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ぼっち盗賊くんのダンジョン探索!
ぼっち盗賊くんのダンジョン探索!
モノノキ
現代ファンタジー現代ダンジョン
2025年04月28日
公開日
2.2万字
連載中
2015年に突如として世界各地に現れたダンジョン。 それは人類に対して様々な恩恵をもたらした。 豊富な資源、魔法の道具、そして人類の強化。 ダンジョンの奥深くには魔物と呼ばれる異形の存在が巣食い、人類に牙を剥いた。 数え切れない犠牲者を出しながらも、人々はダンジョンに挑み続けた。 欲望、名誉、あるいは力を求めるために。 そして2037年、鈴木海人という16歳の青年が探索者育成学園へと入学した。 これは、友達は少ないが程々の実力はある鈴木海人がダンジョンを楽しく探索する物語である。

第1話 探索者育成学園

ジリリリリッ! ジリリリリッ!

「ん………朝か」


俺、鈴木海人は体を起こして毛布を退かし、敷き布団から脱出する。

すぐに洗面台へ行き、顔を洗ってタオルで拭く。

そしてリビングへ行くと、昨日買っておいたバナナといちごジャムパンを袋から出し、冷蔵庫を開けて牛乳をコップに注ぎ入れた。

モグモグとバナナといちごジャムパンを食べながら時々牛乳を飲み、テレビをつけてニュースを見る。


『…となりまして、3年前の2034年に探索者のダンジョンドローンの使用を義務化してからダンジョン内での犯罪率は激減しています。

何故ダンジョンドローンを義務化したことで犯罪率が減少するのか…』


最近のニュースはダンジョンドローンと配信プラットフォーム"探索Life"の話題ばかりだな。

朝食を食べ終わり、ぼーっとテレビを見ていると、そろそろ家を出る時間なことに気が付いた。


「やべっ!」


俺は急いで制服に着替えてアパートを出た。学園からそこまで距離はないが、さすがに初日から遅刻はまずい。


若干早歩きで向かっていると、しっかり時間前に到着した。

ここは関東探索者育成学園だ。探索者を志している人たちが入る学園だな。

バカみたいに広い敷地とアホみたいに大きい建物がいくつもある。

入口では、声をあげて案内をしている女性の教師がいた。


「新入生の方は職業鑑定を行いますので案内に従ってお進みくださーい!!」


俺はその指示に従って、案内通りに進んでいく。

周りを見ると、半分以上の人が緊張しているのか表情が硬い。

そりゃそうだ、自分の職業が何かってのは、これからの人生を左右する一大事だ。

中には「戦士になれなかったら人生終わりだ……」なんて呟いてるやつもいて、俺は思わず少し笑う。


俺は職業が判明する10歳の頃に個人鑑定所で鑑定を受けている。

この学園では公式な鑑定をもう一度受ける決まりがあるらしいが、まぁ前と違う結果が出ることなんてまずないだろうな。


校舎の中に入ると、並んでいる人達がいたので列の中に加わる。

列がゆっくりと進み、一人ずつ部屋の中へと出入りしていく。俺の番も近づいてきた。


「次の方どうぞー」


俺は促されるまま、鑑定室へと足を踏み入れた。

中にはスーツを着た男性と、ステータス鑑定を行う機械が置いてあった。


「お名前は?」


「鈴木海人です」


「鈴木海人ね。鈴木海人、鈴木海人……あぁ見つけました」


男性は手元にあるタブレットを操作する。そして機械にある少し大きな穴を指差した。


「この中に手を入れて置いてください。前回の鑑定記録は参考にしますが、今回の結果を正式なものとします」


「わかりました」


手を入れて置くと、ひんやりとした感触と共に機械が稼働する。そして少し経つと、機械からステータスが記入されている紙が出てきた。


ーーーーーーーー


〔鈴木海斗 年齢:16歳〕

〔職業:盗賊 Lv.1〕

[力:1][守:1][速:3][気:1][運:2]

〔職業スキル〕

[忍び足]

