そ、そんな顔しないでくれよ。だって本当の事なんだ...。陰陽道の力が君から無くなれば、俺は君の中から消え去る。そのときは、君自身の力で未来を創っていかなければならなくなる。そうだろう?』


「...そっちこそ、そう慌てないでくれよ。演技さ。それに、貴方の考えていることは十二分に理解しているつもりだ」


『は...はは...ならよかった』


2人は笑いあう。


このとき、初めて連に対して素で話せたように、イドは感じたのだった。





一方、レオも連との会話を続けていた。


「連...俺は、アンタに力をもらっておきながら、全然使いこなせちゃいない。そのせいで、周りの仲間も皆あんな目に...!」


『でも、まだ死んじゃいない。それに、いつまでも守れなかったことを引きずってても仕方ないよ』


「...!」


『レオ...君は、今確かに目の前にある“守りたいもの”を守るんだ』


「でも...!どうやって!?俺の氷の盾じゃ、アイツの攻撃は防げやしないんだ!!」


『陽の力を宿らせていないからだね』


「それができるなら既にやってるっての!」


『そうだね。...でも、それはそんなに難しいことじゃないんだ』


「...?」


『これは、2人ともに言えることだけど...どうも君たちは陰陽道と特殊能力の関係を勘違いしているらしい』


「どういうことだよ...?てっ、てかッ!アンタもできてなかったじゃねぇか!!」


『それは!だって、オリジンからバリアを奪取できなかったから仕方なく陰陽道のバリアを代用していたから...仕方なかったんだよ』


「ほーん」


『そこは...信じて欲しいかな』


「まあいいよ。疑ってる時間なんてないんだ。具体的に、アンタの言う、特殊能力と陰陽道を組み合わせる方法を教えてくれよ」


『ああ、もちろん。それは...』





イドは弓矢を装備する。


その目に、迷いはない。


彼の目はただ一つの“的”を見据えていた。


『そう、それでいい。君はただヤツに一撃を喰らわせることだけを考えればいいんだ』


「...わかった!」


『そして、陰陽道は芯まで浸透させるものじゃない。添えるものだ。あくまでメインは”君“、”俺“はサブだ』


「......!」


イドは弓を張り、稲妻を発生させる。


すると、連は自身の手を矢に添えた。


そのときだった。


なんと、それまで矢を包んでいた青白い稲妻が、漆黒に染まり始めた。


「これが...陰の力を加えたレイル・ボウ...」


『どうせなら、技名でも決めておくかい?』


イドはうなずいた。


その矢は、いわば圧倒的な破壊力を持つ、超自然的な“雷”...


そんな技に名を冠するのなら、その名は...





「インドラ!!!!」





次の瞬間、漆黒の光の矢が弓矢から放たれた。


先ほどの攻撃後から、誰から討つかに迷っているオリジン型の妖魔に、その攻撃をかわす余裕などなかった。


矢が放たれた直後、オリジンの胸部を漆黒の閃光が貫いた。


完全に、心臓に命中した。


心臓を貫かれ、粉砕されたオリジン型の妖魔は、倒れ始める。


「やった...!」


イドが安堵の表情を浮かべようとしたその時だった。


倒れかけていたオリジン型の妖魔の肉体は、再び起き始めた。


「ばッ...!バカな!?心臓を貫いたんだぞ!?」


イドもこれにはひどく動揺した。


オリジン型の妖魔は、幻日を数十個ほど顕現させ始める。


「そ、そんな...!一体、どうやったら...!」


イドの表情は、絶望に染まり始めるのだった。





一方その頃、レオは危機に直面していた。


それもそのはず、心臓を貫いても死ななかったオリジン型の妖魔は、数十個もの幻日を彼とその後ろにいる仲間たちに喰らわせんとしていたからだ。


「...なんて量じゃ」


気狐は、幻日の量に驚愕している。


しかし、レオは全くその場から離れるそぶりを見せなかった。


そして、その目は覚悟に染まっていた。


『レオ、君はできるだけ大きく、そしてムラのない氷の盾を作ることだけ考えればいい、いいな?』


「ああ!」


『いいかい?あくまで、陰陽道は添えるだけだ。君たちが失敗を繰り返していたのは、あまりにも多く陰陽道をかけすぎて、君たちの特殊能力をも消し去り、武器の負荷を超えてしまっていたからなんだ』


