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凛として舞う花の如く
凛として舞う花の如く
ゆる
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年04月27日
公開日
7.1万字
完結済
黒髪のロングポニーテールに、凛とした佇まい――。 弓道、剣道、合気道を極めた女子高生・宮本静香は、 ある日、学校の道場で不可解な召喚陣に遭遇する。   「人に頼みごとをするなら、まず誠意を示すべきではありませんか?」   突然の召喚に怒り、逆に術者を現世に引きずり出して説教。 静香は自らの神通力を使い、召喚陣を反転し、異世界・ルンバリア王国へと渡る。   そこで待っていたのは、魔王の脅威に怯える国、 そして無礼な国王――かと思いきや、 静香はそこで、幼い頃に命を救ってくれた少年とそっくりな少年、 第二王子ハイネルと出会う。   「……あの子に、もう一度、会いたかった」   10年越しに巡り合った想い。 彼の未来を守りたい――その一心で、静香はこの世界を救う決意をする。   弓を引き、剣を振るい、 神通力を纏い、空間すら断つ最強の技をもって、 魔王軍四天王、そして魔王へと立ち向かう。   理不尽は論破し、 強敵は一刀両断!   これは―― 誇り高く、清廉に生きる少女が、 凛として風に舞う花の如く、世界を救う物語。   --

第1話 プロローグ ――守られたあの日

 春の風が優しく吹き抜ける、放課後の公園。

 砂場で遊ぶ子どもたちの笑い声が、空へと溶けていく。


 その一角で、まだ幼い少女――宮本静香は、ひとりぽつんと座っていた。

 小さな手で砂を握りしめ、パラパラとこぼす。

 遠くのベンチには、母親が買い物袋を手にして戻ってくるところだった。




「……はやく、戻ってこないかな」




 静香はぽつりと呟き、膝を抱えた。

 そのときだった。


 ――ガルルル……。


 低く、喉を鳴らす音が、耳元で響いた。




(……え?)




 恐る恐る振り返る。

 そこにいたのは、痩せた野犬だった。

 牙を剥き、血走った目で静香を睨んでいる。

 息を飲む暇もなく、犬は吠えながら飛びかかってきた。




 ――怖い。

 ――動けない。




 小さな体は震え、声も出なかった。

 必死に目をぎゅっとつむった、その瞬間――。




 ドンッ!




 静香の前に、誰かが飛び出してきた。

 自分と同じくらい、いや、少しだけ年上に見える少年だった。




「大丈夫だよ!」




 少年は叫び、静香を背中に庇った。

 野犬は少年に噛みつき、引っかき、容赦なく牙を突き立てた。

 血が滲む。

 痛みで顔をしかめても、少年は決して静香から離れなかった。




「絶対に……守るから!」




 震える声で、それでも力強く。

 少年の小さな背中が、静香の目に焼き付いた。




 やがて大人たちが駆けつけ、野犬は引き離された。

 騒ぎを聞きつけた母親が、真っ青な顔で静香を抱きしめる。

 静香は、無傷だった。

 だが、少年の腕には痛々しい牙の痕がくっきりと残っていた。




 救急車のサイレンが遠くから近づいてくる。

 少年は、静香に向かって小さく笑った。

 血で汚れた顔にもかかわらず、それはとても優しくて、眩しかった。




(どうして……?)


(どうして、こんなに痛いはずなのに、笑えるの……?)




 震える心で、静香はじっと少年を見つめた。




 それは、静香の中で初めて生まれた憧れだった。

 自分のことを守ってくれたこの人のように――




(私も……こんなふうに、誰かを守れるくらい……強くなりたい)




 子どもだった静香が、心のどこかで初めて強さを願った瞬間だった。




 その日から、静香の人生は静かに変わり始める。


 十年後。

 彼女は異世界で、再び運命の出会いを果たすことになる。







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