〔任意発動スキル 0/10〕

〔常時発動スキル 0/5〕


ーーーーーーーー


男性は出てきた紙を確認してタブレットを操作しながら説明する。


「事前申告通り盗賊ですね。探索では貴重な隠密と機動力がある職業です。

近接戦闘、隠密行動、パルクールの訓練を受けるのが良いでしょう。

ここを出たら案内通りに集会所へ向かってください。そして…」


男性はステータスが書かれている用紙にBと書いた。


「あなたはBクラスです。案内をしている人に聞かれると思いますのでこの用紙を見せてください。

では次の方どうぞ〜」


「ありがとうございます」


一礼して鑑定室を後にすると、手にした鑑定結果の紙をもう一度見つめた。

数値はまださすがにショボいな。せっかく戦闘職なら戦士とかが良かったんだけど、まぁ仕方ない。


紙を適当に畳んでポケットに突っ込み、案内通りに校舎の渡り廊下を歩く。少し歩くと、体育館のような大きな建物に辿り着いた。

中に入ると、案内をしていた男性に声をかけられる。


「新入生ですね?ステータス用紙を見せてください」


「はい」


ポケットからステータスが書かれた用紙を取り出して見せる。

男性は用紙をチラッと見ると、すぐに頷いて指をさした。


「Bクラスですね。右奥の青いラインが引いてあるエリアに並んでください」


「わかりました」


指示された方向へ向かうと、すでに十数人の生徒が並んでいた。

立ち位置の区切りとして床に青いラインが引かれていて、俺は空いていた一つに立った。


すでに仲が良いグループがいくつか出来ていて、それとなく聞き耳を立ててみると、元々学校が同じで仲が良い人だったり、今日初めて出会って声をかけたコミュ力高めの人達だったりと様々だった。

やばい、完全に乗り遅れた。このままではぼっちに…


「静粛に」


壇上に立つメガネをかけている女性がそう言うと、この集会所内が静まり返る。

それを一瞥して、女性は喋り出した。


「私はこの学園の校長の佐々木歩美です。まず、入学おめでとうございます。

皆さんお分かりでしょうが、この学園は探索者を育成するために、世界でトップクラスの探索者である神崎啓介様が設立なさった学園です。

貴方達の目標のため、もしくは目標を見つけるためにこの学園を存分に利用しなさい。

そして、本日の鑑定で運悪く戦闘職になれなかった人も諦めずに努力しなさい。料理人や木こりでC級探索者になった人もいますから」


すると、校長が若干眉を寄せる。


「逆に、この学園には努力をしない怠惰な者は必要ありません。今月の4月を除き、毎月何らかの努力の成果を提示して頂きます。

例えば、ステータスの上昇値や模擬戦での勝利数、ダンジョン探索での成果などです。

理由も無しに、もし何も提示出来なかった場合、退学処分も視野に入れます」


何人かの生徒が息を呑む音が聞こえた。さっきまでの和やかな雰囲気が一気に張り詰める。


「恐れることはありません。正しい努力と向上心があれば、必ず結果はついてきます。

この学園は、全ての者にチャンスを与えます。そのチャンスを取り逃さないように」


そう言い終えると、校長は一礼し、壇上を降りた。


何というか、思っていたより気合の入った学園なんだな。

探索者になりたい人はここ!みたいな動画を見てここに入ることにしたんだが…早まったか?


