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第52話 深層

翌日の朝、俺は学園へと向かっていた。

今日は一之瀬さんの家で特集番組を見る約束をしている。初めて友達の家に行くということで、朝からなんとなくソワソワしていた。


教室に入り少し待つと、いつものように鬼龍先生がやってきて教壇に立つ。

今日も低く響く声で授業が始まった。


「今日はダンジョンの構造と変化について詳しく説明する」


教壇後ろの大型ディスプレイに、ダンジョンの大まかな断面図が表示された。


「まず、ダンジョンは基本的に三つの領域に分かれている。

表層領域、中間領域、そして深層領域だ」


鬼龍先生が画面を操作すると、各領域が色分けされて表示された。


「表層領域は入口から比較的近い場所で、魔物の強さも初心者向けだ。お前たちが普段探索しているのもこの領域だな。

中間領域になると魔物の強さが格段に上がり、D級以上の探索者でなければ危険だ。

そして深層領域は、B級以上の探索者でも命の保証はない」


改めてダンジョンって広いよなぁ。


「深層領域では高価値のアイテムや素材が手に入るが、その分リスクも桁違い。

A級探索者でも単独での深層探索は避けるのが常識だな」


鬼龍先生の言葉に、クラスメイトの何人かが軽く頷く。


「次に、再構築期間について説明する」


画面が切り替わり、ダンジョンの大扉が閉じられている映像が表示された。


「再構築期間とは、ダンジョンがその構造や内部環境を再構成する期間のことだ。

一ヶ月に一度、その月の終わりに起こることが多い」


再構築期間で印象的なのは、やっぱり若葉ダンジョンだな。


「この期間中は大扉が完全に閉じられ、内部への立ち入りは不可能になる。

もし再構築期間の開始時にダンジョン内にいた場合、最悪の場合は遭難する可能性もある

探索者協会では、再構築期間の予兆を察知するシステムを運用しているが、しかし完璧ではない」


鬼龍先生は一度言葉を切って、教室を見回した。


「そして、通常の再構築を超えた変化が起こることがある。それが『大変革』だ」


画面に新しい映像が表示された。ダンジョンの内部環境が劇的に変化している様子が映し出されている。


「大変革では、ダンジョンの基本環境すら大きく変えてしまう。自然型が迷宮型になったり、迷宮型が墓地型になったりする。

最近だと若葉ダンジョンがその例だ」


「先生」


クラスメイトの一人が手を挙げた。


「大変革はどのくらいの頻度で起こるんですか?」


「良い質問だ。大変革は基本的には稀で、一年に一度程度だ。

2032年の札幌ダンジョンの大変革では、森林型から火山型に変化し、内部の温度が急激に上昇した。

大変革の予兆として、通常よりも早い再構築期間の開始がある。若葉ダンジョンも、通常より一週間ほど早く再構築期間が始まったな」


「先生、大変革が起こる原因は分かっているんですか?」


別の生徒が質問した。


「それは未だに解明されていない。ダンジョン自体が謎に満ちた存在だからな。

2015年に突然出現してから、我々はダンジョンについて多くのことを学んだが、まだ分からないことの方が多い。

ダンジョンは生きているかのように変化し続ける。我々探索者は、その変化に対応していかなければならない」


教室が静まり返った。ダンジョン探索の危険性を改めて実感させられる内容だった。


「最後に、ダンジョン探索における心構えについて話そう」


鬼龍先生は教壇から一歩前に出た。


「ダンジョンは確かに危険だが、同時に大きな可能性を秘めた場所でもある。適切な準備と知識があれば、リスクを最小限に抑えることができる

次に、常に最新の情報を収集することだ。ダンジョンの状況は日々変化しているからな。

そして、仲間との連携を大切にすることだ。一人では対処できない状況でも、チームワークがあれば乗り越えられることが多い」


一之瀬さんとの連携のことが頭に浮かんだ。確かに、二人で探索するようになってから、安全性も効率も格段に向上している。


「最後に、常に謙虚であることだ。ダンジョンは我々の想像を超えた存在だ。慢心は命取りになる。

…以上で今日の授業を終わる。質問があれば受け付ける」


数人の生徒が手を挙げて質問した。再構築期間の詳細な予測方法や、大変革時の避難手順などについて活発な議論が交わされた。


授業が終わり教室を出ると、一之瀬さんもやってきた。


「今日の授業、興味深かったわね」


「うん。面白かったなぁ」


「私たちも、いつかは中間領域に挑戦してみたいわね」


「そうだね。でも、まずは表層領域でしっかりと実力をつけないと」


俺たちは並んで廊下を歩きながら話す。


「そういえば、今日は何時頃に訓練を切り上げる?」


「うーん、16時ぐらいが良いかな?」


「分かったわ。それじゃ、16時に基礎訓練施設の入口ね」


一之瀬さんが微笑む。少し歩くと、基礎訓練施設に着いた。


「それじゃ、また夕方に」


「ええ、また後で」


俺たちは別れて、それぞれの訓練エリアへと向かった。

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