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恋をするなら3人で
恋をするなら3人で
ロウリュ
BL現代BL
2025年04月27日
公開日
7万字
連載中
憧れだったあの人と結ばれた……。それなのに、ベッドにはもう一人男がいる。 室井星(むろいせい)はコンビニの夜勤バイトとして代わり映えのない日々を過ごしていた。唯一の楽しみは、毎週水曜日の23時にやって来る客、須藤慎也(すどうしんや)の顔を見ること。 ある日コンビニで起きたトラブルをきっかけに、慎也と親しくなった星。過去の失敗から同性との恋愛に消極的だった星だが、二人は急速に関係を深めていった。だが、慎也からある提案をされ、星は絶句する。それは、もう一人の男「ルキ」を交え、3人でベッドを共にすること……。 はじめは戸惑う星だったが、次第に複数プレイの沼に引きずり込まれることになる。

第1話 プロローグ

 目の前に、シーツがぴんと張られたベッドがある。

 大の男が3人は横になれるような、キングサイズのベッド。ホテルでもなければ到底目にできないようなベッドを前に、星(せい)はこのあとどうしようかと考えた。

 抵抗しようか、「こんなこと、もうやめてくれ」と叫ぼうか、このまま逃げ出して以前の平穏な暮らしに戻ろうか――。そんなことを、ぐるぐると考える。


「どうしたの? 緊張してる?」


 背後から、男の声がする。耳がとろけてしまいそうなほどの甘い声。それは星の耳孔から侵入し、思考をとろとろに溶かしていく。


「別に……いつものことだろ?」


 星は髪をかき上げるふりをして、火照った顔をとっさに隠した。恥ずかしがっているのを、これから起こる行為をほんの少し期待しているのを、男たちに悟られたくなかった。


「星は、いつも可愛いな……」


 星の羞恥を知ってか知らずか、男はなおもそう語りかけながら、星の両肩に手を置いた。男の体温が、背中からじわじわと伝わってくる。怖くて、でも愛おしくて――全身の血が沸き立つのを星は抑えることができなかった。


「俺のこと、好き?」


 耳元で囁かれ、星はこくんと頷いた。嫌いな男に、こんなことを許すわけがなかった。

 だが、男は星の返事に満足していないようだった。星の首筋に顔を埋め、唇をゆっくりと耳へと移動させる。そして、星の耳朶を食みながら、なおもこう言った。


「俺と、ルキ……どっちが好き?」


 ずきん、と星の胸が痛んだ。

 いつもそうだ。いつだって、この人は――慎也(しんや)は、自分とルキを天秤にかけたがる。答えの出ない問いを、どうして今、この場で尋ねるのか、星は知っていた。


「選べない?」


 そう問いながら、慎也は肩に置いた手を、下へ下へと移動させていく。この数か月ですっかりくびれた腰を両手で掴まれたとき、星の中で何かが弾けた。


(もう、どうなってもかまうもんか)

(俺のことは、好きにするがいい)

(俺だって、その分楽しませてもらう)


 慎也の手から逃れるように、星は自分からベッドに身を横たえた。白い枕にぽすんと顔を埋め、一切の情報を視界からシャットアウトした。


「あーあ、星さんすねちゃったよ」


 少し離れたところから、別の男の声が響いてくる。

 高ぶった神経をどうにか鎮めようと必死なのに、もう一人の男が星を徹底的に追い詰めていく。


「なんだ、ルキ。横から口出しするんじゃない」

「だって、星さん悲しそうだから。慎也さんがいじめてるのかな、って」

「余計なこと言ってると、お前に順番回してやらないぞ」

「はい、はーい。すみませんでした」


「ルキ」と呼ばれた男は、そのまま黙ってしまった。

 きっとルキはベッド横の安楽椅子に腰かけ、自分の「順番」を顔を悠然と待っているのだろう。


 二人の男に、体を任せる――。

 冷静に考えてみれば、狂っているとしか言えない、この状況。

 しかし星は、この異常な習慣を半年以上も続けていた。

(どうして、こんなことに……)

 慎也の手で背中を撫で上げられるのを感じながら、星はこうなってしまった原因について考えた。


 あのとき、自分がもっと毅然とした態度を取っていれば。

 あのとき、はっきり「嫌だ」と言っておけば。

 あのとき、どちらか片方に別れを切り出していれば――。


 しかし、いくら考えても答えは出なかった。


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