小さく息を吐き、俺は前を向いた。

Bクラスの列の前には、背が高く鋭い目つきの男性が立っている。


「俺がBクラス担任の鬼龍栄一だ。まずは校内を案内する。俺について来い」


そして担任の鬼龍先生による案内が始まった。

校舎を出て、まず向かったのは鉄骨と強化ガラスで作られた近代的な建物だった。遠目からでもそのデカさが分かる。


「ここは基礎訓練施設だ。ステータスを向上させるトレーニングから、各職業ごとの専用トレーニングまで幅広く対応している。

基本自由に利用可能だが、予約制のエリアもあるから注意しろ」


建物の中では、すでに上級生らしき生徒たちが黙々とトレーニングしていた。

筋トレをしている者もいれば、自動で配置される障害物を駆け抜ける者もいる。

次に案内されたのは資料室だった。ここでは過去のダンジョンと魔物の情報や、職業の特性などを学べるという。


「戦うだけが探索者じゃない。知識も武器のひとつだ。バカは生き残れん」


鬼龍先生の言葉には重みがあった。

確かに魔物の特性を知らなかったら完全に初見で何をするかも分からないやつと戦うことになるわけだしな。


その後は、校舎の各教室や食堂、治療室など、必要な施設を一通り説明された。

案内は終盤に差しかかり、最後に連れてこられたのは、これまた巨大なアスファルトの建物だった。


「ここが戦闘訓練施設だ。スキルを使った対人の模擬戦ができるし、魔物との仮想戦闘を行うことが出来る。

ここで訓練するときは受付で申請が必要だ」


そう言いながら、鬼龍先生はふと俺たちの方を振り返った。


「…以上で案内は終わりだ。それと、これを配っておく」


鬼龍先生はバッグの中から白い金属のカードを取り出した。


「この学園の所属であることを証明するためのカード、まぁ学生証だ。各施設を利用するときなどに使用するから失くすなよ。

それじゃあ名前を呼ぶから取りに来い」


そう言って鬼龍先生は次々と名前を呼んでいく。俺も呼ばれて受け取ると、そこには俺の名前とバーコードが表示されていた。

全員に配り終わると、鬼龍先生はまた喋り出す。


「もし失くした場合はすぐに報告に来い。

…これで今日は終わりだ。明日からは9時までに教室にいるように。

学園内の探索をしても良いし、寮で暮らす者は寮の確認をするのも良いだろう。

それでは、解散」


鬼龍先生は背を向けて去っていき、Bクラスの生徒たちもバラバラに解散していった。

ふむ、俺はこのまま戦闘訓練施設に入ろうかな。魔物と戦ってみたいし。


思い立ったが吉日ということで、俺はそのまま戦闘施設の受付に向かった。

建物の中は思ったよりも静かで、受付のカウンターには白衣を羽織っている中年の男性が座っていた。

白衣姿にしてはやけに筋肉質で、ただの事務員って感じじゃない。


「学生証を見せてくれ」


「あ、はい」


カードを取り出して差し出すと、男はそれを機械に通し、端末に何かを打ち込みながらこちらを見た。


「盗賊、それに新入生か…要件は?」


「えーっと魔物との仮想戦闘でしたっけ?それをやってみたくて」


「初日からか?珍しいやつもいたもんだ。それじゃあ、まぁゴブリンだな」


男は手元にあるタブレットを操作する。


「新入生ということは武器が無いだろう。ここでは武器の貸出があるが、何が良い。オススメは短剣だが」


「なら短剣で」


「どうする、二刀流なんてやってみるか?」


なんだこの人、随分ノリが軽いな。


「いや大丈夫っす」


「なんだ、新入生だとたまに冒険するやつがいるが、お前はそうじゃないみたいだな。

服装は制服のまんまで大丈夫か?」


「大丈夫ですね」


「ふーん、そうか。それじゃあ短剣短剣っと…」


そう言いながら受付の男性は、カウンターの内側に手を突っ込むと、鞘に入った短剣を取り出して渡してきた。

俺はそれを手に取り、短剣を鞘から抜いて確認する。


「武器は扱ったことあんのか?」


「はい」


「それなら大丈夫か。それじゃあ、この奥に進んで3番の扉に入れ。

中に入ったら専用AIが色々調整してくれっから、それと仮想戦闘とはいえ怪我はするからな、気をつけろよ。

あぁそれと、あくまでも仮想戦闘だからレベルは上がらないからな」


「分かりました」


俺は短く頷き、訓練区画の奥へと足を踏み出す。廊下は無機質な金属と白い光に包まれていて、足音がやけに響く。

3番、と表示された扉の前で立ち止まり、軽く深呼吸をした。


自動ドアが静かに開き、目の前に現れたのは一面の荒野。赤茶の岩肌がむき出しになった地面に、無数の大きな岩だった。


「こりゃ凄いな」


「使用者、鈴木海人を確認。難易度、初級。敵性存在、ゴブリン3体、初期配置完了しました」


