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第80話 「粉塵」

オリジンが西進を続けているころ、T・ユカは早速周辺の町へと避難勧告に向かった。


このとき、彼女が現在有する特殊能力...『空間移動』が大いに役立った。


空間移動により、移動時間が大幅に削減されるからだ。


こうして、オリジンとの戦いへの準備は整った。


今回は以前のモンゴル、中国地域での戦い...いわゆる『東亜防衛作戦』とは違い、準備期間が長く用意されていたので、住民の避難誘導に徹底した。


また、兵器の配備についても、前回以上に進めることができた。


さあ、あとは戦いの時を待つのみだ。





数日後、ついにオリジンがシベリアを脱出、ウラル山脈を越えた。


避難については、住民への説得などにより、一つ一つの町で多くの時間を費やしたことから、結局全ての町に行うことはできなかった。


SNSなどで、他の町にも情報が渡っていることを祈るばかりだ。


こうして、ついに軍事作戦の展開が開始された。


『解放軍』は各区域に6つもの“層”を設け、防衛線を張っている。





まず、1つ目の層へオリジンは到達した。


「砲撃開始ィーッ!!!!!」


直後、オリジンは一瞬で爆炎に包まれ、見えなくなってしまった。


しかし、そのような威力をもってしても、爆炎の中にあるたった一つの人影はゆっくりと足取りを進め続けている。


そして、数分後、オリジンはお返しだと言わんばかりに大量の幻日を顕現させた。


「ま、まずいぞ...!一旦引き上げ─」


次の瞬間、今度は『解放軍』側が爆炎に包まれた。


爆炎の中、大量の人影がその身体の形を失っていってしまった。





次の層...第二層にて


「第一層が突破されました!!」


「...!ならば、次は我々の出番というわけだ...!砲撃用意!!」


『解放軍』の者たちはそのような掛け合いの中、戦闘準備に入る。


そして数日経過したその時、第二層にもオリジンは現れた。


と、そのときだった。


ついさっきまでオリジンはゆっくりとした足取りだった...はずだった。


なんと、突然物凄い速さで彼らに向かって行ったのだ。


それは、かつて『ヤタガラス』のタカが有していた特殊能力...『神速』だった。


連が死んだその時、彼の有していた特殊能力はオリジンに再び渡っていたのだ。


この事態には『解放軍』も驚きを隠せない。


オリジンは自身の両側に大量の幻日を顕現させると、それらを飛ばし、瞬く間に第二層を崩壊に追い込んだ。


そう、このときオリジンは、相手が何層もの戦力で待ち構えていることに勘づいたのだ。


つまり、オリジンはボウリングの玉のようにこの層(ピン)の数々を突っ切ろうと動き出したということ。


こうなってしまえば、誰にも手には負えない。


数十分後、第三層も崩壊。


その数十分後、第四層も崩壊。


そして、また数十分後、第五層も瞬く間に崩壊してしまった。


その間、周辺にあった町には、未だ避難していない人々もいた。


そのような人々も、この一瞬の間に死に追いやられてしまった。


オリジンは、通過する際に、その場所に大量の爆炎と悲鳴をもたらしていった。


まさにボウリングのような様だった。


この一瞬で、数日にも渡るはずだった軍事作戦は完全に崩壊してしまった。


そして、ついに第六層へと、オリジンは突き進む。


第六層には、T・ユカがいた。


それまでの層でオリジンにダメージを与えることで、T・ユカがそんなオリジンを叩くという戦略だ。


しかし、現実は残酷で、彗星のごとく層を突っ切っていったオリジンに、ダメージなどほとんど与えられてはいなかった。


「...こうなることは薄々予想していたさ。お前たちは手を出すな!...さあ来い、オリジン!!アタシが相手だ!!」


兵士たちに攻撃の制止を行うと、そのままT・ユカは構える。


すると、オリジンはそんなT・ユカを素通りしようとした。


しかし、


「させるかッ!!」


空間移動でオリジンの顔面に自身の渾身の一撃をたたき込む。


T・ユカの場合、相手にバリアがあったとしても、空間移動でその内側に攻撃を喰らわせることができるのだ。


オリジンは顔面に一撃をもらったことで、大地に叩きつけられた。


煙を噴く自身の頬をさすりながら立ち上がると、オリジンはゆっくりと、舐めまわすかのようにT・ユカへと視線を移した。


「相変わらず気味の悪いやつだな...!」


T・ユカは再び拳を突き出し、今度は相手の腹部に攻撃を喰らわせる。


オリジンは、その一撃の重さに耐えきれず、うずくまった。


