オリジンとT・ユカが戦闘を繰り広げている最中のこと...
一通りの修行を積んだレオとイドは、およそ3週間ぶりに現世へ降りた。
「すぅー...ふぅー......久しぶりの現世の空気だぜ...。このキレイとは言えねぇ空気こそ現世って感じだァ...」
レオは久方ぶりの現世の空気を味わっている。
イドも久しぶりの現世をきょろきょろと見渡している。
「...さて、よく儂の修行を耐え抜いたの。お主らは充分強くなった」
「ああ、感謝する。この力で、必ずオリジンに勝ってみせるよ」
イドは拳を上げながら気狐に礼を述べた。
「おうよ!報告、楽しみにしてろよな!!」
レオも続く。
「うむ。楽しみにしておるぞ」
レオとイドは互いに顔を見合わせ、微笑んだ。
気狐はその様を数秒見つめた。
そして...
「レオ、イド」
「「?」」
「お主ら2人とも...儂の誇りじゃ。お主らの師になれて、光栄に思っておる」
2人は少し驚いたが、その言葉に対し、微笑みで返した。
「さて...『解放軍』の皆も待っていることだ、早速向かうとしよう」
「だな!アイツらきっとびっくりするぞぉ...!」
と、そのときだった。
「2人とも、帰りを目指すのは良いが、向こうの現状を調べたほうが良いのではないか?」
「それもそうだな...」
2人とも、修行期間中はSNSを閲覧することが禁じられていたこともあり、情報に疎くなっていた。
2人はスマホのSNSを通じて、情報をチェックする。
そして、2人の顔色はガラッと変わった。
「......気狐さん」
レオは先ほどまでとは打って変わり、少し焦り気味の口調で気狐を呼ぶ。
「?どうしたのじゃ」
「...行きたいところができたんだけどさ、連れて行ってくれたりしないか?」
イドもレオに続いた。
「場所は?」
2人は口をそろえて言う。
その場所は...
『エレノイア』
一方その頃、T・ユカはオリジンに対し、決死の総攻撃を開始していた。
しかし...
「お、おい...」
一人の兵士が爆炎の中のオリジンの掌にある“光”に絶望する。
そして、次の瞬間、まばゆい光とともに彼らの視界は一瞬で真っ黒に染まってしまった。
オリジンは自身の倒した兵士たちの姿に見向きもせず、目的地も分からぬまま進み続ける。
と、そのときだった。
突然空から“彗星”が降ってきた。
それは、凄まじい爆発音と粉塵とともに着弾する。
その“彗星”の正体は、レオとイド...そして、2人の手を取る気狐であった。
そう、彼らが”彗星“となっていたのは、気狐の高速移動によるものだったのだ。
「ここでよいか?儂はメイを護らねばならぬ故、直ちに戻らねばならぬ」
「ああ!ありがとう!恩に着る!!」
「ありがとう!!アンタのくれた時間、無駄にはしないぜ!!」
そう言う2人を数秒見つめ、少し微笑むと、気狐はそのまま日本へと帰っていった。
粉塵が止む。
オリジンは、その粉塵の源へ目を向ける。
そこに在ったのは、2人の『勇者』...レオとイド。
「オリジン!お前の世界一周旅行もこれまでだ!!」
イドは即座に弓矢を装備する。
「お前の引き起こした『災厄』も...これで最後にしてやる!!」
レオも鉄棒を装備する。
こうして、2人はオリジンへと向かって行った。
まず、イドは早速、矢に漆黒の稲妻を発生させ、インドラを放った。
オリジンは放たれた矢を目にすると、一瞬動揺を見せ、なんとそれを神速でかわしてみせた。
そう、今回のオリジンは、『百鬼夜行』の時とは異なり、正真正銘のオリジン...自身の有する能力を把握し、それら全てを活用してくる。