「内から宿らせるんじゃなくて、コーティングをしろってことか」


連はうなずく。


『大丈夫だ。初めは俺も協力する』


「ああ...頼むぜ...!」


次の瞬間、レオは彼ら全員を覆えるほどの大きさの氷の盾を作った。


すると、その直後に連が自身の手を氷の盾に添えた。


と、そのときだった。


先ほどまで水色だった氷の盾が、エメラルドグリーンに染まった。


『せっかくだし、技名でも決めないか?』


レオは連のそんな提案を受け入れた。


それと同時に、オリジン型の妖魔は数十もの幻日をレオらに飛ばした。


レオは目をギュッとつむり、精神を統一する。


そして...


何者の攻撃をも通さぬ無敵の盾...冷却により、その力を極めし盾...それにふさわしい名が、一つある。


その名は...





「スヴェル!!!!」





レオがそう叫んだ瞬間、氷の盾は完全にエメラルドグリーンに染まり切った。


すると、その盾は、なんと数十もの幻日を全くの無傷で防ぎ切った。


その様子を後ろから見ていた仲間たちは、その圧倒的な防御力に感嘆した。


「もう...誰も失うわけにはいかない...!ここにいる皆は...俺が護るんだ!!」


オリジン型の妖魔は驚愕している様子だった。





一方、遠くにある建物の屋上から大爆発を見ていたイドは立ち尽くしていた。


「そ、そんな...ここまでやったのに...」


「イド!!」


「!!」


数秒後に爆煙が晴れると、なんと巨大なエメラルドグリーンの氷の盾が、仲間の身を守っていた。


「こっちは心配ない!!トドメは、お前が決めるんだ!!」


「...ああ!」


イドは再び弓矢を装備する。


イドはこれまでの戦いを振り返る。


オリジン型の妖魔は、大規模な攻撃を受けると、“一部分”を切り離し、そこからすぐに再生する。


そして、その”一部分“は...


「...そうか、頭...!」


そう、妖魔とはいえ、それはオリジンそのもの。


特殊能力のエネルギー源が脳内にあることを踏まえれば、弱点はやはり...


「それなら、頭を狙えば...そうか...!だから心臓を粉砕しても死ななかったんだ...!」


このとき、イドは同時にオリジンそのものの弱点をも見出すことに成功した。


「よぅし...!」


イドは、先ほどの感覚を思い出し、インドラを発生させる。


その矢を覆うのは、漆黒の稲妻。


イドは狙いを定める。


と、そのときだった。


オリジン型の妖魔は、イドの方向へと顔を向けた。


「!!気づかれた...!」


イドは焦りを見せる。


オリジン型の妖魔は、イドの方向へと足を向け始める。


「ッ!!クソッ!気づきやがったか!!」


ハリーは鬼火で敵をけん制する。


敵はしつこく飛んでくる鬼火に苛立ちを感じたのか、ハリーのほうへと方向を戻そうとし始めた。





これが、勝敗を分かつ決定打となった。





そのとき、突然真上からオリジンを何かが襲った。


なんと、それは赤い氷の槍だった。


そう、以前気狐が相手の腕を持っていくために上へ飛ばした赤い氷の槍が、そのまま降下してきたのだ。


赤い氷の槍は、降下する速度もそのままに、敵の胴体を思い切り貫くとそのまま大地に刺さった。


あまりに突然の出来事に、オリジン型の妖魔は動けなくなってしまった。


「今だ!!!!!」


レオはそう呼びかける。


「いっけええええええええ!!!!!!」


漆黒の光の矢は、放たれた。


それは見事、敵の頭部に命中、粉砕した。


すると、オリジン型の妖魔は赤黒い火柱のようなものを一帯に数秒発生させ、ついに消滅した。


こうして、彼らに勝利はもたらされた。





その後、日が昇る中、住民たちは次々と自身の帰るべき場所へと帰り始めた。


一部の人々は住居を破壊されたことで、避難所生活を余儀なくされているのも、また現実ではある。


式神、陰陽師、そしてレオとイドは、穏やかな表情で人々が安堵の表情で帰っていく様を見守る。


と、そのときだった。


「あっ!やっと見つけた!!」


一人の赤子を抱いた女性がそう言うと、自身の小さな息子を連れてこちらに向かってきた。


そして...