風穴形成を空間移動により、ゼロ距離で喰らっているのだ、無理もない。


『解放軍』の兵士たちは歓声を上げる。


すると、オリジンは幻日をいくつも顕現させ始めた。


「お、おい...!そりゃズルってもんだろ...!!」


T・ユカは焦りを見せる。


光弾の数々は、T・ユカとその周辺へ襲い掛かる。


T・ユカはというと、空間移動の能力でそれらを難なく回避することに成功している。


しかし、周辺にいた『解放軍』の兵士たちには被害が及ぶ結果となった。


「クソッ...!卑怯だぞ!!今はアタシとの戦いに集中しろ!!」


T・ユカはオリジンに対して抗議したが、オリジンにそんな言葉が通じるはずがない。


T・ユカは再び攻撃に出る。


今度は相手に隙を与えないほどに次々と攻撃を繰り出した。


オリジンは次々と攻撃を喰らい、ふらつき始めた。


反撃をする余裕もなくなってきているようだ。


しかし、全く持って倒れる予感がしない。


ふらつくところまで持って行けたとしても、相手はすぐに回復するのだ。


数十分攻撃し続けた結果、ついにT・ユカのほうが今度は疲労でふらつき始めてしまった。


「く、クソ...!コイツ...!全然効いちゃいない...!」


疲労と苛立ちを覚えたT・ユカは、ついに最終手段に出ることにした。


T・ユカはオリジンに連撃を喰らわせ始めた。


その連撃は、たちまち速度を増していき、最後には見えなくなり始めていた。


そして...


「こうなったらもう跡形もなくぶっ潰すしかない!!喰らえ!!絶対殺陣(アポトーシス)!!」


次の瞬間、オリジンの肉体は完全に霧散してしまった。


兵士たちは歓声を上げた。


T・ユカは息を切らしている。


「ハアッ...ハアッ...これで...もう...」


と、そのときだった。


兵士たちの間に赤黒い何かがボトリとバウンドしながら落ちた。


「ん?これは...」


一人の兵士がのぞき込む。


そしてその直後、兵士は戦慄した。


なんと、それはオリジンの生首であり、ゴロンと転がると、覗き込んだ兵士の顔を凝視し始めたのだ。


そう、オリジンはT・ユカの絶対殺陣(アポトーシス)を喰らう直前、なんと自身の首を飛ばすことで死を回避していたのだ。


T・ユカは完全に体力切れを起こしており、更なる攻撃に出る余裕などない。


オリジンは、一瞬にして肉体を再生させた。


「...なんなんだよ、お前さあ...」


T・ユカはもう乾いた笑いを上げるしかなかった。


「勘弁してくれよ...レオとイドは修行に行っちまうし...ティエラはどっか行くし...。!!ティエラッ...!アイツだ!あの野郎...覚えとけよ...本当に...!!」


そう言っている間にも、オリジンはゆっくりとした足取りでT・ユカの目の前まで迫ってきていた。


「.....はあ、もう好きにし─」


直後、T・ユカの顔面にオリジンの肘打ちが襲った。


すると、そのとき、一人の兵士がT・ユカを抱きかかえながらスライディングした。


なんとか攻撃をかわすことに成功したのだ。


「ユカさん!」


「...!悪ィ、助かった」


T・ユカは、自身を助けた兵士に礼を述べると、そのまま立ち上がり、兵士たちのもとへと戻った。


そして...


「こうなりゃ総力戦だ!!数の暴力...見せてやるぞ!!」


T・ユカは隊列の先頭でそう啖呵を切った。


兵士たちは咆哮を上げる。


こうして、彼らはオリジンに突っ込んでいった。


彼らはとまることなくオリジンに攻撃を続ける。


と、そのときだった。


T・ユカは見た。


オリジンの掌から幻日が顕現していた瞬間を。


そして、T・ユカの視界は一瞬で漆黒に染まるのだった。





こうして、その場に静寂がもたらされてしまった。


残ったのは、数々の兵器の残骸と数えきれないほどの兵士の遺体だけ。


オリジンは、目的地も分からず、ついにエレノイアにまで入ってしまった。


エレノイア...『はじまりの地』...これまでの『災厄』は、ここから始まった。


オリジンは自身が破壊したのか分かっているのか分かっていないのか、崩壊した建物の数々を見つめている。


と、そのときだった。


突然エレノイア市内のどこかに、彗星のような光が数個、物凄い速さで着弾した。


衝撃波と粉塵がオリジンを襲う。


数分後、粉塵がやんだ。


オリジンは粉塵を引き起こした源に目を向ける。





そこに在ったのは、2人の『勇者』...レオとイドの姿であった。

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