だが、イドのほうも、自身のインドラがかわされることも一応想定していた。
そして、それをかわすのには多大なる集中力を費やすこともまた、想定していた。
オリジンはインドラをなんとかかわすが、その際に周りに対する意識がおろそかになっていた。
周りへの意識を統一するその頃には、イドの拳がオリジンの顔面に迫っていた。
これには、オリジンも反応できない。
そのままオリジンは、イドの渾身の殴打により、派手に吹っ飛んだ。
イドの拳には、赤いオーラが宿っている......陰の力だ。
オリジンは、その攻撃の威力とそれに伴う大きな痛みに悶絶した。
気狐の仮説は的中したのだ。
そう、彼女は妖魔に対して有効策になるのが陰陽道と神通力であることから、オリジンにもそれに当てはまるのではないかと仮説立てていた。
そして、それが今立証された。
バリアも完全に無効化されている。
「...いける...!」
イドはオリジンのそんな様子を見て、自身の力に自信を持ち始めた。
イドは自信の拳に宿る、燃え盛るような真っ赤なオーラに息を吹きかける。
オリジンは片手で身体を支えながら少しずつ起き上がる。
と、そのときだった。
突然オリジンの目の前を何かが阻んだ。
それは、エメラルドグリーンの氷の盾...スヴェル。
「イド!!やれェ!!」
イドはオリジンに腹部に渾身のパンチをお見舞いした。
後ろにスヴェルによる壁があることで、その威力を真っ向から喰らってしまったオリジンは、あまりの痛みに、再び膝をつく。
「さあ...!これで...!」
イドは弓矢を再び装備する。
しかし、次の瞬間、オリジンの周囲が発光し始めた。
「なッ...これはッ...!?」
「...マズイッ!!イド!俺の後ろに隠れろ!!」
イドは即座にレオの背後に隠れた。
すると、スヴェルは盾から2人全体を覆う半球のような形に変化した。
数秒後、凄まじい爆発が彼らを襲った。
かつてN・ヤスヒロの使用していた技...Ultimateだ。
数分後、爆発が止む。
レオとイドはというと、スヴェルにより、全くの無傷であった。
オリジンはなんと、彼らに背を向け始めた。
「あ、あの野郎まさか...」
レオは嫌な予感がした。
「逃げるつもりか...!?させないッ!!」
イドは即座にインドラを放つ。
其の場での対応だったため、ピンポイントで頭部に命中させることはできなかったが、脚に命中させることはできた。
インドラの威力は絶大であり、オリジンの片足を一瞬にして粉砕した。
イド自身もその威力に驚いていた。
そしてなにより...
「お、おい...!オリジンのやつ、全然足が再生しないぞ...!」
そう、レオの言葉通り、陰陽道がオリジンに与えるダメージはオリジンの再生能力をも上回るのだ。
「いける...!行けるぞ...!」
イドは再び漆黒の稲妻を矢に発生させる。
オリジンはイドの方向を見る。
インドラの準備を進めているイドの様子を見たオリジンは、焦るようなそぶりを見せると、なんと、逆立ちしながら神速で移動することで、その場を乗り切ろうとした。
しかし、今まで逆立ち歩きなどしたことがあるはずがないため、オリジンは神速の勢いのまま地面にダイブしてしまった。
「なッ...!?」
「相変わらず訳の分からんやつだ...!」
2人は驚きとも呆れともいえる感情を覚えた。
しかし、油断は禁物。
数多の幻日が2人を襲った。
レオはスヴェルでそれを防ぐ。
と、そのときだった。
大地から大きな岩の腕が出て来たかと思えば、とんでもない威力で殴打が飛んできた。
こればかりはスヴェルでも間に合わない。
しかし...