「先日は...ありがとうございました!!おかげさまで皆無事です...!」


そう言って女性はレオに頭を下げた。


そう、彼女らは先の『百鬼夜行』でレオが妖魔の攻撃から庇ったあの親子だったのだ。


女性の息子はレオに駆け寄る。


そして...


「おにいちゃん!!ありがとう!!」


曇り一つない笑みで、彼はそう言った。


「あ...ああ...無事でよかった」


レオは突然の事態に戸惑いながらも、そう返した。


女性はもう一度深く礼をすると、子どもとともにその場から立ち去った。


「よかったな、レオ」


「あ、あはは...」


イドはレオの表情を見て、少し安堵した。


彼の目から、迷いが消えていたのだ。


そう、このとき、レオは改めて決意を抱いていた。


自分は、”あの笑顔“を守るために戦っているのだ、と。


もう、迷わない。


彼はその決意のもと、前に進み続けるのだ。





事態が落ち着き、彼らは一度伏見稲荷大社に集結した。


「それじゃ、またいつもの生活に逆戻りだな」


「“そうじゃない”のはもうご勘弁よ」


ハリーの言葉に対し、サキは苦笑いしながらそう返した。


「それでは、余は神界に帰るとしよう。ハリーよ!またたまに遊びに行ってやるから寂しくて泣くんじゃないぞ!」


「バッ!?泣かねーよ!それお前の理想じゃねぇか!!」


「何を言っているのだ?貴様はまだ神界に自分で行けなかったつい数年前、余が突然いなくなったせいで─」


「わああああああああああ!!!!!!!!」


ハリーの絶叫を聴き、「キシシッ」という悪そうな笑い声を漏らすと、満足したのか、真神はそのまま神界へと帰還した。


「うーん、妾はまだ遊びたいし、現世に残ろうかな」


「あ、そう?じゃ、私案内するけど。前友達と良いカフェ見つけたのよ!」


「マジ!?行く行く!!」


そんな会話を交わすと、猫鬼とサキはどこかへと歩き去っていった。


「それでは、儂らも神界に戻るとしようかの」


「そうだな。とりあえず感覚はつかんだ。だからあとはそこを極めていきたい」


「そうじゃな、その通りじゃ、レオ。それにしても、良い顔をするようになったのう」


気狐はニヤリとしながらそう言った。


それに対し、何を言っているのか分からないといった風に、レオは肩をすぼめた。


「よし、それじゃ、修行再開だ!」


「うむ!」


イドの言葉に応え、気狐は入り口を発生させる。


こうして、3人は再び修行へと入っていった。


『百鬼夜行』をきっかけに、レオとイドの2人は新たな境地へと足を踏み入れることができた。


それは何も、能力に限った事ではない。


まだまだ、彼らの成長の軌跡は続いていくのだ。





一方そのころ...シベリア西部にて、


『百鬼夜行』から2週間たったころも、オリジンはゆっくりと西進を続けていた。


『解放軍』の本拠地では、既に兵器の配備が進んでいた。


T・ユカは管制室に入る。


そして、


「オリジンの様子は?」


「ハッ!全くもって方向を変える兆候が見られません!」


「...そうか」


T・ユカは苦い表情をした。


ティエラもいない、レオもいない、イドもいない。


一気に弱体化したこの戦力ではオリジンを迎え撃つことなど限りなく不可能に近いと言ってもいい。


「よし...アタシは周辺の住民に避難勧告をする。お前たちは準備を怠るな!!」


『ハッ!!』


こうして、本格的に作戦は開始された。


レオとイドが修行に精を出している間、世界は大きく動きを起こしていたのだった。

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