耳元で無機質な声が響いた直後、前方で砂利を踏みしめる音が聞こえた。


瞬時に身を低くし、岩陰へと滑り込む。短剣を抜き、呼吸を整える。

岩の隙間から覗くと、錆びた剣を手にしたゴブリンが一匹、背を向けて歩いていた。


俺は姿勢を低くしつつ足音を抑えて素早く接近し、背後から首元に短剣を突き刺した。

ゴブリンは光の粒子となって消える。その瞬間、残りの二体がこちらに気づいた。


「こんなのも久しぶりだなぁ」


そんなことを言いながら間髪入れず逆方向へと走り、岩の裏へと隠れる。

追ってきた一体に不意打ちを仕掛け、即座に接近して正面から胸に短剣を突き刺して斬り裂き、すぐさま後方に退く。


「うーん、盗賊ってこんな感じの戦い方で良いのかな」


残りは一体。せっかくだから正面から戦ってみる。

ゴブリンは錆びた剣を振り上げて襲いかかってきた。だがまぁ動きはトロい。

俺は横に避けて、隙を晒したゴブリンの首を斬り裂いた。最後のゴブリンが光の粒子となって消えた。


「敵性存在の排除を確認。続けて戦いますか?」


「うん。次は囲むような感じで配置してもらえる?」


「了解。それでは敵性存在の配置を開始します」


三体のゴブリンが今度は一定の間隔を保ちながら俺を囲むように出現した。

背後には遮るように高く積まれた岩壁。退路は潰されている。


真正面の一体が牽制気味にこちらへ歩を進めてきた。

それと同時に、左右のゴブリンも緩やかに距離を詰めてきた。


(3体に距離を詰められて囲まれたらまずいな)


俺は正面のゴブリンに突っ込む。ゴブリンは少し驚いた様子だが、錆びた剣を振り下ろしてくる。

それを短剣の腹で受け流し、横に短剣を振ってゴブリンの首を斬り裂いた。

すぐに2体のゴブリンが接近してきた。俺は地面を蹴って砂利を片方のゴブリンにかける。


ゴブリンの顔に砂利が直撃し、咄嗟に顔を覆った。

俺はその隙を逃さずに間合いを詰めて、首に短剣を突き刺した。ゴブリンは崩れ落ちて光の粒子となる。


残りは一体。さっきのよりも動きが鋭い。

素早い動きで接近してきたかと思えば、低い姿勢から飛びかかってきた。

俺はタイミングを見て体を半身にして、回避とともに襲いかかるゴブリンの首筋に刃を滑らせた。

勢いのまま地面に転がったそいつの体もまた、静かに光となって消えていく。


「こりゃ楽しいな!」


父との訓練を思い出す。幼い俺に対してあの人も容赦が無い人だったが、確実にあの頃の経験が活きている気がするな。


「敵性存在の排除を確認。続けて戦いますか?」


「そうだね。次は5体に増やしてもらえる?」


「了解。難易度を上方修正、再配置を開始します」


地面が低く唸り、再び荒野に影が現れる。今度は五つ、さっきよりも密な陣形。そして俺は少しだけ口元を緩めた。








「敵性存在の排除を確認。あと4分で仮想戦闘を始めて2時間になりますので、終了することを推薦いたします」


「あれ、もうそんなに経つんだ。それじゃあ終わりにしようかな。今日はありがとね」


「いえ、使用者様のお手伝いをするのが私の役目ですので」


機械音声の返事を聞いた俺は短剣を鞘にしまって、自動扉から出た。

受付まで行くと、漫画を読んでいた白衣の男性がこちらに気づいて顔を上げた。


「お、無事に戻ってきたな。初日にしては長かったから死んじまったのかと思ったぜ」


「ハハハ…思っていたよりリアルで楽しかったです」


「アトラクションみたいに言うじゃねぇか」


男は苦笑しながら、端末を操作して俺のデータを確認しているようだった。


「ふむ、ゴブリン相手にトータルで86体撃破…雑魚狩りとはいえ悪くねぇな。いや、何なら初日と考えりゃ良い方か。

だがあまり張り切りすぎるなよ?仮想戦闘で大きな怪我なんてしたら笑えねぇからな」


「はい、気をつけます」


「ああ。そんじゃ武器返してくれ」


短剣を渡すと、男はそれをじっくり確認してカウンターへ突っ込んだ。


「それと学生証貸してもらえるか?」


「あ、はい」


学生証を渡すと、また機械に通した。

俺は興味本位で尋ねる。


「何してるんですか?」


「ん?訓練内容の記録だよ。戦闘訓練施設で何時間、何々の訓練しましたーってな。

てかそうか、今日が初日だもんなお前。ほらよ」


学生証を手渡してくる。


「それじゃあ帰りますね」


「おう。またな」


軽く頭を下げてその場を後にする。外に出ると、空は夕焼けに染まり始めていた。

というか結局他のクラスメイトに声をかけるの忘れていたな。いや、これから友達とか出来るだろ…たぶん。

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