「この程度ッ!!」
イドは自身の拳に陰の力を一点に宿らせ、そのまま巨大な岩の拳とぶつかり合わせた。
すると、なんと岩の拳はまたたくまに砕け散った。
修行の成果が顕著に表れた瞬間だ。
直後、オリジンは神速でイドの側面に現れ、片足立ちのまま殴打をお見舞いしてきた。
イドはそれを片腕でガードする。
陰の力を宿らせたガードは、オリジンの殴打を難なく防いだ。
だが、背後にある建物などは衝撃波により吹き飛んだ。
どれだけオリジンの力が、そして陰陽道の力が絶大かを物語っている。
すると、今度はイドがオリジンの顔面に陰の力による殴打をお見舞いする。
オリジンはあまりの痛みにふらついたが、なんとか持ち直し、イドの腹部に殴打をお見舞いすることによる報復を行った。
「ガハッ...!」
なんとか喰らう直前、腹部に陰の力をこめることで最低限にダメージを押さえることには成功したものの、その威力が絶大であることに変わりはなく、イドはこれまでにないほどの痛みに一瞬膝をついた。
しかし...
「ま...まだだッ!!」
イドは再びオリジンの顔面に殴打をお見舞いしようと襲い掛かるが、オリジンはそれをかわす。
次の瞬間、オリジンは反撃に出ようとしたが、そうはさせまいと、イドは即座にオリジンの顔面を蹴り上げた。
オリジンは顎が外れそうになっているのか、自身の顎を押さえてずるずると後ずさりをする。
イドはこの機を逃すまいと、弓矢を瞬く間に装備する。
「喰らえ!!」
イドはインドラを放つ。
オリジンは神速により、なんとか頭部への直撃は免れたが、その際に片手が吹っ飛んだ。
オリジンはこれまでにない痛みや威力に圧倒され、ついに2人を目にすれば後ずさりするようになり始めた。
オリジンにとって、ここまで追いつめられたのは200年前のヒカルらとの戦闘以来だった。
オリジンのそんな様子を見たレオとイドは体勢を変え始める。
レオはこれまで盾の形にしていたものを、槍へと変形させ、イドに投げ渡す。
それをキャッチしたイドの手元から、氷の槍は瞬く間に赤色に染まっていく。
疑似的な気狐の技だ。
イドはレオにそれを返す。
「...サンキュー...!」
「さあ...ここまでくれば、あとは攻めるだけだッ!!」
2人は一気に攻めに転じる。
イドはまず弓矢を装備、漆黒の稲妻を発生させた。
オリジンは神速で状況の打開を図るが、片足・片手の欠損でうまく体が動かない。
イドはインドラを放つ。。
オリジンは漆黒の稲妻を目にすると身体を全力でじたばたさせながら事態の打開を図る。
次の瞬間、思い出したかのようにオリジンは片手の掌から幻日を出した。
「ッ!!やはりそうくるかッ...!」
イドはレオとともに一旦距離をとる。
オリジンは咄嗟に幻日を発射した。
幻日は、矢と接触し、大爆発を起こした。
辺りが爆煙に包まれる。
爆煙により、オリジンは完全に敵を見失ってしまった。
と、そのときだった。
爆煙が止みかけていたころ、オリジンの背後から2つの人影が出現した。
レオとイドだ。
が前、イドが後ろにおり、彼らの前には赤い氷の槍、そして、それを覆う漆黒の稲妻がそこにはあった。
そう、先ほどインドラを放ったのは、オリジンが反射的に幻日を出して事態の打開を図ることを想定した上での行動であり、本命はこっちである。
これは、2人による合体技。
まず、イドが背後からコイル状に電磁力を回転させることで、氷の槍も同じように超高速で回転させる。
そして、同じ極の電磁力を自身に身に着けている衣服などのところどころの金属部に付与されたレオが、それを押し込むことで、ドリルのような攻撃になるのだ。
この技は2人だけの力で考え、鍛え、完成させた...まさに努力の賜物といっても良いだろう。
オリジンはまだ2人の存在に気づいていない。
やるなら、今だ。
「「いっけええええええええ!!!!!!」」
2人は、この機を絶対に逃すわけにはいかないと言わんばかりに、全力でその攻撃をぶちかました。
辺りは、激しい衝撃波に覆われる。
こうして、2人はついにオリジンに対し、彼らにとって最大の決定打とされる攻撃を喰らわせることに成功したのだった。