基礎訓練施設での訓練を終えた俺は、汗を拭きながら施設の入口に向かった。
施設の入口に着くと、一之瀬さんがすでに待っていた。
「お疲れさま、鈴木くん」
「お疲れさま〜。今日の訓練はどうだった?」
「剛腕のスキルのおかげで、より重い重量でトレーニングできるようになったわ」
「いいね。俺も剛腕のスキル買おうかな」
俺たちは施設を出て、駅に向かって歩き始めた。
夕方の風が心地よく、学園の敷地を抜けて駅に向かっていく。
「初めて友達の家に行くから、ちょっと緊張するなぁ」
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。普通の家だから」
一之瀬さんは微笑みながら答えた。
駅に着くと、俺たちは電車に乗った。
平日の夕方ということもあって、車内はそれなりに混雑している。俺たちは吊り革につかまりながら待つ。
電車が一之瀬さんの家の最寄り駅に到着すると、俺たちは降りた。
駅前は思っていたよりも都市的で、高層マンションがいくつも建ち並んでいる。
「こっちよ」
一之瀬さんに案内されて、駅から徒歩5分ほどの場所にある高層マンションに向かった。
20階建てほどの立派な建物で、エントランスには管理人らしき人が座っている。
「すごいマンションだね」
「そうかしら?」
一之瀬さんはエントランスでオートロックを解除して、俺を中に案内してくれた。
エレベーターに乗ると、一之瀬さんは15階のボタンを押した。
「15階か。眺めが良さそうだね」
「ええ。夜景が綺麗よ」
エレベーターが上昇していく間、俺は少し緊張していた。友達の家に行くのは本当に初めてのことで、どう振る舞えばいいのか分からない。
15階に到着すると、一之瀬さんは廊下を歩いて自分の部屋の前で止まった。
「ここよ」
ドアを開けて中に入ると、玄関は思っていたよりも広く、靴箱も大きい。
「お邪魔します」
「いらっしゃい。スリッパはそこにあるから」
俺は靴を脱いでスリッパに履き替えた。一之瀬さんに案内されて、リビングに通される。
リビングは広々としていて、大きなソファとテーブル、そして壁掛けの大型テレビが設置されている。窓からは街の景色が一望でき、確かに眺めが良い。
部屋全体が綺麗に整理整頓されていて、一之瀬さんらしい几帳面さが表れている。
「座って、座って」
一之瀬さんに促されて、俺はソファに座った。クッションが柔らかくて座り心地が良い。
「飲み物は何がいい?お茶、コーヒー、ジュース、色々あるけど」
「んー、お茶かな」
「分かったわ。少し待ってて」
「うん。ありがとね」
一之瀬さんはキッチンに向かった。俺は一人でリビングを見回す。
本棚には参考書や小説が整然と並んでいて、テーブルの上には小さな観葉植物が置かれている。生活感がありながらも、とても清潔で落ち着いた空間だった。
しばらくすると、一之瀬さんがお茶とお菓子を持って戻ってきた。
「18時までお菓子でもつまんでましょう」
テーブルの上にお茶とクッキー、チョコレートなどのお菓子を並べてくれた。
そして一之瀬さんは俺の隣に座る。
「ありがとう。美味しそうだね」
「普段はあまりお菓子は食べないんだけど、今日のために買ってきたのよ」
「ホントに?わざわざありがとうね」
「いいのよ。私も楽しみにしてたから」
俺たちはお茶を飲みながら、お菓子をつまんで談笑した。
学園での出来事や、最近の探索のこと、将来の目標などについて話していると、時間があっという間に過ぎていく。
「そういえば、一人暮らしはいつから?」
「学園に入ってからよ。両親は海外にいることが多いから、一人の方が都合が良いの」
「そうなんだ。寂しくない?」
「最初は少し寂しかったけれど、今は慣れたわ。自分のペースで生活できるから、むしろ気楽よ」
一之瀬さんは微笑みながら答えた。
時計を見ると、17時50分になっていた。
「もうすぐ18時ね」
「そうだね。楽しみだな」
一之瀬さんはテレビのリモコンを取って、動画投稿サイトを開いた。シーカーズ・ニュースのチャンネルを検索して、今日配信予定の特集番組を探す。
「あった。『無名でも輝く!新星探索者たち。第一弾』」
画面には俺たちの写真がサムネイルとして使われていて、なんだか照れくさい。
「うわ、俺たちの写真が使われてる」
「恥ずかしいわね」
時刻がちょうど18時になると、動画が公開された。一之瀬さんが再生ボタンを押すと、動画が始まる。
最初にナレーションが流れ、俺たちの紹介が始まる。
そして、俺たちが初めて一緒に探索したときの配信映像が流れた。
平原での初めての探索と戦闘。亡くなった探索者をダンジョン入口まで運んだ様子。荒野で死んだ顔をしながら採掘している2人――
そして、霧島記者との取材の様子も放送された。俺たちが答えた質問の内容や、将来の目標について話している場面が編集されて流れている。
「俺たち、ちゃんと答えられてるね」
「そうね。緊張してたけど、意外とまともに話せてたわ」
番組は約15分ほどの内容で、俺たちの成長の軌跡や、二人の連携の良さが上手に編集されていた。
あっという間に番組が終わると、俺は興奮気味に一之瀬さんに話しかけた。
「めっちゃ良かったね!」
「ええ、そうね…」
一之瀬さんは短く答えて、少し黙った。
俺は一之瀬さんの様子が少しおかしいことに気づいた。
「どうしたの?」
そう言うと、一之瀬さんは俺の方を真っ直ぐと見つめた。
「…私、あなたの事が好きみたい」
「……へっ?」